剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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バベルの2階へと二人は上がる


57 白兎のお礼6

バベルの中へと入ると階層ごとに様々な商品が並べられている。武器防具などはもちろんながら回復薬、階層内で休憩する為に使用するテントや携帯食料なども売っていた。値段は少し割高に思えるが一つの場所でいろいろなものが購入できるというのは強みなのかもしれない。

 

まあ上層は神達が住まう住居や一般的には入れない施設なども多くあるのだが......

 

「ここでござる」

 

刹那がベルを連れて行ったのはヘファイストスファミリアの経営する新人職人たちの作品を売る為に作られた部屋だ。刹那やリリーはヴェルフと出会う前はよくこの店に来ていた。一見乱雑に置かれている武具も品質のいい掘り出し物に出会えるからだ。それに様々な種類の武具を見るのは単純に楽しいと感じる。

 

ベルもヴェルフの工房、椿の工房でも見たことがないような種類の武具を見て目を輝かせている。

 

「僕あまり他の道具使ったことないのでいろいろな攻撃手段があるのっていいですよね!」

 

ナイフや剣の類の近距離武器、槍や棒のような中距離武器、弓や投げナイフなどの長距離武器。相手の種類や距離によって攻撃手段を変えるというのもひとつの方法だ。ベルも戦闘の最中に剣を手放してしまうような状況に陥った時どのようにして戦うかということは考えなくてはならないかもしれない。

 

しかし、アイズのような剣一本に特化した方が強くなる場合も多い。多くの武具を使えるのと100%使いこなせるのとでは大きな違いがあるからだ。器用貧乏になってしまう可能性も大いにある。強大な相手と戦うならば何かに特化していたほうがいいこともあるだろう......

 

その後店内を二人で見て回りながら刹那が使う刀を探した。店といってもどちらかとえば店員のいる倉庫のような作りで決まった置き場所がないことから二人で宝探しをしているような感覚になる。いろいろな形、長さ、もち具合、ためしに軽く振ったりしながら刀を選んだ。

 

最終的に刹那が選んだのは店の奥の奥、ほこりにまみれた箱に入っていた黒塗りの刀を選んだ。製作者の名は掠れていて読めないが柄の部分にこの刀の名が刻まれていた。

 

【黒霞】

 

軽くしなやかで刹那の手によくなじんだ。店員に聞いてもかなり古い品のようで店員が柄に刻まれている名前で製作者を確認していたがすでに亡くなっているようだった。

 

この店のシステムとしては購入した代金は店と製作者で分けられる為今回のような場合はその都合上かなり安く購入することができる。

 

「ベルのおかげでいい刀が手に入ったでござる!まだリヴェリア様の許可がでないから訓練はできないでござるが......」

 

「そうですね、僕も体を動かしたいんですが怒られそうで......リヴェリア様の許可がでたらまた皆で訓練しましょう!」

 

少し間を開けた後刹那は笑顔でうなずいた。なんとなく感じる自分とベルとの違い、ベルは優しいからきっと自分たちに合わせて訓練をしてくれるだろう......でもあの時みたいに足を引っ張ってはいけない。きっとベル一人だけだったらミノタウロスからも逃げることができた。拙者達を護ったせいで、拙者達が弱かったからベルは死にかけた。それは分かっている、だからもっと強くなろう、今度は隣で最後まで戦えるように......

 

買い物も終わり二人で黄昏の館へと帰還する。玄関ホールで刹那と別れベルは談話室へ。今はベルが元気になったことで皆抑えが効いているが少し前まで全員がすさまじい殺気を放っていて休息どころではなかった。それにいったんおさえているだけで号令さえあればすぐにでも出陣できるように皆ダンジョンへはいかずにこの都市にとどまっている。武器の点検はもちろんながら訓練所は前にもまして大盛況になっている。ラウルを筆頭に低レベル冒険者への実技訓練が行われていた。フィン達も現在は闇派閥関連で手が空かないがそれが済み次第順番で訓練にあたる予定だ。通常の訓練より遥かに密度がこく激しいことになることは想像できるが。

 

故に談話室でも瞑想をしたり魔導書を読んだり盤上で知略勝負をしているものが多い。

 

ベルは談話室に常においてある魔石ポットから【ベル】と書いてあるコップに特性ハーブを入れてからお湯を注ぐ。湯気と同時にふわぁっと談話室にいい香りが漂う。

瞬間、ベルの元へ自分のコップを持って殺到する団員達。

 

「えーと皆さんも飲みますか?」

 

「「「飲む!!」」」

 

「あの、ここに僕が作ったハーブ置いておきますのでいつでも飲んでいただけら......」

 

「ベルが作った方がうまい気がするから頼むわ!」

 

「お願いね!」

 

 

にこやかにいわれベルも笑顔で答える。

 

「またハーブ作らなきゃいけないですね、皆さんちゃんと並んでくださいね!」

 

にこっと笑いながら温かいハーブ茶を手渡される。思わず懐からヴァリス金貨を取り出そうとして止めた団員もいた。無意識に貢いでしまいたくなるのはしょうがないかもしれない......ベルの笑顔はプライスレス!

 

最後にベルの元にやってきたのはアリシアだ。

 

「ベル、元気になってよかったですね」

 

これもユグド様のお導きかもしれません、とぎゅっと十字架を握りしめ目を瞑った。

 

「アリシアさんもお茶をどうぞ」

 

差し出されたお茶とベルの手をぎゅっと握った。知っているとは思うがエルフは手だろうが他の場所だろうが家族であれ接触を好まない。

 

「やはりベルには他者を癒す不思議な力があるような気がします。外傷ではなく心の傷を、どんな治癒魔法も外傷しか癒すことができません。ですがあなたは違います、我々のように都市最大派閥の一角になると戦う機会というのはとても多い。相手も魔物だけとは限りません。むしろ人間の方が凶悪な悪意を持って向かってきます。疲弊するのは心も同じ......」

 

「あなたとの出会いに感謝を」

 

そういって手を合わせ目を閉じた......

