剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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黄昏の館の門をくぐる



31遠征までの時間

ダダダダダッと黄昏の館の中から門に向けて誰かが走ってくる。

 

「アイズー!ベル!聞いてよーー!」

 

「まてコラ馬鹿ゾネス!」

 

ティオナとベートが追いかけっこ?をしているようだ。

 

 

「ん、ただいまっ...む」

 

「ただいま帰りましっっわぷっ」

 

レベル5の脚力を十分に発揮した体当たり...もとい激しい抱擁...やはり体当たりのような突進を二人に向けて放った。ベルに直接ぶつかると骨が折れかねないのでアイズが上手く衝撃を吸収しつつベルを護った...ティオナは二人に抱き着いたままベートにド貧相呼ばわりされたことをチクっている。

 

「ベル!ベルは胸の大きさなんか気にしないよね!?」

 

ベルはティオナが至近距離まで顔を寄せてくるので赤面している...

 

「ええ!?ええと...たしかおじいちゃんは...」

 

(ベルよ...巨乳もいいが貧乳もまたいい...一番大切なのは感度じゃ!」

 

「おじいちゃんが大事なのは感度だっていってました!」

 

「「!?」」

 

ベートとティオナが固った...アイズは首をかしげている。ベルも意味は分かっていないようで固まってしまった二人を不思議そうな顔をして見ていた。

 

(ベルってこんなに大胆だったの!?やばー不意打ちされて顏赤くなってないかな...あたし感度はティオネよりいいと思うんだけど...)

 

(おいおい...ベルの爺さんは孫になんてこと教えてやがる...あの面見る限り意味分かってねえし。せめて意味まで教えとけよ...そうだ!)

 

「おいベル、それロキにもいってやれ。あいつ泣いて喜ぶぜ」

 

ベートはロキの姿を想像して腹を抱えて爆笑している、ティオナはまだ成長する可能性もあるが不変である神のロキは体型が変わることはない...今更ながら理解したアイズも顔を赤くしていた。ベル一人がよくわからず頭の上に?マークが浮かんでいる。今日の座学の時にリヴェリアに質問してみようとベルは思った。

 

余談ではあるが夜にリヴェリアに相談したところ、ベルにふざけたことを教えた奴を私が説教するとお怒りだったようだ...

 

ロキファミリアは今日も平穏である...

 

黄昏の館談話室

 

暖炉の火がパチパチと音を立てて燃え魔石で作られたランプの光が談話室を照らしている。団員達も各々の時間を過ごしていおり談笑する者や読書をする者など様々だ。

 

「レフィーヤ、ちょっといい?」

 

アイズ親衛隊達と今後の活動について話していたレフィーヤにアイズが声をかけた。

 

「ひゃい!あああアイズさん!?なんの御用でしょうか?」

 

驚いてソファから転げ落ちそうになりながらレフィーヤがアイズに聞き返した。

 

「んと...私達は後少しで遠征に行っちゃうでしょ?だから私がいない間この前の3人にベルとパーティーを組んでもらえないかお願いに来たの」

 

レフィーヤが自身の後ろを振り返るとリリー、刹那、ルナが歓喜に打ち震えていた。まさか憧れであるアイズに頼みごとをされるなんて...しかしアイズの代わりにベルとパーティーを組むという重要性を3人は気が付いていない...

 

「ウチら...我々なんかでよろしいんですか?」

 

りりーが3人を代表してアイズに確認をとった、他の2人も嬉しくはあるがプレッシャーも多くあることに今更ながら気が付いたのだ。アイズがこれだけ目をかけているベルに何かあったらと考えるだけで吐きそうだ...

 

「大丈夫だと思う、皆の訓練の様子は見ていたから。上手く連携がとれているね、だからベルを加えた4人での連携も見てみたいの。もちろん相手は私がするけど...いいかな?」

 

「「「アイズさんに直々に指導していただける!?」」」

 

 

3人は知っていると思うがベルと訓練をしている時のアイズは鬼だ...ベルと同じように他の3人に対して訓練を行おうとしているのなら3人は地獄をみることになるだろう。

 

「じゃあ今から用意して訓練所に行こうか。ベルはこれから私が呼んでくるから」

 

「「「はい!よろしくお願いします!」」」

 

 

訓練所

 

