ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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|´-`)チラッ

生きてますよ。生きてました。更新がもう一年近くも止まってたんか……というわけでようやく最新話更新ですよ大変長らくお待たせしました。



それでは97話、始まります


第九十七話 激闘

「『黒の剣士』に『刃雷』だと?!」

 

交戦が開始されようとしたその刹那に現れた黒衣のスプリガン───キリトとウンディーネの青年───ソラに驚きの声を上げる『シャムロック』所属の巨漢のノーム。

他のメンバー達も驚きを隠せない様子だ。

そんな彼らのことなどお構いなしに、キリトとソラは愛剣を抜き放ちユウキ達を取り囲んでいる人の壁へと駆けだした。

一瞬で間を詰め、振るわれる一閃。

 

「う、うおわぁ!!」

 

二人の強力な一撃によって、ユウキ達を取り囲んでいた『シャムロック』のメンバー達を退けさせる。

それによってクエストボスの部屋に続く扉方向に隙間が生じた。

キリトとソラは空かさず

 

「ジュン! 君たちは行け!」

 

「ユウキ達もだ! ここは僕達で引き受ける!」

 

更に斬撃を繰り出して『シャムロック』の人壁を退かせて道を広げていった。

戸惑うジュン達。

だが、その彼の肩をユウキが叩き

 

「行くよ!」

 

言って扉に向かい駆け出す。

同時にアスナも駆け出し、シウネー達もそれに続く。

 

「シリカ、俺達も!」

 

「で、でも……キリトさん達が───」

 

ジュンが進むことを促すもシリカは状況が呑み込めないのか動揺しているようだった。

そんな彼女の手を取り

 

「キリトさん達が作ってくれたチャンス、無駄には出来ない!!」

 

「ぁわ!」

 

そう言ってシリカの手を引いて走り出す。

勢いがあったため転びそうになるも、シリカはなんとか堪えて着いていく。

 

「行かせるか!」

 

一瞬で遅れたジュンとシリカを、『シャムロック』の一人であるシルフが追撃。

敏捷性の高い装備をしているのだろうか、素早く距離を詰め得物である長槍を引き絞った。

二人同時に刺突で仕留める気でいるのだろう。

走っていて対応の出来ないシリカとジュン。

引き絞った長槍が放たれようとした──────その時。

ヒュンっと空を切る音が耳に届き

 

「ぐあ!」

 

シルフが突如悲鳴を上げて攻撃を中断した。

否、中断せざるを得なかったが正しいだろう。

何故ならシルフの右肩には矢が刺さっていたからである。

疑問符を浮かべ、走りながらシリカがシルフのさらに先、回廊への入り口に目を向けると

 

「させないわよ」

 

水色髪のケットシー───シノンが弓を構えていたからだ。

先程の矢は彼女による攻撃。

空都ラインにいるはずの彼女がここにいることに、シリカは益々疑問符を浮かべるが、シノンの後方にある入り口からさらに数人の人影が飛び出してきた。

 

「おらぁ! 真打登場だぜぇ!!」

 

悪趣味なバンダナを頭に巻いたサラマンダー───クラインが刀を抜き放って駆け、『シャムロック』のメンバーに向かっていく。

その後を片手根を握ったレプラコーン───リズベットが追っている。

反対側では金髪のシルフ───リーファが愛剣を振りかぶって跳躍。

そのまま人垣に飛び込んでいって斬撃を放ち、さらにやや遅れて赤髪のレプラコーンと褐色肌のノーム───レインとエギルも駆け込んできた。

 

「こ、こいつらっ───?!」

 

突然現れたクライン達に『シャムロック』のメンバー達は更に驚くも、扉に向かったジュン達を追うのを止めてキリト達への攻撃を優先し始めた。

なんとか扉に辿り着いたジュンとシリカは一息つき、交戦しているキリト達の方へと目を向ける。

視線の先にいるキリトとソラは一瞬だけジュン達の方へと視線を向けて頷いた。

それを見たジュン達も頷き返し、扉へと手をかける。

直後に大きな音を立てて扉は開いていき、ジュン達は奥へと駆けこんでいった。

彼らの姿が見えなくなると、扉は大音を響かせながら閉じていった。

扉が閉じ、ユウキ達に特別限定クエストの挑戦を許してしまう事になった『シャムロック』のメンバー達は愕然とし、そのうちの一人である最初に傲慢な態度を取り続けていた巨漢のノームは

