「アルベリヒねぇ、今の状況が何かわかっているのかな?アルベリヒ様と呼べぇ!!」
顔を思いきり蹴り飛ばされると、持っていたダークリパルサーを離してしまい、アルベリヒの近くに落ちた。急いで拾おうと、体を動かそうとしても、麻痺で動けない。拾おうとしていたのを見たのか、アルベリヒは妙な笑みを浮かべ、ダークリパルサーを軽く拾い上げた。
「キリト君、君は僕の研究データを消してくれたからねぇ、これが、その報いだ!!」
背中から腹にダークリパルサーを貫通させられ、もう一度引き抜かれる。
「このまま殺しても構わないが、それでは面白くない。システムコマンド!!ペインアブソーバーをレベル0に!!」
突如表れたゲージが緑から色を黒くした。ペインの意味は痛み。つまり、あれを0にしたと言う事は、現実と同じダメージを受ける。ダークリパルサーをおれの傍に刺したアルベリヒはストレージから、怪しげな剣を取り出した。
「この剣はねぇ、100層の隠しイベントの超レアアイテムなんだよ、これに刺されたら、プレイヤーだろうが、モンスターだろうが、HPが0になるアイテムなんだよ。」
不快な笑い声を上げ、剣を振り回す。だが、麻痺わ残り20秒で消える。それまでに、時間を稼いだら、動けた瞬間に攻撃する。
「おっと、時間を稼いだら勝てると思ったろ、何の為に永続麻痺ではなく、時間麻痺にしたのか、考えてもいないんだね。」
くっくっく、と笑い、アルベリヒの後ろから、黒いモヤが生まれ、中から少しずつ姿を見せていった。だが、その姿をおれ達は知っていた。このデスゲームを始めさせた。茅場昌彦の赤いローブ姿。
「こいつは、《100層のラスボス》の《ゴーストアバター》だ!!このスーパーアカウントなら、モンスターまでも産み出せるのさ!!」
そう話してから、やつはボス部屋に高台を作り出し、そこまでジャンプした。
ゴーストアバターが現れた時点で麻痺は回復したが、100層ボスの相手をさせる為にわざわざ、麻痺させられていた。なんて笑い事では済まないことだ。
「てめぇら!!100層のボスだからって、怯えんじゃねぇ!!」
クラインが声を張り上げ、剣を取り出す。
「そ、そうだ、おれ達はこいつを倒す為に今までボスを倒したんだ!!」
「私達なら出来る!!皆、剣を抜いて!!ゴーストアバターを、ここで倒すよ!!」
ケイタとサチが、槍を構えながら、二人共度胸が無い、声は震えた物だったが。あの怖がりの二人が、ここまでのやる気を見せている、それに答えられないんじゃ、
「攻略組なんて、今までやってられるか!!」
全員が剣を抜き、ゴーストアバターに向ける。表れたゲージは6本、こいつを倒すのが、今までの目的だ。ここで倒し、現実へ帰る!!
「タンク隊!!」
「オォー!!」
盾を構え、攻撃を防ぐ準備をした。
ゴーストアバターの最初の攻撃は、《ナミング》
「何!?」
タンク隊が全力で堪えるが、それでも吹き飛ばされる寸前だった。今のナミングは、第二層の《アステリオス・ザ・トーラスキング》の技。その攻撃の後に、ゴーストアバターは刀を作り出した。勢いよく飛び回ったこれは、第一層の《イルファング・ザ・コボルドロード》の《浮舟》だった。
「まさか、こいつ、」
「ご名答!!そのゴーストアバターは僕が作り替えたのさ、そいつは《99層以下のボスの技》を使えるように作り替えた!!」
「そんなの、関係ねぇ!!」
クラインもスキルを発動させ、一気に飛び上がった。恐らく、同じ浮舟だ。
「うおりゃああ!!」
がぁぁん!!と甲高い音を上げ、ゴーストアバターが落ちてきた。
「皆ぁ!!行くぞー!!」
「うおおおおおおお!!」
声を上げ、ゴーストアバターに群がっていく、飛び上がられないように、上に乗り、剣で刺し、斬る。一切の手も緩めない。目的はこいつを殺すことだ。
「がああああああ!!」と、ゴーストアバターが声を荒らげると、HPが0になり、そのまま後ろに倒れた。
「ば、馬鹿な!!ゴーストアバターが!!」
「アールーベーリーヒー!!」
「っく!!」
左手を振り、今度は永続の麻痺を付与された。
「く、くそぉ!!ゴーストアバターがやられるなんて!!」
