ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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お待たせいたしやした最新話でっす。
前回更新からまーた長らく停滞してるよホント体たらくですまねぇ。
兎に角書き上げたから良しとしようか。なお攻略シーンは尺の都合でダイジェストでお送りいたしまぁす
( ∩'-' )=͟͟͞͞⊃ )´д`)ドゥクシ




では95話、始まります。


第九十五話 攻略合戦

高度制限が解除され、スヴァルトエリア内で行けなかった浮島まで飛べるようになり、一度フロスヒルデから街戻ったキリト達はアイテムの補充と武器のメンテナンスを行い、まずはヴォークリンデの浮島攻略から行うことにした。

その間、固有能力のデメリットでメイン武装が一時的に使えない状態になったジュンは一時街で待機となった。

キリト達はヴォークリンデへと赴き、以前は高度制限に阻まれて行くことが出来なかった高さにある浮島の一つへと飛んでいく。

そこには遺跡ダンジョンの入り口があり、他の浮島にも同じような遺跡ダンジョンがあると考えた彼らは三組のチームに別れ、他の浮島も調べることにした。

ソラ、アスナ、シノンの三人は西側を、クライン、エギル、リズベット、シリカの四人が東側を見て回ることになり、目の前にダンジョンはキリト、ユウキ、リーファ、そしてレインの四人で探索することになり、彼らはダンジョンの中へと入っていく。

構造はさほど複雑ではなく、いくつか分かれ道があったものの最終的には最奥へたどり着ける仕様になっている。

その分モンスターの出現率が高めに設定されているようで、かなりの数のモンスターがPOPしたが、百戦錬磨のキリト達にはさほど苦にならなかったのは言うまでもないだろう。

そうして最奥へとたどり着くと、目の前には大きな扉。

間違いなくボスの部屋だ。

キリト達は頷きあい、大扉を開いて中へと突入すると、中央に大型のモンスターが出現する。

三つ首の頭を持つ蛇型、ヒドラだ。

キリト達は武器を抜き放ち、一斉にヒドラに向かい駆け出していく。

ダンジョンのボス戦は特殊フィールド内でランダムに選らばれた三人が戦うエリアボス戦とは違い、その場にいる全員で挑むことが出来る。

多少の苦戦は強いられるも、何とかキリト達はボスを倒すことに成功した。

ボスがポリゴン片をまき散らして爆散すると、その地点に何かがドロップする。

ドロップしたのはオーブのようで、樹のレリーフが彫り込まれている。

なんの用途で使うかわからないが、貴重なアイテムであることは間違いない。

キリトはオーブをアイテムストレージに収納し、他を探索しているソラ達と合流するためボス部屋を後にした。

ダンジョンから出ると、キリトにメッセージが届いた。

送り主はソラだ。

メニューを開いて内容を確認すると、そこには『探索したダンジョンで倒したボスから猫のレリーフが刻まれたオーブを手に入れた』と表示されていた。

ソラからのメッセージを閉じたキリトは次にメッセージ作成画面へと移行する。

素早くメッセージを打ち込んで送信ボタンを押すキリト。

送信先はクライン。

ソラからのメッセージの内容をユウキ達に伝え。彼らはソラ達と合流するために浮島を飛び立ち転移門へと向かった。

街に戻るとすでにソラとアスナ、シノンの三人は戻っており、数分後にはクラインたちも帰還してくる。

合流した彼らはそれぞれの成果を報告しあう。

キリトはストレージから手に入れたオーブを取り出して見せ、ソラも同様に入手したオーブを見せる。

クライン達は東側を見て回りいくつかダンジョンの入り口を発見するも、ロックされて入れなかったようである。

成果を報告しあった後、とりあえず今日はここまでにし、次はヴェルグンデと探索しようという事になり解散となった。

ユウキとアスナ、レインは街の方へと装飾品を身に出向き、リーファとシノン、リズベットはログアウト。

シリカは宿屋で待機しているジュンのところによってからログアウトすると言い宿屋へと駆けていき、クラインは自分のギルドの方へ顔を出すといってその場を後にする。

エギルも自分の店へと戻っていき、残ったのはキリトとソラだけになった。

二人もこのままログアウトしようとメニューを操作しようとした、その時だった。

キリトの視界に見覚えのある羽飾りが映ったのだ。

操作を止めて視線を向けると、そこには見慣れたプーカの少女がいた。

 

