剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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アイズはベルが待っているであろう訓練所まで歩みをすすめる


23 アイズとの訓練

現在の時刻は4時45分。アイズはベルがいる訓練所に足を踏み入れた。

 

(ベル!やっぱり先に訓練所に来てたんだ)

 

アイズが訓練所の中に入ってすぐベルが入り口に背を向けて座っているのが見えた。

 

(??なにしてるんだろう...それに防具が傷だらけになってる...)

 

そっとアイズがベルに近づくと何やらぶつぶついいながら考え事をしているようで一向にアイズに気が付く気配がない。

 

(!ちょっとだけ...)

 

アイズはベルの背後にしゃがみ人差し指でベルの頬を後ろからつついた。

 

「ひゃうっっ」

 

ベルが妙な声を発しながらビクッと飛び上がった。

 

「あああアイズさん!?」

 

アイズはベルの反応が面白かったのか後ろを向いて笑うのを堪えている。肩がぷるぷると震えているのがわかる。

 

そのまましばらくの間ぷるぷるしているアイズだが次第に落ち着きを取り戻した。

 

「ごめんね?ベル。そんなに驚くと思ってなかったの」

 

「いっいえ...大丈夫です。」

 

ベルは恥ずかしい反応をアイズに見られたことで内心落ち込んだがアイズの笑顔を見て気持ちをもちなおした。

 

「ベルは何をやっていたの?」

 

「今日アイズさんとの訓練の事を考えていたら早く起きてしまって、時間があったので先日できなかった魔法の確認をしていました」

 

アイズがベルの服装を確認すると明らかに誰かと戦闘を行った形跡がある。アイズの視線を察したベルが答えた。

 

「ええと...ちょうどベートさんが訓練所にいらっしゃいまして、それで少し訓練の相手をしていただきました」

 

アイズはベートが完全な実力主義者なのをよく知っている。そのベートがまだレベル1のベルの相手をしたということをきいて驚いていた。それと同時にベルの訓練の最初の相手を取られてすこしだけ焼きもちをやいてむっとした。

 

(ベルの最初の相手は私がしたかったのに...)

 

「ええと、アイズさん?あの...僕何か変なこといいましたでしょうか?」

 

「ううん。大丈夫だよ。じゃあ準備はできてると思うから訓練を始めようか」

 

「はい!よろしくお願いします!それで僕は何をすれば...」

 

アイズは剣の柄に手を伸ばし剣を抜くとそれを訓練所の端に立てかけて鞘を構えた。

 

「この前、ベルがフィンと戦っている姿を見て思ったの。ベルは型や技を教えるより実戦の中で覚えていくことができるみたい。だから...戦おう」

 

瞬間アイズをつつむ空気が変わった。片手剣と同等の長さの鞘をただ構えているだけでとんでもない威圧感だ。ベルは咄嗟に白狼に手を伸ばし構えをとった。

 

「うん...それでいいよ。私との戦闘の中でいろんなことを感じていろんなことを試してみて」

 

「あ...あの...もし僕の剣が当たったらアイズさんがケガを...」

 

ベルの言葉が終わる前にその言葉を遮るようにアイズが答えた。

 

「それはないから大丈夫」

 

ベルの懸念をその一言で受け止めるアイズにベルは喉をごくっとならした。

 

アイズはただ鞘を構えて立っているだけ、ただその圧力に負け自分から動き出すことができない。しかしふっとその圧力が消える。

 

「んと...ベルには絶対に死んでほしくないからすごく厳しく指導しようと思ってるの...

だけどその...あの...き、嫌いにならないでね?」

 

今までの圧力が嘘のように消えもじもじしているアイズ。

 

ロキではないがその姿を見た者はこういうだろう...

 

(アイズたん萌えーーーーー!)

 

 

「大丈夫です!僕がアイズさんを嫌いになることなんて絶対にありません!だから厳しくお願いします」

 

そういってベルは頭を下げた。

 

「ベル、ありがとう。じゃあ厳しくいくから」

 

そういってアイズは鞘を構えなおした。

 

先ほどもベルは感じたが普段のアイズと剣を持つアイズとでは雰囲気が大違いである。穏やかな雰囲気は当然のことながらなく彼女はレベル5、オラリオ一の剣士 【剣姫】アイズヴァレンシュタインなのだと再認識した。

 

白狼の握る手にじわりと汗をかきながらもアイズと相対する。

 

(どうやって攻めても自分が打ちのめされる未来しか見えない...それでもっっ!)

