黒と紫のソードアートオンライン   作:壺井 遼太郎

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SAO世界の支配者

75層ボス部屋

 

スカルリーパーを倒したキリト達だったが、いくらキリト、ユウキ、ヒースクリフが攻撃を抑えていても、犠牲者が出ない訳ではなかった。

 

「何人死んだ。」

 

ケイタもエギルも声を出さずにこちらを見た。マップを開き、最初にいたメンバーと逆算してみた。

 

「10人死んだ。」

 

「嘘だろ。」

 

いくらクォーターボスだからと言って死なないように戦っていて、尚且つ、今回はトッププレイヤーが集まっていたんだ。それなのにこれだけの犠牲者が出た。この層より上にまだ25層残っている、1層ずつこれだけの犠牲者を出していたら、最後に残るのは一人になる可能性がある。

 

(その時は残るのはあいつだけだろうな。)

 

おれはヒースクリフに目を向けた、ヒースクリフはその場に倒れたり、座り込まずに、団員に目を向けていた。目を見てからおれはある疑問が頭に浮かんだ。

 

(あの目は、おれ達と対等の者の目じゃない。まるで籠の中にはいっているネズミを見るような、慈悲が溢れた目だ。)

 

そう考えた瞬間、ある戦慄がおれを襲った。指先から脳の芯まで一気に凍った。だが、確かめる方法が何一つもない、いや、正確には一つだけある。今、この場でしかできない事が。

 

おれはヒースクリフのHPゲージを見た。ぎりぎりの所でブルーに留まっているのを確認してから、腰を下げ、片足を徐々に後ろに下げた。そして、こちらを見ていない瞬間、一気に走り出し、剣を抜き、レイジスパイクを使った。威力が低いためこれを当ててもヒースクリフは死なない。

 

(予想が正しければ!!)

 

ヒースクリフはこちらを見て、驚愕の表情をあげ、盾をこちらに向けようとしたが、間に合わなかった。

 

かぁぁん!!、ヒースクリフに剣を当たる瞬間、紫色の障壁が表れた。

 

これは、おれもユウキも極々最近、同じのを見た。《immortal object》

 

「キリト君何を!!」

 

アスナはキリトの行動を見て止めようとしたが、その前に、ヒースクリフに表れた表示を見てから、動きを止めた。

 

「システム的不死って、どういう事ですか団長!?」

 

「これが伝説の正体だ、この男はどうあろうともイエローまで落ちないようにシステムに保護されている。」

 

「何故気付いたか、参考までに教えてもらおうか?」

 

「あんた、今までのボス戦でも動きが速すぎたんだ、スカルリーパーの攻撃を止めた時も、相当のSTRがないと正面から止められる威力じゃないのは解っていた。なのにあんたはSTRに振っていないと止められない攻撃を、明らかにアスナより速い動きで止めていた。それに、」

 

「それに、何だ?」

 

「あんたのHPグリーンで止まってるよな、なんで止まってるんだ?今までのボスならまだしも、今回のボスはどうしようが、正面から捌いていたんだったら、余波でHPゲージが絶対にイエロー落ちる数を何度も食らっていた。これでもまだしらばっくれる気か!!」

 

「なるほど、95層まで明かさないと思っていたが、まさかたった四分の三の所でバレるとはな。明らかに今回のボスが原因だったとはな。」

 

当たり一帯が静まり返り、ユウキがおれの腕に寄り添った。

 

「いかにも、私は茅場昌彦だ。付け加えると、最上階のボスでもある。」

 

「趣味が良いとは言えないぜ、最強のプレイヤーが一転して最悪のラスボスとはな。」

 

「中々良いシナリオだろう、君はこの世界の不安定因子だとは思っていた。先程のボスの時とその洞察力と良い。最終的に私の目の前に来るのは君とユウキ君だと思っていた。二刀流と空絶剣はこの世界の中でも、最も速い反応速度を持つプレイヤーに与えられるスキルだったからな。」

 

後ろから、ノロノロと立ち上がったプレイヤーがいた。KoBの団員だった。

 

「貴様が!!…おれたちの…忠誠…希望…そして、クラディールを!!よくも、よくもー!!」

 

止める暇がなく両手斧を持ち、飛び込んだ。だが、茅場の方が早く動き、左手を振った。空中で団員が止まった。麻痺のデバフがついていた。

 