「あ、セブン!」

 

「!!」

 

呼ばれたプーカの少女───セブンは勢いよくキリトへと近づいていき

 

「ちょっとキリト君、声が大きい! あたしが街に来てるって他のプレイヤーにバレちゃうでしょ」

 

彼を見上げながらそう言ってきた。

 

「わ、悪い」

 

「相変わらず抜けてるな、キリト」

 

申し訳なさそうに謝るキリトの隣で、ソラが苦笑い気味に言う。

それに対しキリトはジト目になってソラを見るが、彼はどこ吹く風だ。

そんな二人の様子を見てセブンはクスクスと笑って

 

「ほら、いつものお店に行きましょ。ほら、ソラ君も」

 

そう言って彼らに移動を促した。

彼女が言ういつもの店とはエギルの経営する喫茶店の事だ。

軽い足取りで店へと向かいセブン。

その後をキリトとソラは微笑まし気に見た後彼女の後を追っていった。

店に入ると三人はカウンター席に座り、それぞれ飲み物を注文する。

NPC店員が注文を受理して下がると、キリトは思い立ったようにセブンへと声をかけた。

 

「なぁ、セブン。ちょっと訊いていいか?」

 

「なに、どうしたの?」

 

彼女は疑問符を浮かべてキリトの方へと視線を向けた。

 

「お前のギルドに参加していた『レイン』って娘の事、覚えてるか?」

 

問われたセブンは一度考える素振りを見せて

 

「レイン……? レイン……ううん、知らないよ。その子がどうかしたの?」

 

そう言って返してくる。

 

「そうか……。いや、スメラギ達は知ってるみたいでさ」

 

「何か嘘を吐いて入隊しようとして、バレてすぐに脱退させられたらしいんだけどね」

 

再度訊ねるキリトとソラに、セブンはしばし沈黙する。

やがて考えるのを止めて、二人に視線を向けながら

 

「その名前に心当たりはないけど、そういうケースは何度かあったよ。アイドルにはよくある話よ。遠い親戚だとか友達だとか偽ってさ。事務所とか控室に入り込もうとする人。そんな感じで『シャムロック』に入ろうとして、バレて追い出される人結構いるよ」

 

そう言い、いつの間にか運ばれてきたアイスティーを啜る。

彼女の言葉を聞いて、ソラは考える仕草を取って

 

「じゃぁ、彼女は君に会いたかったということかな?」

 

「さぁ? それはその子に訊いてみないとわからないよ」

 

問いかけにセブンはそう返してくる。

 

「だよなぁ……」

 

「……それじゃぁ、あたしはもう行くね。早くギルド本部に戻らないと、『シャムロック』のみんなが探しに来ちゃう」

 

難しい表情をしながらキリトが言うと、アイスティーを飲み終わった言いながら席を立つ。

その言葉を聞いた二人は手を振って店を出ていくセブンを笑顔で見送る。

彼女が店から出たのを確認すると、互いに目配せしあいながら

 

「どうやらセブンはレインの事を知らないようだね」

 

「みたいだな。レインが嘘を吐いてまでセブンに近づきたかったのは何だろうな」

 

「わからない。ただ、相当な思い入れがあるのだけは間違いないと思うよ。セブンの話題が出ると、彼女に表情が変わるのを確認したし。ほんの僅か、普通じゃ気付かない差だけどね」

 

「流石はソラだな。相変わらず観察眼がエグイ」

 

「……何か引っかかる言い方だな」

 

「気のせい気のせい。とにかく、レインの件は慎重に情報を集めるしかないか」

 

ジト目で見てくるソラに、キリトは言いながらジンジャーエール擬きを飲んでいる。

ソラは軽くため息を吐いて、自分に運ばれていていたハーブティーを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日。

 

「えっへへー」

 

肩まである綺麗な黒紫の髪を靡かせながら上機嫌な様子で少女が歩いている。

その横にいる上下とも真っ黒な服装をしている少年は微笑まし気に彼女に訊ねた。

 

