ダンジョンから出た際ギルドにいた大勢にみられていたこともあり噂が広がるのも早い。
【ロキファミリアの冒険者がダンジョンから血まみれで運び出された、その内の一人は最近冒険者になったばかりの白髪の新人だ、今は治療院にいるらしい】
その情報の信憑性を上げるかのようにオラリオ中の市場や商人の元へロキファミリアの団員達が向かっている姿が目撃されている。
その噂を聞きつけて治療院へ向かう者達がいる。大量の野菜を持った神デメテルやベルがよく買い物をしていた市場の住人達も多くの食材を持って治療院へとやってきていた。ベルに会うことはかなわなかったがロキに礼を言われ、ベルが元気になったら一緒に礼に行くことを約束し皆帰っていった。
「頼むベルに一目合わせてくれ」
そう地面に膝をつき頭を下げる男が一人。隣には困った顔をした神ヘファイストスもいる。
「そやかてなぁ......ファイたん。今はベルは絶対安静なんや、うちのファミリアの子も限られた子たちにしか合わせてないんや。すまんなぁ。自分の気持ちはありがたいんやけど、ベルの事を考えてくれるんやったら今はそっとしておいてほしいんや」
地面に頭をつけながら歯を食いしばるヴェルフ。
「それならあいつの装備を見せてくれ、それをみればどんな状況だったか多少はわかる」
このまま何があっても引きそうにない決意の籠った瞳にロキはため息をつきながら了承した。それにヴェルフとベルの関係も知っている......
「まあ、それぐらいならええわ。誰か、ベルの装備を一式持ってきてくれんか?そやかてほとんど原型をとどめてないで?」
団員がベルのぼろぼろになった防具をヴェルフへと渡した、ヴェルフはそれを一つ一つ手に取り細部まで確認する。
ベルの防具を手に取りながらヘファイストスへと質問を投げかけた、
「俺の防具じゃなく、仮に椿が作った防具ならベルはここまでのダメージを受けることはなかった、そうですよね?」
腕を組み目を瞑るヘファイストスは頷いた。そして一言......
「どんな状況だったのかも、相手の強さもわからないけれど......あなたのあの剣があれば状況は変わっていたかもしれない可能性はあるわ」
「......俺の剣......」
ガツンッッ
地面に額を叩きつけた後すっと立ち上がりヴェルフはロキに背を向けた。
「ロキ様、ベルは必ず元気になりますよね?」
叩きつけた額からは血が流れ足元にポタポタと垂れ落ちる。両手の拳を握り締め震える後姿をロキは目を細めながら見た......
「あったりまえや!ウチの子供らが動いているんやで?」
にっと笑いロキは答えた。
「あいつが元気になったら俺のところにも顔を出すようにいってもらえないでしょうか?」
「ええで、その決意の籠った魂の輝き......くぅーっっ久しぶりにええもん見れたでぇ。お互いええ子供をもったなぁ、な!ファイたん?」
「ふふ......そうね」
顔を腕でこすり背を向けたまま去っていくヴェルフとその背中をポンと叩き共に行く二人の姿を見送った後ロキは治療院へと戻った。
ロキが戻るとアスフィが額の汗をぬぐいながら現段階までの調合が問題なくできたことを告げる。残りは高難易度の素材を収集しに行った者達の帰還を待つのみだ。時間から考えてもうそろそろ帰ってきてもいいころだろう。
疲労回復の為にアミッドから支給されたポーションを調合を行っていた皆で飲み干し、幹部達の帰りを待った......
ロキが調合をしてくれている皆に声をかけて回っている中、治療院の奥の方からバタバタと一人の団員がロキの元へとやってくる。
「ロキ!、リリーが目を覚ましました。すぐに来てください!」
「ん!今行くで!」
治療院の中の一室、リリー、ルナ、刹那の3人の元へと走った。
3人は重傷を負ったもののリヴェリアからもらったポーションをベルがけがをしてそう時間が立たないうちに使用したこともあり全快まではいかないものの意識を取り戻していた。しかしながら失った血液が多く本調子まではまだまだといったところだ。
「ベル!刹那!ルナ!皆どこにいる!?無事なのか!ここはどこだ!」
起きたばかりでまだ混乱している様子のリリー。扉の外にまでリリーの声が聞こえてくる。
「リリー、もう大丈夫やで。ここは治療院や。隣をみてみい、刹那とルナもいるやろ?ベルもまだ無事や」
はぁはぁと過呼吸のような荒い息をつくリリーの頭をポンポンと叩き落ち着かせる。
「ロキ様ぁ......」
普段ほとんど見せたことのないリリーのよわよわしい声。ロキを見て安心したのかリリーの目からは涙が溢れた。
落ち着いたリリーはここにはいないベルの事をロキに尋ねた。
「ロキ様、ベルも無事なんですよね!?誰が助けてくれたんですか?あのミノタウロス
を倒せるとなると......」
情報になかったミノタウロスという新たな情報にロキの目が見開かれる。
「ミノタウロス?いやウチがフィン達から聞いたんは闇派閥に襲われてるとこを遠征から帰還途中のアイズたん達が助けたことだけやけど詳しく話してくれるか?まだ体調悪かったら元気になってからでええで?」
「大丈夫です。説明させてください」
リリーはダンジョン内が通常と異なって静かすぎたことに違和感があったこと。強化されたキラーアントの大群。剣と鎧を装備したミノタウロスの出現。皆で戦っても勝てなかったこと。最後に光り輝くベルがミノタウロスと対峙していたことを話した。
「レベル1のベルがあの化け物を倒すなんて無理です!きっと誰かが助けてくれたんです」
「いや......ウチが聞いたのは闇派閥に襲われているベル達を助けたところからや。せやからミノタウロスはおそらくベルが単身で倒したことになる。リリー達がダメージを与えていたことを踏まえてもかなりの代償を払ったんやろうな......」
「ベルは今どこにいるんですか!?」
ベットから起き上がろうとした瞬間ふらつくリリー。その顔は真っ青だ......
