剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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(耐えた......僕は耐えたんだ......)


33 遠征出発

朝日が昇る中ベルは一人打ち震えていた。一晩中アイズが近くで眠る中欲望に負けずに一心不乱に調合に明け暮れた。そうでもしていないといくらベルといえど欲望に負けていたかもしれない......寝返りをうつ音や寝息が聞こえる、常人ではとても耐えられないだろう。

 

(アイズさんは......まだ寝てるな。今日は遠征に行く皆さんの朝食を作らないと。ベートさんにも頼まれたし頑張ろう。でもアイズさんどうしよう......)

 

アイズを自分のベッドに寝かしたまま部屋を出るわけにもいかず困り果てるベル、すると限りなく控えめなノックの音が聞こえた......

 

 

 

 

大きなあくびをしながら朝早くロキは男子棟のベルの部屋へと向かっていた。遠征に行く前にベルのステイタスを確認したいというリヴェリアママからの依頼である。

 

(ウチもひとのこといえんけど皆過保護やなーまあベルを気にする気持ちはわかるで。初心でかわええし、起こすのは寝顔堪能してからでもええやろ......役得や)

 

ぐふふっと悪い笑みを浮かべながらベルの部屋にたどり着いたロキはベルを起こさないようにノックをした......

 

 

 

ベルが扉を開けると驚いた表情のロキが立っていた。

 

「ロキ様!?おはようございます、こんな朝早くからどうしたんですか?」

 

同じくベルも驚きを隠せないようで慌てた様子だ。扉をあけた状態でお互い顔を見合わせ立ち止まる。

 

「おお!?ベル、おはようさん。ようこんな朝早くから起きてたなー、リヴェリアから頼まれてベルのステイタスの更新にきたんよ」

 

寝顔を眺めるつもりがまさかの展開に多少動揺気味のロキ。

 

「ええ!?わざわざロキ様が僕の部屋まで来なくても呼んでいただければ僕が伺いましたのに」

 

主神であるロキがわざわざ新人である自分のところに来るというサプライズに動揺するベル。しかし、ロキは普段からふらふらと団員達の部屋を尋ねているので別段特別というわけではない。

 

「気にせんでええでーウチが勝手に来ただけやから。じゃあステイタス更新するで!部屋入れてやー!」

 

「あ、はい!どう......ぞ!?」

 

(ま......まずい、今はアイズさんが。どうにかして別の部屋に)

 

「ろ、ロキ様。すみません、今ちょっと部屋が汚くてですね、ロキ様を部屋に入れるわけには......」

 

ベルの表情を見るに何かある、そう感じたロキはにやぁっといやらしい笑みを浮かべた。

 

「ええからええから、ベルも男の子やもんな!何を隠しててもウチは気にせんよ?」

 

(むふふふふ、ベルは何を隠してるんやろなー。年頃の男の子やもんな、何かウチに見せられへんような本とかあっても面白いやん。何がってもおかしないで......子供の成長を見守るんも親の務めやもんな!)

 

ぐいぐいと扉の隙間を広げようとするロキ、それを阻止しようとするベルだが主神であるロキを無理やりどかすわけにもいかず部屋の中が見えるくらい扉が開いてしまう。

 

瞬間ピタっとロキの動きが止まった。

 

(んん!?今ベルのベッドに誰かおらんかったか!?ちょっっさすがにウチも想定外やで)

 

ベルはだらだらと冷や汗をかきはじめる。

 

「あああああの......こここれはですね......」

 

「んー......うん、ウチは何も見なかったでぇー」

 

(ウチのベルがまさか女の子部屋に連れ込むなんて......いやいやいや、女の子とは断定できん。男友達かもしれんしな。うん、きっとそうや。ベルの部屋で遊んでたんやな)

 

ベルとロキを包む何とも言えない雰囲気。ただあまりにも大声でしゃべっていた為熟睡していたベッドにいる人物が起きてしまったようだ。部屋の中からごそごそと音がする。

 

(まずい、声をだされたらっっ)

 

「んん、ベル......どこ......?」

 

アイズの寝ぼけたような声が聞こえる、いつもの天然ではあるが凛々しいアイズではなく甘えたようなかわいらしい声だ。

 

 

ビクっとベルの身体が震えた。恐る恐るロキの方に目を向けると最高に悪い笑顔で尋ねられた。

 

「ベル、もしかして中におるのアイズたん?」

 

「......はい」

 

ぷるぷると震えるベルを横に移動させガチャっとドアを開けた。そこにいたのは美しい金色の髪を朝日によってキラキラと輝かせ、若干はだけたパジャマ姿のアイズだった。

 

「萌えーーーーー!へぶぅ」

 

叫びながら飛びかかったロキはアイズの裏拳によって吹き飛ばされた......

