剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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己の命を捨てる覚悟がどれほど力を生むか

黒龍よしかとその目でみよ...


5 激闘2 そして終焉

皆がそれぞれ命を捨てる覚悟をし、オラリオや故郷の家族や友を想う...

 

ドワーフの戦士

 

(ミア...おまえとの約束、守れそうにない...遠征が終わったら冒険者のみんながくつろげる酒場を作りたいなんていってたっけな...誘われた時はうれしかったんだぜ..次の遠征が終わったら考えるなんて約束しないで、あの時返事くらいしといてやればよかったかもな...お前の料理が懐かしいぜ)

 

ヒューマンの戦士

 

(里に残してきた妻と子に謝らなければいけないな...子供の名前は命にしようって話してたよな。一度この村に寄らず里に帰っていれば...いや考えまい。こいつをこのままにしていたら、いつかは俺の里も被害にあっていたかもしれない...)

 

時間にして数秒だが皆愛する者のことを考え、そして決意を新たにしていく。

 

「団長ー! 我々が時間を稼ぎます。溜めてください」

 

団員たちがダグラスに声をかける。

 

団員が言っているのはダグラス・クラネルのスキル 限界突破(リミットブレイク)のことである

最大5分間のチャージをすることで己の限界を超えて力が発揮できるという、まさに英雄にふさわしいスキルである。

ただこのスキルの効果として溜めている間は行動ができないという欠点がある。故に誰かが黒龍相手に時間を稼がなければならないのだ。

 

ギリッ

 

ダグラスが唇を噛み血が流れる。ダグラスにとって仲間たちは家族なのだ。そして自分が護りたいものたちなのだ。

自分の力のなさが憎い。 

 

「5分だ...時間を稼いでくれ!」

 

(すまない...みんな...)

 

団長から命令が下される。

 

その場にいる全員が敬礼をする。「「「ハッ我らの命を賭してその5分稼がせていただきます」」」

 

「団長!いままで楽しかったぜ!じゃあな」

 

そんな言葉をかけながら、ドワーフの戦士が黒龍に向かってかけていく。

「来いやーーーこのトカゲ野郎!」

 

黒龍を挑発して自分へ攻撃させる。

黒龍は爪を振るいドワーフの戦士を貫こうとする。

 

 

ドスッ

 

ドワーフの戦士はよけようとせずその攻撃に身をさらす。致命傷であるはずの攻撃をよけずに喰らった戦士に対して黒龍は嗤う。

 

「クハハハ、ついに諦めたか遊びがいのないやつらよ...」

 

ガシッ

 

ドワーフの戦士が血を吐きながらも爪をものすごい力で押さえつける。

 

「俺たちを甘く見るな...今だ!やれー」

 

「なに!?なんだこの力は...」

 

レベルダウンしているをしてるとは思えない力に黒龍は目を見開く。

 

ヒューマンの戦士が黒龍の足元まで走り詠唱を完成させる。 神武闘征 フツノミタマ

 

全魔力を使用した重力の結界が現れ、黒龍を自分共々押しつぶす。

 

「一緒に味わってもらいますよ...この命続く限りなぁ!」

 

「ぐああああ! 小癪な真似を。こんな結界、すぐに破ってくれる」

 

あきらかに焦っている様子の黒龍。頭に血をのぼらせ正常な思考ではないようだ。

 

「今だ!畳み掛けろーー!」

 

槍を構えたエルフの竜騎士と、自分の背丈より大きく巨大な刃を持つ鎌を担ぐ暗黒騎士のエルフが逝く。

 

「団長!あなたと共に戦えたこと我らの誇りです...さらばです」

 

重力の結界に閉じ込められている黒龍に向かい、槍をしならせ大きくジャンプする。黒龍の真上まで来たところで空中を蹴り、一気に槍を突き出す。

 

「受けよ。 我が槍  グングニル」

 

槍の穂先が紅く染まり目にもとまらぬ速さで槍が繰り出される。まさに自分の防御を捨てた一撃必殺の技である。

 

「我が命を吸え」

 

暗黒騎士が己の武器に自分の命を吸わせて攻撃する 大鎌を振りかぶり黒龍に向かいたたきつける。

 

「暗黒 デスシックル」

 

漆黒のオーラを纏った一撃が黒龍に放たれる。

 

