剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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少女を抱えてヘスティアのホームへ


37 白兎2

バベルから歩くことしばらく、ヘスティアの住む住居が見えてきた。

 

「さあ、ここが僕のホームさ!」

 

神ヘスティアに案内されたのは古い教会であった。中に入るとところどころにバケツが置いてある。

 

「あのーヘスティア様、これは?」

 

「ああこれかい?最近雨漏りがひどくてね、その内屋根を直そうかと思ってるんだよ」

 

「そ、そうなんですか」

 

教会の前の花壇も荒れているようで、どこかせつない気持ちになってくる......

 

「さあ、入っておくれ!!あ!!5分、5分でいいから少し待っていてくれないかい!?」

 

 

3人の前でヘスティアが私室の扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは散らかった洋服や下着だった......酒瓶も置いてあるところをみると昨日は誰かと飲んでいたのかもしれない。

 

「ベル、神様といえど同じ女子として拙者何か悲しくなってきたでござる......」

 

「あはは、僕は何も見てません......」

 

およそ5分後、汗をかいたヘスティアが扉を開けて手招きをした。

 

「はぁはぁはぁ.....ご、ごめんよ。もう大丈夫だから入っておくれ」

 

先ほど見た洋服の山は一体どこへいったのか、部屋はきれいになっていた。中央には大きなベッドが置いてあり、かわいらしい抱き枕やぬいぐるみのようなものが置かれている。

 

「じゃあ、そこのベットに寝かせてあげてくれよ!」

 

ベルは抱きかかえていた少女をゆっくりとベットに寝かせた。規則正しく呼吸をしており問題はなさそうだ。

 

「ふむ、大分汚れてしまっているね。ベル君!君はお湯を沸かしてきてくれないかい?君は、刹那君だったね?君は僕と一緒にこの子の体を拭いてあげようじゃないか」

 

その後ベルはお湯を沸かしに行き、ヘスティアと刹那は少女の体をきれいに拭いてあげた。ヘスティアの服では身体の一部の大きさが違い過ぎて着れない為、近くの小人族(パルゥム)専用の服屋で代わりの服を買ってきて着替えさせた。

 

「これで良し!さて一息つこうか。ああ、食べ物ならじゃが丸君が大量にあるから心配しないでおくれよ!」

 

 

「「......ありがとうございます」」

 

部屋の中にはあげた芋の匂いが充満している、香ばしい香りだ......

 

「あの、ヘスティア様、今回のお礼と言ってはなんですが僕が屋根の修理をしてもいいでしょうか?僕、手先の器用な友人がいるので聞いてみますが」

 

「拙者は外の花壇辺りをきれいにしたいのでござるがいいでござるか?」

 

ヘスティアは目を輝かせてふるふると震えている。

 

「君たち......なんていいこ達なんだ、君たちの主神がうらやましいよ」

 

がしっと二人を抱きしめしみじみと感慨にひたった。

 

もにゅんっと柔らかい感触が......

 

(こ、これは......)

 

(大きいでござる......)

 

 

「刹那さん、花を選ぶならこのファミリアに行ってみてください。僕がよくハーブを買うところなんですがすごくいい雰囲気のお店ですよ」

 

「わかったでござる!」

 

「じゃあ僕はこの子をみているよ、二人ともよろしく頼むよ!」

 

二人はそれぞれ目的の場所へ向かった。ベルが向かったのはもちろん......

 

「ヴェルフー!ただいまー!」

 

ギイィィと扉を開けるとヴェルフが工房の掃除をしているところだった。いつもより大分きれいになっている。

 

「おお、ベルか。良く帰ったな、他の3人はどうした?」

 

「皆無事なんだけど、ダンジョンでいろいろあって今別行動中なんだ。ヴェルフもここの掃除なんで珍しいね」

 

「ああ、さっきまでヘファイストス様が来ていてな。掃除をしろとうるさくてな」

 

「そうなんだ、もう帰られたの?」

 

「ああ、ベルとすれ違いでさっき出て行った。これから神友のところに行くみたいでな、なんでもほっとけない神友なんだそうだ。ベルは俺の依頼は済んだのか?」

 

ベルは先ほどまでの経緯をヴェルフに話した。

 

「なるほどな。いい神様もいるもんだなぁ......いいぜ!お前らの装備も材料がなきゃ作れないし。それにベルの頼みだしな!」

 

「ありがとうヴェルフ!今度またダンジョンで珍しいドロップアイテム拾ったら持ってくるね!」

 

「ははは、そんなもん気にすんな。俺はお前には感謝してるんだ、さ、行こうぜ!」

 

ベルとヴェルフは修繕に必要な材料を持って教会に向かった。

 

教会に着くと刹那が花壇の手入れをしている姿が見えた。枯れた花を抜いて、肥料を撒いて花を植えている。

 

 

「ベル、おかえりでござる。やっぱりベルの言ってたのはヴェルフのことだったんでござるな」

 

「よう、刹那。ベルに聞いたがなんかいろいろと大変みたいだな?」

 

「拙者たちなら大丈夫でござる!」

 