 

ベルの部屋で三人でお茶を飲みながら一息つく。

 

「なんや、そういうことかいな。二人で話している最中にアイズが寝てしまったと」

 

コクコクと二人が頷いた。

 

「アイズたん、いくらベルでも男の子の部屋でそんな隙みせたらあかんで?」

 

アイズはお茶の入ったコップを両手で持ちながら首をかしげた。

 

「なぜ?」

 

「......アイズたんはホンマに天使やな。なあベル?」

 

昨晩自分の欲望に負けそうになったベルの顔は青くなったり赤くなったり忙しそうだ。

 

「まあとにかく、ステイタス更新するで。アイズたんも遠征行く前に確認しときたいやろ」

 

さすがのベルも最初の頃とは変わり、ステイタス更新にも慣れてきていた。ロキのセクハラまがいの手つきもうまくいなし更新を終えた。

 

毎回の事だがベルの成長速度は異常だ。この短期間で全てのステイタスがAを超えている、現時点で敏捷と魔力はSに到達していた。通常、ステイタスはどれだけ努力をしたとしてもほとんどの者がどこかで必ず壁にぶつかる。ステイタスがAに到達するものなどほとんどいない。しかしベルのステイタスの伸び方を見る限り限界が見えない、ランクアップも近いだろう。

 

「相変わらずすさまじい伸びやなー頑張ってる証拠やで」

 

そういってロキはベルの頭をなでた。アイズもベルのステイタスは何回も一緒に確認しているが驚くばかりだ。

 

「ベルは毎日私と訓練してるから、最初と比べるとかけひきとかもすごくうまくなってきたよ」

 

ベルは照れながら頭をかいている。

 

「さてアイズたん。そろそろ用意しなくてええんか?それにウチだからよかったんやけどアイズたんがベルの部屋に一泊したなんてしれたら多方面でえらい騒ぎになるで、今はまだ誰にもばれないようにせなあかんで?」

 

アイズのファン、ベルのファン、アイズとベル共通のファン、他ファミリアにいるファン、他の神々、お祭り騒ぎになる可能性大だ......

 

「わかった、また遠征から帰ってきたら二人でお茶でも飲もうね、ベル」

 

「はい!僕もアイズさんが帰ってくる頃にはもっと強くなれるように訓練します。では僕も朝食作りにいきますね」

 

(え......ウチは?)

 

「ほなまた後でなーー......」

 

去っていくロキの後ろ姿はすごく悲しそうだった......

 

 

食堂

 

すでに何人かの団員達は朝食を食べるため食堂に集まっている。ベルを含めた数人が朝食を作っている真っ最中だ。団員全員分作ることは容易ではないが慣れとはおそろしく手際よく調理を進めていた。

 

「さて、後は唐揚げをあげよう。ティオナさんが朝からがっつり食べたいって言ってたし」

 

ベルは前日から漬け込んでいた鶏肉を取り出し油で揚げはじめた。

 

ジューーっパチパチパチ

 

揚げたての唐揚げの香ばしい匂いが食堂に包まれる。

 

だだだだだっ

 

「ベルおはよーーー!からあげ食べていい?」

 

ティオナが食堂のドアを開けるとベルのところに走ってきて背中に抱きつきベルの手元を覗き込んだ。

 

「わふっティオナさん!?今揚げてる最中で危ないですよ!皆さんの分もあるのであまり食べないでくださいね?」

 

「はーい!」

 

ジュー

 

ひょいパク

 

むしゃむしゃ

 

 

ジュー

 

ひょいパク

 

むしゃむしゃ

 

数分間同じことが繰り返された......

