ソードアート・オンライン 黒と紫の軌跡   作:藤崎葵

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まさかの4日連チャン……やれば出来るじゃんボクちん……





では93話、始まります。


第九十三話 嘘つきレイン

「どういう事だ……? レインは『シャムロック』の奴らと知り合いなのか? それに、『嘘つき』って……?」

 

突然スメラギから言い放たれた言葉に、キリトは動揺しながらレインに訊ねる。

しかし彼女は俯いて何も言おうとはしなかった。

するとスメラギは納得いったような表情をして

 

「なるほど。お前がこいつらを手引きしていたのか」

 

そう口にする。

キリトはますます訳が分からなくなり

 

「どういう事だ、レイン?」

 

再度問いかけるもレインは未だ口を噤んだままだ。

そんな彼女に代わるように、スメラギは言葉を続けた。

 

「少し前、彼女は嘘を吐いてメンバーを騙し、『シャムロック』に加入した。しかし嘘が発覚しギルドを追放された。だがギルド脱退後の登録解除までのタイムラグを利用し、情報を得ていたというわけだ」

 

「いやいや、あはは……バレちゃぁ仕方ないね……」

 

スメラギの言葉に、レインは観念したといったように言いながら両手を上げる。

 

「レイン……」

 

「ごめんねキリト君。それにみんなも……攻略合戦に水を差しちゃってさ……」

 

俯きながらレインはそう言ってくる。

重苦しい雰囲気が漂う中、それを破るように口を開いたのはまたもやスメラギだった。

 

「まぁ、姑息ではあるが、戦略の一つ。潜り込まれた俺達に落ち度があったのも事実だろう」

 

彼本人には他意はないのだろうが、放たれる言葉は何処か冷たく棘があり、レインはますます俯いてしまう。

キリトは剣を収め、メニューを開いてデュエルの中止ボタンを押し

 

「言いたい事はわかった。俺達は一旦この場を引くことにする。だから、レインに関しては見逃してくれないか?」

 

そう申し出た。

それに対しスメラギも両手剣を鞘に納めながら

 

「見逃すも何もない。さっきから俺はこういうやり方も認めている。だが、貴様らが勝負を投げるというのなら仕方がない。これで俺達が新エリアの踏破に近づくというだけだ」

 

そう言いキリト達に背を向けて

 

「さぁ、用が終わったなら早く去れ」

 

言い残し、『シャムロック』メンバーを連れてダンジョンの奥へと消えていった。

それを黙って見送った後、キリトは俯いているレインに歩み寄り

 

「さぁ、レイン行こう。一度街に戻ろう。みんなもそれでいいか?」

 

レインに言葉をかけた後、ユウキ達に確認を取る。

彼女たちもキリトと同じ考えのようで、誰も反対することなく頷いた。

神殿を後にし、彼らは転移門から街へと帰還。

その足でエギルの工房兼喫茶店へと向かう。

重い空気の中、キリトはユウキ達に向かい合って

 

「みんな、今話した通りだ。彼女にどんな意図があったとしても、俺はレインを責めるつもりはない。だからみんなも、許してやってくれないか?」

 

そう言い頭を下げる。

彼の言葉を聞き、皆どうするか考えていると、不意にシノンがキリトに視線を向け

 

「私は納得できないわ」

 

そう告げてきた。

 

「シノン……っ!」

 

「いくら相手が許したとしても、そこまでした理由は何なのか、知る必要はあるでしょ? まず、それを教えなさいよ」

 

鋭い目でレインを見据えながら問うシノン。

当のレインは彼女から目を逸らして俯いたままだ。

 

「待つんだ、シノン」

 

今にもレインに掴みかかりそうな雰囲気のシノンに、ソラが声をかけた。

しかしシノンは憤りを収める様子はなく

 

「やっと……やっとあの事と向き合えるようになって、こうしてみんなで仲良く楽しくゲームができるって思ってたのに……私は、変なシコリを抱えたままプレイはしたくないわ」

 

言葉を紡いだ後、悔し気に奥歯を噛みしめていた。

彼女、シノンは過去にトラウマを抱えるような事件に遭遇し、キリトやソラ達と出会うまで孤独に過ごしていた。

彼らと出会い、共に戦って本当の強さを学び、ようやく柵から解放された彼女にとって、レインのした事は到底許せるものではないのだろう。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

微妙な雰囲気の中、先程まで俯いていたレインが謝罪の言葉を口にする。

 

「わたしが……わたしが悪かったの……もうわたし……みんなの前をウロチョロしないから……だから……」

 

そこで一度言葉を止めて、シノンを真っ直ぐに見ながら

 

「これ以上……友達同士で喧嘩するのは……やめてほしいです……」

 

そう言って悲しそうな表情で再び俯いてしまった。

またもや俯いてしまったレインに、キリトが静かに声をかける。

 

「レイン。すまないが少し席を外してくれるか?」

 