訓練所には完全武装した面々が集まり準備体操をしていた。しかし皆の顔は険しい、これから行われるのはアイズ・ヴァレンシュタインの訓練なのだ。下手をすれば大けがではすまない...そんな中ベルはアイズに手を引かれ訓練所へとやってきた。

 

(...あいつまたアイズさんとイチャイチャして...うらやましい)

 

ベルへの対抗心を燃やし気合を入れるリリー、刹那はアイズのことは敬愛しているが最近はベルの事も気になっているようだ。先日のベルの訓練風景をみてからというものベルのファンになりつつある、同時に新たにファンクラブを設立するかどうかをレフィーヤに相談するつもりだ。

 

ルナはというとケガもしていないのになぜか体中に包帯を巻いている...こうしていないと右目の封印がとけてしまうらしい...付き合いの長いりりーと刹那は知っているが本来のこの子は非常に恥ずかしがり屋で自分に自信をつけたいとロキに相談したところこのようになった...戦闘はそこそこ上手く立ち回るが本来の力を出し切れていないようにもみえる...

 

「アイズさんにお聞きしましたが、アイズさんのいない間僕とパーティーを組んでいただけるようでありがとうございます。僕皆さんの足手まといにならないように頑張ります」

 

そういってベルはぺこりと頭を下げた。

 

ちなみにであるがベルのステイタスは現在の時点でロキファミリアのレベル1の中で5本の指に入る。技術力のみでみたらリリーよりも確実に上だ。ベルが他の3人に劣っているとすれば多人数での戦闘経験と実際にモンスターと戦った数くらいなものだ。それだけベルは毎日死ぬ気で訓練を行っている。

 

「ウチはリリー・アルトレアだ。ベル、後でウチと戦ってくれ。そうしたらもっとお前のことがわかると思う。ウチはアマゾネスだから...戦った方が理解しあえるはずだ」

 

実際にベルの訓練は目にしたことはあるがやはりアマゾネスの血が騒ぐのか、ベルを認めるには戦う事が一番の近道だとわかっていた。

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

頭を下げるベル。

 

「拙者は刹那と呼んでほしいでござる、拙者の方こそベルの技術には驚くばかりで...これから一緒に頑張るでござる」

 

「僕の方こそ...ええと、刹那さんの居合の技はすごく勉強になります。よろしくお願いします」

 

差し出した右手をギュッと握られたことにより赤面するあたり女の子らしい一面がみてとれる。

 

「我が名はルナ.ルウ。どこか我と同じ匂いを感じる貴様に我が真名を呼ぶことを許そう。...すまぬが我に触れることは許可できぬ。小声...恥ずかしいから...」

 

「え!?すみません最後の方よく聞こえませんでしたが...ルナさんよろしくお願いします!」

 

名前を呼ばれた瞬間顔を覆い隠すように手を広げてポーズをとった。よく見ると口角があがっているので喜んでいるようだ。

 

「自己紹介はすんだかな?じゃあまずはベルには見学してもらって3人の連携をみようか。レフィーヤは3人を見て連携のアドバイスをしてあげて。ルナはレフィーヤと同じタイプだからしっかりみてね」

 

「「「わかりました!よろしくお願いします」」」

 

アイズは闘気をベルと対峙する時よりかなりおさえて構えた。先ほどの3人の様子を見てベルと同じでは無理と判断したのだ。それでも3人はガチガチに緊張しているようにみえる...

 

パンっとリリーが自身の頬を叩いて指示を出した。

 

「ルナは後方で魔法の詠唱、刹那は居合用意。前衛はウチが務める、皆全力で行くぞ!」

 

「「はい」」

 

アイズは自身からは攻めず様子を見ている、まずはリリーが大剣を構え突っ込んできた。この感じはティオナと似たタイプのようだ。

 

(まずはウチの全力でアイズさんにぶつかってみる)

 

鞘を構えるアイズに対して両手で大剣を握り、思い切り振りかぶり叩きつけた。瞬間...リリーの脳内に浮かんだものは巨大な鋼だった。この華奢な体のどこからこんな力が出るのか不思議でしょうがない。

 

アイズは無造作に剣を振りリリーを追い込んでいく、一撃一撃が重く衝撃を受け流しきれないリリーの体にダメージが蓄積していく。だがこれでいい、リリーの目的は自分の身を挺して時間を稼ぐことなのだ。

 

(今だ!)