 

「てめぇら……やってくれたな!」

 

醜く歪めた表情で叫ぶ。

キリトとソラは威圧に気圧される事なく彼を見据えて

 

「言っただろ? 通行止めだって。それにあんた達のやり方は流石に看過できないからな」

 

「先にクエストに挑むパーティにサーチャーを着けて偵察。それだけならまだよくある手法だ。だが、大多数のプレイヤーによって壁を作る『ブロック』、それによるクエストの独占行為は重大なマナー違反だ。すでにキバオウ率いる自警団にも連絡してある。あと数分もすれば到着するだろう」

 

そう返した。

キバオウの名を聞いた巨漢のノームを始めとした『シャムロック』達は激しく動揺する。

彼の率いる自警団はマナー違反をするプレイヤー達に容赦がない。

流石に彼らは自分達のしていることが許されざるやり方であることを自覚しているのだろう。

そしてこの様子から、ここにいるプレイヤー達は恐らく『シャムロック』のトップ───セブンとスメラギには秘密で行動していたのだと推測できた。

これ以上の抵抗は自身の立場をさらに悪くすることを理解した『シャムロック』のメンバー達は武器を手放す。

中には脱力して座り込む者もいた。

全員が降伏したことを確認したキリト達も武器を収めた。

一息吐きキリトは扉の方へと視線を向けて

 

「……頑張れよ、ジュン」

 

そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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キリト達の援護によってボス部屋へ入り、何とか再チャレンジに漕ぎ付けることが出来たジュン達は現在ボスであるスカジと対峙し交戦が開始されていた。

現在スカジのHPは二本目の後半まで減っており、戦闘は中盤に差し掛かっている。

後方にいるアスナとシウネーの回復と援護を受け、テッチがタンクとして相手を引き付けながらシリカが相棒である子竜とともに攪乱。

中距離からのノリとタルケンによる間接攻撃と、この中で最速のユウキと最高火力のジュンによる直接攻撃によってスカジのHPを確実に削っていく。

着々とHPを削り、やがてHPが三本目に突入した。

瞬間、スカジの目が発光してその体躯に不気味なオーラを纏わせた。

固有の特殊効果である物理防御の極大強化と属性防御の強化だ。

効果が発動したことを確認した後方のアスナとシウネーは空かさず詠唱を開始。

アスナは水属性の中級攻撃魔法『フリーズランサー』を、シウネーは対物理防御魔法『プロテクション』の詠唱をし、終了と同時に発動した。

幾つもの鋭く尖った氷の氷柱が顕現しスカジに放たれ、ユウキ達には光が降り注ぎ見えない障壁を作り出す。

飛び交う氷柱は悉くスカジに命中するも、強化された属性防御によって大したダメージは与えられてはいない。

それでもHPは削れているので全くの無意味ではないが。

しかしながらダメージ量が少ない為か、スカジの動きは止まらない。

目が怪しく光り、四本の腕を振りかぶる。

振りかぶった腕の一本を勢いよく振り下ろした刹那、強大な衝撃波が発生。

空を切り、地を抉りながら風の奔流がユウキ達に襲い掛かる。

だがその衝撃波は先程のシウネーが発動させた『プロテクション』によって阻まれた。

『プロテクション』は物理属性の攻撃ダメージを大きく減すことの出来る防御魔法。

スカジの衝撃波攻撃が物理攻撃であることは最初の挑戦でわかっていた故の対策である。

続いて第二第三、第四の腕が勢い良く振られ連続で巻き起こる衝撃波。

それらも悉く『プロテクション』によってダメージは軽減され、減ったユウキ達のHPは『プロテクション』発動後に詠唱していた広域上級回復魔法『ヒーリングサークル』によって回復。