キリトがそう言うと、レインは小さく頷いて喫茶店の中から外へと出ていく。

それを見送って、キリトは一息ついてからシノン達に向かい合い

 

「みんな、気を悪くさせちゃったな。俺からも謝るよ」

 

そう言って頭を下げる。

しかしすぐに頭を上げて

 

「でも、俺はレインを信じる。きっとあいつには何か事情があるんだ」

 

真剣な表情でそう言った。

するとクラインが一歩前に出て

 

「別にシノンさんに賛同するわけじゃねぇけどよ。どんな事情があったにしても、ギルドの内部情報を勝手に使うのはモラルに欠けるんじゃねぇか?」

 

そう言ってきた。

普段はふざけた言動やちゃらんぽらんな態度が目立つクラインだが、彼も自身が運営するギルド『新・風林火山』のギルドリーダーだ。

こういった事に関してはシビアで厳しい一面を持っている。

 

「確かにレインが嘘を吐いて、『シャムロック』に入ろうとしたことは事実みたいだけど……」

 

「彼女が当時のギルドデータを用いて内部情報を入手していたのは何かの勘違い。キリトはそう言いたいんだろう?」

 

キリトの言葉を代弁するようにソラが口を開く。

その言葉にキリトは頷いて

 

「あぁ。多分だけどな」

 

そう返した。

二人だけで納得している様子にユウキ達は疑問符を浮かべていると、ユウキの肩に乗っていたユイがそこから飛び立ち、空中でホバリングしながら

 

「私もそう思います。ギルド脱退後は登録情報も強制消去され、ギルドの情報は入手不可能になります」

 

皆が納得できるようにそう説明してきた。

ユイの説明の通り、ALOではギルドを脱退したプレイヤーのデータは、脱退後即座にギルド内から完全に消去される為タイムラグなど発生はしないのだ。

故にレインがギルドの内部情報を持ち出すなど不可能なのである。

 

「それなのにレインは否定しなかった。きっと汚名を被ってでも、何かを隠し通したかったんだ」

 

「じゃぁ、どうして『シャムロック』の情報を? そもそもあの子が隠してることって、いったい何なの?」

 

未だ納得できな様子のシノン。

キリトは首を横に振って

 

「それはわからない。でも、きっとあいつにとってはすごく大切な何かなんだよ」

 

そう言葉を紡いだ。

その時だった。

先程まで黙っていたユウキが

 

「とりあえず、みんな落ち着こうよ? ボク達はこれまでいろんな困難にぶつかってきた。けど、みんなで協力して解決してきたんだ。ならこの問題もみんなで考えればきっと何とかなるよ」

 

両腰に手を当てながらそう言ってきた。

それに続くように

 

「ユウキの言う通りだと私も思う。悪い情報ばかりを聞いて決めつけないで、もっとちゃんとした情報も集めないと」

 

アスナも真剣な表情でそう言った。

 

「……確かにそうかもな。もちっと冷静になれってことか……俺達は純粋にゲームを楽しんでんだからな!」

 

二人の言葉を聞いたクラインも申し訳なさそうな表情で言いながら頭を掻く。

 

「シノン。誰にだって触れられたくない事があるのは、君が一番よく知っているだろう?」

 

「……そうね。誰だって触れられたくない部分はあるものよね。私も少し興奮してたわ。ごめんなさい」

 

ソラに諭され、シノンもようやく頭が冷えたようだ。

頭を下げて謝罪するシノン。

 

「みんな……ありがとう」

 

「何言ってんのキリト。この問題も、みんなで考えてればきっと解決できるよ。だから前にも言ったけど、一人で背負い込んじゃだめだからね?」

 

そう言いながらユウキはキリトに笑顔を向けた。

他の仲間たちに目を向けると、皆同じようにキリトに笑いかけている。

キリトは頷き

 

「とりあえずレインの事は少し様子を見ようと思う。今はフロスヒルデの攻略に専念しよう」

 

そう言うとユウキ達はその言葉に同意し、再びフロスヒルデの攻略に向かうため店を出た。

店を出ると、近くのベンチにレインが座っており、キリト達が出てきたことに気が付いてそこから立ち上がる。

しかし後ろめたさがあるのか、彼女はキリト達と目を合わせようとはしない。

そんな彼女に

 

「ほらレイン。これからまたフロスヒルデの攻略に向かうぜ」

 

「頼りにしてるよ、レイン」

 

キリトとユウキが笑顔でそう言った。

レインは驚いた表情をして

 

「え……でも、わたし……」

 

それでも目を逸らしたままだったレインにシノンが歩み寄り

 

「さっきはごめんなさい」

 

「え……?」

 

「私も少し興奮してたわ。誰にだって話せないことの一つや二つはあるって知ってるのに……」

 

そう言いながらシノンは謝罪の言葉を紡ぐ。

レインは慌てながら

 

「そんなこと! 悪いのはわたしで……」

 

「理由は今は話せないんでしょ? なら、無理に取り繕う事なんてないわ」

 