「えらく上機嫌だな、木綿季?」

 

「だって、和人とこうして二人っきりのお出かけなんて久しぶりだもん!」

 

言いながら少女───紺野木綿季は少年───桐ケ谷和人に満面の笑みを向けてくる。

二人は今、秋葉原へと訪れていた。

今日は休日で、スヴァルトエリアの攻略も他のメンバー達に私用があるためお休みとなっている。

なので和人と木綿季は久しぶりに二人で出かける事にしたのである。

 

「そうだな……確かに最近ずっとスヴァルトエリアにかかりきりだったもんな」

 

「だから今日は思いっきりお出掛けを満喫するよ!」

 

満面の笑みのまま言う木綿季。

心の底から楽しんでいる少女の姿を見て、和人も楽しくなってきている。

その時だった。

 

「───じゃぁ聞いてください」

 

二人の耳に声が届いてくる。

視線を向けた瞬間、軽快なイントロが流れてくる。

次いで歌声が響いてきた。

視線の先には一人の少女が曲に合わせて歌っていた。

いわゆる路上ライブというものである。

 

「~~~♪~~~♪♪」

 

「あれって路上ライブだよね? あの子、アイドルなのかな?」

 

「うーん……とは言え、観客もまばらだし、スピーカーの音も割れ放題……最近セブンの歌声ばかり聞いてたから、ああいう素人のを聴くとクオリティの差がよくわかっちゃうなぁ……」

 

歌っている少女を見ながら感心している木綿季。

しかし対照的に少女の歌声を聴いて和人は微妙な表情をしながらそう述べる。

すると木綿季は和人の方に目を向けて

 

「こぉら和人。それは失礼じゃないかな? あの子だって夢を叶える為に頑張ってるんだよ?」

 

そう言ってきた。

まるで悪戯をした子供を嗜めるような木綿季に和人は苦笑いになって

 

「あ、あぁ……そうだな」

 

頷き、少女の歌声を集中して聴くことにした。

歌い続ける事約数分。

少女の歌声が止まり、同時に流れていた旋律も止まる。

 

「……はぁ……はぁ……ありがとうございました!」

 

「うん。よくよく聴けば、結構いい歌だった気がするな」

 

「だね。セブンみたいな派手さはないけどさ、こっちの歌も素敵だよー」

 

最初は微妙な評価をしていた和人だったが、少女の歌を最後まで聴いて評価を改めたようだ。

木綿季も満足そうな表情で和人の言葉に同意している。

 

「わたし、ここで働いてるの。よかったら来てみてくださいねー!」

 

そう言って少女が指さした方に視線を向けると、そこにはメイド喫茶の看板があった。

 

「へぇ、メイドカフェかぁ。最近はメイドの子も歌うんだねぇ」

 

「それじゃぁね。ダスヴィダーニャ~♪」

 

そう言い一礼すると、少女は自身が働いているメイド喫茶の中へと戻っていく。

 

「ダスヴィ……?」

 

あまり聞きなれない単語に和人が首をかしげていると

 

「ロシア語だよ。『さよなら』って意味だったと思う」

 

「何処かで聞いたような……まぁいいか。けど、アイドルってさ、ああいう風に地道に頑張っても全然花開かない子は沢山いるんだろうな」

 

 

「そうだと思うよ。でも華やかな世界だもん。みんな夢見て一歩踏み出すんだよ」

 

彼の言葉に木綿季がそう返してくる。

和人は先程少女が戻っていった店の方を見ながら言う。

 

「一見するとセブン……七色博士はその全てを手に入れたように見えるけど、彼女には彼女なりの悩みや苦労もあって……一概に幸せとは言えないか。難しいもんだなぁ」

 

「そうだね。じゃぁ、素敵な歌も聴けたし、そろそろ行こっか、和人」

 

「あぁ、そうだな」

 

そう言うと和人と木綿季はその場を離れ、二人だけの休日を満喫するために歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数日後。