 

「あのーティオナさん......おいしいですか?」

 

「うん!」

 

ニカっと白い歯を見せて満面の笑みのティオナ、こんな笑顔を見せられてはもう食べないでとはいいにくい。

 

ゴスッ

 

にぶい音ともにティオナの頭にティオネの拳が振り下ろされた。

 

「いたぁ、何すんのよティオネ!?」

 

腕組みをして仁王立ちをしている姉に対してティオナが抗議した。

 

「団長たちの分まで食べたら怒るわよ?私だってまだ食べてないのに」

 

頬を膨らませてぶうぶう文句をいうティオナ。

 

「ベルにちゃんと食べていいか聞いたもーん!」

 

「ベルのひきつった顔を見なさい。あきらかに困ってるでしょ!」

 

「いえいえいえいえ、おいしそうに食べていただいて僕は嬉しいですよ」

 

ベルは若干ひきつった笑顔のまま答えた。うれしいことは事実だが皆の分まで残りがあるか心配だ。

 

「ベル、あんまりこのバカを甘やかさないでね」

 

ふふっと笑みをこぼしつつティオネはティオナの頭を鷲掴みにするとずるずると席まで連れて行った。

 

みしみしと音が鳴っていたのは気のせいではないかもしれない......

 

命の危険が高い遠征前でもロキファミリアでの朝食はいつも通りだ。皆談笑しながら食事をすすめる。ちなみにベートはベルの料理を気付かれないようにおかわりをしていた。普段ぶっきらぼうなベートではあるが彼の感情はしっぽにでやすい事を皆は知っている。ベルの料理を食べた後のベートのしっぽは普段より5割増しほど元気よく振れていた......

 

 

食事もすみ遠征に行く団員達はバベル前の広場へと集まっていた。ロキファミリアのエンブレムが描かれた旗が風ではためくなか最高幹部である3人が皆の前へと進んだ。

 

シンっと静まり返る中団長であるフィンの声が響く。

 

「これよりダンジョン探索に向かう、僕らが目指すのは未到達領域59階層だ!上層での混乱を避けるため2班に分かれて行く、1班は僕、2班はガレスが指揮をとれ。合流は18階層だ。皆、ダンジョンでは少しのミスが命取りになる。気を引き締めて行動してくれ!」

 

「「はい」」

 

団長の言葉に皆が返事をした。遠征についていけないレベル1、レベル2の団員達は皆の出発を見送りに来ていた。ベルもその中の一人だ。

 

「おいベル!」

 

ベートがしっぽを揺らしながらベルの元へとやってくる。

 

「約束忘れてねえだろうな?」

 

「大丈夫です、ベートさんがいない時は僕がオラリオに残った仲間を護ります!」

 

「よし!こっちの連中はまかせろ、それとこれを貸してやる」

 

そういってベルに向かって投げたのはベートの物よりは遥かに性能としては劣るが魔法効果を吸収する能力を備えたブーツだった。

 

「ベートさんこれは......?」

 

「俺との訓練の時の反省いかして毎日反復練習してたろ?それのまあ......なんていうか......褒美みたいなもんだ。これを使えば今よりは魔力を足に溜めやすくなる、そうすりゃ意識を向けすぎなくて済むだろ。それにそれは俺が昔使ってたやつで俺はもう使わねえ。さっきは貸すっていったが気に入ったらそのままおまえにやる」

 

ベルの足とベートの足ではサイズが全く違う、それなのにベル足のサイズにぴったりということは......不器用なベートなりの気遣いだったのかもしれない。

 

「ありがとうございますベートさん!大切に使わせていただきます!ベートさんもダンジョン気を付けてください」

 

いいたいことだけいって去っていくベートの後ろ姿にベルはお礼をいった。その言葉を聞いたベートは片手を一度あげてダンジョンへと向かっていった。

 

ガレス、フィン、リヴェリアには立場がある為ベル一人の為に来ることはなかったが黄昏の館で会った時にみんなを頼むと声をかけてもらっていた。リヴェリアからはポーションの入ったリュックをもらい決して無理しすぎるなと念をおされた。

 

他の団員達からも声をかけられ頭を撫でられふらふらしながらもベルはアイズを探していた。

 

