数時間前まであんなにきれいだった山々は燃え、川は干上がり血の匂いと悲鳴にあふれていた。
ほんの数分でここまでの被害が...
「チッ」
いつも温厚な男が苛立ちをみせていた。すぐに部隊に連絡を取り対応しなくてはこのままではまずい、多くの犠牲者がでてしまう……
各部隊の長は副官に指示を与え、一度団長であるダグラスのところに集結した。
部隊長達は皆、ゼウスファミリア結成当時からの仲間で、気心が知れた頼りになる仲間達である。
「このままではこの村の人々は全滅してしまう。お前たち部隊長は俺とともに黒龍の撃退に向かってくれ」
「「ハ!」」
全員が掛け声と共に敬礼をした。
しかし皆の表情は険しい...黒龍は死を司ると言われ、眼にした者は死に絶えると伝えられている。伝承では多くの英雄達が黒龍の前に倒れているのだ。
皆わかっているのだろう、自分達の命をかけたとしても黒龍を撃退できるかわからないことを。
それでもっ!
「「「「我らの命、団長に預けます」」」」
(俺は本当にいい仲間をもった。この仲間達の為なら俺も命をかけられる)
ダグラスは思わず涙がでそうになるのをこらえた。
しかし...ズキッッ ダグラスの体は悲鳴をあげる。スキルの反動は強く、全快時が100だとすれば60~70ほどの力しか出せない。黒龍相手に全力で戦えないのが悔やまれる。
(くっなんのこれしき...)
一人の団員が青い顔をしてダグラスに声をかけた。
「団長!アリアは...アリアはどうするんですか?」
3年前、アイズが生まれるまで一緒に冒険していた仲間を一人の団員が心配そうな顔をして訪ねてくる
「アリアもブランクはあるかもしれないがレベル6の冒険者だ。腕も鈍ってはいないだろう。それにアイズとともに町の外に逃げるように言っておいたから問題はないはずだ」
団員は安心した顔をみせた。
「そうですか。よかった...でもアイズもこんなことになって怯えていなければいいけど」
アイズはゼウスファミリアの皆にとてもかわいがられていたので、心配しているものも多いのだろう。
「アイズは俺とアリアの娘だぞ!絶対に大丈夫さ」
内心心配ではあるがぐっとこらえる。
(ああ...アイズ 今すぐ抱きしめてもふもふしてやりたい...)
「団長?」
団員が若干引き気味に声をかける
「ゲフン、ゲフン、さあ俺たちも行くぞ」
無理やり咳払いをして気を引き締めなおす。どこまでも親バカな団長である。
「誰かいるか!」
団長の呼びかけに団員が一人駆け寄ってくる。
「今すぐオラリオへ向かい、ゼウス様とミアに黒龍来襲を伝えるのだ。それとロキファミリア、フレイヤファミリア、他にも主だったファミリアに応援を依頼せよ」
「ハッ!」
命じられた団員は何の躊躇いもなく走っていった。みんな団長のことを信頼しているからこその判断である。
村の様子は時間が経つにつれ、どんどん悪くなっていく。それも無理はない。ゼウスファミリアの団員全員を合わせても約200人。
だが村の住人は1000人以上いるのだ。
中には老人も子供も病人もいる為避難に時間がかかっている。それに加えて黒龍の眷属共も、レベル3 レベル4程度のモンスターが何体もいるのだ。やはり頭をつぶさない限り状況はよくならないだろう...
「キャーー!」
遠くから悲鳴が聞こえる。
「くそーっっ!よくも母さんを...」
子供が泣きながら叫んでいる声が聞こえてくる。
「どうした?大丈夫か?」
「うっっ」
目をつぶりたくなる光景がそこにはあった。
一匹のワイバーンがウェアウルフの家族に襲い掛かっていた。
カギ爪で背中をえぐられ、血を流して倒れた母親らしき人と子供の前に立ち魔物の攻撃から子供を守る父親がいる。
ダグラスが抜刀して一気に距離をつめる。距離はおよそ100メートル。
(間に合うか...)
一気に間合いを詰めて切りかかろうとするが、距離がありすぎて間に合わない。魔物が一瞬早く子供に攻撃を加える。
「危ない!!」
ドスッ子供をかばった父親の胸に大きな穴が開き、血だまりができる。致命傷だ。
「と…とうさん...」
「誰かエリクサーを早く!」
しかしエリクサーで傷は癒せても失った血液までは戻らない。それに左胸、心臓を貫かれている…
子供は父親にすがりついて泣いている。
「ぐ...ごふ...ベート、我が息子よ。強く...誰よりも強くなりなさい…ぼ...冒険者のみなさん、息子を..息子をお願いしま...す」
父親の手から力が抜けていくのがわかる。無念だっただろう。こんな小さな子を残して。
ダグラスが狼人の少年に声をかけた。
「ここにいては危険だ、辛いだろうが今は逃げなければ」
肩に手をかけようとすると手をはたかれた。
「俺に触るな!こいつら絶対ぶっ殺して、父さんと母さんの仇をとってやる」
ナイフを構えて魔物の群れに突進しようと駆け出そうとする。
「今は時間がない...すまない」
ドッ
手刀が少年の首筋にきまりゆっくりと少年は倒れ気を失った。
「誰か町の外まで連れて行ってやってくれ」
「ハッ」
団員が敬礼して少年を連れて町の外に向けて走って行った。
団員達の表情は険しい。村中でこんなことが起きているのだ。
(先を急がねば)
ダグラス達は迫りくる魔物を切り裂き、殴りつけ、魔法で迎撃しながら黒龍の元まで走った。
村の広場までやってくると上空から黒龍が漆黒の翼を羽ばたかせて降りてくる。
「グオォオオオ!」
黒龍が咆哮を上げながらこちらを向き、すさまじい殺気を漂わせている。
(こいつ...
団員達は黒龍を見た瞬間、凍りついたように時をとめた。俺たちはここで死ぬことになるかもしれない。
皆がそう考える中、団長の声が響く。
「全員戦闘態勢に入れ!!」
「「「「!!ハッ!」」」」
そうだ、俺たちには団長がいる。団長に命を捧げると誓ったじゃないか。こんなところでビビッてどうする。
いつもどおり全力で相手を倒すことのみ考えよう
団員たちの目にはもう怯えも焦りもない。ただ信じた人についていく、それだけである。
なかなか臨場感が伝えにくいと感じでしまいます。
読んでくださっている皆さん脳内でうまく再生してみてください。
ここで幼いころのベートが登場します。
彼の性格この時に若干ねじ曲がってしまったのかもしれません...妄想ですが
頭の中では話できているのでちょくちょく更新したいと思います!<m(__)m>