お風呂で汗を流した後アイズ達はベルと合流し食堂へと向かった。
「間に合ったねー!」
肩にタオルをかけ濡れた髪から水滴をしたたらせ半分下着のような恰好でティオナが皆に笑いかける。
体型は一部貧相だがまごうことなき美少女であるティオナの無邪気な笑顔は反則級のかわいさだ。
余談ではあるがロキファミリアの幹部達の人気はオラリオでは非常に高い、それぞれにファンクラブができているほどだ。ティオナはアマゾネスにしては貧相な体つきをしているが、愛らしく無邪気な笑顔と巨大な武器を振り回すギャップが人気の秘訣でもある。
「は...はい...そうですね」
ベルはどこに視線を向けていいか分からず俯きながら返事をした。
当然のことながら女性に対してあまり耐性のないベルは真っ赤な顔をしている。
この数日間で多少は耐性が付いてきてはいるがまだまだ先は長い...
「ちょっとティオナ!もう少しちゃんとした格好をしなさい!第一級冒険者としての自覚を...」
怒ろうとした瞬間脱兎のごとく駆け出し逃げる妹をティオネは溜息をつきながら見送った。
食堂に入ると黄昏の館にいるほぼ全ての団員がそろっていた。フィンの隣でベートが机に突っ伏しているのを横目にベルはアイズとティオネと共に開いている席に着席した。
「それじゃあ皆、食事を始めよう。いただきます」
今日はフィンの掛け声で一斉に食事が始められる。
ちなみに本日の朝食のメインはオラリオ産の卵を使ったオムレツである。ふわふわのオムレツに特性ソースをかけて食べる。ロキファミリアの今日の料理担当はレフィーヤだ。彼女は料理の腕前には少々自信があり遠征時ではよくアイズ達とともに食事をとっている。
「アイズさん!今日の朝食はどうですか?」
アイズの隣までやってきたレフィーヤが笑顔で話しかけつつ隣のベルをけん制している。
同じ料理が得意という点で張り合っているのであろうか...
「ん、おいしいよ」
「よかったですー!アイズさんに喜んでいただけてうれしいです」
「ええと...この方は?」
ピクっと長い耳が反応する。
「私はレフィーヤ・ウィリディス。レベル3です、あなたの試験は拝見していました。これからは同じファミリアとしてよろしくお願いいたします。ただし...自分の立場をもう少し理解してください。オラリオでもトップレベルのアイズさんに直接指導を受けているということがどれほどのことなのか」
小声
「私だってほとんど見てもらったことないのにうらやましすぎです...」
「はい!よろしくお願いします。やっぱり僕アイズさんに指導受けない方がいいんでしょうか...」
しょんぼりと肩を落とし少し涙目になりながらレフィーヤを見上げる。ベルの紅い瞳がレフィーヤの瞳と重なった。
(う...少し言い方がきつかったでしょうか...それにベルは私より年下だということですし。アイズさんのことは置いといてもう少しお姉さんらしくしてあげた方がいいですかね...それにベルに優しくしておいた方がアイズさんとの仲もよくなるかもしれないですし)
「いえ、アイズさんが直々に指導するといっている以上ベルにはそれだけ期待しているということです。それと私はベルよりお姉さんなので何か困ったことがあれば頼ってもいいんですよ?」
レフィーヤの言葉を聞きベルが笑顔で答えた。
「ありがとうございます!ええと...レフィーヤお姉ちゃん?」
ぞくぞく...レフィーヤに衝撃が走った。
(お姉ちゃん...わ...悪くない響きですね。アイズさんの事を除けば外見は中性的でかわいらしいですしそう呼ばれても...でも私はアイズさんの親衛隊長として...ハ!)
頬に手をあててわたわたしているレフィーヤをベルの隣でアイズとティオネが微妙な顔で見ている...
「レフィーヤ...喜んでる?」
「そそそそそんなことありませんよアイズさん!ベル!いくら年上といってもなれなれしいですよ!普通に呼んでください!」
真っ赤な顔をしたレフィーヤが手をばたばた振りながら否定した。
「そ...そうですよね...ごめんなさい。僕物心ついた時から家族はおじいちゃんしかいなくて...兄弟がいたらな、なんて思っていたので...」
感情の急降下と急上昇を繰り返すベル。周囲の空気も湿っぽくなってしまった。以外にさびしがりやな面もあるベルは家族というものに飢えているのかもしれない...
「なになにー?ベルお姉さんが欲しいの?じゃああたしがなってあげるー!私もベルみたいな弟だったら大歓迎だよー!」
湿った空気をどこからか話を聞きつけたティオナがぶち壊してくれた。座っているベルを後ろから抱き絞め髪をもふもふと撫でまわすと、ベルの表情は照れながらもぱぁぁと明るくなった。
「あら、ティオナの弟なら私の弟でもあるわね。私の事も姉だと思ってくれていいのよ?」
(...そんなこといわれると私がすごい悪者みたいじゃないですかぁー...)
