22層ログハウス近くの湖
「釣れない。」
キリトは釣りスキルをとってから湖を釣りに回っているが、近くの湖だけは釣れなかった。
「やってられるか。」
キリトは帰ろうとした時、
「釣れますか?」
上を見上げると釣りに来たとわかる格好で立っていた。プレイヤーだと思ったが見た目が完全に
「NPCじゃありませんよ。」
おれの思考を全て読んだかのように帰ってきた。
「すいません。」
「いえいえ、恐らくこのアインクラッドでも私が最高齢でしょう。」
そう言い、釣竿に餌をつけて投げた。
「私の名前は《ニシダ》と言います。向こうではこのゲームの関係者でした。」
「なぜこの世界に?」
「いやぁ、私は実際に見ないと信じられない性分でして。」
竿が引かれて一気に引いた。
「おお、デカイ!!」
「いえいえ、でも釣るのは良いんですけど、煮付けや刺身にしようにも醤油がないと。」
「あー、家に醤油の様な物はありますけど。」
「なんですとー!!」
ログハウス
「お帰りー♪あれ、お客さん?」
「あぁ、この人はニシダさんって言うんだ。」
「はじめまして♪キリトの奥さんのユウキです♪」
「あ!はじめまして、すいません、つい、見とれてしまって。」
ユウキはニシダさんから魚を貰うと、キッチンにむかい、煮付けと刺身にした。
皿が片付くと、
「いやぁ、堪能しました。まさかこの世界に醤油があるとわ。」
「自家製なんですよ♪よかったらもって帰りますか?なんなら材料教えますけど?」
「良いんですか!?ぜひ、教えてください!!」
「え~と、メモに書きますよ、後マヨネーズの材料も書きますよ。」
「お願いします!!」
「一応言いますね。醤油は、《アビルパ豆》、《サグの葉》、《ウーラフィッシュの骨》です。マヨネーズは《グログワの種》、《シュブルの葉》、《カリム水》です♪」
「ありがとうございます!!これで食べれる料理の幅が一気に広がりました。」
(醤油の最後の材料って、解毒ポーションの材料だったような気がする。)
「キリトはたまに、何も釣ってこない時があるんですよね♪」
「あの湖だけ、異様に難易度高いんだよ。」
「そうなんですよね。あそこにはどうやら主がいるようなんですよ。」
「「ヌシ?」」
「はい。村の道具屋に、高い餌が売ってまして、物は試しと買ったんですが、どこにもヒットしなくて。それで唯一、難易度の高いあの湖だけ、かかりました。」
「それで、どうなったんですか?」
「ヒットはしました。ですが、竿ごと持っていかれました。でも、影は見ました。あれはある意味モンスターです。」
「この層にはモンスターがわかないからな。それって、どれだけでかいんだろうな?」
「そこで相談なんですが、キリトさん。STRの方には自信はありますか?」
「と言うと?」
「どうしても、ヌシを見てみたいんですが、私の力じゃ無理なんです。それで、私がヒットさせますから、キリトさんに竿を渡して釣り上げて欲しいんです。」
「竿のスイッチですか。やったことはないですけど、良いですよ。おれも見てみたいですし。」
「ありがとうございます。明日の正午にお願いします。」
「わかりました。」
「では、私はこれで。奥さん、醤油とマヨネーズ、それに材料を教えて頂きありがとうございました。」
頭を下げられ、若干困ったユウキだったが。
「良いですよ♪じゃあ、ぼくが考えたレシピを新聞屋に出しておいてくれない?もちろんぼくの名前を出さずに♪」
「それで良かったなら、喜んで。」
ニシダさんはお辞儀をしてから、外に出ていった。
「なんか、クラインやエギルとはまた違った人だったな。」
「うん。なんか、もの凄く温かい感じの人だったね。」
翌日
ユウキがニシダさんに依頼した、醤油とマヨネーズの材料を発表してから、アインクラッドはある意味、大騒ぎになっていた。
「もうすぐ正午だね♪」
「じゃあ、行くか。」
