黒と紫のソードアートオンライン   作:壺井 遼太郎

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ユイの心

施設から飛び出したキリトとユウキはユイをおぶったまま子供を探しに行き、

 

街中を走っていると、8人程度の軍に囲まれているプレイヤーを見つけ、キリトとユウキは軍のプレイヤーの頭の上を飛び越え、子供達の前に立った。

 

「あ!?お前達は!!」

 

一人の軍のプレイヤーがおれ達に気づいた。恐らく先程キリトのエリュシデータとダークリパルサーを持とうとしたプレイヤーだ。

 

「お前達、軍に逆らう気か?なら、圏外に行くか!!圏外に!!」

 

その台詞を聞いたとき、隣で何かが切れる音、そしてアイテムを取り出した音が聞こえた。

 

「キリトごめん、ユイちゃんお願い。」

 

いつもの怒った時と比例できないほど怒りが籠った声。その声を聞いた途端、おれどころか、軍のプレイヤーも怯えていた。

 

「別に圏外に行かなくても良いよ、一生続くけど。」

 

ユウキはそう言い、スラントを使い、体制を崩した所で連撃数の多いソードスキルで、攻撃していった。

 

圏内ではどんなことをしようとも、障壁に阻まれてダメージも入らなければ、カーソルがオレンジになることもない。ただし、強いノックバックにより、慣れていないと吹っ飛ぶのだ。

 

「お前達!!見てないで助け」

 

「うわぁぁ!!」

 

軍のプレイヤーはユウキの攻撃に恐怖を覚え、逃げ出した。

 

「もう二度と子供達に手を出さない、わかった。」

 

静かな威圧により、軍の残ったプレイヤーは気を失いかけていた。

 

「わかった。」

 

「は…はい。」

 

(こ、恐い。これから先、ユウキを怒らせないようにしよう。)

 

ユウキは軍のプレイヤーに施設に手を出さないようにいいかけ、軍のプレイヤーを逃がした。

 

「大丈夫?」

 

「すげぇ!!姉ちゃん物凄く強え!!」

 

「嫌々、ぼくよりそっちのお兄さんの方が強いよ♪」

 

ユウキがこちらに指を向けた時に、ユイが震えてるのに気づいた。

 

「ユイ、大丈夫か?」

 

「心が、皆の心が…。」

 

「おい!ユイ!!」

 

「ユイちゃん!?」

 

「私、ここには居なかった。ずっと暗いところで…」

 

そう言い、ユイは気を失ってしまった。

 

「なんだったんだ?」

 

「わからないけど、さっきユイちゃんを覆うようにノイズが走ったよ。」

 

仕方ないので、サーシャさんの施設に子供達を連れて向かった。

 

昼になり、ユイは目を覚ました。そして、昼食もご馳走させてもらった。

 

「ミナ、パンとって。」「あぁー、ケン兄が目玉焼きとったー!!」「にんじんあげたろ。」等の声が聞こえ、すごいな、とユウキと考えていた。

 

「いつもこれなんですよ。」

 

サーシャさんが説明した時に、扉がコンコンと鳴った。

 

「誰ですか?」

 

「すいません、ギルドALFのユリエールです。徴税じゃありません。」

 

「どうぞ。」

 

「ALF?」

 

「どっかで似たようなのを聞いたような。」

 

「初めまして、ALF副司令官《ユリエール》と申します。」

 

「さっき徴税って言ってたから、あんたも軍のメンバーなんだろ?なんだ、おれ達に散々やられた奴等の仕返しか?」

 

「いえいえ、その逆です。むしろ、よくやってくれたと言いたいところです。」

 

「?」

 

「話をしてよろしいでしょうか?」

 

「別にいいけど。」

 

おれとユウキはコーヒーを飲みながら話を聞いていた。

 

「軍がこうなったのは2カ月前からです。軍の司令官《シンカー》は部下達に放置のような形で自由にさせてたんです。それで、放置している事を逆手に取ったかのように、キバオウと言うプレイヤーが現れたのです。」

 

ユウキとキリトは口からコーヒーを吹いてしまった。

 

キバオウ、ALFがどこで聞いたか思い出した。かつて彼が率いていた、ALSだった。

 

「よりによってあいつか。」

 

「キバオウの事を知ってるんですか!?」

 

「あぁ、ちょっとな。」

 

「なら、シンカーを助けにいくのを手伝って下さい!!」

 

「どういう事?」

 

「シンカーはキバオウの罠に嵌められ、ダンジョンに閉じ込められてしまったんです。彼はキバオウから、丸腰で話をしよう、と言われ、ダンジョン奥地に設定された回廊結晶で飛ばされたんです。彼はいい人過ぎたんです。装備も結晶アイテムも持っていかなかったんです。ダンジョンでは、ギルド共通ストレージも使えません。助けに行こうにも、ダンジョンの強さが60層クラスで私たちにはとても。」

 

「60層クラスかぁ、あそこのボスってなんだっけ?」

 

「確か、石で出来た門番だったような。」

 

「あぁ、あんまり苦労しなかったね。」

 

「じゃあ、頼んでもよろしいでしょうか!?」

 

「良いぞ、おれ達ちょうど暴れたり無い所なんだ。」

 