「ありがとうございます!ティオナお姉ちゃん!ティオネお姉ちゃん!」
ぞくぞくぞく...二人の体に衝撃が走る。
((わ...悪くない...むしろベルに呼ばれると気持ちいいかも...))
ベルに姉呼ばわれされたことが新鮮で普段は落ち着いた雰囲気のティオネも機嫌を良くし、もふもふもふとベルの頭を撫でまわす。アイズも頭を撫でるのに加わりわいわい騒いでいると騒ぎを聞きつけロキとフィンが様子を見に来た。
「なんやなんや、面白そうな話しとるやん。ならウチらもベルの家族やんな、フィンがお父さん、リヴェリアがお母さん、ガレスがおじいちゃんやんな。んでベートがお兄ちゃんや!アイズたんわ...」
にやりと悪い笑みを浮かべながらアイズの方に視線を向けると他の皆もアイズに視線を集中させた。アイズは俯いて何か言っている。
「私は...ベルの...ごにょごにょ」
「ん?なんや?アイズたん聞こえへんでぇー」
ロキはにやにやが止まらない。
「んと...ベルは私の英雄になってくれるっていったから私はベルの...ごにょごにょ」
(くぅーーーー、アイズたんかわいすぎるでぇ!ベルもアイズたんもウチの嫁や!)
「ロキ、その辺にしておかないと嫌われるからね?」
こほんっとフィンが咳払いをしてベルと向き合った。
「いいかいベル。ここにいる皆は同じロキの眷属で家族だ。だから君はこのオラリオでも一人じゃないよ」
団長であるフィンの言葉に食堂いた他の団員達も皆頷いた。アイズ親衛隊の面々もアイズのことを除けばベルを悪く思っている訳ではない。先ほどのアイズとのやり取りを悔しそうに見ながらも団長の言葉には頷いていた。
「皆さん...本当にありがとうございます。僕は幸せ者です、オラリオに来てこんなにたくさんの
ベルも決意を新たに訓練を行う予定だ。そうこうしているうちに朝食も終わり数人を残して食堂から退室していった。
「ベル!ステイタスの更新するでー!本来なら毎日やった方がええんやけどウチのファミリアは人数多いさかい順番でやってるんよ。ほな服脱いでそこの椅子に座ってなー」
現在この場にいるのはロキを含めた数人の幹部達だ。本来ならステイタス更新に他のメンバーが立ち会うことはまずないがベルの初めてのステイタス更新ということでスキルの関係もあり立ち会うことにしていた。皆ベルのステイタスを楽しみにしている。
「えと、皆さん見ているんですか?ちょっと恥ずかしいというか...」
「むふふ、ベルはかわええなーそんな恥ずかしがらんとはよ脱いでやー」
皆に見られているのを気にしながらではあるがもそもそと上着を脱ぎ上半身裸になった。真っ白な雪のようにきれいな肌をしている。
「んーこの間も思ったんやけどベルはきれいな肌しとるなー...ぐふふ」
ロキがいやらしい手つきでベルの背中を撫でまわしている。しかし...背後からの割と本気の殺気を感じしぶしぶステイタス更新を開始した。指先に針を刺し自らの血でベルの背中にステイタスを刻んでいく。
(な...なんやこのステイタスは...こないな上昇値今までみたことあらへん。いくらレベル1やからってなー...これがベルの
目を見開いたまま固まるロキだがなんとか気を取り直して紙にステイタスを書き写していく。
「ベル、これが今のベルのステイタスや!」
そういってベルに紙を手渡した。上から順にステイタスを確認している様子だがいまいち反応がない。それもそのはず、ベルは他人のステイタスを見たことがない為この上昇が正常か異常なのかが判断できないからだ。ベルの持っている紙を覗き込んだ面々が先ほどのロキと同様に絶句した。通常どんなに過酷な訓練をしたとしても上昇値はたかがしれている、ましてベルはアイズと共にオラリオの町を回ったことやユニゾン魔法を試したこと。今朝方ベートとアイズと訓練をした経験しか積んでいないのだ。それなのに全ステイタスが平均100ほど上昇している、仮にこの調子で上がり続けたなら一か月もしないうちにレベル1でもトップクラスのステイタスになるだろう。しかし、ステイタスは上昇すればするほどその数値は上がりにくくなるのが一般的である。はたしてベルのステイタスはどのようになっていくのか...
「あのー皆さんどうしたんですか?僕のステイタスって何か変なんでしょうか?」
その場にいた全員が無言で考え込んでいるという状況にいたたまれなくなりベルが不安の表情を浮かべていた。幹部達はステイタスとベルの顔を交互に見て戸惑いの表情をうかべている。それもそのはずここにいるのは最低でもレベル5である。ロキに何回もステイタスを更新してもらっている中でこれほど上昇した経験はない。まさにイレギュラーが目の前で起こっていた。
「皆君のステイタスの伸びが大きくて驚いていただけさ。その伸びの分、ベルがどれだけ真剣に強くなろうとしているかがよくわかるよ、そうだよね皆!」
他の幹部達、特にティオナあたりがベルのスキルのことを話してしまいそうだった為フィンが皆に問いかける形で話をした。ベルのスキル
「今ベルは成長期なんや、今日の朝みたいにアイズたんと特訓してればどんどん成長できるで!」
「はい!頑張りますロキ様!アイズさんこれからも一緒に特訓していただけるでしょうか?」
「...うん!一緒にがんばろう」
(あのステイタスの上がり方は...本当に私たちに追いつく日も近いかもしれない。でも急激に上がり過ぎてベルの体は大丈夫なのかな...)