ヴォークリンデで二つのオーブを手に入れた彼らは、次にヴェルグンデで行けなかった高さにある浮島の攻略に乗り出した。

そこで発見した遺跡ダンジョンを攻略、待ち構えていたボスを倒すと、ヴォークリオンデの時同様にオーブを入手。

数は二つでそれぞれ鳥と熊のレリーフが彫られていた。

これによりキリト達は二つの浮島大陸で二つずつオーブが手に入ったならフロスヒルデにもあるのではないかと考え、フロスヒルデへと赴いた。

彼らの読み通り、高度制限が解除されて行けるようになった浮島にて遺跡ダンジョンを二か所発見。

それぞれのダンジョンを素早く攻略し、最奥にいたボスを倒すとこれまで同様にオーブをドロップした。

手に入った二つのオーブには魚と女神のレリーフが刻まれている。

合計で6つのオーブを手に入れた彼らは、もう一つフロスヒルデの最も高い位置にある遺跡でオーブを使えばよいのではと考え、そこへ赴くことにした。

訪れたのはシグムント遺跡と呼ばれるダンジョンだ。

ダンジョンはかなり複雑になっており、様々なギミックを解かなければ進めない仕様となっていた。

そしてかなり強力なモンスターも出現するようで、キリト達はモンスター達を退けながらギミックを解いて奥へと進んでいく。

そうして最奥へとたどり着くと、巨大な扉が設置されており、扉の中央には六つの丸いくぼみがあった。

キリト達は手に入れた六つのオーブを取り出してくぼみへとはめ込んでいく。

最後に女神のレリーフが彫られたオーブをはめ込むと、大扉は轟音を響かせて開いていく。

扉が開き切り、彼らが内部へと入るとこれまで同様、青白いライトエフェクトが彼らのうちの三人を包んでいく。

今回選ばれたのはユウキ、アスナ、シノンの三人だ。

ライトエフェクトが彼女らを包み、一際大きくなった瞬間その姿が掻き消える。

外に特殊フィールドが形成され、そこに転送されたのだろう。

キリト達は遺跡から出て辺りを見回すと、巨大な特殊フィールドが形成されており、その中には転送されたユウキ達の姿も確認できた。

さらに言えば、すでにボスモンスターも出現しているようで交戦が開始されている。

ボスの名は『ヘイズルーン』。

いくつもの触手を生やし、最上部には人型の女性を象ったなんとも背徳的な姿をしているモンスターだ。

伸びてくる触手を躱しながら、ユウキが持ち前の速力を活かして斬撃と刺突による攻撃を繰り出し、後方からはシノンが弓による遠距離攻撃。

そして二人をさらに後方からアスナが魔法によって援護。

見事に連携を取りながら確実にヘイズルーンのHPを削っていく。

やがてHPバーが三本目に突入すると、ヘイズルーンはこれまでのボス同様、特殊な行動に出始めた。

ヘイズルーンが行ってきたのは主に状態異常を引き起こす特殊攻撃だった。

その攻撃は主に近接攻撃に特化しているユウキに苦い表情をさせるものであった。

手当たり次第に毒が付与されるガスを吐き、さらには攻撃防御にデバフがかかる粘液まで吐き散らかしてくるのだから始末に負えない。

しかしながらユウキは苦い表情は零すものの、攻撃の手は決して緩めず、状態異常攻撃を受けながらヘイズルーンを斬りつけていく。

なぜそのような特攻が出来るのか?

答えは至極簡単。

最高位の回復魔法が使えるウンディーネのアスナがいるからだ。

彼女はユウキが状態異常攻撃に怯むことなく向かっていくのを見た瞬間、攻撃魔法の援護からHP及び状態異常回復支援へと切り替えていたのだ。

勤勉な彼女はわずかなタイムラグで魔法が使用できるよう、『高速詠唱(スピードスペル)』と『詠唱破棄(スキップスペル)』の魔法スキルも取得しており熟練度も上げている。

次々とかかる状態異常を解除し、減っていくユウキのHPを回復させていく。

そしてさらにシノンがヘイズルーンの弱点を看破し、有効な矢と弓専用のソードスキルで追撃。

これによりヘイズルーンは成す術なくHPを削られていき、最後に彼女らの渾身の攻撃を受けそのHPを全損。

その体躯は大きく爆発し、ポリゴン片となって消えていった。

同時に特殊フィールドが消え、『Congratulations!』と表示されたシステムウインドウが出現した。

 

