剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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アイズは不安が残る気持ちを抑えて遠征へと向かった。


34 アイズ遠征編1 

ダンジョン18階層までは極力無駄な戦闘は避けて行軍が行われる。ダンジョン内での補給は非常に困難だ。階層を下りるごとに一階層ごとの面積は広くなり、モンスターも強くなる。回復アイテムや食料にも限りがある為遠征に向かう際は無駄を省いていかなければならない。余裕があればレベルが低い冒険者に経験を積ませる為に指揮を任せたり戦闘をさせるが今回は深層域59階層を目指している為そんな余裕はない。

 

今回の隊列ではサポーターを務める者達を内側にしてレベル3以上の冒険者を隊列の各所に配置し戦闘は可能な限り時間をかけずに済ませていた。

 

ザシュッッ

 

フィン達と共に先頭を歩くアイズが眼前に現れたミノタウロスを一太刀で切り伏せた。

上層では圧倒的なレベル差によりよほどのことがない限りモンスター達は襲ってこないが中層はそうはいかない。レベル差はあるものの出現頻度が圧倒的に違う為必ず戦闘は起こってしまう。また、サポーターの中にはレベル2の者も多くいる為ミノタウロスの攻撃が当たれば致命傷になりかねない。故に先手必勝、見つけ次第速やかに排除する事がアイズ達の仕事である。

 

(駄目だ、こんな気持ちで戦っていたら、もやもやするけど今は遠征にしっかり集中しないと......)

 

目の前に現れるミノタウロスやヘルハウンドを薙ぎ払いながら先へと進む。表情には出さないがイラついている様子のアイズを見てフィンが溜息をついた。

 

「リヴェリア、アイズは何かあったのかい?」

 

「ベルと離れるのが寂しいのではないか?」

 

二人は顔を見合わせ苦笑した。

 

「この遠征が無事終わったらベルを連れて少し深くまで潜ってみようか。そうすれば今のステイタスから考えてレベルの上昇も夢ではないだろう。アイズがレベル2なるのにかかった期間を考えれば異常といえるスピードだけれど......ステイタスは嘘をつかないからね。僕もベルの成長スピードを少し甘くみていたよ」

 

「団長自らベルに指導するのか?それでは周りの者には贔屓しているように映るのではないか?」

 

「ベルだけに、というわけではないさ。最近皆訓練に気合が入っているからね、僕達が交代で一緒にダンジョンに潜って指導する機会を作っていこうと思っていてね。そうすればもう少し僕達と他の団員達との距離も近くなると思うんだ」

 

ああっとリヴェリアは納得した様子だ。第一級冒険者に直接指導をお願いするなど恐れ多くてできない......そう思っている者がほとんどだ。気軽にとは言わないがもう少し距離が近くなってもいいと思っていた。

 

ベルという存在がこのファミリアにとっていい方向に向かうきっかけになったことは間違いない。アイズは表情が豊かになったしベートも仲間という事を意識するようになった。他の団員達も仲間意識が飛躍的に向上しているのだ。

 

(ダグラス......ベルはあなたとよく似ている。その心根も......)

 

フィンは今は亡き友人に想いをはせた......

 

 

「フィン、もうすぐ17階層。ゴライアスはどうする?」

 

一通り周囲のモンスターを薙ぎ払ったアイズがフィンの元に剣を鞘に収納しながら歩いてきた。

 

「ゴライアスは僕を含めたレベル4以上の者で戦う、リヴェリアは精神力を温存しておいてほしい。君の魔法が必ず必要になるからね」

 

「わかった。従おう」

 

 

 

17階層手前のルーム

 

「フィン、なにかおかしい......様子を見てくる」

 

本来ならゴライアスの気配がするはずが今はそれがない。ゴライアスを討伐できるほどのファミリアがロキファミリアの遠征があることを知らないはずがない。先行してアイズが17階層へと足を踏み入れた。

 

(ゴライアスがいない......誰かが倒したような跡もない。これは一体......とりあえずフィンに連絡を)

 

 

アイズは皆の元に戻り状況を説明した。

 

「ふむ、あの巨体がどこかに隠せるとも思えない。どこかのファミリアが倒したと考えるのが妥当だが。戦いの形跡がないのはおかしいな。皆注意して進軍してくれ、18階層でガレス達と合流しよう」

 

(今回の遠征、何かあるかもしれない。僕も心してかからないと)

 

 

18階層 小休憩

 

フィン達は先ほどのゴライアスがいなかった件について他の幹部と共にガレス達と話し合っていた。

 

「ふむ、簡単に考えればゴライアスを難なく倒せる者がいたと、それだけだと儂は思うんじゃが。そう簡単な話ではないかもしれんの。ここ数週間の間にゴライアスを倒せるレベルのファミリアが遠征を行ったという報告もはいっておらんし」

 

大手ファミリアには様々な情報網がある。他のファミリアの動向や団員のレベルなどを把握しておくことも幹部達には必要なことなのだ。

 

「以前アポロンファミリアがゴライアスを倒したという報告もあるが、それにしてもかなりの人数を必要としたはずだ。それだけの大人数がダンジョンに向かえばいやでも目に付く。今回はゴライアスが復活してからどの程度立っているのかはわからないが全く犠牲も出さず階層も荒れていないとなると......」

 

腕を組みながらリヴェリアも複雑な表情を受けべている。

 

「まあ悩んでもしょうがないね。今回の遠征は今まで異常に注意して進もう」

 