「アイズさん!」

 

「ベル!よかった、ダンジョンに入る前にベルに会っておきたかったの」

 

「僕もアイズさんを探してまして......これを受け取ってもらえないでしょうか?」

 

そういってベルが取り出したのは先日アイズにプレゼントする為に全財産をはたいて購入した幸運の首飾り(ラビットシンボル)を手渡した。

 

「私に?かわいい......ありがとうベル、大切にするね」

 

「でもごめん、私ベルに何も用意してない......」

 

「いえいえいえ気にしないでください!それよりつけてみてください!」

 

ベルから手渡された首飾りを身に着けようとするがうまくつけられない......

 

「ベル、私にこれをつけてくれる......かな?」

 

自分で上手くつけられす恥ずかしそうに赤面してもじもじするアイズ......

 

「わ、わかりました」

 

アイズの後ろに回り美しい髪をかきあげアイズに首飾りを着けた。

 

「あっっ」

 

アイズが妙な声をあげた。

 

「すすすすみません、手が首に当たってしまって」

 

「大丈夫だよ、少しくすぐったかっただけだから」

 

時間が止まればいい......このままベルと二人でいられたら楽しいだろうな......

 

「じゃあ、私行くね、ベルも気を付けて」

 

「アイズさんも気を付けてください」

 

そういって別れようとした瞬間、ズキンっっ

アイズの心にどうしようもないくらいの不安がよぎった。今ここでベルと別れたら......もう二度と会えないような、そんな感覚に襲われる。

 

(なに、この感覚......)

 

ズキンズキンズキン

 

アイズの中の何かが警告を発しているのだろうか。

 

アイズが一向に歩き出そうとしない事にベルは首をかしげる。

 

「どうしたのアイズ?顏真っ青だよ!?」

 

アイズが来ないことに気が付いたティオナとティオネが迎えに来た。

 

「ティオナ......わからないけど、ベルと離れちゃいけない気がして......」

 

普段と違うアイズを心配そうに見つめる二人、

 

「ベルと離れるのが心配なの?じゃあ私がいいおまじない教えてあげる!」

 

ひょいひょいと手をふってベルを近くにこさせベルの髪をかきあげた。

 

ちゅ

 

「なななななにを!?」

 

「あら、懐かしいわね。子供の頃よくやったわよねー、再開を誓うキスね」

 

「ほら、ベルも私の額にして!」

 

「え、で......でも」

 

「いいから!」

 

圧倒的圧力に屈してぎゅっと目を瞑ってティオナの額にキスをした。満足そうなティオナ。

 

(あ......れ、意外にドキドキする)

 

自分でしたのにもかかわらず赤面するティオナ、ふるふると頭をふってアイズをうながした。

 

「さ!アイズも!」

 

アイズがベルの正面に立った。

 

ぷるぷるぷるぷる

 

「ああああの、アイズさん!?」

 

ガシっとベルの肩を折れるくらい掴み額に口を近づけていく。

 

ちゅっ

 

ぼふっベルとアイズが赤面する。

 

「さ!ベルも!」

 

顔を赤くしながら目を瞑って待つアイズ、心臓は張り裂けんほどに鼓動していた。

 

どきどきどき

 

ベルが意を決してアイズの額に口を近づけて......

 

「お前たちいつまでも何をやっている!?」

 

瞬間ばっっと二人は離れた。辺りを見渡すと他の団員は大方ダンジョンへ潜り辺りは静かになっていた。いつまでたってもこない3人をリヴェリアが様子を見に来たようだ。

 

「「「ごめんなさい」」」

 

怒り心頭のリヴェリアを目に脱兎の如く駆け出す3人。

 

「じゃあベル行ってくるね!」

 

「皆さんお気をつけて」

 

アイズの不安が消えたわけじゃない、それでもティオナのおかげで心の安定は保たれたベルからのキスは遠征から帰ってきた時に......

 

 

 




読んでいただいている皆様ありがとうございます。

やっと遠征に出発することができました。

アイズ遠征とベルの冒険の2つを書いていきたいと思います。

オリジナルの設定も入ってきますのでお楽しみください<m(__)m>


これからもよろしくお願いいたします。

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