ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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よしよし、なんとか仕上がりましたよ。
興が乗ってるので筆が進む進む。


では99話、始まります。


第九十九話 想いを賭けて

スヴァルトエリアの街『空都ライン』。

その宿の一室。

そこにはスプリガンの少年とインプの少女、そして肩に子竜を乗せたケットシーの少女がいた。

スプリガンとインプの2人は考える仕草を見せており、彼らに向かい合うケットシーの少女の表情は真剣そのものだ。

やがて考える仕草をやめたスプリガンの少年はケットシーの少女に視線を向け

 

「事情はわかったよ。なんていうか、君もかなり無茶なことを提案したなシリカ」

 

「ホントだよ。現実世界(むこう)で聞いた時には本気で驚いたよ」

 

そう言う少年にインプの少女も同意する。

ケットシーの少女─────シリカは少しバツの悪そうな表情になるものすぐに真剣な表情に戻り

 

「無茶な事だってわかってます。でも、あたし本気なんです。キリトさん、ユウキさん」

 

言いながら2人─────キリトとユウキにそう返す。

 

「7日後にジュンとデュエル。ジュンが勝ったらシリカは金輪際彼に関わらない。シリカが勝ったら自分の話を聞いてもらってその上で今後どうするかを改めて決めてもらう。これってさ、どっちが勝ってもシリカにメリット無い……よね?」

 

ユウキの言葉に頷くシリカ。

1週間前、ALOから姿を消したサラマンダーの少年、ジュンの行方を求め、キリトの計らいで訪れた病院。

シリカはそこで再会したジュン───現実での名を穂村淳───彼にデュエルの約束を取り付けたのだ。

その為に対人戦のノウハウ身に付けたい。

病院のロビーでそう頼まれたキリトとユウキは詳しい事情を聞く為にとりあえずALOへログインするよう彼女に促し、現在拠点として利用している宿の一室で彼女から事情を聞いたのである。

改めて彼女を見るキリトとユウキ。

目に映る少女の表情に迷いは一切感じられない。

シリカの決意を確信した2人は頷き合う。

 

「君が本気だと言う事はよくわかった。そういう事なら引き受けるよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

返ってきた返答にシリカは表情を輝かせた。

しかし

 

「けど、正直言ってこのまま対人戦のノウハウを叩き込んだとしても、君がジュンに勝てる確率はほとんど無いと言ってもいい」

 

次の瞬間キリトから出てきた言葉にシリカの表情が固くなる。

ジュンは自分達SAO生還者と同等レベルの時間フルダイブをしてきた者であり、キリト達が認めるほどの強者だ。

もちろんシリカもSAO生還者であり先の限定クエストでのボス戦での活躍もあって少々の自信は持ってはいる。

だが改めてトッププレイヤーであるキリトからこうもバッサリ言われてしまっては中々クるものがあるのだろう。

そんなシリカの心情を察したのか、彼の隣にいるユウキが素早く手刀を繰り出す。

 

「あだ!」

 

「キリト! 言い方が悪すぎ! それじゃシリカが誤解しちゃうでしょ!!」

 

手刀を見舞われた頭部をキリトは摩りながら

 

「いや、すまん。確かに言い方が悪かった。前にも言ったがシリカ、君は決して弱くない。だがそれはあくまでもパーティプレイでの話なんだ」

 

そう言った。

彼の言葉に続けるように

 

「シリカはさ、短剣捌きも上手いしサポートも的確、そしてピナとの連携もホントに凄いんだけど、それはあくまでもパーティプレイとしての経験値であって対人戦の経験値にはならないんだ。現にシリカはSAOの頃からデュエルあんまりやってないでしょ?」

 