 

ベルは自分に活を入れアイズに向かって突進した。

 

「はぁぁぁ!」

 

右手の白狼をアイズに叩きつけようとした瞬間、目の前からアイズの姿が掻き消え、同時に脇腹に激痛が走る。

 

「ぁぁぁっ」

 

ベルは声にならない声をあげ石の地面に片膝をついた。

 

今回アイズがしたことといえば単純だ。ただ振り下ろされた一撃を普通によけ、ベルの横を通り過ぎると同時にがら空きの脇腹を鞘で一閃しただけである。これが仮に刃物ならば、ベルの上半身と下半身は分断されていたであろう。

 

「ベル、立って」

 

アイズは無慈悲な声をかける。

 

ベルは脇腹の激痛に屈しそうになりながらもなんとか立ち上がった。

 

「うん。ベルはすごいね。今の一撃普通の人間なら絶対に立てないぐらいに強く打ったけどベルは立てた、無意識かもしれないけど私の一撃が当たる瞬間体を捻って完璧に決まるのをさけてる」

 

ベルはアイズの声は聞こえてはいるが痛みでそれどころではない。

 

 

(っっものすごく痛い...泣きそうだ...それにアイズさんすごく速い。何とか動きを見切らないと...)

 

「今度はこっちから行くね」

 

そういうとアイズはベルに向かって剣を振るった。先ほどよりもは遅い攻撃でベルが全力で防御または回避すればよけられるという絶妙な手加減具合だ。

 

ギンッギインっ

 

ベル痛みに耐えつつも必死にアイズの攻撃をいなしている。

 

「死角は作らずに、視野は広く」

 

アイズは自分が幼い時にフィンに言われたとおりにベルにも同じように声をかける。それから数十分という間ベルは全力でアイズの攻撃を防ぎ続けた。

 

(フィンとの戦いで得たものをしっかりと今回も使っているね。ベルはホントにすごい...これならもう少し早くしても大丈夫かな)

 

アイズは更に打ち込むスピードを上げる

 

ベルは全身から汗が吹き出し呼吸が荒くなっていた。

 

(くっ早すぎる...それにもう体力も...受け流しきれない)

 

ギンッギンッッドゴォォ

 

ベルはアイズの攻撃を受け流しきれずに攻撃を受けてしまい壁に叩きつけられた。

 

「あっっベル!」

 

(いけない、強く打ち込み過ぎた...)

 

ベルは完全に気を失っていた。アイズはベルにかけよるとポーチからハイポーションを取り出すとベルに振りかけた。傷がみるみる回復していくことからかなり良質なポーションだとわかる。

 

しばらくするとベルは意識を取り戻した。

 

「んっここは...暖かくて気持ちいい...]

 

[大丈夫?」

 

(真上からアイズさんの心配する声が聞こえる...真上?)

 

目を開けるとアイズが自分の顔を見下ろしていた。つまり...膝枕されていた...

 

「あああアイズさん!すすすすみません。僕気絶して...」

 

アイズは首を横に振り心底申し訳なさそうに謝った。

 

「んと、ごめんね?ベルが気絶したのは私がミスしたせい。ベルがすごく頑張って防御してたからもう少しいけるかと思って早くしすぎたの」

 

そういってアイズはベルの髪を撫でた。頬が熱を帯びるのを感じる。

 

「ちょっと休憩しようか」

 

ベルは起き上がりアイズに連れられて訓練所の端に置かれていた椅子に腰を下ろした。

 

(アイズさん強いとは思っていたけどこれほどまでに差があるなんて。さっきまでのだって全然本気じゃない...僕なんかがアイズさんの英雄になるだなんて立場じゃない...)