「ぐぉぉぉっ! なめるなぁぁぁ!!」

 

自分の周囲を薙ぎ払い、団員たちの命を断っていく。

 

「団長、あなたの為に死ねるなら本望です」

 

3人のエルフの魔導師が逝く。

 

魔力を限界まで高めて黒龍に向かってかけていく。どんどん膨れる魔力を制御する気はない...。

「「「くらえ」」」

 

魔力暴発 (イグニスファトゥス)

 

黒龍の周りの結界内全てを巻き込み、巨大な火柱が上がる。

もくもくと煙があがり、視界が悪い。

瞬間 煙を突き破り黒龍がダグラスを飲み込もうと大きな口をあけ迫ってくる。

アマゾネスの女性が団長を庇い目の前で飲み込まれる。

飲み込まれる瞬間ダグラスに向かって言葉をかけた。

 

「アリアがいる手前言えなかったけど団長のこと大好きだったんだぜ...じゃあな...」

 

黒龍の体内で詠唱をする。

 

「あたしだってお前なんかにただではやられないよ!地獄を味わいな! 大爆発(スーパーノヴァ)

 

黒龍の体内で大爆発が起こる。いくら表面を硬い鱗が覆っていようと体内なら関係ない。黒龍は悶絶しながらのたうちまわる。

 

(...5分経過)

 

 

ダグラスの体からゴォーンゴォーン、とチャージ完了を告げるグランドベルの音が響き渡る。

体から真紅のオーラを立ち上らせるダグラスは、全身で怒りと悲しみを表しているようだ。

 

(皆...お前たちの死は無駄にしないからな...)

 

ダグラスの全身の筋肉は盛り上がり愛剣を持つ手にも力が入る。

仲間の敵だ喰らえ。そう言い放つとダグラスは目にもとまらぬ速さで跳躍し、黒龍の右目に剣を突き刺す。

 

封印の剣(ルーンセイバー)

 

ただの傷では回復してしまう...かといってレベルダウンのせいでこの硬い鱗をでたたき切るまではいかないと判断して、己の愛剣とともに右目を永遠に封印した。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ」

 

黒龍が咆哮を上げる。黒龍の目に剣が飲み込まれていき、封印のあかしとして文様が浮かび上がる。

 

「貴様 よくも我の目を...我の目を、許さん」

 

黒龍は激しい怒りの波動を体中から発しながら迫ってくる。

ダグラスは最後の力を振り絞って黒龍を倒さんと立ち向かう。

 

「おとうさん」

 

(アイズの声? そんなばかな)

ここにいるはずのない愛娘の声に振り返る

 

そこには額から血を流したアイズがいた...

 

 

「おかあさんがたいへんなの…たすけて」

 

娘の悲痛な叫びが聞こえる。

 

 

 

 

 

 

アリア視点

 

ガキィィン!武器が交差する。

 

 アリアの一族は神が下界に降臨するよりも昔、

精霊を助けた際に加護というなの血を受けている。そのおかげで代々精霊に近い能力が発現されている。アリアの場合は風の精霊の力を行使することができる。しかし、薄れていく精霊の血の中でアリアだけが精霊とほぼ変わらないくらいの力を得てしまっていた。

その為、子供を望めない体だった。しかし、ゼウスファミリアに入り恩恵を受けることにより血が薄れ愛する夫であるダグラスとの間に

子供をもうけることができたのである。一度はその血に絶望し精霊というものを嫌悪した。故に精霊アリアと呼ばれることに大きな抵抗があるのだ。

 

目覚めよ (エアリアル)

 

体に暴風を纏わせアリアがナイフを振るう。 フェイントを入れながら相手を切りつけていく。

 

「チッ」

 

(こいつ 強いな...)

 

フードをかぶった人物が舌打ちをする。

 

(だが面白い)

 

にやりと笑い拳を突き出す。

 

ガキィィン!