「でもさぁ、ぼくたちって変装しないで大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないか。おれたちは名前は出してるけど、顔はバレないようにしてきたからな。実際、リズとシリカと月夜の黒猫団は初めて会ったときには気づいてなかったからな。」
「久しぶりにサチちゃん達と遊びたいなー♪」
「う~ん、あいつらも何気に攻略組のギルドだからな。多分大忙しだろうな。」
「それより、はやく湖に行こっか?」
「おう。」
近くの湖に向かうと、大量の人がいて、旗もあった。旗には、頑張れニシダ!!、と、ヌシを釣れ!!と書いてあった。
「では、皆様本日のメインイベントのヌシ釣りを始まりたいと思います。」
ニシダさんが宣言、竿に餌をつけようとした所を、おれとユウキは餌を見て息を飲んだ。
明らかに、人の腕と同じくらい太いトカゲだ。
「いきますよ!!」
ニシダさんは竿を思いきり振った。
SAOの世界には釣りの待ち時間が殆どない、水に浸けたら、数十秒で餌が消滅するか、ヒットするかのどちらかだ。
そう言っている内に竿がピクピクと動いた。
「もうヒットしたんじゃないんですか?」
「いいえまだです。」
竿が何度もピクピクと動くと、竿が一気に湖に引かれた。
「今だ!!キリトさん、後は頼みましたよ!!」
「す、スイッ、チィィィィ!!」
竿を渡された瞬間、一気に湖に飲み込まれる勢いで引っ張られた。
「こんの、野郎ぉぉぉ!!」
「あ、見えたよ♪」
全員が湖にむかい、ヌシを見た、見た瞬間全員がビクッと、体が動いたのがわかった。
「ど、どうしたん」
全員が後ろを振り向き、全力で走っていった。
そして突然、力が後ろにかかり、思いきり倒れた。糸が切れたのだ。
おれは急いでヌシを見るために走った。
「キリトー!!危ないよ!!」
「え?」
後ろを振り向いたときに、どばぁ、と音がなった。
ニシダさんは、ある意味モンスターと言っていたが、これは完全にモンスターだ。
おれは敏捷度を最大にし、ユウキの後ろに隠れた。
「ずずず、ずるいぞ!!自分だけ逃げるなんて!!」
「あはは♪」
「キリトさん!!呑気なこといってる場合ですか!!逃げますよ!!」
先程のヌシを見ると、こちらに歩いて来ていた。
「おお、陸を歩いてる。肺魚なのか。」
「キリト、武器は?」
「持ってくるの忘れた。」
「仕方ないなぁ。」
ユウキはマクアフィテルを取り出すと、ヌシの方に走っていった。
「奥さん!!」
「大丈夫ですよ。」
ユウキは走りながら、剣を構えてフラッシング・ペネトレイターを発動した。
それをくらったヌシは一撃でHPが0になった。
「お疲れ。」
「いやぁ奥さん、相当お強いんですな。失礼ですが、レベルはいくつですか?」
「それより、さっきのお魚さんから竿がドロップしましたよ♪」
ユウキは銀色に輝く竿をニシダさんに手渡した。ニシダさんの反応を見る限り非売品のようだ。
「帰るか。」
「うん♪」
帰ろうとした瞬間、おれとユウキにメッセージが届いた。送り主はヒースクリフだった。
内容は「すまないが、最前線で問題が起きた。急いでグランザムのKoBの本部まで来てくれ、話は通しておく。」と書かれていた。
ログハウス
「はぁ、もう前線に帰るのか。」
「ほら、そんなこと言ってないで、戻る準備するよ。」
「だって、まだ二週間だぜ。」
「そんなこと言ってないで、行くよ。」
ログハウスを出ると、外にはニシダさんがいた。
「前線に帰ってしまうんですね。」
「はい。」
「名残惜しいですが、今日のヌシ釣りはありがとうございました。」
「いえいえ、どういたしまして。」
「今日ほど興奮した日は、この世界に来てから初めてでした。最前線でも頑張ってください。」
おれとユウキはニシダさんと握手をして、転移門に入った。
「ニシダさん、ぼくたちはこのデスゲームを終わらせるよ。それまでに死んじゃダメだよ。」
「わかりました。」
「では、これで。」
「「転移!!グランザム!!」」
青い光が目の前に来るまで、ニシダさんは笑顔でこちらに手を振り続けた。