隣のアスナは再度攻撃魔法を詠唱、スカジに向かって魔法攻撃を繰り返し放つ。

HPが回復したユウキ達も駆け出し、属性付きのソードスキルを駆使してスカジに確実なダメージを与えていく。

ダメージが蓄積していき、スカジのHPが4本目に突入する。

攻撃の手を緩めることないユウキ達。

やがてHPが4本目の半分に差し掛かった───その瞬間。

スカジの纏う禍々しいオーラがさらに増していき、四本の腕を勢いよく振り上げた。

それを見たユウキはシステム外スキル『超感覚』で脅威を感じとったのか、攻撃の手を止めて大きく後退した。

同時に叫ぶ。

 

「みんな! 後退して防御態勢!! アスナ!!」

 

「! 了解よ! シウネーさん『プロテクション』は?!」

 

「行けます!」

 

すでに詠唱を終えていたシウネーが『プロテクション』を発動。

ユウキ達に物理軽減の障壁が展開される。

それと同時にスカジの四本の腕が同時に振り下ろされ───今までの広域衝撃波以上の風の奔流が吹き荒れた。

地を抉り迸る衝撃の嵐。

それは一瞬でユウキ達に迫り───展開された『プロテクション』の壁をいとも容易く破壊して彼女達を蹂躙する。

 

「うぁぁ!!」

 

「っうぅ!!」

 

吹き荒れる風の奔流は彼女達のHPを容赦なく削っていく。

やがて暴風が止み、辺りには土煙が舞っていた。

視界が悪い中、ユウキはなんとか立ち上がり

 

「み、皆、無事?!」

 

叫んだ瞬間、彼女の身体を優しい光が包んでいく。

するとレッドゾーンに突入していた彼女のHPがゆっくり上昇を始めた。

 

「これは『リジェネレート』……アスナ、間に合わせてくれたんだ」

 

そうこれはアスナによる広域の自動回復魔法『リジェネレート』だ。

瞬時にHPを回復することは出来ないが、詠唱時間はそれほど長くない魔法である。

先程の強力な衝撃波が放たれる前にアスナはこの魔法の詠唱を取得している魔法系スキル『高速詠唱』を駆使して最速で終え、衝撃波が放たれたと同時に発動したのだ。

 

「っつぅ……なんなのさアレは……」

 

「し、し、死ぬかと思いました……」

 

ユウキから少し離れた右側面側からノリとタルケンの声が聞こえてくる。

土煙で良く見えないがテッチも一緒のようだ。

反対の左方向には片膝をついたジュンがいることが確認できた。

 

「くっそ……土壇場でこんな強力な攻撃が来るなんて……」

 

「みんな、何とか無事みたいね……」

 

「アスナさんの『リジェネレート』が間に合ったおかげです……」

 

後方にいるアスナとシウネーも無事のようだ。

残るシリカだが

 

「くぅ……ピ、ピナ……平気?」

 

「きゅるぅ……」

 

ユウキのいる位置から左側、ジュンのいる所からさらに向こう側に相棒の小竜とともにいた。

無事を確認したその刹那、シリカの周りを舞っていた土煙が吹き飛び霧散する。

驚いてシリカが目を向けた先には───スカジの姿があった。

土煙が吹き飛んだのは異形のボスがシリカをターゲットにして勢いよく接近したからである。

すでにスカジは二本の腕を振りかぶっており、すぐにでも振り下ろそうとしている。

 

「シリカ!」

 

「クソ!!」

 

反射的にユウキとジュンが走り出す。

しかしかなりの距離が有りどうにも間に合いそうにない。

無慈悲にも振り下ろされるスカジの二本の腕。

鋭い爪がシリカに迫り、彼女に食い込む───直前で空を切った。

目に映った光景を見て駆けていたユウキとジュンの足が止まる。

彼女達の視線の先で、シリカがスカジの攻撃を躱していたからだ。

確実に当たると思っていた攻撃を躱した事にも驚いたが、ユウキとジュンが何より驚いたのはその躱し方だった。

シリカは上体を大きく仰け反らせていたのだ。

それも体操競技のブリッジを連想させるほどの仰け反りである。

そのままシリカは両手で地を突き、バック転をするようにさらに後方へと飛び退いたのだ。

着地した彼女は膝を深く沈め、数秒の溜めの後、勢いよく地を蹴って跳躍する。

宙を舞って接近する彼女に再度スカジは腕を振るい迎撃するも、空中で体を捻りシリカはそれを躱してみせた。

スカジを飛び越えたシリカはその背に向かい右手に握る短剣を

 