 

リリーは大剣を振りかぶり地面に叩きつけた、細かな石つぶてがアイズに襲い掛かる。その隙をみて力を溜めていた刹那がリリーの背後から現れ居合切りを仕掛けた。更に追撃となるルナの詠唱が完了する...

 

ルナの得意とする魔法はこのオラリオの地でも非常にレアな光属性の魔法だ。

余談ではあるがルナは黒い、や暗黒の、といった詠唱がよかったようだが詠唱は代えられないとしり落ち込んだ過去がある...

 

「集いし光、輝きの渦よ、立ち塞がりし者を打ち砕く力となれ!」

 

 

渾身の居合切りをなんなく躱されたがその勢いをころさずアイズの脇をすり抜ける刹那、その背中を鞘で一閃しようとした瞬間ルナの詠唱が完成した。

 

 

光弾乱舞(ルミナリオン)

 

アイズの周囲を光粒が覆い身体めがけて一斉に降り注いだ。一瞬驚いたような表情を作ったアイズだがしっかりと魔法を見極めて自身へ向かってくる光粒をすさまじい剣速でかき消した。

 

(うん、隙の少ない上手い連携だね)

 

リリー達は自分たちの必勝パターンを完全に打破され隙が生まれた。アイズは追撃する為にまず壁役であるリリーを倒しにかかる。大剣を構える時間は与えない、鞘が吸い込まれるようにリリーの体目がけて振るわれた。

 

ギィィン

 

「「「ベル!?」」」

 

アイズの鞘が体を捕える前にベルが白狼を滑らせるように鞘に当て衝撃を横に受け流した。

 

「うん、ベルなら来ると思ったよ。いい動きだね」

 

固まる3人を横目にアイズが微笑む。

 

「ありがとうございます、アイズさんが魔法を破った瞬間危ないと判断したので参戦しました」

 

硬直していた3人がベルの元に集まった。

 

「正直助かった。今の一撃当たっていたら立てなかったと思う。...ベルにはこのパーティーの中衛を務めてほしい、ウチは壁役だから...ベルはその敏捷を生かして臨機応変に動いてほしい」

 

「すごい速さでござる、ベルは拙者たちの中で一番敏捷が高いでござるな。それにしてもよくあの一撃を受け流せるでござるな...」

 

(かっこいい...)

 

「...ベルよ、我と魂の契約を結び我のものにならないか?」

 

アイズは最後の一言が気になったようでベルを後ろから抱きしめてさりげなくあげないアピールをしている。

 

その後隊列を組み直し訓練を続けた。ルナはレフィーヤと同様に魔法剣士になるべきか、又はこのまま魔術師特化で行くかべきか悩んでおり、最低限時自己防衛ができるように近接戦闘訓練を行った。リリーとベルは戦う予定をしていたがアイズとの訓練でお互いボロボロになり延期になったが

今回の訓練を通じて仲間としての意識は強くなったようだ。

 

それからアイズ達が遠征に向かう間毎日のように訓練は続けられた...

 

ある日の夕方

 

訓練が終了したベルはシャワーを浴びた後アイズと別れ夕暮れのオラリオの町に来ていた。アイズは一緒に行きたがっていたようだがフィンに呼ばれ渋々一緒に行くことを断念していた...

 

「えーと後はあれを買っていけばいいかな、ミア母さんに前にレシピも聞いたし上手く作れるといいけど...」

 

ベルは紙袋いっぱいにハーブや薬草を買っていた。ベルのアビリティに調合はないが簡単な調合方法を豊穣の女主人店主ミアから伝授されていた。これで遠征に行く仲間にちょっとしたプレゼントをするようだ。

 

「後はアイズさんに何か...ん?」

 

考え事をしながら歩いているといつの間にか路地裏へと侵入していた。薄暗くなりつつある街の中で一つの露店がベルの目に留まる。

 

(こんなところに露店があるなんて...)