そんなリリーを抱きとめベットに寝かしロキは優しく頭を撫でた。
「ベルは今別室で寝とる。大丈夫や、今ウチの子ども達皆がベルを助ける為に動いとる。だからベルは絶対に助かるんや!」
ひとしきり頭を撫でた後そっと涙を指で拭くとロキは立ち上がった。
「じゃあそろそろフィン達も帰ってくる頃や、別の子を来させるから安心して寝てるんやで?ええか?」
頷くリリーにロキは笑顔で答え部屋を後にした。
ロキがアスフィ達の元へ戻るとちょうど幹部達も目当ての素材を入手して戻ってきていた。
「フィン、皆おかえりぃ!後はベート達とアイズたん達やな。調合してる子らももうちょっと頑張ってな!頼んだで!」
はい!という声と共に新しい素材の調合に取りかかった。
「ロキ、ソーマファミリアの件についての報告だよ。主神であるソーマはファミリアのホームの自室から一歩も出ずに我関せずといった感じのようだ。ただ、何人かの団員達が団長達がギルドに連行されたことと僕達の家族に手を出したことを聞きつけてオラリオを出て北東に進んだ山のふもとにあるの神酒の製造場所に立てこもっているらしい」
ソーマファミリアの団員達、もとい幹部達は神酒の劣化版製造の為の工場を生産過程の秘匿を理由にオラリオの外に砦のような工場を建設していた。外壁はかなりの硬度を持つ鉱石が使用され扉には魔法で破壊されることが難しくなるようにミスリルでつくられていた。そこに立てこもられては普通の人間には手が出せないだろう......
「ソーマファミリアのホームはガネーシャファミリアが団員達が外へ出るのを規制している。追い詰められた団員達がへたに動けないようにね。それに彼らはレベルの低い冒険者たちを奴隷のように扱っていたようでね。何人かは保護されている。工場の方に関してだけど神フレイヤの命で数人派遣されているようだ。追ってロキファミリアからも
ラウルとアキを筆頭に何人か人員を向かわせる。まだ工場の方には手を出さないようにはいってあるけどね。ベルの容体が回復して神会からの許可が下り次第合法的につぶさせてもらおう。僕も含め家族を傷つけられたことでかなり頭にきている者が多いからね」
団長という立場もあり冷静に対処してはいるがフィンの背後に炎が燃え盛っているようにみえる。ティオネ、ティオナ、ガレス共に今はベルの容体の事もあり我慢しているだけという状態だ。むしろソーマファミリア程度なら単身で乗り込んでも問題はないが......力で解決するのは簡単だ、しかし今回は闇派閥との接触の情報も引き出したい。相手の心をボキボキにおる必要がある。今は誰も逃がさないということに重点を置くことにした。
「ん、報告ありがとな。神会の方は今準備しとる。他に闇派閥とつながりのあるファミリアがおらんか探りいれる予定や。そこはまかせとき、それとソーマファミリアの件もな.
とりあえずソーマの顔思いっきりぶんなぐりたい気分やで」
その表情を見る限り間違いなく神会でなにかするだろう.....そう皆が思った......