その後談話室にいたメンバーで遊びもかねてボード形式の軍略ゲームで新興を深めた。

 

夕方

 

フィンの執務室で資料に目を通しているリヴェリアに図書室のカギを借りに行く。

 

トントン

 

「入っていいよ、ベル」

 

フィンの声が聞こえガチャっとドアを開ける。

 

「元気そうだね、皆にお礼をしに回って疲れたろう。たまにはゆっくりと休むのも大事なことだよ」

 

資料を見て難しい顔をしていたフィンだが顔をあげてにこっと笑った。

 

「ありがとうございます。今日はベートさんと買い出しに行ってティオネさんと料理を作って刹那さんと買い物に行って談話室でアリシアさん達と遊んでこれからルナさんと魔法の勉強をしようと思ってます」

 

フィンとリヴェリアは顔を見合わせ苦笑した。

 

「そういえばお昼過ぎにティオネが料理を持って来てくれたよ。あれはベルが一緒に作ってくれたんだね。とてもおいしかったよ」

 

いつもの男料理より......といいかけたフィンが笑ってごまかしたのはきのせいではない。そしてフィンにほめられたティオネが暴走したことも想像できる。団長お疲れ様です......

 

「ベルよ。随分とハードな予定のようだな。ここにきた目的はこれか?」

 

リヴェリアはそういうと懐から図書室のカギを取り出した。

 

「はい!リヴェリアさんがここにいると聞いてきました」

 

ちゃりっとベルの手にカギを乗せるとビシッと人差し指を顔の前に突きつけた。

 

「夕食までだ、いいな?」

 

元気いっぱい返事をするとルナの待つであろう図書室へ。

 

「お待たせしましたルナさん!リヴェリア様にカギを借りてきましたよ!」

 

長いローブを着て扉を背に立っていたルナはこちらを振り向いた。

 

「あ、ルナさんまた眼帯してるんですね」

 

ルナは自分の眼帯を照れくさそうに触った。

 

「もともと我の封印の為にしているもの。外している方がめずらしいのだ」

 

ふんっという感じで腕を組みベルを見つめるがしばらくそのままでいると恥ずかしいのかプルプル震えだした。

 

「僕はこの前みたいに普通に話すルナさんもいいですけど、今のルナさんもいいと思いますよ」

 

頬を赤く染めるとベルからカギを受け取りルナは中へ。

 

図書室の魔導書を一緒に読みながら並行詠唱についての話をした。

 

「魔法を詠唱しながら動くことは火薬を運びながら火の海を渡るようなものみたいですね」

 

ベルが魔導書を読みながら要約している。

 

「ベルはどうやって魔法を使いながら動いているの?」

 

ルナが素直にベルに質問をぶつける。雷の魔力を身に纏い放出したり自身の身体能力をあげたりとベルの魔法の使い方には非常に興味がある。

 

「僕の魔法は割と応用がきくようですが、最初は全然うまくいきませんでしたけど、魔法を発動した状態でゆっくり動くことから初めて徐々に早く動けるように毎日訓練しました。後はこんな感じで電気を球体にして宙に浮かせた状態にしてそのまま保ってみるとかいろいろと自分にできることを試していたらうまくできるようになりましたよ」

 

ベルは椅子に座った状態で小さな電気の球体をピンと伸ばした指先の上に発生させた。

 

「後はそれを空中でまわしてみたり、数を増やしてみたり......」

 

現在ベルの周囲にくるくると小さな球体がいくつも飛んでいる。

 

ルナはその様子を唖然と見ていた。通常の魔法とは異なる使い方、あまりの応用性に言葉がでない。

 

「ルナさんの魔法も相手にぶつける前に魔力の調整をして大きさを変えたり数を増やしたりできるかもしれませんよ?」

 

「確かに、我はただ漠然と魔力を練り上げて詠唱をしているだけであった。それが当たり前だと認識していた。次の訓練時にそのことを意識しながらやってみよう」

 

自分の魔法への固定概念を崩す発想ができるのは才能だと思う。自分に何ができるのかをひたすら考え訓練で、実戦で試した結果でもあるといえるだろう......

 

そんなことをしているとトントンっとノックの音が。

 

「ベル、ルナ、そろそろ夕食の時間だ」

 

誰かが二人を呼びに来てくれたようだ。

 

部屋に備え付けてある時計を見るとかなり時間がたっていた。ほとんど二人で魔導書を読んでいるだけになってしまったがルナはよかったのだろうか。

 

「あの、ルナさんもう夕飯の時間になってしまったんですが......」

 

「いや、ベルは我の魔法への固定概念を崩してくれた。感謝する」

 

......小さな声でありがとうという声が聞こえた。

 

魔導書を元の場所にしまい、魔石ランプを消して図書室のカギをかけ外へ。

 

まだ並んで歩くことはできないけど私もいつかきっとベルと共に戦えるように、そう思いながらルナはベルと一緒に食堂へ向かった。

 

 

 




いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。

今回は時間がとれたので更新はやくすることができました、よかったです。

感想もいただけてとてもうれしく思います。

次回はベルのステイタス更新とアイズとのデートまで書きたいなと。

その次に神会&工場破壊ぐらいのイメージです。

次回更新はまだ未定ですがなるべくはやくかけるようにしますのでまた読んでみてください!

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