 

不思議に思いながらも吸い込まれるようにその露店に近づいてみると珍しいアイテムが置いてあるようだ。露店にはベルには読むことができなかったが神聖文字(ヒエログリフ)で【ヴィナディース】と書かれていた。どうやらこの露店の名前のようだ。

 

「いらっしゃいませベルさん!」

 

ベルが露店に置いてある品物に夢中になっていると声をかけられた。ハッとなり顔をあげると見知った顔がそこにはあった。

 

「ええ!?シルさん!?何故こんなところに?」

 

「今日はミア母さんにお休みをいただいていまして...少々懇意にしている神様に頼まれまてお店番をしていたところなんですよ!そういえばベルさん、最近豊穣の女主人に顔を出してくれないから私寂しかったんですよ?」

 

シルがベルの手をぎゅっと握りながら顔を近づけてくる...ベルは真っ赤な顔をしながら謝った。

 

「すすすみません...最近ちょっと訓練が忙しくて」

 

小声

 

「そんなに剣姫が大事なんですかぁ...妬けちゃいますね」

 

シルは一瞬だけ目を伏せたが気を取り直して接客を始めた。

 

「それでは気を取り直して何をお求めでしょうか?この露店では珍しいアイテムを取り揃えていますよ!」

 

ベルは改めて露店を見渡すと明らかに禍々しいオーラを出している物からすごく高そうな首飾り(アミュレット)など様々なものがある。おそらく神秘のアビリティで作られた物もあるだろう。

 

「えと、僕遠征に行くアイズさんに何かお守りのような物をプレゼントしたいんですが...」

 

営業スマイルのシルの眉が一瞬だけピクつく...少し怖い...

 

「そうですね...ちなみにですがご予算はいくらほどでしょうか?」

 

ベルが少し困った顔をしている...

シルはそんなベルの微表情を読み取り一つのアイテムを取り出した。

 

「これはいかがでしょうか?」

 

シルが差し出したのは拳程の大きさの首飾りでかわいらしい兎が描かれていた。

 

「これは幸運の首飾り(ラビットシンボル)です、ちょうど30万ヴァリスです」

 

30万ヴァリスという言葉を聞いてベルの頬にツーと汗が流れる...

 

(ちょうど今の僕の全財産...何故シルさんが...いやいやいや考えまい)

 

この首飾りが気に入ったということもあるがシルさんからの圧力で断るという選択肢がなかった。

現在手持ちがなかった為証文を書きシルに手渡し首飾りを受け取った。

 

後日シルにしっかりと支払った...

 

「ベルさん、たまにはお店に顔を出してくださいね!私もリューもお待ちしておりますので」

 

「はい!また寄らせていただきます。それよりシルさん、こんな場所でお一人で危ないんじゃ...」

 

人気のない薄暗い場所に女の子を一人にさせるわけにはいかない。

 

「それは大丈夫です。私ももう帰りますし、懇意にしている神様のファミリアの方がどこかで護衛してくれているはずです。私に何かしたらその方が来て相手の首が飛びますから」

 

笑顔でものすごく怖い事を言うシル。なんでも豊穣の女主人のアーニャのお兄さんのようですごく強いようだ...

 

「あ、ベルさんなら手を出しても危害を加えることはないと思いますよ?...試してみますか?」

 

どことなく普段より妖艶な雰囲気のシルだが万が一首を飛ばされたら...なにより優しいベルの事だ。女の子に強引に何かするなんてことはありえない。

 

「冗談ですよ、それではベルさん。またのご来店をお待ちしております」

 

シルがぺこりと頭を下げた。ベルも頭を下げ、小箱に入れてもらった首飾りを抱え黄昏の館へと帰還した。

 

 

遠征前日の深夜

 

ベルは自室で先日購入したハーブと薬草を乾燥させたものをすり鉢ですり潰していた。

 

ゴリゴリゴリ

 

(明日の朝までに作らないと...)

 

コンコン

 

ベルが集中して作業をしていると控えめなノックの音が聞こえた。

 

「はい!ええと、どちら様でしょうか?」

 

ベルが扉を開けると目の前にパジャマ姿のアイズが立っている。

 

繰り返すが時刻は深夜...

 

「ベル...入っていいかな?」

 

...二人の時間が始まる...

 

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます。

今回遠征に出発まで書こうかと思ったんですが、長くなりそうなので一度区切りました<m(__)m>

アイズさんとベルのむふふな展開は...ないと思われます笑

活動報告にアンケート設置してありますので時間がありましたらアドバイスお願いします<m(__)m>

これからもよろしくお願いいたします。

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