剣姫と白兎の物語   作:兎魂

28 / 60
ベルは夕食後リヴェリアと共に図書室へと向かった。


28 リヴェリアの座学とアイズの料理

黄昏の館、最奥にある大きな扉を開けるとそこはロキやリヴェリアが収集した本がずらりと並んでいる。ここの図書室は常に鍵がかけられており管理はリヴェリアが行っている。

 

図書室の中にはベルでは読むことができない言語で書かれている物や古く年代を感じさせる物が多くある。

今回リヴェリアが使用するのはロキファミリアの団員達が今まで実際にダンジョンに潜り検証した結果を元に自作した教本である。

 

中には各階層の地図や出現するモンスターの特徴、レアな鉱石が発掘された場所など情報がびっしりと記載されている。この情報量をヴァリスに例えるなら計り知れない金額になることだろう...

 

教本は上層、中層、深層と分かれており今回は上層用の教本を使用する。ベルの理解力を見つつ知識を叩きこんでいくつもりのようだ。

 

魔石を使用したランプの明かりをつけベルを椅子に座らせた。凝った意匠が施された椅子は年代を感じさせる、ギシッと音をたててベルは席に着いた。リヴェリアもベルの対面に座ると教本を開いてダンジョンで生き残る術を教えていく。

 

「ベルよ、まず大前提だが文字の読み書きはできるか?」

 

この世界では文字の読み書きができない者もいる。オラリオのような大都市では文字の読み書きができる者が多いが郊外に住んでいる者の中には読み書きができない者がいるのが現状だ。

 

「大丈夫です。一通りの知識教養はおじいちゃんに習いました!神聖文字(ヒエログリフ)は読めませんが...]

 

「うむ。いい祖父を持ったな、神聖文字(ヒエログリフ)は読めればそれだけ知識が広がるが今はいいだろう。我々が遠征に行くまでにこの上層用の教本全て覚えてもらうとする。来週にはアイズとダンジョンに入ってもらうことになるからそれまでに基本的な知識はあった方がいいな。知識と実際に経験したこと、この二つがあれば緊急事態(イレギュラー)さえ起こらなければ問題はないだろう」

 

ベルは厚い教本を目にして冷や汗が止まらない...

 

「よ...よろしくお願いします...」

 

「まあ、そう気を張ることはない。では教本の一ページ目を開いてくれ、まずベルはダンジョンがオラリオのどこにあるか知っているか?」

 

ベルは即座に答える。

 

「バベルの地下です!ウラノス様が祈祷を行うことで現在のダンジョンを維持しているとおじいちゃんがいっていました」

 

リヴェリアはうんうんと頷きながらベルの話を聞いている、本当に息子の勉強をみている母親のようだ。

 

「よろしい、いいぞベル!では次はダンジョンの地図を見せてやろう」

 

リヴェリアは教本に折りたたんで入れてある年季の入った地図を机の上に広げた。この地図一枚書くのには膨大な時間と労力をようする。ちなみにダンジョンでは地下に降りれば降りるほどモンスターは強くなり一つの階層も広く複雑になっていく。

 

「これが地図!!...これだけ見てもよくわからないです...すみません...」

 

ベルはまだダンジョンに潜ったことがないのでいまいちピンとこないようだ、次のページに書いてあるモンスターの方が興味があるようでリヴェリアが苦笑している。

 

「地形を覚えるということは非常に重要になってくるのだぞ?ダンジョン内では様々なことが起きる。突如大量のモンスターが出現するモンスターパーティーなどが代表的だな。そのような不測の事態が起こった時に現在の自分の位置や逃げるルートが頭に入っていれば対処しやすいからな」

 

ベルは教本を見ていたが顔をあげリヴェリアを見つめながら尋ねた。

 

「リヴェリアさんもダンジョンでそういうことが起こったことがあるんですか?」

 

「私ももう大分長い間冒険者をやっているからな...何回もあるさ。実際に今生きていられるのが不思議なくらいな体験も何度もしている」

 

無言で聞いているベルだがその表情は険しい...