「達じゃなくて、キリトだけでしょ。」

 

「そっか、さっきユウキ、軍のやつらに」

 

「なんだって?」

 

「ごめんなさい。」

 

「ユイも行くー。」

 

「良いぞ。」

 

「で、そのダンジョンはどこなの?」

 

「ここです。」

 

ユリエールは、地面に指を指した。

 

「え?」

 

「正確には、始まりの街の地下です。恐らく上層の進行により開くダンジョンなんだと思います。」

 

「出入口は?」

 

「黒鉄宮の中です。」

 

ユイを連れて、ユリエールさんについていくと、黒鉄宮のダンジョン出入口らしきものがあり、中に入った。

 

「この中で、奥の方にそのシンカーさんがいるのか。」

 

「はい。」

 

「あ、キリト、モンスターだよ。」

 

ユウキが見つけたのは、モンスターの大群だった。モンスターはLv60のモンスターだった。名前は《スカベンジトード》。カエル型のモンスターだった。キリトは今まで暴れられなかった鬱憤を叩きつけるかのように撃破した。

 

「すごいですね。」

 

「あれはもう病気です。」

 

「いやー、暴れた暴れた。」

 

「すいません、任せっきりで。」

 

「良いよ、アイテムもドロップするし。」

 

「へぇ、何がドロップしたの?」

 

「食材アイテムなんだけど、見ない方がいい。」

 

「へぇ」

 

ユウキは何かの好奇心でアイテムを取り出した。

 

瞬間、手には、どちゃ、と音をたてたものを持っていた。

 

「うわぁぁ!!」

 

ユウキは急いで振りかぶり投げ捨てた。

 

「だから見るなっていったのに。」

 

「こんなアイテムどうするの?」

 

「後でNPCに売っとく。」

 

「だね、こんなの欲しい人がいるのかな?」

 

ユリエールが耐えられ無いように吹き出した。

 

「あー、お姉さん初めて笑った♪」

 

何を言ったのか解らなかったが、ダンジョンの奥まで向かっていった。

 

何分か歩いていると、光が見えた。恐らく安置設定された場所なのだろう。そこでこちらに両手を振るプレイヤーがいた。

 

「ユリエール!!」

 

「シンカー!!」

 

ユリエールも答えるかのように、手を振って走り出して、その後ろを追いかけたが、シンカーの表情がおかしい。

 

「来ちゃ駄目だ!!そこには!!」

 

ユリエールには聞こえていない様子だった。そして、十字路になっている死角部分から、カーソルが現れた。

 

《The Fatal‐scythe》ボスを示す固有名詞。

 

運命の鎌と言う意味なのか、考えている間にユリエールと衝突する寸前まで近寄っていた。キリトはユイと居たのでいきなりは走り出せない。それをわかったかのように、ユウキが急いでユリエールを止めた直後、目の前を、ごおお!!と音をたて通っていった。

 

「ユリエールさん!!ユイを連れてシンカーさんと転移してください!!」

 

「は、はい!!」

 

ユイを急いでシンカーとユリエールに頼むとユウキの前に移動し、ボスを見て恐ろしく感じた、ユウキとキリトは識別スキルを持っているため、モンスターの目を見るとデータが見えるが、このモンスターは見えない。通常、モンスターの目を見ると発動するのが反応しないと言うことは、自分達より数段上のレベルのモンスターだ。

 

「ユウキ。急いでユイ達を連れて転移しろ。」

 

「嫌だ。このモンスターがヤバイことは解ってる、でもキリトを置いてはいかない。」

 

「ごぁぁ!」

 

フェイタルサイスが鎌を降ろしてきた、それをキリトが二刀流カウンター技の《スペキュラークロス》、ユウキは後ろからキリトを守るように剣を出した。

 

「うわ!!」

 

「ぐ!!」

 

キリトとユウキは弾き飛ばされた、スペキュラークロスは剣を十字に構え、攻撃された瞬間に相手を攻撃する技だが、それが発動せずに飛ばされた、と言うことは、グリームアイズ以上の攻撃力を持っていることは確かだ。

 

「な!!」

 

キリトは自分とユウキのHPを見て息を飲んだ。お互い半分まで削られていた。

 

半分、つまり次の攻撃は耐えられないことを意味していた。

 

「ユイちゃん!!」

 

「待って!!」

 

シンカーとユリエールの声が聞こえ、転移した音が聞こえた、そして、ペタペタと歩く音が聞こえた。ユイがフェイタルサイスの前に立ったのだ。

 

「はやく逃げろ!!」

 

「ユイちゃん!!」

 

「大丈夫だよ、全部思い出したよ。」

 

ユイは右に手を振ると、炎の剣が出てきた。

 

アルゴリズムで動いている筈のフェイタルサイスに血走った恐怖の目が見え、鎌を横に振り、ユイを攻撃しようとした。だが、紫の障壁と共に、システム窓が開いた。

 

Immortal object

 

破壊不能オブジェクト、一般のプレイヤーには現れない、システム的不死。

 

ユイは剣を振りかぶり、フェイタルサイスに攻撃しようとした、そしてそれを防ぐかのように鎌を横に構えたが、鎌を焼ききり、フェイタルサイスは声をあげ消えた。


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