ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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さぁさぁ最新話ですよ。今回はあの人が活躍です。






では94話、始まります。


第九十四話 フレスヴェルグ

フロスヒルデ中央の祭壇にて、『ヴィーザルの紋章』を使用して高度制限を解除しようとしたキリト達。

しかし、突如として地面が揺れ、特殊フィールドが形成された直後、クラインとシリカ、ジュンの三人がその中へと転送され出現したボス『グランデル』との交戦が開始された。

 

「うおりゃ!!」

 

最初に駆け出したのはクラインだ。

一気に距離を詰め、刀による一太刀が放たれる。

その一撃はグレンデルの右前足にヒットするも、基本防御が高いためか、あまりダメージを与えられなかった。

しかし、クラインとてそんな事は百も承知。

すかさず連撃でHPを削ぎにかかる。

その反対側である左前足の方にはジュンが迫っていた。

愛剣である両手剣を握り、一気に踏み込んで

 

「ぜぁ!!」

 

放たれる横薙ぎ。

直撃したそれも大したダメージは与えてはいない。

けれどジュンも退くことなく、スキル『モーションキャンセル』を駆使した連撃で攻めていく。

 

「グォォォォ!!」

 

そんな彼らにグレンデルは足をバタつかせる事によって反撃。

クラインとジュンは素早く後退して回避する。

彼らが後退した直後、グレンデルは少しの溜を作り、突進を開始。

勢いよく迫りくる巨体に、クラインとジュンは身構える。

が、その時

 

「ピナ、ファイアブレス!」

 

前に出たシリカが相棒の小竜に指示を出す。

眼前まで飛び出したピナの口から炎が吐き出された。

 

「ギャォォ!!」

 

それが直撃すると、グレンデルは突進攻撃をキャンセルしてその場で停止する。

やはり、氷のフィールドで出現したモンスターだけあって炎属性は有効のようだ。

相手が怯んだ隙を突き、クラインとジュンは再度突撃。

シリカとピナの援護を受け、炎属性をが付与されているソードスキルと連撃を駆使してグレンデルのHPを削っていく。

その様子を特殊フィールドの外から見ているキリト達は

 

「どうなるかと思ったが、意外と善戦してるな」

 

「あぁ、バランスの悪いあの三人でよく戦えてるよ」

 

彼らの戦いぶりを見てそう言っている。

 

「?? バランスが悪いってどういう事?」

 

キリトとソラの言葉に、レインが疑問符を浮かべて問いかけた。

 

「あ、そっか。レインは最近ボクらと行動するようになったからわかんなくも当然だよね」

 

彼女の問いに応えたのはユウキだ。

レインはつい最近キリト達と行動を共にするようになった。

それまでは彼らをストーキングし、偶に話をしたり共闘するくらいで、キリト達の戦闘スタイルの全てを知っているわけではない。

ある程度はわかっていても、そのすべてを知れるほどの付き合いの長さではないのだ。

さらに言えば、ジュンもレイン同様スヴァルトエリアで知り合い一緒に攻略するようになったばかりで、両手剣を使い『モーションキャンセル』を駆使するアタッカーという事しかわかっていない。

 

「まず見ての通り、クラインさんとジュンはどっちも近接攻撃を得意とする前衛。そしてシリカは近距離及び支援系。ここまで言ったらもうわかるんじゃないかな」

 

「あ……ダメージディーラーしかいない……」

 

「その通り! シリカの場合、ピナのブレスで回復や支援も出来るけど、敵を引き付けて場を保つタンクがいないんだよね」

 

そう、キリト達パーティのもう一つの欠点。

それはタンクが出来るプレイヤーがエギルくらいだという事だ。

基本的にキリトを始めとして彼らは近距離での攻撃を主体としている。

遠距離から攻撃支援が出来るのは弓を使っているシノンと、魔法スキルも上げているALO古参のリーファとアスナくらいだ。

そしてその中で重装備をしているのはエギルのみ。

クラインやリズベットもタンクが出来ない訳ではないが、クラインは基本的にはアタッカーであり、リズベットは戦闘スキルよりも鍛冶スキルの方を優先してあげている。

それゆえにエギル以上のタンクは彼らの中にはいないのだ。

今までは全員でボス等に挑むことが多かったので問題はなかったのだが、今回のスヴァルトエリアではそうはいかない。

ヴォークリンデやヴェルグンデでは、運よくある程度バランスの取れた三人が選ばれたが、今回は分が悪い選ばれ方をされてしまっている。

 