「やぁぁ!!!」

 

ありったけの力を込めて振り抜いた。

それは背面にある赤い宝珠のようなモノに命中し、スカジのHPが勢いよく減少する。

着地したシリカはさらに後方へと下がり

 

「ジュン君!! 焔剣を!!!」

 

そう叫んだ。

呆気に取られるジュン。

だが必死なのかシリカは構うことなく

 

「ボスの身体を、焔剣で貫いてください!!!」

 

再度叫んだ。

それが耳に届いたジュンは我に返り

 

「わ、わかった! みんな離れてくれ!」

 

叫んだ。

彼の焔剣解放は強力な炎が周囲に奔る為、味方にさえダメージを与えてしまうというデメリットがある。

それを回避するためにジュンはユウキ達に離れるよう叫んだのだ。

ユウキ達は急いで距離を取り、それを確認したジュンは息を吐く。

愛剣であるフレスヴェルグの切っ先をスカジに向かって突き付けるように構え

 

「焔剣───解放!!!!」

 

叫んだ刹那、刀身が砕け紅蓮の炎が刃となって形成される。

勢いよく地を蹴り、間合いを詰めてジュンは焔剣を突き出す。

それはスカジの胴に食い込み勢いよく貫いていく。

 

「おぉぉぉぉ!!!!!」

 

「グギィィィィィ!!!!!!」

 

超高温の焔剣に貫かれたスカジのHPは先程までとは違い勢いよく減少していっている。

止まることなくHPはゼロとなり

 

「ギョァァァァァ!!!!!!」

 

この世のモノとは思えないほどの悍ましい断末魔を上げ、ポリゴン片となって爆散するスカジ。

それと同時に『Congratulations!』と書かれたシステムメッセージが表示された。

 

「や……やった……のか?」

 

焔剣を解除し座り込むジュン。

そんな彼に

 

「ジュンくーん!!」

 

シリカが駆け寄って彼の両手を取り

 

「やりましたよ! あたしたちクリアしたんですよ!」

 

そう言って心底嬉しそうに笑っている。

呆気に取られるジュン。

すると武器を収めたユウキが歩み寄ってきて

 

「やったね、ジュン。特別限定クエスト初クリア達成だよ」

 

言いながらサムズアップを向けてきた。

同様に歩み寄ってきたシウネー達も笑顔を向けてきている。

それを見たジュンはようやくクリアしたことを実感したのだろう。

勢いよく立ち上がり

 

「やっ───たぁぁぁぁぁl!!!!!」

 

腹の底から歓喜の叫びを上げるジュン。

喜ぶ彼にシウネー達も加わり喜んでいる。

目的である特別限定クエストの初回クリアを達成できたのだから余計に嬉しいものであるだろう。

 

「なんとか勝てたわね……最後の攻撃には肝を冷やしたわ……」

 

アスナが大きく息を吐いて言う。

それに同意するようにユウキが苦笑いを零し

 

「だねぇ。アスナの回復とシウネーさんの防御魔法が無かったら間違いなく全滅してたよ。それはともかく……ね、シリカ。最後なんでジュンの焔剣で攻撃させたの?」

 

ふと疑問に思ったことをシリカに訊ねた。

 

「えっとですね……あたしがボスの背中を攻撃したとき、そこにあった宝珠みたいな赤い物体も斬りつけたんです。そしたら殆ど減らなかったHPが急に減ったじゃないですか? もしかしたらアレが弱点なんじゃないかと思って、ジュン君の焔剣なら属性攻撃だから貫けるんじゃないかなって思ったんです」

 

問われたシリカはそう返す。

それを聞いたユウキとアスナは「あぁ」と納得したように頷いた。

確かにシリカの攻撃がスカジの背中にヒットした時、物理では全くと言っていいほど削れなかったHPが容易く減っていた。

恐らくだがスカジの物理及び属性防御強化はシリカの言う赤い宝珠のようなものには適応されていなかったのだろう。

まさに偶然が生んだ勝機だったと言っても過言ではない。

 

「それにしても、さっきのシリカちゃん凄かったね。よく躱せたねあのボスの攻撃」

 

「ホントだよー。躱した瞬間びっくりして思わず動きが止まっちゃたもん」

 