「ねえロキ、ベルのところにいてもいい?」
「ん、そろそろ交代の時間や。いってくれるか?」
「うん!」
エリクサーの入った瓶を数本持ちティオナはずんずんとベルのいる治療院の奥へと歩いていく。時間もある程度経過しておりシルのおかげで一時的にではあるが回復したベルではあるが根本的な解決にはなっていないようで時間がたつにつれ容体は悪くなる。今はラウルやアキと同じレベル4のアリシアがベルの病室で待機していた。
「エジル・リンナルトゥルヴェイラル・ユグド・ソヴァルナ・ガルリーヴェル......」
部屋の扉を開けると木でできた十字架を握り締め目を瞑り祈る女性がそこにいた。
「アリシア!」
ティオナが扉をあけると驚いた様子で顔を向けるアリシアがいた。
「今の言葉って、エルフ語?祈りの言葉だよね?」
「ええそうですよ、よく知っていますね。エルフに伝わる祈りの言葉です。この十字架も私の故郷の森の聖なる木から作られているのですよ。世界樹の精霊ユグド様に祈りをささげていました」
「やっぱり!、昔呼んだ英雄譚にその言葉が出てきて覚えてたんだ!精霊と英雄たちが力を合わせて黒い霧の怪物と戦うお話......そんなことよりベルの様子は!?」
「見ての通りです......もう時間がありません。もって後2日かと......なんどもなんども血を吐いて......今はエリクサーとアミッドが作ってくれた血液補助剤でぎりぎり保っているところです」
血を含んだタオルがベッド脇に積まれている。定期的に交換しているようだがとても痛々しい。
「私も遠征時には負傷者の手当てをして慣れているつもりでしたが、ここまで自分の無力さを感じたのは初めてですよ。こんなに汗もかいて......」
アリシアは白いハンカチを取り出しベルの額の汗を拭いた。
「服もびしょびしょじゃん、あたしも手伝うから着替えさせちゃおうか!布団も変えちゃおう」
ベルの体をゆっくりと動かしシーツ、布団を変え着替えをさせる。着替えと行ってもベルは装備の下のアンダーシャツもぼろぼろの状態だったため下着に治療院にあった白い入院着のような物を着ていた。帯をほどき上半身からタオルで拭いていく。
「んー、よしっと。これで大丈夫だね」
汗も拭き終わり着替えをさせて一息つく。
「では私はタオルやシーツを洗濯してきます。後をお願いしますね」
「わかった、アリシアはそれが終わったら少し休んで。今度はあたしがみてるから」
「はい......でも、何もしてあげられないって辛いことですね」
「そんなことない、きっとベルにあたしたちの声も気持ちも届いてるはずだよ」
ベルの心が折れないように声をかけるのも大事なことである。
アリシアが出て行ってからしばらくして......
「おらぁーベル!まだ死んでねえだろうな!」
部屋の外から声が聞こえる。エルフの里から超特急でオラリオへと帰り、世界樹の滴をロキに渡すとその足でベルの元へと二人はやってきた。
「ベートさん!?そんな大声ださないでください!」
帰ってくる時間を考える限りおそらくベートは一度の休憩もせずに走り続けていたことになる。
バタンと扉をあけ放ち汗だくのベートと申し訳なさそうにしているレフィーヤの二人が入室する。
「ちょっとベート!ベルが寝てるんだからそんな大声ださないでよ!」
「あの、テイオナさん。少しだけ時間をいただけませんか?ベートさんベルの事ずっと心配していて......」
文句をいうティオナをレフィーヤがなだめ、ベートはそれを無視しベルの隣へと歩みを進める。
「ベル!聞こえてんだろ?てめえの為にわざわざエルフの里まで行ってきてやったんだ感謝しやがれ。あの頭の固い連中に頼んでわざわざもらってきてやった」
どかっと椅子にすわりベルの頭をわしわしとなでる。
里までずっと走った、帰りも休まず走ってやった、俺が本気をだせば余裕だ。そんな感じの話を寝ているベルに話している。
「ベート......あんた泣いてんの?」
ティオナがベートの僅かな声の震えに気が付き顔を覗き込んだ。
「うるせぇ」
片腕でティオナを振り払いぐいっと顔をぬぐった。
「いいか、ベル。よく聞け。てめえが死んだらアイズもその後を追って死ぬかもしれねえ。俺も助けられなかった責任をとってその場で腹掻っ捌いて死んでやる。お前が死んだらお前の守りたいっていった人間も死ぬことになる。家族を死なせたくねえなら絶対に...生きろ!」
そういうと立ち上がり部屋の外へと向かう。
「俺は部屋の外にいる。何かあったらすぐ呼べ。もし闇派閥が何かしてきたら俺が全員ぶっ殺す」
ベートは部屋の外に出ると壁に寄りかかり目を瞑った......
お久しぶりです、兎魂です。
ちゃんと生存はしておりました<m(__)m>
いろいろと書き方を考えていたらなかなかうまくかけず、更新が大分遅れてしまいました。
後はリアルが忙しかったと言い訳をさせてください<m(__)m>
久しぶりに更新したので上手くかけているかは不安がありますが読んでみてください!
またイラストも自分で書こうと思って現在修行中ですが小説の更新もボチボチしたいのでまた依託すると思います。
次回はアイズさんが帰ってきます。そして調合完成まで書きます。できればゴールデンウィーク明けくらいまでには更新したい......
また、現在コロナウイルスがはやっております。皆さんも体には気を付けてください<m(__)m>引きこもって小説を読みましょう!
PS ダンメモは毎日やっておりました。 現在レムファミリアに所属しております。対戦したことがある方、是非コメントよろしくです!フレンドになりましょう!笑