「クラインでもタンクが出来ないわけじゃないが、流石に装備が軽いからな。あんな巨体の一撃をまともに食らっちゃHPが持たんだろう」

 

「けど、クラインは敏捷性を活かした戦い方が得意だから、遅い攻撃なら避けれるし、機転も利く方だから簡単にはやられたりしないでしょ」

 

エギルの言葉にそう言うのはリズベットだ。

その言葉を聞いて

 

「へぇ。リズちゃんってクラインさんの事、信頼してるんだねぇ?」

 

レインがそう問いかける。

 

「はぁ?! な、ななな、なぁに言ってのよ! あ、アタシは別に……そう、仲間! 仲間だからに決まってるからじゃない!!」

 

問われたリズベットは途端に顔を赤くしてそう捲し立てた。

その様子にレインは疑問符を浮かべているが、ユウキやアスナ、シノンは苦笑いだ。

まぁ、彼女の態度はある意味でわかり易いからなのだが。

 

「それに、そうやってクラインが掻き回してジュンがさらに切り込み、シリカとピナが支援する。この形なら、何とかあのボスも倒せるだろ」

 

言いながらキリトは特殊フィールドの方に目を向けた。

すでにグレンデルのHPは二本目が終わろうとしているところだった。

クラインの一撃がまたもやヒットし、グレンデルのHPが三本目に突入する。

その時だった。

グレンデルの動きの一切が止まってしまう。

それを見たキリトは瞬間的に嫌な予感が奔った。

彼は思い出したからだ。

ヴォークリンデのファフニールとヴェルグンデのヒルディスヴィーニ。

この二体のボスはHPが三本目に入った途端、特殊な能力の付与や強力なバフを得て猛威を振るったことを。

もしかしたら、特殊フィールド内に出現するボスが全て同じ、HP三本目から特殊な能力行使や強大なバフの付与があるのではないか───。

クラインとジュンはチャンスと見たのか同時にグランデルに向かい駆け出していく。

それを見たキリトは

 

「だめだ!! 二人とも戻れ!!」

 

そう叫ぶ。

しかし特殊フィールド内の二人に声は届かない。

彼らがグランデルとの間合いを一気に詰め、斬撃を放ったその瞬間

 

「グォァァァァァ!!!!」

 

グランデルが咆哮し、その体躯を蒼白く輝かせる。

直後、グランデルの周囲を渦巻くように猛烈な氷の礫が吹き荒れたのだ。

猛烈な氷の嵐によって二人の斬撃はキャンセルされ、さらにはすさまじい風圧によって吹き飛ばされてしまう。

 

「クラインさん! ジュン君!!」

 

押し飛ばされ地に叩きつけられるクラインとジュン。

 

「くそったれ……なんなんだありゃぁ!」

 

「くぅ……油断した……」

 

何とか立ち上がるも二人のHPはイエローゾーンに突入しており、先のグレンデルによる特殊攻撃の威力を物語っている。

二人はポーチから高回復薬(ハイポーション)を取り出して一気に飲む。

更に駆け寄ったシリカがピナにヒールブレスを指示し、それによって二人のHPはなんとか9割近くまで持ち直した。

 

 

「どうしましょう……あの氷の嵐、モンスターを守るように展開されてます」

 

「攻撃と同時に防御にもなってるってか? マジでALOの運営は意地が悪ぃぜ」

 

「けど、掻い潜れないわけじゃなさそうだ。クラインさんと俺でアレを避けながら攻撃を続行、シリカは援護。いけますよね、クラインさん?」

 

言いながらジュンは両手剣を構える。

同時にクラインも刀を握り直し

 

「ったりめぇよ! 俺様が右から、ジュン坊は左側から攻めるぜ! シリカちゃんはなるべく距離取って使える魔法とアイテムで支援してくれ!」

 