 

甲高い音をあげて武器が交錯する。

風圧によってフードがめくれあがり顔があらわになる。燃えるように赤い髪をした女だ。美しい容姿に引き締まった肉体をしている。

しかし女から漂う空気は邪悪な精霊という言葉が一番しっくりくる。

 

「楽しいなぁ アリアよ。 いつまでもおまえとこうして戦っていたい」

 

赤髪の女が心底楽しそうに嗤う。

 

「私はあなたなんかと戦っていたくないわ。そもそもあなたの目的はなに?」

 

激しい攻防の中競り合いになりながらアイズが尋ねる。

 

「私を倒せたら教えてやろう。 まあ無理な話だがな」

 

地面に足形が残るくらいに踏み込んでアリアに向けて拳を突き出す。

瞬間、 アリアの姿が消える。 目の前にいたはずのアリアが瞬時に後方に回り込む。

 

「じゃあ全力であなたを倒すわ」

 

(エアリアル)

(エアリアル)

(エアリアル)

(エアリアル)最大出力!

 

 

赤髪の女の周囲に3つの竜巻が起こり相手の動きを止める。魔力を最大限に練りこみ

体に神速の風を纏いナイフには暴風を纏わせながら女を切り裂く。

 

「ぐぅぅ!」

 

女の体からは大量の血液がボタボタと流れ、足元に血だまりを作る。

(こいつ、ここまで強いとは)

 

「あなたの負けね。 その傷ではもう戦えないわ。さああなたの目的を教えてちょうだい」

 

「くっくっく、 あっはっはっ!やるじゃないかアリア」

 

赤髪の女が口から血を吐きながら、大きな声で嗤う。

 

「だが、 甘いな」

 

女は懐から魔石をとり出すとそれを口に含み、噛み砕いていく。大量の魔石を飲み込むと女の体が再生していく。

 

(魔石を取り込んだ?まさかこいつの正体は...)

 

「頭のいいあんたなら今ので気が付いただろうが まあ私に傷を負わせたご褒美に教えてやろう。

私は怪人と呼ばれる存在さ。ここには黒龍を迎えに来た。 あいつの力があればオラリオを崩壊させてバベルを破壊できる。

そうすれば我々の目的を達成できるからね」

 

アリアの頬に冷たい汗が流れる。

 

「あら そんなことまで話していいのかしら?」

 

「死人に話したところで問題はないだろ」

 

そう言うと今まで以上の速さでアリアに向かって突進する。拳を振り上げアリアに向けて突き出す。

 

ガギィィン!

 

(さっきより重い..受けきれない)

 

アリアの風の暴風を突破して殴りつける。今まで以上に重い攻撃を受け、近くの民家の壁に叩きつけられその場に倒れる。

 

ゴホッ ゴホッ

 

血を吐きながらよろよろと立ちあがる。お腹をさすり(ごめんね)と心の中でお腹の子供に謝る。

 

(やはりこいつは魔物の強化種と同じで魔石を食べることにより力を増すのね...でも勝負はこれからよ)

 

アリアの構えが変わる。予備のナイフを装備し二刀流にし体を半身に構える。

 

 

最大出力

 

体に纏わせていた全ての風を己の武器にまとわせていく。これが私の最大の技。 ナイフはぎりぎりと音を立てながら高速振動している

切れ味は先ほどまでとは桁違いだろう。

 

(傷が回復してしまうなら、一撃で粉々にするくらいの破壊力で倒すしかない)

 

「いいだろう 受けて立つ!」

 

両者が駆け出しぶつかる瞬間。

 

(ドクン)

 

アリアの背中に黒い霧のような魔力が吸い込まれていく。

 

(!!風の力が...)

 

急激に風の力が弱まり、相手の拳と衝突した瞬間にナイフは粉々に砕け散り、衝撃が胸を打ち抜く。

ゆっくりとその場に崩れるアリア。

 

(チッ、 黒龍のやつ使いやがったな...せっかくのゲームもこれで終わりか)

 

 

「おかあさん!!」

 

母親が心配になり、様子を見に来てしまったアイズ。アリアの前に立ち両手を広げる。

 

「おかあさんをいじめるなーーー!!」

 

目に涙を溜めながら、精一杯大きな声で叫ぶ。

 

「フン」

 

赤髪の女が鼻で笑いアイズに近づいていく。がくがく震えているアイズを平手で殴りつける。

アイズは額が衝撃で切れ、赤い血がツゥーと流れる。

 

「おまえの母親に免じて、ここで殺すのは止めておいてやる」

 

そう言い残すとフードをかぶり直し村の中心へ向けて走りさっていった。

 

しばらく茫然としていたアイズだがふと我に返り、母親にすがりつく。

額の汗を自分の服でぬぐい頬をさする。

 