「いやったぁー!! 大勝利ー!!」

 

「まったく……勝てたからいいけど、もし私がいなかったらどうする気だったの?」

 

ボスを倒してはしゃぐユウキにアスナはため息を吐きながら問いかけた。

 

「まぁいいじゃんアスナ。結果オーライだよ、ブイ!」

 

問われたユウキはまるで気にする様子もなくはしゃいでいる。

アスナが再度ため息を吐くと

 

「貴女も大変ね、アスナ」

 

「シノのぉん」

 

察したような表情でシノンが彼女の肩をたたく。

そうこうしていると、キリト達が彼女たちの元にやってきた。

合流したその直後

 

「くっ……先を越されたか……」

 

聞き覚えのある声が耳に届き、振り向くとそこには腰に両手剣を下げたウンディーネの青年と、その他多数のプレイヤー達がいた。

 

「スメラギ! 悪いがフロスヒルデのエリア攻略は俺達が攻略させてもらったぜ」

 

不敵な笑みを浮かべ、キリトは青年─────スメラギに向かいそう言った。

すると彼は一度息を吐き、真っ直ぐにキリト達を見据えながら

 

「今回は一歩及ばなかったが、ここはまだ通過点にすぎん。見ろ」

 

そう言って指をさす。

その先にある巨大な雲が晴れていき、最後の浮島大陸が姿を現した。

あれこそスヴァルトエリア最後の浮島大陸。

スヴァルトエリアの裏世界『岩塊原野ニーベルハイム』だ。

 

「ここからが後半戦だ。最後は俺達が……『シャムロック』が必ず制覇してみせる!」

 

「あぁ。俺達だって負けないぜ!」

 

彼の宣戦布告に、キリトは不敵な笑みを浮かべてそう返す。

それに対し、スメラギは何処か楽しそうに小さく笑うとキリト達に背を向けた。

そんな彼をキリトは呼び止める。

 

「な、なぁスメラギ。俺たちの勝負とは関係ないんだが、セブンは元気か?」

 

その言葉を聞いたスメラギは振り返る。

その表情には先程の楽しげな雰囲気は全くない。

鋭い目でキリトを見据えながら

 

「どういう事だ? セブンの事について、貴様に心許した覚えはないが?」

 

威圧の孕んだ声で問い返してきた。

並の者なら圧倒されていただろうがキリトは委縮する事無く

 

「いや、最近見てない気がして。あいつはまだ子供だから、変に気張って無理してるんじゃないかってさ」

 

そう返す。

すると彼は更に威圧を込めた目でキリトを見ながら

 

「貴様が気にする事じゃない。セブンは……あの子は貴様達には到底考えつかないような、崇高な思考の下で生きている。貴様らのような下賤な者とは違うんだ」

 

そう言ってきた。

その言葉に、キリト達は眉を顰める。

 

「そんなわけないだろ。まだ年端もいかないあの子は、大人たちに揉まれながら、周囲の期待に応えようと努力してるんだろ」

 

「キリトの言う通りだ。人並外れた神様のように扱うのはどうかと思う。過度な期待を押し付けるのは時に猛毒になるぞ」

 

スメラギの言葉に、キリトが強い口調で返し、ソラが続く様に言葉を紡ぐ。

二人の言葉に、スメラギはしばし沈黙するが、やがて息を吐き、口を開いた。

 

「キリトにソラ。俺は貴様達を認めている。だが、シャムロックの活動についてとやかく言われる筋合いはない」

 

そう言い、スメラギは背を向け、今度こそキリト達の前から立ち去った。

ついてきていた『シャムロック』のメンバー達もその後に続いていく」。

 

「おい、スメラギ!」

 

「待つんだキリト。これ以上は平行線だ」

 

キリトは慌ててスメラギを追っていこうとするが、それはソラによって止められた。

彼は苦虫を噛み潰したような表情になり

 

「俺もあいつの事は認めてる……一度剣を交えたからこそわかるんだ。あいつは強くて攻略に真摯なプレイヤーだ。けど『シャムロック』としてあの子を、セブンを持ち上げて何がしたんだ……?」

 

「キリト……」

 