そう言ってグレンデルに向かい駆け出す。

同時にジュンも駆け出し、クラインの言うようにグレンデルの左側へと回り込み、クラインは右側へと駆けていく。

吹き荒れる氷を掻い潜り、グレンデルに向かい斬撃を放つ。

しかし、氷の嵐は容赦なくクラインとジュンを襲い、HPを削って行く。

が、二人も負けじと炎属性の付与されたソードスキルを織り交ぜ、攻撃の手を緩めない。

更に後方からシリカが火属性初級魔法の『ファイアボール』で援護する。

最近覚えたばかりで熟練度は低いが、それでも何もないよりは圧倒的にマシだ。

そうして攻撃を繰り返していると、またもやグレンデルの体躯が蒼白く輝く。

先程の特殊攻撃発動の前触れだ。

クラインとジュンは素早く武器を引き戻してグレンデルから距離を取るため駆け出す。

一定の距離に到達したとき、再び氷の嵐が巻き起こった。

なんとか範囲内から抜け出せた二人は氷の嵐を回避に成功。そのまま反転しもう一度攻勢に転じようとした、その時だった。

グレンデルの(あぎと)が大きく開き、そこに大量の空気が吸引され圧縮されていく。

間違いなくブレス攻撃の予備動作だ。

そして、そのターゲットになっているのはグレンデルの正面後方にいるシリカだった。

 

「シリカ!!」

 

それに気付いたジュンはシリカの方へ向かって走り出す。

その間にもグレンデルの空気圧縮は終了し、氷の礫を含んだ空気の奔流が一気に放たれた。

ブレスの範囲はかなり広く、どうやっても回避は出来ない。

動けずにいるシリカに迫りくる強力なブレス攻撃。

その強力な空気の奔流はあっという間に彼女を飲み込み、辺りに積もった雪を宙に巻き上がらせた。

 

「シリカちゃん!!!」

 

巻き上がる白い雪煙に向かい、立ち止まったクラインが叫んだ。

やがて煙が晴れ、人影が現れる。

そこには目を閉じていたシリカと、両手剣を構えて彼女の前に立っていたジュンだった。

彼はブレス攻撃がシリカに直撃する前にシリカの元に辿り着き、彼女の前に立って何らかの方法でブレス攻撃から自身とシリカの身を守ったのだ。

その代償は大きく、ジュンのHPは大幅に削られており、すでにレッドゾーンに突入している。

閉じていた目を開けたシリカがその姿を目にし

 

「ジュ……ジュン……君……?」

 

恐る恐る声をかけると、ジュンは膝から崩れ落ちていく。

が、両手剣を地面に突き刺し、何とか持ちこたえた。

 

「っ! ジュン君!」

 

それを見てシリカは急いで彼の元に駆け寄り

 

「ごめ、なさい……あたし……あたしの所為で……」

 

今にも泣きそうな表情でそう言った。

 

「くそったれがぁ!!!」

 

その光景を目の当たりにしたクラインは鋭い目でグレンデルを睨み、刀を強く握りしめて咆哮し突撃していく。

展開されている氷の礫に嵐によってダメージを受けているが、気にも留めず駆け抜けてグレンデルに連撃を繰り出していくクライン。

 

「……シリカ……無事か……?」

 

「ジュン君……あたし、あたし……」

 

泣きそうな表情のままのシリカに、ジュンは笑いかけ

 

「大丈夫そうだな……よかった」

 

そう言って立ち上がった。

ポーチから高回復薬を取り出してそれを一気に飲み干し、さらにもう一つ、自動回復効果を付与する回復薬も飲むジュン。

するとレッドゾーンに差し掛かっていた彼のHPがゆっくりと回復していく。

それと同時に、自身の両手剣に目を向けた。

彼の両手剣はすでにボロボロだ。

刃は所々欠けており、小さいながらヒビも入っている。

先程のブレス攻撃で大きく耐久値を持っていかれたのだろう。

しかし、それを確認したジュンはなぜか不敵に笑い

 

「よし……これならまだいける」

 

「ふぇ……?」

 

なぜか焦りを見せないジュンに、シリカは疑問符を浮かべている。

すると彼はシリカの方に目を向けて

 

「シリカ。少し俺から離れてくれないか?」

 

そう言ってきた。

未だに疑問符を浮かべているシリカだが、素直に従い彼から少し距離を取る。

それを確認したジュンは視線をグレンデルの方に向け、両手剣の切っ先をグレンデルへと向けて構えた。

瞬間、彼の両手剣の刀身が紅いライトエフェクトを纏い輝きだす。

同時に、彼の周囲にも紅いライトエフェクトが放出され始める。

一度目を閉じて息を吐いた後

 