二人にそう言われたシリカはキョトンとした表情で二人を見ながら

 

「え……えっと……実を言うと無我夢中でよく覚えてないんです。ただやられたくないって思ったら体が自然に動いてたと言いますか……」

 

そう返してきた。

彼女の言葉を聞いたユウキとアスナは顔を見合わせる。

 

(……無意識だったってこと? あの動き……攻撃を回避した時、普通じゃ考えられないくらいシリカは仰け反ってた……アレはキリトの反応速度のソレとは違ってた……それにあの跳躍ももっと別の───)

 

先程の戦闘で見せたシリカの動き。

それを思い返しながら思考を巡らせるユウキ。

アスナも同様に考え込む仕草を見せていた。

そんな二人に対しシリカが首を傾げ疑問符を浮かべていると、不意に大きな音が耳に届いてきた。

音がした方に目を向けると、出入り口である扉がゆっくりと開いていっている。

完全に扉が開ききり、その向こう側に視線を向けるとキリト達が目に入った。

彼らの周りには『シャムロック』のメンバー達が項垂れながら座り込んでいる。

ボス部屋の中にいるジュンやユウキ達に向かい、キリトとソラはサムズアップを向けてきた。

それを見たジュン達は同様に彼らにサムズアップで返したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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限定クエストの初回クリアを達成したジュン達がボス部屋から出た直後、キリトとソラが呼んだキバオウ率いる自警団が到着した。

自警団のメンバー達が手際よく『シャムロック』のメンバー達を拘束していく中、リーダーであるキバオウがキリトの元まで歩み寄り

 

「いやぁ、連絡ホンマに助かったわ。これで少しはクエスト独占行為も減るやろ」

 

「そんなに多いのか?」

 

そう言いながら頭を掻くキバオウにキリトが訊ねると、彼は苦々しい表情をしながら

 

「ここ最近、裏世界が解放されてから特に増加傾向なんや。取り締まっても取り締まっても次から次に湧きよる……お陰でワイら大忙しや」

 

そう返してきた。

彼の表情から察するにマナー違反者の数は相当なものなのだろう。

かくいうキリト達も裏世界が解放されてからというもの、今回のようなクエスト独占行為やクリア報酬の横取りなどの被害をよく耳にしている。

そういった情報を事前に入手していた故に、今回の件でキリト達は対応できたのだが。

 

「違反者の大半は『シャムロック』のギルメンやな。理由を聞けばどいつもコイツも「セブンの為」やからもう呆れたもんやで……」

 

溜息を零しながら言うキバオウ。

無理もない話だ。

どんな理由であろうとも違反は違反、迷惑行為に変わりはない。

うんざりした様子を隠さないキバオウにキリトは苦笑いだ。

 

「ともかく、今回はえろうおおきに。またなんかあったら連絡してやキリトはん」

 

「あぁ、こっちこそ助かったよ」

 

キリトが短く返すとキバオウは背を向けて自警団の方へと歩いていく。 

それを見送ったキリトは少し離れた場所で待っているユウキ達の元へと向かう

 

「待たせた」

 

「んーん。そんなに待ってないよ。で、何話してたの?」

 

ユウキが小さく首を横に振り問い返してきた。

 

「大した事じゃ……ないわけでもないかな。また後で話すよ。それよりジュン。限定クエスト初回クリアおめでとう」

 

彼女の問いかけにそう返すと、キリトはジュンに目を向けて言う。

すると彼は

 

「オレ達だけじゃきっと無理でした。キリトさん達が手伝ってくれたからです……本当にありがとうございました!」

 

