18階層で休息をとりそこから一気に50階層を目指したロキファミリアの団員達。現在彼らは49階層
「前衛!盾構え!」
フィンが敵の数と勢いを瞬時に計算し前衛に指示を出した。荒野を埋め尽くすほどの群れをなんの策もなしに相手をしていてはいくらロキファミリアといえど損害は計り知れない。
このような場合にもっとも頼りになるのが都市最強の魔導師リヴェリア・リヨス・アールヴの広範囲殲滅魔法だ。魔法の詠唱が終わるまで前衛は命をとして時間を稼がなければならない。
迫りくる魔物の群れは咆哮をあげ、大地を蹴り、黒い塊となって盾を構える団員達に向かって体当たりをした。鋭い角が盾に当たり火花が散る、足が地面にめり込むほどの衝撃が走り死という恐怖が脳裏に浮かんだ。しかし、皆が恐怖に負けそうになる中後方に下がったリヴェリアの美しく透き通るような詠唱が団員達の耳に届いた。
「間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅......」
リヴェリアの詠唱と共に魔方陣が展開され強大な魔力が練こめられていく。死の恐怖を感じていた団員達もリヴェリアの詠唱を聞き恐怖を振り払い盾を押し返した。
ガギィィン
鈍い音と共に魔物を弾き返した。
「踏ん張れーーー!時間を稼ぐぞーーー!」
誰が発した声かはわからないがその声に呼応してオウ!という声と共に皆気合を入れ直した。
「ティオナ、ティオネ、左側に回れ!」
「はい!」「りょーかい!」
全体を見渡し、相手の圧力が高い場所には幹部達が行き敵の足止めと数を減らしにかかる。敵の数はロキファミリアの数倍、実力や技術で勝っていても数の圧力に屈する場合もある。前衛の一部でも瓦解してしまえばそこから数の力で食い破られてしまうだろう。
「うりゃりゃりゃりゃーーー!」
ティオナが専用武器
「ティオナ!前に出過ぎるんじゃないわよ!」
敵の的になりやすい妹を絶妙なタイミングで投げナイフを投げ助け、彼女が自身の力を120%発揮できるようにサポートをしつつ自身もククリ刀を使い敵を薙いで行く。ティオネは冷静でいる間は指揮と戦闘、サポートを行えるいわゆる万能型だ。
「グォォォォォォ!」
他の魔物よりひとわき大きな個体の魔物が
レフィーヤの眼前に迫る天然武器をベートが蹴り飛ばしアイズが敵を切り裂いた。
「レフィーヤ、大丈夫?」
「すみません、私......」
「てめぇいつまでも座ってんじゃねえ。んなことだとあいつに抜かれちまうぜ」
ベートがさすあいつとはもちろんベルの事である。助けられたことにより一瞬落ち込んだレフィーヤであったがベートの言葉を聞いて頭をふり杖を構えなおした。
「それでいい、てめえにはてめえにしかできねえことがある。それを忘れるな」
「はい!」
(......私が伝えようとしたこと全部ベートさんに言われちゃったな......)
「フィン!適当に蹴散らしてくるがいいか?」
フィンはちらりと後ろを振り返りリヴェリアの詠唱の様子を確認した。
(もう少しかかるかな)
「いいだろう、アイズとベートは機動力を生かして時間を稼いでくれ。くれぐれも無理はしないでくれよ」
「おう」
「わかった」
「アイズ、突出しすぎないでくれよ?」
「大丈夫、私の剣で皆を護る」
二人は前衛の様子を確認し行動に移った。二人はそのスピードを生かし戦場全体を駆け詠唱が完成するまでの間時間を稼いだ。
「開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虚なる争乱が全てを包み込む、至れ。紅蓮の炎、無慈悲な猛火......」
リヴェリアの詠唱は続く、団員達もなんとか戦線を保っている。
「おら、てめえら気合入れやがれ!死にたくなかったら全力で押し返せ!」
疲労が浮かぶ団員達に対してベートが声をかけた。迫りくる敵を持ち前のスピードで薙ぎ払いながらも団員達に気を使っているようにみえる。口は悪いが両親から学んだ【和】を大切にしているのがわかる。
前衛職の粘りと幹部達の働きもありリヴェリアの詠唱が完成した。
「汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣。我が名はアールヴ」
リヴェリアの詠唱が完成すると同時に周囲に魔方陣が展開し紅蓮の炎が敵全体を包み込んだ。敵は断末魔の悲鳴をあげる暇もなく一瞬の内に灰となり皆から歓声が挙げられた。
「負傷者の手当てを急げ!これより50階層に進軍し陣地を敷き休息をとる」
団長の指示のもと手早く治療を終わらせ皆は50階層に足を踏み入れた。それぞれがテントの用意や食事の用意へと移る。
「アイズ、どうした?」
陣地を見下ろす形になっている崖の上でアイズが一人膝を抱えぼんやりとしているのを心配したリヴェリアが声をかけた。
「リヴェリア......ベルの事を考えてた」
(!ここまで堂々といえるようになったのか......)
「そ、そうか。ベルも今頃地上で頑張ってるだろう。それよりアイズ、明日からの打ち合わせもある。そろそろ戻ってこい」
「リヴェリア、リヴェリアは運命って信じる?」
「運命?いや、どうだろうな。考えたこともなかったな」
「私はリヴェリアや皆と......ベルと出会えたのは運命じゃないかって、そう思うの。皆と出会わなければ私はきっとずっと前に死んでた。そしてベルと出会わなかったらきっと私は......私の心はいつか壊れていたと思う」
アイズは自分のスキル
フッっとリヴェリアは優しい笑みを浮かべ昔のようにアイズの頭を撫でた。
「そうだな、私もお前たちと会えたことは嬉しく思う。故郷を出てオラリオに来て......フィンやガレスと共にロキの眷属になったこと、そしてお前たちと会えたこと。それは運命なのかも知れないな。ただ、運命というのは自分でいくらでも変えられるはずだ、これから先に何が待っているか私にはわからない、悲惨な運命が待っているのかもしれない、私は運命だから仕方ないと諦めたりしない。もし悲惨な運命が待っていても私の魔法で焼き尽くしてやるさ!」
アイズはコクっと頷いた。
「私も、そんな運命がきたら私の剣で切り裂いてみせる!」
二人は顔を見合わせ笑いあった。これから先どんな悲惨な運命が待っていてもロキファミリアの皆ならそんな運命すら倒してしまうのだろう......
読んでくださっている皆様ありがとうございます。
今回は少し短いですがこの辺で<m(__)m>次回はベル君のお話です。
次回更新は来週中にはできると思いますのでお楽しみに!
感想や評価等ありがとうございます<m(__)m>