 

「あの先ほど言っていた遠征って...」

 

「ロキファミリアは探索系のファミリアだ。そして現在目指しているのは未到達領域の59階層、我々がまだ誰も足を踏み入れていない未知の階層だ。正直な話犠牲者が出る可能性も0ではない」

 

ベルの顔が更に険しくなる。

 

「あ...あの...遠征はレベルいくつから参加できるんでしょうか?」

 

リヴェリアはベルが何をいいたいかわかり頭を撫でた。

 

「遠征に参加できるのはサポーターとしての参加でも最低レベル2の上位以上だ。ベルよ、お前はこの先必ず強くなる。ロキファミリア副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴが太鼓判を押そう。しかし焦って無理をすれば必ず危険が伴う、今は自分にできることを精一杯やることだ...だがお前の気持ちはうれしく思うぞ」

 

「はい...僕今は頑張って勉強します!」

 

ベルは無理やり笑顔を作って返事をした。

 

(それでも...遠征へ向かう皆さんに何かできることはないのかな...)

 

「よし!その調子だ。私もビシビシ指導してやるから覚悟しておけよ!それでは次のページだ」

 

その後深夜になるまでリヴェリアから指導を受け日付が変わる頃ベルは就寝した...

 

(誰よりもはやく...アイズさんや皆さんに追いつきたい...)

 

 

 

 

時は遡り夕食後のアイズ

 

「「レフィーヤとアイズのお料理教室ーー!」」ドンドンドンパフパフパフー!

 

エプロンを着けたアイズとレフィーヤがキッチンでポーズを決めていた。

 

「...レフィーヤ、これでいい?」

 

アイズが右手にお玉を持ち困惑した表情でレフィーヤを見つめている。

レフィーヤ以下3名はあまりのかわいさに鼻を押さえている。

 

(危ない危ない...鼻血がでそうになるなんてなんて破壊力...まさか本当にやっていただけるなんて)

 

今回はレフィーヤを先生としてアイズ、リリー、刹那、ルナが指導を受けるようだ。無論全員エプロンを装備している。

 

「アイズさんは何か作りたい物はありますか?それを踏まえて食材を選びたいと思うんですが...リリー達も何か作りたい物があればいってください」

 

「んと...私はお弁当を作ってあげたい...なんて考えてる。訓練の合間にでも食べられるから」

 

「ウチもそれでいいっす!」

 

「拙者おにぎりなら得意でござる!」

 

「...私を満たせるのは煉獄の業火で焼かれた哀れな野菜たちだけ...」

 

「...アイズさんとリリーはお弁当、刹那はおにぎり、ルナは...えーと野菜炒めでいいですね?じゃあみんなでお弁当を作ってその中におにぎりと野菜炒めを含めましょうか。他のメニューは作りやすいものを私が選定しますね!」

 

とりあえず今回レフィーヤはおにぎり、野菜炒め、からあげ、卵焼き、タコサンウインナーを入れることした。まず最初に野菜炒めをつくろうと食材を用意した。

 

「それではこれから調理を開始します。ではまずこのキャベツの千切りからしたいと思いますがアイズさん千切りはわかりますか?」

 

アイズは少し首をかしげたがハッ!となり首を縦に振った。

 

「ではアイズさんお願いしてもいいですか?」

 

「ん、わかった」

 

(千切り...千切り...これでいいよね)

 

千連撃(サウザンドスラッシュ)

 

ザシュザシュザシュ

 

アイズは庖丁を持つとすさまじい速度でキャベツを切り刻んだ。近くで見ている4人はアイズの腕の振りが少しも見えない...茫然と眺めること十数秒、目の前にあったキャベツとまな板は一ミリのずれもなくおそらく千等分されていた...

 

(あれ...調理の時ってこんなザシュっとか音しましたっけ...普通トントントンとかでは...)

 

ドヤァっと庖丁を持ったアイズが4人の方に振り返った。その顔をみてもしかしたら千切りってこういうことなのかな...と思いそうになったがそんなことはない、こんなにも薄く切れているキャベツなんてめったに見れるものではないが...

 

「あ...あのーアイズさん、大変申し訳ないんですが千切りってこういう風にやるんです」

 

心底申し訳なさそうにレフィーヤが庖丁を持ちトントントンっとキャベツを千切りにした。アイズは茫然とレフィーヤの調理を見ていたが、すごく気まずそうな顔をしている。親衛隊の面々は珍しいアイズの表情に興奮気味だ。

 

その後も...

 

「あーアイズさん!唐揚げ焦げてます!」

 

「ご...ごめんレフィーヤ」

 

唐揚げを盛大に焦がし...

