あまり深くはなかった。落ちてから2秒で底についたので、ダメージ自体はたいしたことなかった。
「痛て。」
「わぁ!!」
「ぐぼぉ!!」
ユウキがキリトの腹の上に落ちた。また。
「なんだこれ、デジャブ。」
「あ!!今すぐ降りるね!!」
ユウキはキリトの腹の上から降りると、キリトに無事か聞いた。
「大丈夫!?」
「ああ、ユウキは軽いからな。」
「それならいいんだけど、ダメージ受けてない?」
以前は馬の上だった為、今程の痛みはなかった。だが、今回は2秒の深さの所から落ちたため、ダメージが発生する確率があった。
「大丈夫だ、若干減ってるけど、ユウキのカーソルはオレンジになってない。多分こういう事故はフラグがたたないんだろう。こんな所だけ親切設定にするなよ。」
後半は完全にヒースクリフこと茅場への愚痴だった。
「で、フィリアはどうする?それにおれ達を落としたのは、アイツだ。」
「うん、あの声はPoHの声だったね。多分ホロウの。」
「紋章が出てるのはおれだけだ。だから、ここに来るための方法はふたつ。おれとここに来るか。あいつの手にも、同じ紋章があるかのどっちかだ。」
「ま、それは追い付いてからにしようよ。」
「追い付いてからって、どういうことだ?」
「さっき、落ちる瞬間にフィリアに追跡用のアイテムを投げつけたんだ。」
「流石の反応速度だな。」
「じゃあ、さっさと、PoHからフィリアを連れ戻して、ユイちゃんに判断して貰おうよ。」
「PoH達はさっきの場所からは?」
「まだあんまり離れてない。」
「じゃあ、さっさと行くか。」
「おーう!!」
少しだけ前のフィリアとPoH
「Wow、ちゃんと落ちていったな。あいつら、ナイスだフィリア。」
英語の部分をネイティブな発音で喋り続けるPoHの声はフィリアには殆ど聞こえていなかった。
「おら、早く近くの安置に移動するぞ。こんな所でモンスターに殺られたくねぇ。」
「解った。」
近くの安置
「それじゃあ、約束通りに、キリトとキリトの仲間達には、《あの計画》の《犠牲者》にしないことを約束して。」
「良いぜ、あの二人が戻ってこれたらな。」
「どういうこと!?」
「あのトラップに落ちて、助かったヤツは一人も居ないんだよ。全員、落とし穴に落ちて、強ぇモンスターに狩られたからな。」
「そんな!!約束が違う!!」
「約束?はて?なんのことだったかな?」
「キリト、ユウキ待ってて!!今助けに」
フィリアが走り出そうとした瞬間、PoHに蹴り飛ばされた。
「今頃助けに言っても遅ぇよ!!」
「そんな。」
フィリアは立とうとも、動こうともしなかった。嫌、出来なかった。最後まで自分の事を人間と信じた二人を、PoHと協力して、落とし穴に落とし、その上に強力なモンスターにとっくに狩られた。その事を信じてしまい。体も頭も動かなかった。
「第一、こんな所でこんなやつの言うことも聞くのもどうにかしてるぜ。全く、自分はただの駒として使われてることも気づけずにな!!」
腹を抱え、高笑いをしているPoHの声もフィリアには聞こえなかった。
「ユウキ、キリト。」
掠れきったその声で二人の名前を呼んでも、二人の返事は帰ってこなかった。
「もう飽きたし殺すか。」
PoHはフィリアの首を掴み上げ、首にメイトチョッパーを当てた。
「ごめんね、ユウキ、キリト。」
フィリアは目を閉じた。首を飛ばされる瞬間まで、
「はぁぁ!!」
「おっと。」
「ぎりぎり間に合ったね。」
フィリアはその言葉を聞いた瞬間、目を開けた。
「キリト、ユウキ。」
「まさか、王様や将軍に大佐が出るとはな思わなかったけど。間一髪って所だな。」
「お前達がまだ生きてるとはな。」
「PoHお前はこんな所で何をするつもりだったんだ?お前の事だ。誰かに聞いて欲しいんだろ。」
「ま、確かにそうだ。なら、先に言おう、おれはお前と同じ紋章が手にあるんだよ。」
「お前、やっぱり向こう側のPoHか!?」
「NO、おれはホロウの方だ。恐らく、おれの本体はまだアインクラッドで、こんな事にも知らずに過ごしてるぜ、どうせ。」