茅場は手を止めずに次々と押していった。

 

「どうするつもりだ!!おれ以外を麻痺にして!!」

 

「ここで君達を全員始末して隠蔽するような事はしない。だが、君には私の正体を看破した報酬を与えよう。今から、私と一対一の勝負をしよう。当然、不死属性は解除する。私に勝ったら全プレイヤーをログアウトさせよう。」

 

「駄目だ!!キリト!!」

 

「キリト!!」

 

おれはその場で少しだけ考えてみた。が、それ以上の怒りが出た。

奴は何と言った、最終的に私の目の前に来るのは君とユウキ君だと、イタズラに他のプレイヤーが死んでいくのを見ていただと。最後まで死にたくない、無言の絶望に襲われながら消えていくものもいた。それなのに、

 

「ふざけるな!!」

 

おれは知らずの内に口から、考えていた事を口に出していた。

 

「良いだろう決着をつけよう。」

 

「駄目だよキリト!!」

 

「ユウキ。」

 

「やめろ、キリト!!」

 

「キリトー!!」

 

「エギル、今までの剣士クラスのサポートありがとな、知ってたぜ。お前が儲けの殆どを中層ゾーンのプレイヤーの育成に使ってたこと。」

 

「キリト。」

 

「クライン、あの時、置いていって悪かった。ずっと後悔してた。」

 

「キリト!!あやまんじゃねーよ!!今あやまんじゃねーよ!!ちゃんと向こうで飯のひとつは奢らねーと、絶対許さねーからな!!」

 

「あぁ、また向こうでな。」

 

「キリト君。」

 

「アスナ、今まで気付けなくて悪かった。お前がこの男にさせられていたこと、辛いのは解ってたんだ。なのに、気付けなくてすまなかった。」

 

「キリト君!!」

 

おれは、三人の仲間に顔を向けてから、ユウキの顔を見た。

 

ユウキはおれが絶対に負けないことを信じきっている目をしていた。

 

おれはユウキに笑顔で頷き返すと、茅場の方を向いた。

 

「悪いが、簡単に負けるつもりは無いが、おれが負けたら暫くで良い、ユウキが自殺出来ないように計らって欲しい。」

 

「?よかろう、彼女は22層から出られないようにする。」

 

「キリト!!そんなこと駄目だよ!!」

 

おれは茅場の方を見つめ、背中から二本の剣を取り出した。

 

茅場が不死属性を解除するのを確認した。

 

(これは単純なデュエルじゃない、ただの殺し合いだ。そうだ、おれはこの男を)

 

「殺す!!」

 

おれは茅場に突撃した。

 

(二刀流やスキルを作ったのは奴だ!!システムに設定された技は全て弾かれる。ソードスキルに頼らず、自分の戦闘スキルに頼るしかない!!)

 

二刀流のスピードはこれまでに見たことのないスピードにまで上がった、おれの目にすら無数の剣が見えるレベルだ。だが、対する茅場は、全く動じていなかった。それ所か舌を巻くほどの正確さでガードしている。

 

(弄ばれているのか!?)

 

おれは段々と恐怖していった。システムのオーバーアシスト無しでもこれまで押されていった。その事に恐怖した。

 

「舐めるな!!」

 

おれは気付かない内に二刀流最上位剣技《ジ・イクリプス》を使ってから、茅場の表情が笑っていることに気付いた。これまでの行動が誘導だと悟った。だが、発動した時点で止めようが、止めなくても一瞬の隙をつかれて、殺られてしまう。おれは一発でも良いから当たることを願ったが、27連撃全てをガードされてしまった。

 

「去らばだ、キリト君。」

 

茅場はおれの首に剣を刺そうとした瞬間、空間が歪んだ。正しい表現法方は解らない。だが、その一瞬の出来事のお陰で、技の硬直が切れた。

 

「うおおおお!!」

 

おれはソードスキルを使わないように、完全に意識から消した。

 

攻撃を繰り返している時に、僅かずつ茅場の動きが遅くなっていった。

おれはこの機会に攻撃を繰り返し、盾を吹き飛ばした。

 

おれは最後の一撃を体に刺した瞬間、またもや空間が歪み、一瞬の閃光と共に茅場が消えていた。




次回からホロウ・フラグメント編です。
あの子の話は、85層までに終わらせたいと思います。

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