そう言って深々と頭を下げるジュン。

同様にシウネー達も頭を下げる。

そんな彼らにキリト達は気にするなというように笑顔で返した。

その後、限定クエスト初回クリアの情報を聞きつけたMMOストリームのスタッフが颯爽と現れ、初回クリアを果たしたジュン達へ取材が行われた。

取材が終わると、クラインからお疲れ様会をしようと提案され、満場一致で合意。

空都ラインにあるエギルの店に戻り、特急で準備を終えて宴が始まった。

ユウキとアスナによる手製の料理とエギル特製のドリンクを楽しみながら、皆思い思いに談笑している。

そんな中、シリカはふとジュンがいない事に気が付いた。

店内を見回してみるがやはりいない。

メニューを開いてフレンドリストから現在地を確認してみると、彼は街ではなくヴォークリンデにいるようだ。

シリカはメニューを閉じて他の皆に気付かれないよう店を出る。

そのまま転移門へと向かいヴォークリンデへと赴いた。

ゲーム内時間は夜になっており、空には星が瞬いている。

シリカは翅を広げて飛翔し、再度フレンドリストを開いてジュンのいる場所を確認しながら飛んでいくと一つの浮島へと辿り着く。

その一角に彼はいた。

腰を下ろして夜空を見上げている。

浮島に降りて彼に近づいていくと

 

「シリカか?」

 

振り向くことなくジュンが声をかけててきた。

彼もシステム外スキル『超感覚(ハイパーセンス)』を持っているのかと思いシリカは思わず驚くも

 

「はい。こんなところにいたんですね、ジュン君」

 

言いながら彼の隣まで歩み寄る。

 

「隣、座っていいですか?」

 

「勿論」

 

彼からの承諾を聞いたシリカは腰を下ろし、同じように夜空を見上げた。

しばらく互いに無言で夜空を眺めていたが

 

「今日はお疲れさまでした」

 

シリカがジュンに視線を向けながら言う。

それを聞いた彼は

 

「シリカもお疲れ様。それと、ありがとう。君が居なかったら初回クリアなんて出来なかったよ」

 

そう告げる。

ジュンの言葉にシリカは照れたようにかぶりを振って

 

「そんな、あたしは何も……ボスを倒したのはジュン君ですし」

 

「そんな事ないさ。特に最後なんて君がボスの弱点を見つけてくれなきゃやられてたよ、きっと」

 

否定しているシリカにジュンはそう言いながら笑いかける。

屈託のない笑顔を向けてくる彼にシリカは更に照れたように目を逸らした。

少しの沈黙。

が、それもすぐにジュンの言葉で破られた。

 

「やっぱり楽しいな……ALOは」

 

そう言うとジュンは再び夜空を見上げる。

彼方を見る彼の横顔はどこか寂しそうだ。

シリカはすぐにその理由に思い当たる。

少しだけ考える素振りを見せるも、シリカは意を決したように頷きジュンに方に目を向けて

 

「あの、ジュン君……」

 

呼ばれた彼は不思議そうな表情でシリカに目を向けた。

一呼吸置いて

 

「あたしを『スリーピング・ナイツ』に入れてくれませんか?」

 

そう告げた。

すると彼は困ったように苦笑いを見せる。

 

「シリカ、それは───」

 

「わかってます。ギルドはもうすぐ解散するんですよね。その少しの間だけでいいんです」

 

ジュンの言葉を遮り言うシリカ。

彼女の目は真剣だ。

 

「あたし、もっとジュン君と冒険がしたいんです。それにもっと知りたいんです。ギルドでのジュン君の事とか、シウネーさん達の事も……だから、お願いします!」

 

真剣な表情で告げてくるシリカ。

ジュンは一瞬だけ顔を伏せるも、すぐに顔を上げて立ち上がった。

そしてどこか悲し気な目でシリカを見ながら

 

「ごめん。それは無理だ」

 

そう言って背を向ける。

告げられた言葉に今度はシリカが困惑し、同じように立ち上がった。

尚も背を向けるジュンに彼女は言い知れない不安を覚える。

まるでこのまま彼が消えてしまうのではないか?

そんな予感がシリカの脳裏に過り

 

「ジュン君……ギルド、解散するだけですよね? ALOは……続けるんですよね?」

 

そう訊かずにはいられなかった。

重い沈黙の後、彼は静かに振り返る。

その表情は先程のものよりも悲し気で───

 

「───ごめん」

 

そう一言だけ言うと彼はメニューを開いてログアウトボタンを押す。

次の瞬間彼の姿はライトエフェクトになって掻き消えた。

一人取り残されたシリカは困惑するばかりだ。

そしてその日から、彼がALOに姿を見せることはなかった。




ALOから姿を消したサラマンダーの少年。

彼の行方を探すケットシーの少女。

そんな彼女にある情報がまいこんでくる。

次回「行方を求めて」

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