 

圧倒的な力の差を感じてひどく落ち込み自暴自棄になりかけてしまう。

 

ベルはふとアイズに質問をしてみた。

 

「アイズさんはどうやってそこまで強くなったんですか?」

 

アイズは少し悩んだようだったが答えた。

 

「私はまだまだ弱い...私には何をおいても倒したい相手がいるの」

 

「倒したい相手...ですか」

 

アイズはベルの目を見て頷いた。

 

「私は幼い頃の記憶が断片的にしかない。リヴェリアには極度の恐怖やストレスから記憶障害をおこしている可能性があるっていわれたの。それでも今でも夢に出てくるのが赤髪の女性と黒い龍。その悪夢は今でも忘れることができないの]

 

「アイズさん...」

 

「私も最初の頃は戦うのが怖くて怖くて剣を持つこともできなかった。だけどいつまでも護られているだけじゃ嫌で、仲間の為に何もできない自分が嫌で、それで強くなろうと思ったの」

 

(アイズさん僕とあまり年齢が変わらないのにレベル5になったんだよね。きっと僕には想像もつかないような努力をしてきたんだ...)

 

「ロキファミリアの仲間が死ぬことは少ないけどダンジョンに絶対なんてない。まだレベルが低かったころは私自身何回も死にかけた。私を護る為に大けがをした仲間もいる。だから必死で強くなろうとした」

 

アイズは自身の膝に頭をあて下を向いている。その肩はわずかに震えているように見えた。

 

(僕はなんて...なんて情けないんだ。誓いを思い出せ、アイズさんを護れる英雄になるって約束しただろ。こんなところで止まってなんかいられない、いつの日かアイズさんが剣を振らなくてもいいように僕が強くなる)

 

パンッ

 

ベルが自分の頬を両手で叩いた。

 

「アイズさん!訓練の続きをお願いします!もっと厳しくしてください。どんなに辛くても耐えてみせますだって僕は...僕はアイズさんの英雄になる男ですから!」

 

ぼふっとアイズの顔が赤くなる。

 

「ありがとうベル嬉しいよ」

 

二人は立ち上がると先ほどまで行っていた訓練を再開した。

 

ガキンッギン

 

二人の打ち合う音が聞こえる。

 

(なんだろう背中が熱い...いや今は目の前に集中しなきゃ)

 

ドガッ

 

強烈な蹴りがベルの腹に決まる。

 

ぐぅっげほげほげほ

 

「はぁはぁ...まだまだぁーー!!」

 

二人は訓練を続ける...

 

 

 

訓練所を見下ろせる屋根の上

 

アイズとベルの訓練を見学している人影がある。一人はリヴェリア、もう一人はロキである。

 

「リヴェリア!今のベルのセリフ聞いたかいな!かっこええええ!アイズたんの反応もかわええ!ぐふふ二人ともウチのもんやーー!」

 

「お前は...他にみる場所があるだろうに」

 

「ん?なんや?」

 

「ベルの背中を見てみろ」

 

リヴェリアが訓練をしているベルの背中を指差した。

 

「あれは...ベルの背中のステイタスが発光しているん!?」

 

「ああ、そのようだな」

 

「こんなこと今までみたことないで。よし!今日の夜ステイタス更新しようと思っとったけど飯終わったらベル捕まえて更新してみよか」

 

(しかしアイズの訓練は少し激しすぎるような...あとでまたポーションを買い足しておこう)

 

「リヴェリアも心配症やなー。アイズかてちゃんと手加減しとるから大丈夫やて。いざとなれば自分が止めるつもりで訓練みてたんやろ?」

 

「人の心を読むんじゃない、心配するのは当然だろう」

 

(いやいや思いっきり顔に心配してますって書いてあるんやけどな)

 

「ママは大変やなー」

 

「誰がママだ誰が...]

 

[うひゃひゃひゃひゃ。さあそろそろ朝食や!ウチらも行こか」

 

「...うむ」

 

 

 

ダンジョン中層

 

「ヴモオオオオオ!」

 

獣の声がダンジョンに木霊する。

 

「こいつはいい個体だな...他のやつらより一回りでけえ。こいつに決めたぞ」

 

フードの男が酒を取り出す。

 

「おらっこれを飲め」

 

そういってミノタウロスに本物の神酒(ソーマ)を飲ませた。

 

「ヴモ!ヴモオオオオ!」

 

「おら、もっと飲みてえなら他の奴をぶっ殺してきな」

 

この空間には十数頭の選りすぐりのミノタウロスが戦っている。全てのミノタウロスをこの個体が倒したとき調教(テイム)は完了する...

 

 

 




いつも読んでくださっている皆さんありがとうございます。

今回はアイズとベルの訓練風景でした。

次回はギルドでの冒険者登録と訓練パート2です。

これからもよろしくお願いいたします<m(__)m>

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