ユウキが優しい口調でそう問うた。

問いかけにシリカは頷く。

ユウキの言う通り、彼女はSAOに囚われていた頃から基本的にパーティで行動をしている。

もちろんソロで動く事もあったがそれは比較的安全なエリアでの話だ。

さらに言えば彼女はあまり好戦的ではない。

故にデュエルなどまともにした事は無く、対人戦の経験値など皆無に等しい。

だがジュンはおそらくALOに来る前、様々なVR世界を渡り歩いている時から対人戦を熟して来ている。

ダイブ時間に差はなくとも、対人戦においては経験値の差で圧倒的にシリカに不利になっているのだ。

 

「この差を数日で埋めるのはかなり、いや不可能に近い。今のままのバトルスタイルじゃ何年もかかる事になる」

 

「……そう、ですか……」

 

告げられる残酷な現実にシリカは項垂れ気味になる。

 

「だが、それはあくまでも『今のバトルスタイル』ならだ」

 

しかし間髪入れずキリトはそう告げた。

シリカは再び顔を上げキリトを見ると、彼は真剣な表情でシリカに目を向けている。

 

「要は今の支援特化のスタイルとは別の、対人戦特化のスタイルを確立すればいいって事さ。もちろんコレも簡単な事じゃない。今のシリカには足りない要素があるからそれを埋めつつ数日でスタイルを確立しなきゃいけない。そうなるとかなりキツイ特訓になる。幸い期末テストは終わってるし、終業式までは休みだから時間はある。けど、それでも並の努力じゃダメだ。君にはその覚悟があるか?」

 

再び問われ、シリカはしばし思考する。

が、再びキリトに目を向けると

 

「それしか方法がないなら、あたしはやります。絶対にやりきってみせます!」

 

力強くそう返した。

するとキリトは小さく笑い

 

「君の覚悟が本物だと受け取るよ。それなら俺達は全力で協力するだけだ」

 

「その代わり手抜きはしないからね?」

 

「はい!」

 

2人の言葉にシリカは迷いなく返事を返す。

 

「さて、そうなると後はアイツらが来るのを待つだけかな」

 

キリトがそう呟くと同時にドアからノックの音が聞こえてきた。

 

「噂をすればなんとやら。 開いてるから入ってくれ」

 

そう声をかけると扉が開き

 

「ユウキ、キリト君、お待たせ」

 

「すまない、少し遅くなった」

 

ウンディーネの青年と少女が入室してくる。

キリトとユウキは気にしないでくれと言うように手を振った。

 

「あの、どうしてソラさんとアスナさんが?」

 

当然2人が来る事など知らなかったシリカは疑問符を浮かべている。

その疑問に応えたのはウンディーネの青年───ソラだ。

 

「キリトから事情を聞いてね。微力だが力になるよ」

 

「私達に出来る事ならなんでも協力するよ、シリカちゃん」

 

彼の言葉に次いでウンディーネの少女────アスナも笑顔でそう言葉をかけた。

今回の事は全てシリカ自身の我儘だ。

自分が納得したいから起こした行動にキリトを始め、ユウキ達も笑って協力してくている。

彼等の優しさにシリカは感謝の念が込み上げ

 

「皆さん……本当に、ありが────」

 

「待った待った! シリカ、感謝の言葉は全部終わってからでいいからね? 今はやるべき事をやろう!」

 

告げようとした言葉をユウキが遮ってそう言った。

その言葉にシリカは頷く。

 

「早速だが、シリカには新しいバトルスタイルを確立する特訓の前に足りないモノを会得してもらう事になる」

 

「さっきも言ってましたね。一体なんなんですか?」

 

「それは『目付』だ。剣道の初歩の一つで、相手ではなくその背後の景色などに視点を置いて全体の調和を取り、相手の隙を見破ったりする技法だよ。これは対人戦において重要な回避率向上に欠かせないんだ」

 

シリカは感心しつつ納得した表情だ。

対人戦にて回避力の有無は勝率に大きく左右される。

特にキリト達のパーティは基本的に盾無しばかりだ。

故に彼等はこの『目付』を用いて回避力の向上を図っている。

 

「この『目付』を習得したら新しいバトルスタイルの確立に入る。とは言えジュンとのデュエルまで数日しかないからな。『目付』は最悪でも2日で習得しなければバトルスタイル確立のための時間が足らなくなるだろう。かなりの突貫になるが……」