汗で額に張り付いた髪を耳にかけながら刹那が元気よく答えた。花壇の手入れもほとんどすみ、美しい花々が咲き乱れていた。色とりどりの花の中で微笑む刹那はとてもかわいらしい。

 

「そういえばさっきヘファイストス様が来たでござる」

 

「ヘファイストス様が言っていた神友ってヘスティア様なのかな?」

 

そんな話をしながら3人で教会の中へと足を踏み入れた。

教会の中は依然として掃除があまりされていないがヘファイストスがぶつぶついいながらも髪を縛り箒を片手に掃除をしていた。

 

「私も甘すぎるのかしら......でもあの子ほっておいたらそれはそれで心配だし......でも、あの女の子を診るヘスティアの目はさすがって感じだったわね、ぶつぶつぶつ......」

 

「ヘファイストス様!」

 

ベルの声に反応したヘファイストスが顔をあげこちらをみた。

 

「あら、ベル久しぶりじゃない!あなたの双剣なかなか手ごわい相手よ、もう少し待っててほしいの。それと、ヴェルフと仲良くしてくれて嬉しいわ、隣のかわいい子はベルの彼女かしら?」

 

 

「ええ!?いえいえいえ刹那さんは今パーティーを組ませていただいている仲間です!」

 

(仲間......でござるよねー......)

 

ベルの隣で複雑そうな顔をしている刹那を見てヘファイストスは優しく微笑んだ。

 

「ベルも隅に置けないわねえ、さてこれからどうしましょうか」

 

4人はこれからの予定を相談することにした。

 

「僭越ながら拙者屋根の修繕はできそうにないでござる。なので教会内の清掃をやりたいでござるが」

 

「そうねーじゃあ、刹那ちゃん?にこの中お願いして3人で屋根先にやっちゃいましょうか。それから中の掃除に移りましょう」

 

鍛冶の神が......ヘファイストスが屋根の修繕をする。費用の請求をしたらいったいいくらかかるのやら......

 

実際に修繕をしたことがあるベルに加えて鍛冶の専門家であり手先の非常に器用な2人が加わり作業は短時間で終了した。クオリティはいうまでもない......

 

「ふう、こんなところかしらね。ベルもヴェルフもお疲れ様、私の神友の為にありがとう」

 

「いえいえいえ、僕もヘスティア様にお願いをしてしまいましたからそのお礼がしたかっただけですので」

 

 

「ベルの頼みだからな。そういえばそのヘスティア様は今何してるんだ?」

 

「そういえば部屋から出てきてないわね。私が様子を見てくるから二人は中の掃除をお願い」

 

刹那と合流した3人は部屋の掃除を完了させヘスティアの私室へと足を踏み入れた。

 

そこにはベットで熟睡中のヘスティアと少女、そのベットの前に仁王立ちしているヘファイストスがいた。

 

「皆お疲れ様、とりあえずこのバカをそろそろ起こすわよ」

 

......しばらくの間正座でヘファイストスに説教されるヘスティア......

 

「あ、ありがとう君たち!おかげでこの教会も見違えたよ!」

 

そういいながら怒られて半泣きのヘスティアは頭を下げた。横で腕組みをしているヘファイストスは無言で頷いている。

 

「うーんっっここは......」

 

少女が目を覚ました。

 

「お、気が付いたみたいだね、体は大丈夫かい?」

 

ベッドの上で多少混乱している少女に対してヘスティアは優しく問いかけた。

 

「ひっっ」

 

少女は怯えた表情を浮かべるがそんな少女をヘスティアはやさしく抱きしめ落ち着くまで頭を撫でてあげていた。しばらくしてどうにか少女の震えも止まり話せる状態になった。

 

 

「それじゃあ自己紹介から、僕はヘスティア!ダンジョンでケガをしている君を彼らが見つけてここまで連れて来たのさ!」

 

ヘスティアはベルと刹那を紹介した。二人はぺこりと頭を下げたがダンジョンでの事を彼女に話した方がいいのかと戸惑っている。

 

少女はベルを見た瞬間赤面した。

 

「あなた様は......それよりもリリは一体誰なんでしょうか?何も、何も思い出せない......」

 

「「え!」」

 

「まさかこの子記憶が?」

 

「ちょ、ちょっと待ってておくれ、ミアハを呼んでくる」

 

ヘスティアがミアハと呼ぶのは彼女の神友で青の薬湯の店主である神だ、この店はベルたちパーティーもよく利用しており顔見知りだ。

 

しばらくしてミアハが教会に到着しあいさつもそこそこに少女の診察が行われた。

詳しく話を聞いてみると彼女はリリという名前以外全ての記憶をなくしているようだ。唯一おぼろげながら覚えているのは白髪で紅い瞳をした少年に助けられたという事だけだった。

 

「ふむ、ベルよちょっとこちらへ」

 

ミアハがベルを手招きしヘスティアの私室を出た。

 

「ベルよ、詳しく状況を教えてくれぬか?」

 

ベルはダンジョンでの出来事をミアハに詳しく話した。ミアハは真剣にベルの話に耳を傾ける。

 

「なるほど、他の者も呼んでくれぬか?」

 

少女一人を部屋に残すのもという判断で刹那は少女の傍にいてもらい他のメンバーは教会の方へと集まった。

 

「ベルから聞いた話を踏まえて彼女の症状を見る限り、恐らくではあるが圧倒的な死の恐怖によって記憶障害を起こしていると診られる」

 

「そんな......」

 

少女がどこのファミリアに所属してどんな理由であのような状態になったかはわからないが、たった一人で装備も禄にないままキラーアントの集団に囲まれるという状態は想像を絶する恐怖だっただろう......

