黒と紫のソードアートオンライン   作:壺井 遼太郎

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シノンの記憶

76層エギルの店

 

「祝!!アインクラッド97層突破!!残り3層、カンパーイ!!」

 

今は、97層を突破し、残り2層を祝っての攻略組でパーティをしていた。勿論音頭を取ったのはキリトだ。

 

「そして、今回のヒーローはストレアだ!!」

 

「え!?私!?」

 

「今回のボス戦でストレアのお陰で助かった人は多いぞ。なんせ、止めを刺されるところを、ストレアが攻撃をずらしたんだからな。」

 

「そんなことしたっけ?」

 

忘れている様子のストレアに助けられたプレイヤーが全員揃って礼を言うために、ストレアを囲んだ。

 

「今回はうちの店か。」

 

「良いじゃねぇかエギル、フロアを攻略すれば現実に帰れるのも早くなるし、こうやって宴会をしてお前の店も儲かってんだ、一石二鳥だろ。それに、」

 

クラインは酒を煽りながら女性プレイヤーを見ていた。自分のギルドの風林火山のメンバーからは、やれやれと明らかにどちらがリーダーか分からなくなるくらいだった。

 

「キリト~♪」

 

「スト、むぐ!?」

 

76層以上に来てから何度目のおかしな声を出したのは、ストレアにいきなり抱き付かれたからだ。

 

「ぷはー!!いきなり何だストレア!!」

 

「えー?抱き付きたかったから♪次はアスナ達だね♪」

 

そう言い、ストレアは走っていった。心から合掌すると、シノンが店の外に出ていったので追いかけてみた。

 

「どうしたんだシノン?こう言うの苦手だったっけ?」

 

「ううん、集団に馴れてないのと、風に当たりたかったから。」

 

エギルの店の近くには、隠れ絶景スポットがあり、今話はそこでしている。

 

「…それで、何か思い出せたか?」

 

シノンは口を開けずに小さく頷いた。

 

「私が人に馴れない理由も思い出したの。私、人を殺しちゃったんだ。」

 

「え?」

 

シノンが何を言ったのかキリトには分からなかった。シノンは昔はLv50後半だった為、アスナ達と行動をしていた。それにシノンは今こそ攻略組のプレイヤーで、射撃スキルによる援護は、攻略組全員が頼っている部分もある。シノンは攻略組を裏切る人物では無いことは、全員が知っている。

 

キリトの考えていることを見透かしたのか、シノンはまた口を開いた。

 

「ゲームの中じゃないの、現実でなの。私は11歳の時、お母さんと一緒に郵便局に行ったの。その時にね、強盗が入ってきて、局員の人を撃ったの、その後早くしないとこいつを殺すぞ、ってお母さんに拳銃を向けたの。それで私はお母さんを助ける為に怪我をしてまでも拳銃を取ったの、それで私は誤射して、犯人は、」

 

そこでシノンは口を閉じた、以前に射撃スキルが現れた時に銃なのかと聞いたときに複雑な表情をしていた理由は銃が怖いのだとわかった。

 

「それで私は《メディキュボイド》のテスターとカウンセリングを受けた。そして、何故か記憶が殆ど消えてこの世界にいた。」

 

メディキュボイド、初めて聞いた言葉で音の響き的には医療用の物だろう。

 

「シノン、君は人を殺したと言ったよな。なら奇遇だな。」

 

「え?」

 

「おれは現実じゃないけど、この世界で二人、おれが殺したんだ。」

 

訳がわからない様な顔をしているシノンに説明をした。

 

「おれは半年前ぐらいにラフィンコフィンって言う殺人ギルドの討伐作戦におれとユウキは参加した。だが、何故か警戒体勢でラフィンコフィンが逆に奇襲をかけて来て、そこでおれは幹部のHPをイエローにした、そこから戦況は変わった。けどおれ達とあいつ等と違う点がひとつあった。」

 

「何?」

 

「おれ達は相手のHPをレッドにしても、降伏せずに戦いを挑んできた。おれ達はPKをしない、そこであいつらはレッドになろうとも誰一人降伏しなかった。それで攻略組の誰かが殺られたのと、ラフィンコフィンの一人が死んでからは地獄だった。おれ達は全員を拘束する目的が、ラフィンコフィンの30人中、約10人しか残っていなかった。その内二人をおれが殺した。ユウキは殺せずに攻撃をしようとした所をおれが首を撥ね飛ばしたんだ。ユウキの前で。」

 

「……。」

 

「結局の所、おれもあいつ等と同じだ。恐怖にかられて殺害をした時点で同じだったんだ。」

 

「ユウキを守ったんでしょ?」

 

「え?」

 

「あなたはユウキを助けた、つまりそれは恐怖に負けたんじゃなくて、自分の大切な人を守ろうとした、それだけで良いじゃない。あなたは自分があいつ等と一緒と言った、でも話を聞く限り、あなたはあいつ等と違う。キリトはユウキを守ろうとした。でも、ラフィンコフィンのメンバーは守る物なんて無かった。ただ自分達の殺人の快感の為にPKをしていた。その時点であなたはあいつ等と大きく違うわ。」

 

「……確かにそうだな。でもシノン、それはお前も同じだぞ。強盗を殺した。でも、それはお母さんを助ける為に殺してしまった。そこも同じだぞ。」

 

「あ!?」

 

してやった、みたいな顔をして、シノンに声をかけた。

 

「気付いて無かったんだな。じゃあ帰るぞ。」

 

してやられたのが悔しかったのか、少々怒り気味な声でシノンは答えた。

 

「わかった。」

 

二人はエギルの店に戻り、どんちゃん騒ぎに巻き込まれた。


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