 

「大丈夫です。やれます!」

 

キリトの言葉にシリカは躊躇なく返した。

とうに覚悟は決めてあるのだから当然だろう。

 

「訊くまでもなかったな。で、肝心の『目付』の訓練法だが君には5分間、ユウキとアスナの攻撃を避け続けてもらう。合格ラインはHP残量が半分以上、それを5回連続だな」

 

「え゛?」

 

それを聞いた瞬間シリカの表情が凍りついた。

壊れたブリキのオモチャのようにユウキ達の方に視線を向けると、彼女達は張り切った様子で笑顔を向けてきている。

ユウキはALOで最速の剣士であり、アスナは彼女に匹敵する速さを備えている。

『絶剣』と『閃光』、この2人の攻撃をHP半分以上を維持しながら5分間避け続け、それを5回連続で熟さなければならない。

キツイ条件を予想はしていたが、まさか予想の斜め上を行く達成条件にシリカは冷や汗が止まらない様子である。

 

「大丈夫、私でもすぐ出来るようになったし、シリカちゃんも出来るようになるよ」

 

「とはいえ、手抜きしたら特訓にならないからね。容赦はしないよ?」

 

「よ、ょろしくぉ願ぃしまぁす……」

 

先程とは打って変わり弱々しい返事を返すシリカ。

そんな彼女にキリトは構う事なく

 

「『目付』の習得が出来たら新しいバトルスタイルの確立になるが、そっちはソラに担当してもらう事になってる」

 

「そ、そうなんですか?」

 

疑問符を浮かべながらシリカは問う。

 

「ああ。君に提案するバトルスタイルは俺が指導するよりソラの方が適任なんだ」

 

「一体どんなスタイルを……?」

 

「それは『目付』を習得してからのお楽しみだ。というわけで、俺はこれからそのバトルスタイル欠かせない物の準備に行ってくる。ユウキ、アスナ、早速特訓を始めてくれ」

 

そう言ってキリトは部屋から出ようとするが足を止めて振り返り

 

「と、そうだ。シリカ、テイムモンスターは一定の確率で自身の身体の一部をアイテムとしてドロップするらしいけど、何か持ってるか?」

 

そう問うてきた。

シリカは少々考える素振りをみせる。

やがて思いついたように顔を上げて

 

「あります。この間アイテムストレージを見たらいつの間にかコレが追加されてました」

 

そう言ってメニュー画面を開きアイテムストレージを表示する。

そのアイテムのみを可視モードにしキリト達に見せた。

アイテム名は『ピナの羽』

名前だけで詳しい詳細は記されてはいなかった。

目的のアイテムの所在を確認したキリトは

 

「すまないが、それを譲ってくれないか? コレから準備するものに欠かせないんだ」

 

シリカに願い出た。

 

「いいですけど……何に使うんですか? 効果も不明ですし」

 

「それは秘密だ。『目付』の習得が終わって新しいバトルスタイルの確立に入ったら教えるよ」

 

キリトの言葉に未だシリカは疑問符を浮かべるも、トレードメニューを開いて『ピナの羽』を選択。

宛先をキリトに設定して送信ボタンをタップすると、アイテムは彼のストレージへと転移していった。

キリトは送られてきたアイテムを確認し、メニューを閉じて

 

「じゃぁ、行ってくる」

 

部屋を後にした。

 

「さて、ボクらもヴォークリンデまで移動しよう。時間が勿体無いからね」

 

彼を見送ったすぐにユウキが促してくる。

 

「はい!」

 

シリカは元気よく返事を返し、肩に乗っている子竜の頭を撫で

 

「ソラさん。すみませんがピナをお願い出来ますか?」

 

「ああ、構わないよ」

 

「きゅるぅ」

 

 

願い出るとソラは笑顔で了承する。

すると子竜はシリカの肩を離れて飛翔。

そのままソラの頭の上に着地した。

普段では見られない光景にユウキ達は思わず吹き出しそうになるも、グッと堪えて

 