「おかあさん!おかあさん!」

 

アイズが呼びかけるがアリアは苦悶の表情を浮かべるだけで起きる気配がない。

幸いアイズにはアリアがかけたエアリアルの効果が持続しておりなんとかアリアを引きずって安全だと思われる場所まで移動させる。

 

「おかあさん!おとうさんつれてかえってくるからまっててね!」

 

そういうと村の中心へ向かって走り出した。

 

周辺の魔物はゼウスファミリアとの戦いで倒され灰となって消えている。同じく団員達も倒れ血だまりを作っている。

アイズは何とか恐怖をこらえ母親の為に頼りになる父親の元までかけていくのであった。

 

 

 

 

 

時間は戻ってダグラスと黒龍が対峙している場面にアイズが到着したところ。

 

「アイズ!なぜここにいる? アリアはどうした!」

 

余裕がないダグラスは自分の娘に怒鳴ってしまう。だが今はそんな場合ではない。

 

「おかあさんこわいおんなのひととたたかってそれで...それで」

 

アイズが泣き出してしまう。

 

「くちからちをいっぱいはいておきてくれないの...」

 

ダグラスに嫌な汗が流れる。

 

(くそ...アリアに何があった...どうすれば...)

 

黒龍の声が響く。

 

「その娘はお前の娘か?ちょうどいい狙いはお前だ」

 

黒龍が詠唱を始める。

 

「無限の闇よ 闇よ 闇よ...」 詠唱は続く。

 

「アイズこっちに来なさい!」

 

スキルの反動で思ったように動けないダグラスはアイズを自分の近くに来るように手招きする。

てててっとアイズが泣きながら走ってきて足にしがみつく。

 

黒龍の詠唱は続く。

 

(まずいな...超長文詠唱か...俺が耐えきれなければアイズが... 命に代えても護ってみせる)

 

アイズが不安そうな顔を向けてダグラスを見る。ダグラスはアイズの頭を撫でてうなずく。

アイズを背中に庇い両手を広げる。

 

黒龍の詠唱が完成する。

 

「全てを破壊せよ 天地破壊(ビックバン)

 

大量の魔力がこめられているであろう魔法が炸裂する。

黒龍から放たれた拳程の魔力の塊。速度は遅いがものすごい魔力が渦巻いているのがわかる

今までの経験で培われた勘でこの魔法の規模を測る。

 

(このまま爆発させてしまったらその反動でアイズは間違いなく死ぬ...それならば)

 

瞬間...その球体をダグラスが己の体で抱え込む。

そして大爆発が起こる。己の全魔力を使い爆発の衝撃がアイズに届かないように抑え込む。

しかし、ダグラスに残されている力は少ない。鎧ははじけ飛び肉が焼けていく。衝撃が体内を蹂躙していく。

 

「グッ...ガフ」

 

口から血が溢れる。(護る...絶対に護る...)

 

衝撃はいまだ続いており徐々に体が後方へ押しやられていく。

 

 

「くっああああああああああ!」

 

ダグラスが咆哮する。あまりの痛みに意識を失いそうになる。

 

「目覚めよ エアリアル」

 

ダグラスの耳にアリアの声が聞こえる。

 

気絶から覚めたアリアは村の中心部からエアリアルの魔力を感じ取り全てを察して瀕死の体で後を追ってきたのだ。

ダグラスの背中を支えるようにしてアリアが立つ。

 

アリアの風が二人を包む。

 

ダグラスは背中にアリアを感じ気力を振り絞る。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ダグラスが力を振り絞る...ようやく魔法の威力が消えたが、同時に背中から重みがゆっくりとなくなっていく。

 

「愛しているわ...あなた....ずっと..いっしょに.....」

 

ダグラスが振り返りアリアを抱き留める。

 

「アリア...アリアーーーーーーー!!」

 

(護れなかった...俺の愛する家族を...)

 

ダグラスの頬を涙が伝う。

 

黒龍は驚愕の眼差しでダグラスを見つめる。

 

(馬鹿な...大陸をも割る威力の魔法を...)

 

クッ

 

呪いの槍(イービルスピア)

 

黒龍が自分の鱗を引きはがし槍状にして投げつける。

 

ドスッ

 

ダグラスに突き刺さる。

 

ダグラスは何事もなかったかのようにアリアを抱きかかえ自分の後ろにゆっくりとおろす。

(よかったアイズは...気絶しているだけか...)