「シノンちゃん……」

 

「ほら行きましょ? また『シャムロック』に先を越されちゃうわ」

 

なおも自分が悪いと言っているレインの言葉を遮るように言い、シノンは転移門の方へと歩いていく。

その様子を見ながらアスナとソラが笑いながら

 

「ふふ。シノのんってば、素直じゃないんだから」

 

「あれがシノンらしいと言えば、らしいんだけどね」

 

そう言って彼女の後を追う。

 

「ほら、行くわよレイン!」

 

「攻略、頑張りましょうね!」

 

次いでリズベットとシリカもレインにそう言いながら転移門へと歩き出す。

 

「レインさん、行きましょう!」

 

「グズグズしてると置いてっちまうぜ、レインちゃん」

 

「ま、そういうこった」

 

「みんなで攻略した方が楽しいもんな!」

 

更にリーファ、クラインとエギルにジュンもそう言って転移門へと歩いていく。

皆の態度に戸惑うレイン。

そんな彼女にキリトとユウキが歩み寄り

 

「事情が話せないならそれでいいさ。今はみんなで楽しくやろう」

 

「そうだよ。ボク達、もう友達で仲間なんだからさ!」

 

そう言ってレインに笑いかける。

二人の笑顔を見て、レインは一度俯くも、すぐに顔を上げて

 

「キリト君……ユウキちゃん……ありがとう!」

 

笑顔を浮かべてそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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フロスヒルデの攻略を再開したキリト達は、攻略を中断していた神殿に再び赴いていた。

遅れを取り戻すべく破竹の勢いで彼らは神殿を進み、奥のボス部屋まで到達する。

そこで待ち受けていたボスも特に苦戦することなく倒し事が出来、さらに奥の部屋で、無事ダンジョン攻略の報酬をゲットする事が出来たようだ。

手に入れたアイテムは『ヴィーザルの紋章』というもので、ヴォークリンデで手に入れた気流装置を起動させるためのアイテムに酷似していた。

そこで彼らはフロスヒルデの中央にあった祭壇の存在を思い出す。

おそらくこのアイテムはそこで使うもので、きっと各浮島大陸の高度制限を解除する為のものだと判断したキリト達は、神殿を後にしてフロスヒルデ中央にある祭壇へと向かった。

到着したその場所で、彼らは祭壇を調べてみる。

すると祭壇の中央にくぼみを発見し、その大きさが入手したアイテムだと確信。

アイテムストレージから『ヴィーザルの紋章』を取り出し、はめ込んでみる。

その直後、システムアナウンスが流れ始めた。

 

『高度制限を解除中。高度制限を解除中』

 

それを聞いたキリト達はガッツポーズを取った───その直後。

 

『制限解除……制限解除……制限解除……』

 

延々とシステムアナウンスが流れ続け、次いで地響きが鳴り響いてきた。

 

「ちょ! なにこれぇ?!」

 

「な、なんかまずったんじゃねえのか??!」

 

立ってられないほどの地面の揺れに、リズベットとクラインはかなり慌てた様子だ。

空中に逃げようにも、今彼らがいる場所は高度制限がかかったままでそれも出来ない。

やがて揺れが収まると、近くに巨大な特殊フィールドが形成された。

それに気付いた直後

 

「おわ!」

 

「きゃぁ!」

 

「!!」

 

クラインとシリカ、そしてジュンの三人が光に包まれその場から姿を消してしまう。

嫌な予感が奔り、キリト達は特殊フィールドに視線を向けた。

そこにはクラインたちが居り、彼らの目の前に巨大な亀のようなモンスターが出現する。

名はグレンデル。

四本のHPバーを持つボスモンスターだ。

どうやらこのモンスターを倒さなければ、高度制限を解除出来ない仕組みのようだ。

更に各浮島大陸のボスと同じようにランダムで選ばれた三人で戦わないといけないようである。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

「ど、どうしましょう……」

 

突然の事態にクラインとシリカは完全に尻込みしているようだ。

しかしただ一人、ジュンだけは違った。

 

「どうするも何も、やるしかないでしょ!」

 

そう言って背の両手剣を抜いて構える。

それを見て、クラインとシリカも腹を括ったようで

 

「だな……こうなったらやったろーじゃねぇか!!」

 

「あ、あたしだって! 行くよ、ピナ!」

 

「きゅるぅ!」

 

クラインも刀を抜いて構え、シリカも短剣を構えながら一緒に転移されたいた相棒の小竜に呼び掛ける。

 

「グルゥァァァァァ!!!」

 

ボスモンスターのグランデルは咆哮を上げると、臨戦態勢となった彼ら目掛けて突進を開始。

クラインたちも地を蹴ってグランデルを迎え撃つ。

高度制限のかかった戦いが、今ここに幕を上げた。

 

 




繰り広げられる激戦。

次第に押され始める少年たち。

活路を見出すため、少年はある行動に出る。


次回「フレスヴェルグ」

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