そう言葉を紡ぐ彼に、ユウキ達はどう言葉をかけていいか解からずにいる。

重い沈黙が彼らに訪れる。

その沈黙を打ち破ったのは

 

「あー……なんにせよだ。裏世界の解放は出来たんだしよ。表世界の攻略記念と裏世界攻略がんばろーぜって意味を込めて、パーティでもやらねぇか?」

 

クラインだった。

 

「そうね。これまでみんな頑張って来たんだし、お祝いしましょう」

 

「アスナの意見にさんせーい!」

 

彼の言葉に続いて言うアスナ。

それに対し素早くユウキは同意してくる。

 

「それなら、俺の店を使っていいぜ。貸し切りにしとくからよ」

 

更にエギルからの申し出。

他のみんなも乗り気のようだ。

キリトは息を吐き

 

「そうだな。ここらで一回ガス抜きして、気合い入れなおさないとだな。クライン、サンキューな」

 

そう言ってキリトはクラインに視線を送った。

対するクラインは気にするなというよう表情をしながらサムズアップで返してくる。

こういった時、彼は率先的に場を盛り上げ、暗い雰囲気を変えてくれる。

やはり自身でギルドを運営しているだけあって、そういった気配りもよく出来ていようだ。

クラインの提案に全員賛成という事で、キリト達は街に戻ることにした。

街に戻った彼らは早速パーティの準備をする。

エギルとユウキ、アスナの三人で料理を作り、残った者たちで飾り付け。

パーティ用の料理が完成し、飾りつけも終わってから店の前に『本日貸し切り』とかかれた看板を立てた。

全員に飲み物が注がれたグラスを行き渡ると、クラインが皆の前に立って咳払いを一つする。

 

「オホン! では僭越ながら、私クラインが乾杯の音頭を取らせていただきます。スヴァルト・アールヴヘイムの地に降り立ってからというもの、数々の苦難を乗り越え───」

 

「ちょっと、そんな話どうでもいいから早く乾杯しましょうよ!」

 

「そうね。せっかくの料理が冷めちゃうわ」

 

長々と語りだしたクラインを、リズベットとシノンがそれぞれ言いながら遮った。

クラインはガックリと項垂れて

 

「ひでぇ……わかったよ、すぐ乾杯するから!」

 

もう一度咳払いをし

 

「それじゃぁ、ボス討伐&クエスト攻略おめでとう! 乾杯!!」

 

『乾杯!!』

 

クラインはグラスを掲げて唱和し、皆もそれに続いた。

そして彼らはエギル達の作った料理を楽しみながら、それぞれ話に花を咲かせていた。

スヴァルトエリア攻略での苦労話や、見つけたアイテムやサブクエストなどの話を皆楽しそうにしている。

そんな彼らを一歩離れたところから眺めている者がいた。

レインだ。

彼女は少し離れた席から、グラスに入った飲み物を飲みながら談笑しているキリト達を微笑ましげに眺めている。

そんな彼女の様子に気が付いたキリトは彼女に声をかけた。

 

「レイン、そんな隅っこでどうしたんだ?」

 

「キ、キリト君?! いやぁ……皆さんで和気藹々としてるのを邪魔しちゃ悪いかなーって思ったのですよ」

 

声をかけられたことに驚きつつも、レインはすぐに笑ってそう返してきた。

するとキリトは

 

「そんな事ないさ。クエストを攻略出来たのだって、レインが協力してくれたからだよ」

 

そう言って返す。

しかしレインは苦笑いしながら

 

「あはは~。褒めても何も出ないよ~?」

 

そう言いながら尚も一歩引いたような態度を取っている。

そんな彼女に

 

「レイン。ボク達が言ってるのは本心だよ」

 

声をかけてきたのはユウキだ。

キリトの隣に立ち彼女は笑顔で

 

「君が居てくれて助かったよ。一緒に攻略してくれてありがとうね」

 

嘘偽りのない言葉を彼女に投げかけた。

それを聞いたレインは戸惑ったような表情を受かべるも、すぐに照れたように頬を指で掻いて

 

「ユウキちゃん……えへへ、こちらこそありがとう」

 