「「はい」」

 

幹部達が堂々としていれば他の団員達も安心することができる。いつまでも不安を抱いているだけではいけない。何かあってもすぐに行動を起こせるように気持ちを入れなおした。

 

「皆さんお茶が入りましたよー。これを飲んで落ち着いてください」

 

簡易コップにお茶を入れたレフィーヤ達が団員達にお茶を配っていた。

 

「アイズさん!どうぞ!熱いので気を付けてくださいね!」

 

「!ありがとう......この匂いは......」

 

レフィーヤからコップを受け取ったアイズは息を吹きかけて口に含んだ。

 

(やっぱりベルが調合していたお茶だ。心が温まる......会いたい......な」

 

「ふむ、これは......いったい誰がもってきたんだ?微量だが精神力が回復しているのがわかる」

 

オラリオ一の魔導師であるリヴェリアはたしかに自分の精神力が回復していることに気が付いた。

 

「ベルが遠征に行く皆の為にって作っていた。豊穣の女主人のミアさんに作り方を教えてもらったみたい」

 

「なるほど。ミアなら知っていても不思議ではないな。それよりアイズ、そんなこといつ聞いたんだ?」

 

ビクッとアイズの肩が反応した。

 

「え、えと......き、昨日の夜に......」

 

「えー?アイズ昨日12時くらいまで私とティオネと話してたよね!?それからベルの部屋に行ったの?」

 

お茶を飲み終えたティオナがアイズを背中から抱きしめる。ニシシっと笑いながらアイズの頬を指でつついた。

 

「う......あう」

 

お茶のコップを両手で握りしめ俯きながら顔を真っ赤にさせている。

 

「アイズ、それは本当か?いくらベルといえど男の部屋に深夜にいくなどと......ぶつぶつ」

 

アイズの親代わりであるリヴェリアは複雑そうだ。いくら冒険者としての生活が長くなっているといえど、エルフの王族であるリヴェリアは貞操概念についても非常に固い。いまだにキスひとつしたことがないのだ。

 

「アイズはベルの部屋で何をしてたのかなぁー?」

 

遠征中だというのに心底楽しそうなティオナ。その横には話には入って来ていないが興味深々なティオネがフィンの横をキープしていた。

 

「えと......普通にお茶を飲んで」

 

「飲んで?」

 

「寝ただけ......」

 

「「!?」」

 

ざわっ会話を聞いていた周囲の団員達もアイズの衝撃発言にざわつきはじめた。

 

深夜、ベルの部屋、寝た。この単語のみきくと非常に危険な気がするのは気のせいではない......

 

(寝た......だと?)

 

「え.....ベルの部屋でってこと?」

 

「そう」

 

(あ、そういえばロキにいうなって言われてたけど。どうしよう......)

 

「ええと......ただベルのベッドで寝ただけだから」

 

((!?))

 

アイズは発言する毎にどんどん勘違いが広がっていることに気が付いていない。

 

「ふむ、皆混乱しそうだから一度整理しようか。アイズは昨日深夜ベルの部屋に行ってベルと話をした。その後アイズはベルのベットで寝た。ここまではあってるかい?」

 

フィンは苦笑しながら確認を続けた。

 

「うん」

 

「その時ベルは何をしていたんだい?」

 

「ベルは朝までずっとお茶の調合をしていたみたい」

 

((あーなるほど......ベル、よく耐えたな......))

 

欲望に打ち勝ったベルは本人が知らないところで多くの団員達からの評価が上がった事を知らない......

 

「なるほど、しかしベルは随分頑張ったようだね。遠征に行く全員分となるとかなりの量が必要なはずだけど、それにいい味だ。ベルはいいお嫁さんになりそうだね」

 

フィンはお茶を飲みながら優しく微笑んだ。

 

ぶふぅっっ

 

なぜか嫁という単語を聞いた瞬間ベートが吹き出した。彼の脳内で何を想像したかはわからないが壁に頭を打ち付けている姿をみると多少は何を想像したかがわかる......しばらくするといつもの表情に戻ってお茶の入ったカップに口をつけていた。

 

((ベート......))

 

最近のベートは以前の彼とは違いよくわからない行動が目立つ。しかし、それのおかげで周囲の団員達と仲良くなっているので良しとしている......

 

 

18階層のクリスタルから光が消え夜が訪れる。

 

18階層で荷物の最終点検や隊列の確認をし、翌日、クリスタルに光が戻ったら一気に50階層を目指すのが今回の予定だ。クエストでカドモスの泉に寄ることも忘れてはいけない。深層域へと遠征できる機会は限られている為クエストを行う事が多い。ちなみにカドモスとは現在確認されている階層主以外のモンスターの中で最強であり、以前の遠征時にティオナは致命傷を受けている......それだけ強力なモンスターなのだ。

 

見張り以外の団員が寝静まる中アイズは一人黄昏ていた。膝に顔を埋めベルとの別れ際を思い出していた。

 

(あの時の気持ちは一体なんだったんだろう。どうしてもこの不安な気持ちが消えない。ベルからキスしてもらえなかったし......)

 

「ベル、今頃何してるんだろう......」

 

 

 

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

長くなりそうなので今回はこの辺で区切りをつけました。次回はベルのお話です、こんな感じに交互に場面を書いていこうかと思います。

原作とは異なっているのでそのあたりはご了承ください<m(__)m>

次回更新は早いと思いますのでお楽しみに!

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