 

「アイズさん!卵の殻が入ってます...」

 

「ご...ごめんレフィーヤ」

 

卵を上手く割れず握り潰し...

 

「アイズさん、タコサンの足が...」

 

「ご...ごめんレフィーヤ」

 

タコサンウインナーの足を切断した...

 

(料理って難しい...階層主倒す方が簡単かもしれない)

 

アイズは改めて料理の難しさとベルがいかに料理の技術力が高いかを認識した。

 

(アイズさん、ごめんなさい。私の教え方が悪いばかりに...)

 

レフィーヤは先ほどの惨状を目にし責任を感じていた。何か簡単な料理はないかと必死に考えている。

 

(あの後おにぎりも作ってもらいましたが力加減が上手くいきませんでしたしどうしたらいいでしょうか...)

 

そこに親衛隊から提案があった。先ほどから3人固まって何やら相談しているのはわかっていたが何かいい案があるのであろうか。

 

「僭越ながら、私たちも考えたんですがサンドイッチではどうでしょうか?」

 

「なるほど!いい案ですね!サンドイッチなら簡単ですし中身をジャムにすればほとんど調理は必要ありませんから!」

 

少し離れてところで体育座りをしてレフィーヤ達をチラチラ見ていたアイズを呼びに行き手順を説明した。

 

「アイズさん!これなら簡単に作れますしおいしく食べられます!まず先日ティオナさんが18階層から大量に採取してきた果実があるんですがこれをすり潰して味を調えてジャムを作ります」

 

アイズが一つ一つ慎重に果実をすり潰し砂糖などで味を調えていく。

 

「味見してみてください!」

 

自分で作ったジャムをスプーンですくい口に入れる。

 

「!甘くておいしい!」

 

先ほどの沈んだ顔とは一転し笑顔になるアイズ。

 

「それでですね、この食パンというパンにそのジャムを均一になるように塗りまして、半分に切って完成です!」

 

「こう...かな。できた!」

 

「「「完成ーー!!」」」

 

固唾をのんで見守っていたりりー、刹那、ルナが歓声をあげた。先ほどの惨状を見ていたので調理といえるかわからないほど簡単な工程だったがそれでも無事できてよかったと思っている。

 

「ではさっそく皆で食べてみましょうか!」

 

「「「「いただきまーす」」」」

 

頑張って作ったものは普段食べている者よりおいしく感じるものでみんな満足そうである。親衛隊の面々はもしベルにあったらアイズの初めての料理を食べたのは自分たちだと自慢してやろうと思ったがむなしくなりそうなので止めることにした。

 

「皆ありがとう!明日お昼にまた作って午後の訓練の合間にベルを誘ってみる!」

 

こうしてレフィーヤのお料理教室は終了した。ベルはどんな反応をするのであろうか...

 

 

 

バベルにあるギルド職員専用資料室

 

「んーたしかこの辺りにで見たことがあるはずなんだけどなー」

 

ギルド職員であるエイナはある家名について調べていた。ロキファミリアの新人ベル・クラネルの家名だ。

 

「ダグラス・クラネル、ゼウスファミリア団長であり剣神と呼ばれるほどの剣の使い手、当時オラリオ最強と謳われていた。ある村で黒龍、後の隻眼の龍の襲来を受けゼウスファミリアは壊滅。ダグラス・クラネルもこの時死亡したとされているがしかしなぜか遺体はなかったとされている...うーんこの資料じゃないかな、何かもっと昔に見た記憶が...」

 

更に資料を探していると古い資料の棚にいきついた。

 

「これはまだ神達が下界に来る前の...神の恩恵というものがなく精霊達が人間と共にモンスター達と戦っていた記録...これだ!思い出した!」

 

その中にたしかにクラネルという家名が書かれていた。精霊の血を体に宿した一族ヴァレンシュタイン、その一族を守護する一族の男子だけがクラネルという家名を受け継ぐことができると。ヴァレンシュタインの家名はこのオラリオでも有名だがいつのまにかこのクラネルという家名は忘れ去られていたようだ。この話はウラノス以外に知る者はいない、神ゼウスですら知らない真実であった...

 

 




いつも読んでいただいている皆様ありがとうございます<m(__)m>

今回はベルの座学とアイズの料理教室でした。

ちょっとだけエイナさんも登場しましたね(ー_ー)!!

次回はアイズとベルの魔法の名前が決まったのでロキから発表します

挿絵も入りますのでお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。