「────フレスヴェルグ、焔剣────解放!!!」

 

目を見開き叫んだ瞬間、彼の両手剣───銘『フレスヴェルグ』の刀身が砕け散り、さらに眩い紅のライトエフェクトが放出された。

その眩さにシリカは一時的に目を閉じてしまう。

そして閉じた目を開き、彼女が目にしたのは

 

「ジュン……君……?」

 

燃えるような紅い炎の鎧を身に纏い、同じく燃え盛る炎で刃が形成された両手剣を握るジュンの姿だった。

その姿を特殊フィールドから見ているキリト達も驚きを隠せない様子だ。

 

「……まさかこんな形で切り札を使うなんてな……シリカはそこにいろよ? すぐに決着をつけてくるからさ」

 

そう言ってジュンは炎の刃を形成している両手剣を握り、地を蹴って駆け出す。

彼が雪の大地を踏みしめる度に、雪は溶けその水分は一瞬で蒸発して気体と化した。

纏っている炎の鎧が相当な高温である事を証明してる。

更には吹き荒れる氷の礫さえ、炎の鎧は一瞬で溶かし無効化していく。

あっという間に距離を詰め、放たれる炎の斬撃。

その一撃がヒットした瞬間、かなりの量のダメージをグレンデルに与えていた。

 

「おぉらぁぁぁ!!」

 

ジュンは手を休める事無く斬撃を繰り返す。

圧倒的なジュンの攻撃に

 

「す、すげぇ……」

 

HP残量が危なくなり距離を取っていたクラインは驚きの声を漏らす。

 

「すごい……圧倒的だよアレ……」

 

「なんなのあの剣? リズ、貴女知ってるの?」

 

同じように特殊フィールドの外で、圧倒的にグレンデルを封殺しているジュンの姿を見て驚きを隠せないリーファと、彼の両手剣についてリズベットに訊ねるシノン。

問われたリズベットは首を振り

 

「ごめん。アタシも知らない……多分、伝説級じゃないと思うけど……」

 

そう返してきた。

どうやら彼女も知らない武器のようである。

すると

 

「あれは『フレスヴェルグ』だよ。古代級だけど、伝説級に匹敵するかなりのレア武器だって聞いたことがある」

 

レインがそう言ってきた。

 

「知ってるのか、レイン?」

 

「名前だけね。残念ながら効果までは知らないんだぁ」

 

キリトが問うが、彼女もその効果までは知らないようだ。

その時、彼のジャケットのポケットにいた小妖精───ユイが頭を出して

 

「パパ。あの剣の能力がわかりました。あれは『焔剣解放』という能力で、効果は高純度の炎の刃と鎧を作り出して行使するもののようです。その際に刀身は砕けて無くなり、完全な炎属性の武器と化すようです」

 

そう説明してきた。

それを聞いたソラは

 

「なるほど。アレなら敵の氷の嵐も問題ないな。完全な火属性なら相性は抜群だろう」

 

納得したように頷きながら言う。

 

「でも、あの能力もボク達の剣の固有能力と同じで、かなりのリスクもあるんだよね、ユイちゃん?」

 

「はい、ママ。どうやら『焔剣解放』は強力な炎属性の攻撃力と防御力を得る代わりに、発動中は常時火傷状態になるみたいです。その状態異常は効果が終了してもしばらく続きます。さらには武器の刀身も発動から24時間経たないと復活しないみたいです。あとは能力解除後に攻撃力と防御力の一定時間大幅ダウンもあるようです」

 

ユウキの問いかけに、ユイは検索した『フレスヴェルグ』のデメリットを説明する。

確かにユイの言う通り、彼のHPは徐々に減ってきている。

先程飲んだ自動回復付与効果のある回復薬のお陰で減っていても即座に回復はしている。

けれどわずかに火傷の効果ダメージの方が大きいようだ。

それでもジュンは『焔剣解放』を解くことなく、グレンデルを只管に斬りつけていく。

斬りつけられながらもグレンデルはその体躯を発行させ、またも氷の嵐による特殊攻撃を行う。

吹き飛ばされることはなかったが、氷の嵐は炎の鎧による防御を貫通してジュンにダメージを与えてきた。

 