ゴーストアバターを蹴ると、ゆっくりと、近づいてくる。咄嗟に目を閉じると。
ザシュ!!と、嫌な音がした。目を開くと、左手をアルゴが切っていた。
「う、ああああああ!!僕の、僕の手があああ!!」
「はあ、はあ!!誰も死んでないよナ!?」
「ど、う、して!?」
「情報を集めている内に、動けなくなるのは、左手を動かしている時なのがわかっタ!!だから、賭けで左手を切り落としタ。」
麻痺が消え、一気に立ち上がった。
「ひ、ひいいいい!!」
まず、やったことは、両腕両足に剣を刺した。その後、HPが危険域に突入したらポーションを無理矢理飲ませた。ペインアブソーバーを切っている為、現実で同じような感覚が襲っている。これが、今までにこいつが犯した罪の償いだった。だが、この時は完全に油断していた。
「キャアアア!!」
「ストレア!?」
急いで後ろを全員が振り向いた、そこには先程倒したはずのゴーストアバターがストレアを体に飲み込んでいた。
「キ、キリト、助け」
それ以上先の言葉は無かった。ストレアはゴーストアバターに飲み込まれ、上に上がっていった。
「ストレアを返せ!!」
「駄目だよ!!キリト!!」
「離せユウキ!!」
ユウキがキリトを無理矢理押さえ付けた。そこに、コツコツと誰かの足音が響き、そちらを向いた。
「やぁ、諸君。久しぶりだね。」
「ヒースクリフ!!」
「まずは、お詫びだけさせてくれ。75層のスカルリーパーの件だが、あのボスの攻撃は私も驚いた。スカルリーパーの攻撃は、どうあっても、《現HPの半分までしか減らない》筈だった。最大でも2発でやられるものなのが、一撃死になったのは、MHCP-02が、《ストレア》が原因だった。」
「な!!なんだと!!」
「勿論、彼女にその気は無かった。だが突如消えたMHCP-01と共に管理していた負の感情を一人で受け、バグを起こし、70層以上先のモンスターにバグが出来てしまった。」
「なら、ストレアは、ゴーストアバターを倒したらどうなるんだ!!」
「彼女は戻ってくるだろうが、それは一時的だろう、すぐにカーディナルシステムが彼女の削除を行うだろう。」
それを聞いて、絶望が走った。コンソールは、76層以上先のコンソールは《全て破棄してしまった。》
「私は先に紅玉宮に向かわせて貰う。その前に須郷君は強制ログアウトさせる。この世界、私の世界で好き勝手されては堪らない。後は警察の取り調べを受けて貰う。だが、その前に三つだけ言わせて貰いたい。一つは、彼の詳細だが、彼の実験データと行動を映像にして、既に全メディアに流している。」
現実の世界を表すウインドウで、須郷博士の数々の悪事に逮捕と書かれていた。
「もうひとつは、75層でキリト君が私の正体をわかったお陰で、私がシナリオ通りに95層で私が正体をバラしていたら、《アインクラッドの安全地帯が消えていた》」
「それで、もう一つとは?」
どうにか冷静を取り戻して、声を出す。
「もうひとつはお詫びとして、君達の、特にキリト君は《3本》、武器をグレードアップさせる。」
いきなり目の前にウインドウが表れ、your gradeup items と書かれていた。そして、武器の形が変わった。
エリュシデータは、形が変わり、エリュシデータ同様黒いが、向こう側が透き通って見えている。名前が既にエリュシデータではなく、名前は《魔剣エリュシオン》
ダークリパルサーも同様の変化を表し、色は蒼いが、透明度がダークリパルサーより上だ。名前はダークリパルサーではなく、《魔剣ブルーリッパー》
ユウキとは結婚しているため、ウインドウが表れた。マクアフィテルとは大きく形が変わり、色は綺麗な紫。名前がマクアフィテルから、《魔剣マークティフォン》
「キリト君、では第100層で。」
キリト達には、ウインドウで、変化した武器の名前が表れた。が、ラストアタックボーナスを見てみると、エリュシデータ、変更、エリュシオンと書いてあった。つまり、キリトが持っているのは、魔剣エリュシオンがふたつある。だから先程、ヒースクリフは3本と言ったのだ。
ストレアの事を思い浮かべながら、キリト達は99層へ向かった。
武器の名前は、必死に無い頭を回して考えました。