 

「何があったかあの子に話すべきかしら......」

 

全員が黙り込み沈黙する......

 

「皆、この件は僕にまかせてくれないかい?」

 

たゆんっと大きな胸を揺らしながらヘスティアが名乗りを上げた。

 

「今あの子は傷ついてる、少しでも傍にいたいと思うんだ。それに僕には眷属がいないからね!、別に一人でここに住んでいて寂しいわけじゃないから勘違いしないでおくれよ!」

 

「「ヘスティア様......」」

 

ヘスティアは本当にいい神だと心底思った。この子を助けることに現状メリットはない、むしろデメリットの方が多い。ファミリア間のいざこざに巻き込まれる可能性も高いだろう。オラリオで最強派閥のロキファミリアならなんとかできる問題なのかもしれないがヘスティアのように眷属のいない神には厳しい、それでもこの子の傍にいてあげたいと......そんな彼女の意志を尊重することにした。

 

「わかったわ、ヘスティア。でも何かあったらすぐに連絡を寄越しなさい。ギルドにも説明しなければならないけど、今それをすれば騒ぎになりかねない。そうなればあの子を殺そうとした連中に生きているということが知られてしまうかもしれないわね」

 

「ありがとう皆。僕はしばらくはあの子の心のケアに努めるよ」

 

話もまとまったので先ほどいたヘスティアの部屋に戻った。

 

「リリ君でいいかな?しばらくの間この教会で僕と生活を送ってもらいたいんだけどそれでもいいかい?」

 

ベットの上で上半身だけ起こしている少女の前まで進みヘスティアが右手を差し出した。

 

(暖かい......リリはこんな気持ち初めて感じるのかもしれません。不思議と怖くない......」

 

「ヘスティア様のお邪魔にならないのであれば......よろしくお願いします」

 

少女はヘスティアの手をぎゅっと握った。

 

「うんうん!僕の事を家族と思って頼っておくれよ!」

 

そのまま右手を引き寄せムギュっと少女を自分の胸に埋めた、その表情は慈愛に満ちている。

 

「それじゃあ話もまとまったことだし、私たちは帰りましょうか。あなたたちもそろそろ帰らないと心配する人たちがいるでしょう?」

 

ベルたちはすっかり忘れていたがリリーとルナと別れてから結構な時間が立っている。なんの連絡もなく今頃心配して、否怒っている頃だろう。

 

「やばいでござる、絶対二人とも怒ってるでござるーー!」

 

「すみません、それでは僕達もこの辺で戻りますね、ヘスティア様僕に手伝えることがあればなんでもおっしゃってくださいね」

 

扉をあけ部屋を出るところで少女がベルに声をかけた。

 

「あの!あなた様のお名前は?」

 

「あ、自己紹介をしていませんでした、すみません。僕の名前はベル・クラネルです」

 

「拙者は刹那でござる」

 

少女は布団で顔を半分ほど隠しながらおずおずとベルに話しかけた。

 

「ベ、ベル様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」

 

(拙者は無視でござるか......!?)

 

「へ?様ですか?別にいいですが......恥ずかしいというかなんというか......」

 

ベルは頬を染めながら頭をかいている。

 

「ではベル様とお呼びしますね!ベル様助けていただいてありがとうございました」

 

「いえいえ気にしないでください」

 

ほほえむベルはリリにとって王子様にみえていることだろう。悲惨な運命にあった少女は救われたのだ......

 

「そういえばベル君、君はどこのファミリアに所属しているんだい?」

 

(この子ベルがどこのファミリアに所属しているのか知らなかったのね......」

 

「僕ですか?僕のファミリアは......」

 

「ベル!何をしてるでござる!早くしないと本当に怒られるでござるよー!」

 

「すすすすみませんヘスティア様、これで僕行きますね!また来ますー!」

 

返事をしないままベルはあわてて刹那と共に外へとかけて行った。

 

「ベルの奴、俺を置いていきやがって......しょうがない、俺も帰るか」

 

ヴェルフは相棒に忘れられてしょんぼりと肩を落とし工具などを担いで外へ出た。

 

「ヴェルフ、荷物もあるから私も付き合うわ。その代りお茶でもだしてちょうだい」

 

にこっと微笑むヘファイストスにヴェルフの心臓は高鳴った。

 

(ベル、感謝するぜ!)

 

 

 




読んでくださっている皆様いつもありがとうございます。

少々体調をくずしておりましたぁぁ<m(__)m>更新遅くなりまして申し訳ない<m(__)m>

アイズ達と違いオラリオは平和です。

リリルカさんは悲しく辛いソウマファミリアでのことは忘れて、ヘスティアの元で幸せになってほしいです、それだけです。


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