「なら、なんでお前が自分の事をホロウだと確信を持てているんだ?こっち側は気づけない筈だろ。」
「こっちのおれも、人殺しをしてたんだよ。そしたら、手に紋章が出て、全ての事が流れてきたんだよ。自分の存在も、このままだと、どうなるかもよ。」
「お前はやっぱり、屑野郎だな。」
PoHはキリトの言葉が聞こえていないのか、話を続けていた。
「なんで、向こう側のおれが生き残って、おれが消えなきゃ行けねぇんだよ!!」
「本物のお前も同じことを言うぜ。」
「だから、おれはコンソールを弄って、最高のパーティが始められるんだからよ。アインクラッド側の《全プレイヤーとこっち側のプレイヤーを入れ換えて、永遠の殺しが出来る》世界に出来るぜ!!」
「なら、今ここで、おれに止められる可能性があるのに、なんで喋ったんだ?」
「どうせ、おれは死んでも、時間がたてば生き返る。それに、止められねぇよ。今ここでおれに殺されるんだからよ。」
「マズイね。」
「え?」
「確かにキリトは対人戦でも、モンスターでも、強いけど。PoHはアインクラッドでトップクラスの強さなんだ。下手をしたらキリトが殺される。」
「そんな!?」
「ユウキ、フィリアを頼む。」
「解った。PoHはキリトとの勝負しか受けないつもりだし。」
「物分かりが良いじゃねぇか。」
「なら、死なないって約束して。」
「あぁ、こんな所で死ねるか。」
「美しい夫婦愛だな。あぁ~、反吐が出そうだ。」
確かに、ユウキが言った通り、PoHの強さはトップクラスだ。だが、そんなことで諦めるキリトではない。
「レベル的にはおれはお前に勝てねぇ。だが、お前も考えた事があるはずだ。レベルなんてただの飾り。て事をな。」
「それがお前の叩ける、最後の減らず口だ。」
「その言葉、そっくりそのまま、返してやるよ。」
「こっちも、実験台として、《犠牲》にした《あいつら》の事もあるしな。」
あいつら、PoHは今回の計画の為に誰かを犠牲にした。らと言うことは、一人だけじゃない、複数人が犠牲になっている。
「誰を使った!!」
「教える義理もねぇよ!!」
PoHは叫ぶや切りかかってきた。咄嗟に受け止めるも、流石と言える速度で攻撃を何度も繰り出してくる。二刀流と短剣の相性の悪さを即座に理解し、おれにソードスキルを使わせる余裕を与えない為だ。だが、それでも、はいそうですかと敗けられるはずがない。ここで敗けたら、アインクラッドのプレイヤーは全て死亡する。その最悪の事態だけは避けるため、防御を最低限にし、突っ込んだ。
「PoH、お前の敗けだ!!」
PoHの懐に一瞬で潜り込み、最上位剣技《ジ・イクリプス》を発動。見たことのない速さと、手数の多さに、PoHの反応は遅れる。
最後の一撃を決めようとした瞬間、
「ま、殺しが出来たから良いか。」
それがホロウPoHの最期の言葉だった。
「あの、キリト、ユウキ。」
「フィリア、気にすんな。途中からは聞こえてたよ。お前はおれ達を守るために協力したんだろ。そこまでして守ろうとしてくれた。下手をしたら、おれ達がお前を恨む可能性があったのを承知の上で。」
「ぼく達は責めたりしないよ♪」
「二人共。」
フィリアは今日何度目か解らない涙を流した。
「それより、今はPoHの計画を止めなきゃな。フィリア、コンソールがどこにあるか知ってるか?」
「ここのすぐ近くに転移装置があるよ。その転移装置でコンソールの近くに行けるけど、多分、あいつの事だから、罠はあると思う。確かあいつはコンソール近くに、《虚ろを狩る者》を配置した。って言ってた。」
「虚ろを狩る者って、もしかして。」
「早く行って、阻止しようよ。」
「解った。」
「こっちだから着いてきて。」
「ああ!!」
「了解!!」
キリトは移動しながら、あることを考えていた。
(虚ろを狩る者、それは恐らくボスの和訳だ。虚ろは《ホロウ》、狩る者は確か《リーパー》だ。まさかあいつか?)
ホロウリーパー。それはフィリアとキリトが一緒に戦ったモンスターだ。