「そろそろ言わなくちゃ、駄目だよね。」
誰も聞いている訳でも無い部屋に言葉がこだまし、決心が出来たのかリーファはキリトの元に向かった。
一方キリト
「ふぅぅ。」
先程のパーティで疲れきり、ベッドに倒れていた。ユウキはエギルの手伝いでまだ居ない。ユイもずっと眠ったままだった。
「お兄ちゃん、居る?」
「居るぞ~、入ってこい。」
「お邪魔するねお兄ちゃん。」
リーファは扉を開けるとばつが悪そうな顔で入ってきた。近くの椅子に座り、数秒の沈黙の中で喋りだした。
「お兄ちゃん私ね、嘘、ついてたんだ。」
「……は?」
「私、SAOに気付いたら迷い混んでたのは嘘、何故かは分からないけど、このアバターは《アルブヘイムオンライン》、《ALO》のアバターとデータが引き継がれてるの。」
言っている意味が分からなかった、おれは手鏡がアイテムストレージに届いていない物だと思い、ずっと考えてはこなかったが、心のどこかで分かっていたのかもしれない。
「私、今までアルブヘイムオンラインをやっていたの、それでもお兄ちゃんが帰ってこなくて、もうすぐ二年経つから、友達のナーヴギアでログインしたの。」
「!?何をやっているんだ!!今この世界は遊びじゃない!!死んだらもう」
「そんなの分かってる!!」
スグが出した言葉にそのまま出そうとした言葉が引っ込んだ。
「私、お兄ちゃんがずっと心配だった。こっちでちゃんとやれているのか、危ない目にあってなかったか、ずっと、ずっと心配だった。」
「……心配させてすまないスグ。」
声が震えるのを抑えて言葉を発した。今までスグとは深い溝が出来ていた。
おれの親が事故で死んでから母さんの妹におれは義息子として預かられ、何年か後に祖父が厳しい人で、剣道を始めさせられ、僅か二年でおれはやめてしまった。それで祖父に殴られまくっていた所を泣きじゃくったスグが、「お兄ちゃんの分も私が頑張るから!!」とスグに助けられた。そこからおれとスグの溝が出来た。おれは傷を癒すようにゲームに溺れた。スグは祖父が死ぬ間際に全国大会まで行ける程の実力になり、祖父も満足していたのだろう。
そこでおれはスグとの距離を取り始めた。だがSAOの世界がデスゲームになってからは、帰ったらスグに言おうとした言葉を、凍っていた喉から押し出すように発した。
「ごめんスグ、お前の大嫌いなゲームでこんなことになって。」
両手で顔を隠しながら自分の物では思えない程掠れきった声で言った、両手で顔を隠したのは、眼から涙が止まらなかったからだ。スグの前では絶対に弱音や涙を見せないようにしていたのに。
「良いよお兄ちゃん。私もうゲームは嫌いじゃないよ。さっきも言ったでしょ、アルブヘイムオンラインのアバターが引き継がれてるって。」
「あ。」
引き継がれてる、つまりはスグもアルブヘイムオンラインと言う世界でこのアバターを動かしていた。
「だから、お兄ちゃんもう泣かないでよ。」
泣きながらスグに頼まれた。気付くと下を向いていた筈なのに前を見ていた。
「悪かった。」
涙を拭い、スグの方を向いた。スグに心配させた分、今度は自分がスグを助ける番だった。
「スグ、心配させた分は向こうで返す。だから、な。」
「うん、分かった。待ってるよ向こうに戻ってお兄ちゃんが家に帰ってくるの。」
「そんぐらいの約束は守るよ。向こうに帰ったら、母さんと、SAOの仲間の皆で祝おう。」
「早くしないと、私とお母さんで勝手に始めるからね。」
「おれが帰った祝いなのにおれが居ないって逆にそんなことできるのが凄いよ。」
言うと、スグとほぼ同時に右手を握り、上に出した。
「約束だぞ。」
「待ってるよ私達の家で。」
軽くトンと拳をぶつけ、スグは帰っていった。