 

呪いの槍(イービルスピア)

呪いの槍(イービルスピア)

 

黒龍が槍を投げつけてくる。

 

ダグラスは己の体に突き刺さる槍をものともせずただじっと黒龍を睨みつける。

 

「なぜ倒れん...!」

 

何本刺さったかわからないがダグラスは何本槍が刺さっても決して倒れない。

その赤い瞳はずっと黒龍を睨み続けている。

 

黒龍は生まれて初めて恐怖した。自分より遥かに劣る筈の存在に...本来死んでもおかしくないダメージを与えられながらも立ち続ける姿に...

 

「黒龍よ。それまでにしておけ、我々の計画を忘れたか」

 

先ほどアリアと戦っていた赤髪の女が黒龍を止める。

 

「レヴィス貴様、この我に命令するなど何様のつもりだ」

黒龍は激昂して言葉を返す。

 

赤髪の女は無表情に答える。

「我々にはオラリオを滅ぼすという計画がある。それを忘れるな。確認したが後一刻程で援軍が到着するはずだ。お前もその疲弊した体ではただではすむまい」

 

「クッわかった今は退こう...しばらく傷を癒さねばなるまい。まさかここまで消耗するとは...15年...いやそれ以上体を休めねばならぬか...貴様、覚えておれ!貴様の大事な家族は、すべてこの我が消してくれる」

 

黒龍はそういうと体を変身させ、人間ほどの大きさになりフードをかぶる。

 

「退くぞ...」

 

そういうと黒龍は影の中へ消えていった。

 

レヴィスと呼ばれた女はなおも立ち続けているダグラスに向かって

 

「見事だ」

 

そう言い残して黒龍と同じく影の中へ消えていった。

 

約一刻後。

 

壊れた家屋や石垣などが道をふさぐ中伝令としてオラリオに帰っていた団員と神ゼウスが他の団より一足早くダグラスの元に到着した。

そこに広がる光景に神ゼウスまでもが絶句する。

大きな血だまりの中に立ち尽くすダグラスと、その背後に倒れるアリアとアイズ。

 

「団長ー! アリアさん、アイズ!」

 

団員とともにゼウスも駆け寄る。 

 

「ダグラス、何があった...」

 

ゼウスが問いかけると同時にダグラスの足から力が抜け、その場に倒れそうになるのを抱きかかえる。

 

「ゼウス...すまない。ファミリアの団員は...全滅だ」

 

ダグラスが辛そうに答える。

 

エリクサーを使用したが血を流しすぎて手遅れになっていた。

 

「アリアさん..アリアさんしっかりしてください」

 

「アリアさんが...そんな...」

 

戦いで傷ついたであろう美しい顔は砂と泥にまみれ死闘の様子がうかがえる。

 

「うーん」

 

アイズが目をさまし現状を把握できていないようでひどく怯えている。

 

「ゼウス...アイズと話をさせてくれないか...」

 

怯えるアイズが父親の顔を見て泣き出す。

 

「おとうさーん」

 

ダグラスが優しくアイズの頭を撫でる。

 

「すまない、アイズ...おとうさんはお前の英雄にはなれないようだ...愛しているぞアイズ。」

 

ダグラスは指に魔力を溜め、アイズの頭を突いてアイズを気絶させた。

(これで、ある程度のことは忘れてくれるはずだ。あの子にこれ以上かなしい思いをさせてはいけない...これでよかったんだ。)

 

気絶したアイズを団員が抱きかかえる。

 

「ゼウス。アリア..のお腹に..俺の子供が..いるのが..わかるか?」

 

ダグラスが血を吐きながら尋ねる。

 

神には魂をみる力がある。ゼウスがアリアのお腹を見ると、よわよわしいが魂がみえる。

 

ゼウスが黙ってうなずく。

 

「そうか...ゼウス俺の子供をなんとか...助けて...やれないだろうか」

 

ゼウスは即答する。

 

「儂にまかせておけい」

 

いつものように優しい笑顔でダグラスに微笑む。

 

「そうか...俺の子供たちを..たの..む..」

 

ゆっくりと瞼を閉じ手から力が抜けていく。

英雄ダグラス・クラネルの生涯が終わった瞬間である。

 