そう言って返した。

レインの言葉を聞いてユウキとキリトは満足そうに笑う。

その時だった。

店の扉が開き、来店を告げるベルが鳴る。

 

「ん? 誰か来たみたいだな。貸し切りの看板は立ててあるはずなんだが……」

 

エギルが訝しんだ様子で扉の方へ視線を向けるとそこには

 

「プリヴィエート、キリト君。それにソラ君達も」

 

セブンが立っていた。

店に入って来たのは彼女だった。

どうやらまた『シャムロック』のメンバーを捲いてきたのだろう。

当然の思ってもみない来客にキリト達は驚いていた。

 

「セブン、どうしたんだ?」

 

問われたセブンは彼に前まで歩み寄り

 

「貴方に一言言いたかったのよ。表世界の攻略おめでとう。それと、よくも『シャムロック』を負かしてくれたわね」

 

そう言ってきた。

恐らく、いや確実にスメラギから報告を聞いたのだろう。

何処か楽しそうに言うセブン。

悔しい気持ちもあるのだろうが、それ以上にキリト達が自分のギルドより先に表世界を攻略したことを嬉しそうにしているように見える。

 

「って、あれ……その子、誰?」

 

その時、セブンはキリト達の近くにいるレインの存在に気付いたらしい。

疑問符を浮かべながらキリトに問いかけてきた。

 

「……」

 

当のレインは面食らったような表情をしていた。

キリトはそんなレインの様子に気付くことなく

 

「ああ、こいつはレイン。前に話したことあるだろ? お前に会いたくて、『シャムロック』に入ろうとした奴だよ」

 

そう説明すると、セブンは少し考える素振りを見せるもすぐに以前の会話を思い出し

 

「ああ、あの話ね。ふぅん……貴女、あたしのファンなの?」

 

まじまじとレインを見ながら問いかける。

問いかけに対しレインは

 

「え、えぇっと……はい、そうです……」

 

何やら複雑そうな表情で応え返した。

するとセブンは少し笑いながら言う。

 

「そう。でも、嘘を吐いて『シャムロック』に入ろうだなんてだめよ。幾らゲーム中のギルドとは言っても、それがバレたに周囲がどう考えるか、ちゃんと考えなくちゃ」

 

「ごめんなさい……セブン。わたし、これからは気を付けるね」

 

彼女の言葉にレインは苦笑い気味でそう返す。

レインからの返答を聞いたセブンは納得したように頷いて

 

「うん、わかればいいの。じゃぁ、あたしに何をしてほしいの? 歌を歌ってあげればいい? それともサインでもかけばいいの?」

 

続けて問いかけていく。

その問いにレインは首を横に振って

 

「あ……ううん。元気そうな貴女の顔を見られただけでわたし……何だか安心しちゃった」

 

そう返す。

それを聞いたセブンは苦笑いを零しながら

 

「あらら……キリト君やソラ君以上にアイドルとして張り合いのない相手ねぇ……まぁいいわ。ならせめて握手くらいしましょ?」

 

そう言って右手を差し出してきた。

レインは少々戸惑うも、おずおずと自身の右お手を差し出し、セブンの手を握る。

その様子を、キリト達は微笑まし気に眺めている。

やがて手を離すと、セブンはクルリと背を向けて

 

「それじゃぁ、あたしはそろそろ戻るわね」

 

「もう戻るのか?」

 

「もう少しゆっくりしてってもいいのに」

 

告げる彼女にキリトとユウキがそう言ってくる。

しかしセブンは苦笑いで視線を向けて

 

「そうしたいけど、早く戻らないと『シャムロック』のみんなが騒ぎ出しちゃうからね」

 

言いながら扉に向かい歩いていき

 

「またね。それと、裏世界の攻略は負けないから。それじゃ、ダスヴィダーニャー♪」

 

振り向いて笑顔を見せた後、そう告げてセブンは店から出ていった。

キリト達は笑いながら彼女を見送った。

そんな中、レインはただ一人、何処か複雑そうな表情でセブンが去っていった扉の方を見ていたのだった。

 




裏世界開放から数日。

スプリガンの少年達は、サラマンダーの少年に呼び出される。

集まった彼らにサラマンダーの少年はある頼みごとを持ちかけた。

次回「限定クエスト」

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