アイズは困惑した表情をしていたがベルの笑顔の前に考えるのを止めた。
「これからベルはアイズたんとギルドやんな、しっかり説明聞いてくるんやで!」
「ベルとアイズはギルドに行くのか、私も少々ギルドに用事があるから同行しよう」
「リヴェリアとその二人が並んでたらホンマもんの家族に見えるから止めた方がええと思うでぇー」
ロキが爆笑している。リヴェリアはロキを人睨みすると真剣な顔でベルに尋ねた。
「ベル、私のような者は女として見れないか?」
神が嫉妬するほどの美しさを持つリヴェリアである。そんなリヴェリアに至近距離で見つめられて固まるベルは必至で祖父がいっていた言葉を思い出していた。
(ベルよ、年齢などをきにしている女性に対しては直球で伝えるのが一番じゃ。凝った言い方など不要、自分の思っていることを素直に言えばよい!)
(お...おじいちゃん...)
「ええと...リヴェリアさんはすごく美人で...すごくいい匂いがして...大好きです!!」
「「なっっ...」」
「ひゅーベルいうねぇー!」
まさかのベルの発言にりヴェリアとアイズが固まる。エルフの王族という立場におり、このオラリオの地でも上位に位置するリヴェリアに面と向かって大好きなどと言える度胸があるものなどいない。故に人生で初めての告白を受けたわけだ。わずかに頬を高揚させて固まるリヴェリアにベルが追撃する。
「お母さんみたいで!」
(ああ...ベル...そないにあげてからおとさんでもええやん...)
周囲になんともいえない雰囲気が漂う中以外にもリヴェリアは平気な顏をしており満足しているようだ。
(好き...か。久しぶりにいい気分にさせてもらった。私はアイズとベルの母役で十分幸せだからな)
「さあ、この話はお終いだ。アイズ、ベル、ギルドへ行くぞ。帰りに私が何か買ってやろう」
(それじゃホンマにお母さんやん。まあなんか幸せそうやしええか)
「ほな、とリあえず解散しよか。気を付けていくんやでー」
3人は仲良く並んでギルドへと向かった。
黄昏の館玄関ホール
「あ、レフィーヤ...]
玄関ホールにはレフィーヤを含め数人の団員達が談笑をしていた。
「二人ともちょっと待っててもらえる?」
アイズがレフィーヤ達に近づくと明らかに色めき立つ、その場にいたのはアイズ親衛隊の面々だったからだ。
「レフィーヤ!ちょっとお願いがあるんだけど...」
「なんでしょうか!私にできることなら何でもいってください!」
「んと...今日の夜私に料理を教えてほしい」
(アイズさんが料理!?)
「い...いいですけど突然どうしたんですか?」
アイズはちらりとベルの方をみて小声で答えた。
「ベルが、女の子の手料理は男のロマンって言ってて...食べてみたいみたいだったから私が作ってあげようかなって。今日の訓練もすごく頑張ってたから...」
「あー...そーなんですかー...」
(アイズさんの手料理を食べれるなんて...でも考え方によってはアイズさんと一緒に料理ができるなんてそんな幸せなことはない...ここは素直に受けておいた方がいいですね)
「あ!この子達も一緒に料理をしてもよろしいですか?」
「ん、いいよ。一緒に作ろう」
親衛隊メンバーから歓声が上がる。
(親衛隊長として私だけ楽しむ訳にはいけませんしね)
「「「アイズさm...アイズさん!よろしくお願いします」」」
「ん、よろしく。じゃあまた夜にね」
そういうと小走りで二人のところまで戻っていった。
「アイズさん何かあったんですか?」
「ん、秘密」
ベルは首をかしげたがそのままアイズに手をひかれ黄昏の館を後にした。
「隊長ーーーー!ありがとうございます!ベル・クラネルは相変わらずですが今回はこんな機会をくれたあいつに感謝しましょう」
副隊長であるリリー・アルトレアが満面な笑みで答える。
「それにしてもあいつはアイズさんとどんな訓練をしているんでしょうか...うらやましい...」
「今日の午後も訓練する予定のようなので皆で見学しに行きましょうか」
「「「はい!」」」
親衛隊達はアイズとベルの地獄の訓練を目にすることとなる...
読んでいただいている皆様ありがとうございます。
今回はほのぼの会ですかねー
ベル君は年上に対しての魅了効果があるかもしれません。
これからもがんばりますのでよろしくお願いいたします<m(__)m>