「じゃぁ、行こうか!」

 

「よろしくお願いしますユウキさん、アスナさん」

 

促して彼女達は特訓のためにヴォークリンデへと移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日。

ヴォークリンデの西側にある浮島の一つ。

そこでシリカの『目付』の特訓が行われていた。

少し離れた場所でソラが頭にピナを乗せたままメニュー画面のストップウォッチで時間を見ながら特訓の様子を眺めていた。

視線の先では2人分の剣戟を必死で躱しているシリカの姿がある。

現在の時刻は昼前。

彼女達は朝からログインし、ほぼ休憩なしで特訓を続けていた。

昨日の特訓開始時は散々だった。

開始1分と待たずシリカのHPは2人の攻撃の前に為す術なく刈り取られ、実力差を痛感させられた。

それでも弱音を吐く事なく彼女は反復を繰り返し、ユウキ達も驚く程の速さで躱せるようになってきている。

現在のHP残量は全体の7割といったところだ。

 

「やってるな」

 

特訓の様子を眺めているソラの背後から聞き慣れた声が届く。

振り向くとそこに居たのはキリトだった。

 

「ああ。そっちはもう準備できたのか? 随分と早いな?」

 

「まぁな。事情を話したら最優先でやってくれたよ。しかしソラ、なんで頭にピナを乗せてるんだ?」

 

「いや、シリカから預かってくれと頼まれたんだが、何故か僕の頭の上から動こうとしなくてね……」

 

苦笑い気味でキリトの問いに応えるソラ。

当の子竜は気持ちよさそうに欠伸している。

余程居心地がいいのだろう。

 

「それはさて置いて、特訓の方はどうなんだ?」

 

「良好だよ。もうすでに4回連続でHP残量半分以上残している。正直、ここまで順調に進むとは思ってなかったよ」

 

「へぇ。こりゃ大化けするかもしれないなシリカは」

 

聞かされたシリカの成長速度にキリトは何処か楽しそうな表情をしている。

目を向けた先では未だシリカは『目付』による回避訓練を続けていた。

 

「せぃ!」

 

シリカの前方右斜め側からユウキの刺突が放たれる。

それを躱すと同時にステップを踏んで距離を取った。

が、すかさずアスナが入れ替わりで飛び込み細剣による斬撃が放たれた。

その斬撃は後方に下がるのではなく逆にしゃがみ込むように前へ踏み込んで躱すシリカ。

そのまま2人をすり抜け後方へ駆けて身を翻した。

ユウキ達も振り返って愛剣を構え直したその直後、設定していたアラーム音が鳴り響いた。

 

「は……あぁぁぁ……」

 

終了を告げるアラームにシリカは情けない声を上げながら座り込む。

そんな彼女を他所に、ユウキとアスナはシリカのHP残量を確認していた。

 

「ふむふむ。残量は全体の7割か……凄いよシリカ! さっきより残量増えてるよ!」

 

「ホントだ。最初の合格は残量半分スレスレだったのに回数重ねる毎に増えてるね」

 

言いながら見ているのはコレまでの特訓の記録だ。

始めの方は言うまでもなく瞬殺状態だったものが回数を重ねる毎にHP残量は増えている。

予想を遥かに上回る上達ぶりはユウキ達を興奮させるのに充分なモノだった。

 

「お疲れ。凄いじゃないかシリカ」

 

「たった1日でここまで出来るようになるとは思ってなかったよ。正直2日はかかると踏んでたからね」

 

キリトとソラも言いながら彼女達の元に歩み寄って来た。

シリカとの距離が近づくとソラの頭の上にいた子竜がひと鳴きして飛翔。

今度は主人であるシリカの頭の上へと降りた。

 

「キリトさん……ソラさん……それじゃぁ」

 

「『目付』は習得したもの同然だ。文句無しに合格だよ」

 