「ぐぅ! あぁぁぁ!!!」

 

ダメージを受けながらもジュンは止まらない。

逆巻く紅蓮の焔剣は尚もグレンデルの巨体を斬りつけ焼いていく。

気付けばグレンデルのHPはもう残りわずかだ。

だがそれはジュンも同じ、先程の特殊攻撃で彼のHPもレッドゾーンに突入している。

更には付与されていた自動回復効果も切れ、HPの減る速度も速まっていた。

そして最悪なことにグレンデルはまたしてもその体躯を蒼白く発行させている。

特殊攻撃の連続使用だ。

まさかここに来て特殊攻撃の連発が来るなどと誰が予想できただろう。

互いに後一撃で決まるHP量。

ジュンは決死の思いで焔剣を勢いよく振るう。

しかし、グレンデルの体躯の発光がより一層強くなった。

僅差でグレンデルの特殊攻撃の方が速かったのだ。

 

(くそ! ここまでなのか?!)

 

確実やられると悟ったジュンは諦めの思考が廻った───その時だった。

 

「させるかよぉぉぉ!!!」

 

咆哮とともにクラインの刀による刺突攻撃がグレンデルの顔面にヒットした。

しかしそれだけでは特殊攻撃のキャンセルには繋がらない。

そう───それだけでは、だ。

 

「やぁぁぁぁ!!!」

 

更には後方から駆けてきたシリカが短剣専用のソードスキルを繰り出してきた。

使用されたのは『ラピッド・バイト』だ。

 

「グゥォォォォ!!!」

 

クラインの刺突と同じく、グレンデルの顔面に直撃したそれは、発動しかけていた特殊攻撃を見事にキャンセルさせた。

二人の援護によって出来た千載一遇のチャンス。

 

「ジュン君! やっちゃえぇぇぇぇ!!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

シリカの叫びを聞き、ジュンは咆哮と共に焔剣による斬撃を繰り出す。

その一閃はグレンデルの顔面に見事に炸裂し

 

「ギャォォォォァァァァ!!!」

 

グレンデルのHPは完全に刈り取られ、断末魔を上げながらその体躯を爆散させ、ポリゴン片となって消えていった。

直後に特殊フィールドが消え、システムアナウンスが流れる。

 

『高度制限解除完了。高度制限解除完了』

 

グレンデルを倒したことにより、各エリアに課せられていた高度制限が完全に解除されたのだ。

 

「っく……」

 

発動していた焔剣を解除したジュン。

だが、相当な負担がかかっていたのだろう。

解除した途端ジュンは膝から崩れ倒れかける。

 

「ジュン君!」

 

そんな彼を急いで駆け寄ってきたシリカが抱きとめ、倒れそうになるのを堪えて留まった。

彼のステータスを確認すると、火傷によってHPがゆっくりと減っていっている。

シリカは急いでポーチから高回復薬を取り出して

 

「ジュン君、これ飲んでください」

 

言いながらジュンに手渡すと、ジュンはそれを口に含み飲んでいく。

すると彼のHPがゆっくりと上昇していく。

それを見たシリカは安堵の表情を浮かべてる。

ジュンは未だ気怠さが抜けないのか、今の状態がわかっていないらしい。

 

「シリカ……?」

 

目に映る少女に呼び掛けてみると、シリカはその瞳からボロボロと大粒の涙を零し始めた。

それを見て、ジュンはようやく思考が回り始めたようで

 

「え……あ、シリカ……ちょ、なんで泣いて……」

 

「ばか!」

 

問いかけてみるも、シリカは大きな声でそう叫ぶ。

普段の彼女からは想像もつかない声の荒げ方にジュンは呆気に取られるも、シリカは構わず捲し立てた。

 

「なんであんな無茶したんですか! 下手すればジュン君、死んでたんですよ! ブレス攻撃の時だって!」

 

「いや……あの状況じゃ、奥の手使わないとボスは倒せなかっただろうし……ブレス攻撃の時は……シリカが危ないって思ったら……身体が勝手に動いてて……」

 

シリカの言葉にジュンはゆっくりとそう返す。

するとシリカは彼にしがみつく様に抱き着いてきた。

 

「は……え?! ちょ、シリカ?!」

 