ゼウスはこの場にいる眷属の団員に問いかける。

 

「ゼウスファミリアは今日で解散じゃ...それでもよいかのう?」

 

団員はうなずく。

己の主神が何をするつもりなのかわかっているのであろう。

 

「その前に出てきたらどうじゃ?」

 

建物の影から3人の人影が出てくる。

 

ロキファミリア団長、フィン・ディムナ、リヴェリア・リヨス・アールヴ、ガレス・ランドロックの三人だ。

 

「神ゼウス、申し訳ない。隠れてみているつもりではなかったんだけど」

 

「私からも非礼を詫びよう」

 

「タイミングがちと悪かったのう。すまぬ」

 

三人が謝罪をする。

 

ゼウスがしばらくの間熟考したのち口を開いた。

 

「代わりと言ってはなんだが、少々頼まれてくれんか?」

 

代表のフィンが答える。

「なんでしょうか?」

 

「この子の面倒をみてやってはくれぬか?」

気絶している少女を抱える。

 

団員が引き止める。

「ゼウス様!?それはしかし...」

 

団員だけに聞こえる声でゼウスが話す

 

「儂らはファミリアを解散する身。もし万が一また黒龍が現れたらダグラス達によって受けた恨みを晴らしにくるかもしれん。その時に儂らには護ってやれる力はない...しかしロキファミリアなら、いやロキならばこの子を護ってくれるはずじゃ。あいつとは昔からの仲じゃからのう」

 

ガハハとゼウスが軽く笑う。

 

フィン達に向かって言う。

 

「訳あって儂らにはこの子を育てていくことができぬ...もう一度問う。代わりに面倒を見てやってくれぬか」

 

目の前で先ほどまでの状況を見ていた三人は了承した。

 

「わかりました。この子は僕達が責任を持って育てます。そして今日この場で見聞きしたことは口外しないことを誓います」

 

三人が膝をつき、ゼウスに頭を下げる。

 

「頭を下げるのは儂らの方じゃわい。その子の名前はアイズ...アイズヴァレンシュタインじゃ。よろしく頼む。」

 

「我々だけで先行偵察にきてしまっているので一度陣営まで引き返します。まだ危険があるかもしれませんので、ゼウス様もお早くお戻りください」

 

そういうと三人は陣営に向かってかけていった。

 

「さて、それじゃあ儂らも済ませるかの。」

 

ゼウスは神の力を発動させた。神の力でアリアのお腹の中の魂を取り出すと器を探した。 すると(俺の体を使ってくれ...)ダグラスがゼウスに言ったような気がした。ゼウスは熟考のうえダグラスの体を器にすることにした。ダグラスの体が淡く光り、魂と混ざり合っていく。光が一層激しくなった瞬間ゼウスの腕の中に赤ん坊がいた。

 

「この子の名前を決めねばならんのう...そうだベル...お前の名前はベルじゃ」

 

ゼウスがベルを高く持ち上げた瞬間ベルは大きな泣き声をあげた...

 

 

 

 

数日後オラリオに衝撃が走る。世界三大クエストの黒龍の来襲と最強と謳われたゼウスファミリアの崩壊。英雄ダグラス・クラネルの死亡...世界が変わるほど大きな出来事だった。あるものは自分たちがのし上がる好機だとほくそ笑み、ある者はゼウスファミリアの崩壊に大いに悲しんだ。暫定的にロキファミリアとフレイヤファミリアが先頭に立ちオラリオを導いていくことになる...

ギルドの主神、ウラノスよりゼウスの神の力の行使に対する罰則が言い渡される。

こうしてゼウスファミリアは恩恵はそのままに、実質解散しギルドより神の力を使用した罰として、今後恩恵を刻む行為を禁止され、オラリオを離れるのであった。

 

黒龍が壊した村を、残ってくれた元眷属と一緒に復興し、小さな村を作りそこで隠居生活を送ることとなる...

 

 

 

 

{IMG18363}

 

 




今回は少々話が長くなってしまいました<m(__)m>
内容もっとうまく書ければいいんですが場面を想像すると書いてるだけで泣けてきます泣
話を見返していて微妙な部分は随時直していきますのでよろしくお願いいたします。

次回よりベルとアイズの幼少期の話に移ります...

読んでいただいている皆様に感謝です<m(__)m>
これからもよろしくお願いいたします。

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