「予定より早く習得した分、これなら新しいバトルスタイル確立の特訓に大きく時間を使うことが出来る」

 

2人の言葉にシリカは確かな手応えを感じたのか、立ち上がって小さくガッツポーズを取る。

 

「さて。そろそろ本命の特訓に入るわけだが、その前にシリカに渡すものがあるんだ。トレードを開いてくれ」

 

言いながらキリトは自分のトレードメニューを開いていた。

シリカも自身のトレードメニューを開くとアイテムが送られてくる。

表示されたアイテムをタップすると詳細が表示された。

そこに表示された内容を見て

 

「これって……」

 

シリカは目を見開いてただただ驚いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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時刻は午後5時55分。

約束の時刻まで後5分。

シリカはただ1人、空を眺めながら彼が来るのを、彼と初めて出会ったこの浮島で待っていた。

現実では夕方だがALO内は青空が広がっている。

澄んだ青空を瞳に映しながら、シリカは思考に耽っている。

 

(やれる事は全てやった……あとは全力でぶつかるだけ……)

 

1度目を閉じて息を吐く。

その直後、翅を鳴らす音が聞こえ、シリカが振り返るとサラマンダーの少年が降りて来る。

翅を消して少年────ジュンはシリカの目の前に降り立った。

数日ぶりに会う彼は、よく知るいつもの彼とは雰囲気が違っていた。

まるで全てを拒絶するかのように威圧感を放ち、表情も険しい。

だがシリカは臆する事なく

 

「久しぶりですね、ジュンくん」

 

微笑んでそう言葉をかける。

 

「そうだな……」

 

対照的にジュンは表情を変える事なく冷めた声で返す。

 

「そろそろ時間だ。デュエルのルールはどうするんだ?」

 

「……ルールは時間無制限の完全決着モード、空中戦と武器の途中変更有りでアイテムは3種類を1つずつポーチにセットして使用可能、でいいですか?」

 

彼女からの提案にジュンは思考を巡らせる。

 

(アイテム3種類を1つずつか……どれを選ぶかで戦略が変わるな)

 

「わかった、それでいいよ」

 

思考を止めてジュンは了承の返事をする。

互いにメニューを開いて使用する為のアイテムを3種選択してポーチにセットしていく。

準備が完了し、2人は互いに向き合う。

 

「最後の確認をしますね。このデュエル、ジュンくんが勝ったらあたしは金輪際ジュンくんに関わりません。貴方の事、忘れます」

 

「君が勝ったら、君の話を聞く。その上でオレがどうするかを決める。どっちにしろ、オレの気持ちは変わらないよ」

 

「そうかもしれませんね。これはあたしの我儘。でもだからこそ、一歩だって引く気はないから!」

 

そう叫び、シリカはデュエル申請をタップする。

ジュンが申請を受諾するとカウントダウンが始まった。

シリカは腰の短剣────銘を『クリスタルダガー』を抜いて逆手持ちにして構える。

ジュンも愛剣であるフレスヴェルグを抜き放った。

カウントが進む中、ジュンはあることに気付き

 

「そういえば、ピナはいないのか?」

 

訊ねる。

いつもなら彼女の傍にいる相棒の子竜が何処にもいないのだ。

 

「ピナは置いて来ました。このデュエルは、あたし自身力だけで勝たなきゃいけないから」

 

ジュンの問いにシリカはそう返す。

彼女の目に迷いは微塵も無い。

思い浮かべるのは自分の我儘に対し、快く協力してくれた仲間達。

あとはただ挑むだけ。

自身の想いを、目の前の少年に届ける為に。

やがてカウントはゼロになり、デュエル開始のブザーが鳴り響く。

 

「行くよ! ジュンくん!!」

 

「来い! シリカ!!!」

 

得物を握りしめ同時に駆け出す2人。

譲れない想いを賭けたデュエルが、今ここに幕を開けるのだった。

 

 




少年との圧倒的な実力差。

だが少女は諦めない。

彼女が身につけた新たな力が活路を拓く。

次回「リンドブルム」

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