突然のことにジュンの頭は一気に混乱状態に陥ってしまった。

けれどシリカは構うことなく彼に抱き着いたまま

 

「でも、よかった……ジュン君が無事で……よかったぁ……」

 

涙声でそう言った。

それを聞いたジュンは小さく息を吐いて

 

「ごめんな、シリカ。それと、ありがとう」

 

言いながら彼女の背に両手を回そうとした───その時だった。

 

「オッホン! あー、お二人さん? アタシ達の事、忘れないでほしいんだけどぉ?」

 

そう言われて二人が声のした方に顔を向けてみると、素晴らしいまでのニヤケ顔のリズベットと、同様に温かい目で二人を見ているキリト達。

そこで二人はようやく自分たちの状態を確認する二人。

言わずもがな、シリカがジュンに抱き着いた状態だ。

そう、先程までの二人のやり取りを仲間たちにばっちりと見られていたのだ。

それに気付いたシリカは光速でジュンから離れるも、時すでに遅かったようである。

 

「あらぁ? 別に気にしなくてもいいのよシリカぁ?」

 

「ちょ、ちが、だから、あの、うううううう!!!」

 

リズベットにそう言われ、シリカはしどろもどろになりながら顔を真っ赤にしている。

これは当分の間、このことでリズベットに揶揄われ続けるだろうと思ったキリト達は内心でシリカに合掌した。

そんな彼らに

 

「おいおい。俺だって相当体張ったてぇのに、誰もお疲れ無しなのかよ?」

 

クラインが不機嫌そうな表情でそう言ってきた。

 

「忘れてないよ。お疲れ様、クライン」

 

「お疲れさまでした、クラインさん」

 

言われて苦笑い気味に労うのはキリトとソラだ。

 

「くぅぅ。ちゃんと労ってくれるのはお前らだぜ、キリの字、ソラぁ!」

 

二人からの労いに言いながら涙目になるクライン。

普段雑な扱いをされるからか、多少優しくされただけでも嬉しいのだろう。

 

「それはそうと、これで高度制限が解除されたのね」

 

大げさにしているクラインを無視してシノンが言う。

 

「あぁ。ここからは高度制限で今まで行けなった場所の攻略になるな」

 

「そだねー。どんなクエストがあるんだろ? ボク、楽しみだなぁ!」

 

シノンの言葉にキリトが応え、ユウキはまだ見ぬクエストに心躍っているようだ。

その時、エギルが一歩前に出て

 

「はやる気持ちもわかるが、ここは一旦アイテム補充と武器のメンテもかねて、俺の店で作戦会議といかねぇか?」

 

「そうですね。連続攻略で、みんな消耗してますし」.

 

そう提案してくるエギルに、アスナが言いながら賛同する。

確かに彼女の言うように、ここまで駆け足でやってきたため、皆アイテムや自身の武器の耐久値が心許ないと感じていた。

さらに言えば、ジュンはフレスヴェルグの固有能力のデメリットで24時間はメインの武装を使えない。

なのでエギルの提案はすんなりと受け入れられる。

 

「よし、じゃ一旦街に戻ろうか」

 

「おっけー! ほら、リズ。いつまでもシリカを揶揄ってないで街に戻るよー?」

 

「了解。ほらほら悪かったわよシリカ。機嫌治しなさいって?」

 

「ふーんだ! リズさんなんて知りません!」

 

すっかり不貞腐れたシリカは頬を膨らませたまま歩き出す。

そのシリカを宥めながらリズベットも歩き出した。

その光景を見ながら微笑ましそうにしているソラとアスナも街に戻るため転移門へと歩を進める。

シノンは呆れ顔で、リーファとレインは苦笑い気味でその後を追い、クラインとエギルは特殊効果を使った反動で疲労困憊なジュンを支えながら歩いていく。

そして最後に、キリトとユウキも転移門に向かって歩き出し、フロスヒルデ中央部の祭壇を後にした。

 

 

今日ここに高度制限が解除された。

これにより、スヴァルトエリアの攻略は新たなステージへと進むのだった。




高度制限の解除により、今まで行けなかった場所の攻略が始まった。

破竹の勢いで攻略する少年たち。

それに同調するように、かの巨大ギルドも攻略の手を強めてきた。



次回「攻略合戦」

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