ビクッッ突然の椿の来襲にベルとヴェルフは硬直した。
「ヴェル坊...何を呆けておる。手前がお主のランクアップに協力するといっておるのじゃ。そっちの白くてかわいいのがベル・クラネルじゃな?噂は聞いておるぞ!剣姫のこれじゃろ?」
椿は小指をたてる。ベルはなんのことかわからず首をかしげている。
「じゃから...剣姫の恋人なんじゃろ?」
((!?))
(ベ...ベルが私の恋人!?ええ...と...嫌じゃ...ないけど...まだ早い...かな)
(ええ!?ぼぼぼ僕がアイズさんの恋人!?いつのまにそんな事に...というか僕なんかじゃ...)
ベルがちらりとアイズを見ると目があいお互い顔を赤くして下を向いてしまう。
「なにをいっとるんや椿。二人ともウチのもんや!」
「いやロキのものではないでしょ!?」
いつもはクールなヘファイストスがつっこみを入れる。
椿はそんなみんなを見ながらカカッと笑う
「まあ冗談はさておいてじゃ、一応ヴェル坊の意見も聞いておこうかの」
ヴェルフもベルたちを眺めて笑っていたが椿の問いかけに神妙な顔つきになる。
「俺は...」
「ヴェル坊、お前が何を考えてるか手前にはわからん。じゃがお前の意地とベルの安全どちらが大事じゃ。よく考えろ」
「...」
(意地と仲間を秤にかけるのは止めなさい。)
ヴェルフは自身が敬愛するヘファイストスに言われた言葉を思い出していた。
ベルの方に目を向ける。ベルは黙ってヴェルフの方を見ていた。
「椿...俺を強くしてくれ...いや...してください」
ヴェルフはそういって頭を下げた。
「カカッ、素直じゃないかヴェル坊。手前がお主の鍛錬のメニューを考えてやるからまた明日にでも部屋へ来い」
ヴェルフは頷いた。
(ベルは俺にとって初めてできた仲間なんだ。意地なんか張ってる場合じゃねえよな...)
「ところでベル。おまえ主神様に武器を渡したのはいいがあの双剣だけ使う訳じゃないじゃろ?他にはどんな武器を扱うんじゃ?」
椿は改めてベルのつま先から頭の先まで眺めて背丈や腕の長さを目測した。
ベルは狩猟用に使用していたナイフを椿に手渡した。
「これか!?これじゃまともに訓練もできんじゃろ...ふむ...」
椿はその豊満な胸を強調するように腕を組む。
ロキがぐへへっと涎をたらしそうな勢いでその様子をみて手をワキワキさせる。
椿は何事か思いついたようでつかつかとベルの方に歩いていく。そしてなんの警戒もしていないベルを
その豊満な胸で抱きしめた。
(むぐぅ...い...息が...)
「んなぁ!?椿何してんねん!?そんなうらやま...けしからんことを...」
「な...」
アイズは茫然と目の前の様子を眺めている。椿に少しでも悪意があればアイズも動くことができたが無造作に行われたので動くことができなかった。
「ちょっと椿なにしてるの!?」
ヘファイストスも椿の突然の行動に戸惑っていた。
「...」
ヴェルフは口をあけたまま硬直している。
「いや中々に将来性のあるいい男だと思ったのでな、今のうちに唾をつけておこうかと思っての」
「ベルを返してください」
アイズが椿の言葉をきいて瞬時に椿からベルを回収し自分の胸で抱きしめた。
(むーむー)
ベルが何か言っているが聞き取れない...
ベルはレベル5のアイズと椿に抱きしめられ今の状況を堪能するどころではないようだ。
(アイズたん焼きもちやいてるやん...アイズたん萌えーーーー!)
「カカッ剣姫も女子じゃの。詫びといってはなんだが手前の造った武器をベルにやろう。儂の工房にある物から好きな物を選ぶといい。選んだら手前がベルに合わせて打ち直してやろう。なあに時間はかからないから安心しろ」
(なるほどなぁ、椿のやつやるやん。ベルは普通にあげたら絶対断りそうやけどお詫びとして渡せば抵抗はあっても素直にもらうやろ。しかしベルに武器をあげる理由はいまいちわからんな...)
「ベル、折角の椿の好意や。もらったらええわ...アイズたーん。そろそろベル放してやりぃーぐったりしとるで。」
ベルは息ができなく窒息寸前だ...しかしアイズという美少女の胸に抱かれて気絶するなら本望かもしれない...
アイズはベルの状態に気が付き解放する。
「ご...ごめんねベル。大丈夫?」
「げほげほっっだ...大丈夫です」
「うむ。ベルも大丈夫みたいじゃな。それでは手前の工房に行こうかの」
椿はそういうと先頭にたち部屋を出て自分の工房に向かっていった。
小声
「椿、あんなこと言ってベルに武器あげたいなら普通に言えばいいのに。ベルが遠慮するからあんなことしたんでしょ?」
ヘファイストスが小声で椿に話しかける。
「主神様よ、半分正解で半分不正解じゃな。儂がみたところあやつは強くなるだろう、ヴェルフもベルのおかげでようやく変われそうじゃ、それのお礼も含めてというところじゃな...それに外見も好みじゃ!」
「椿ってベルみたいな子が好みなの?たしかにウチのファミリアにはいないタイプの子ね。」
ヘファイストスファミリアは鍛冶専門のファミリアなので皆男はたくましい体の者が多い。ベルのような子はとても貴重なのだ。
「うむ。かわいくていいじゃろ?」
「たしかにね。あの容姿で戦う時は凛々しいなんてことされたらベルのファンは多くなるでしょうね。ただその場合剣姫に喧嘩売ることになりそうね...」
剣姫の逆鱗にふれたらどうなることか...想像しただけでも恐ろしい...
現在ベルはアイズとロキに手を引っ張られよろよろついてきている。
「着いたぞ。ここが手前の工房じゃ!」
ヘファイストスファミリア内にある椿の工房、他の団員達の工房より一回り大きく壁にはいくつもの素材アイテムや武具が並べてある。深層域でしか発掘できないアダマンタインや現在発見されているモンスターの中で最強クラスのカドモスの爪もある。
「すごい...」
ベルは目を輝かせて工房の中を見て回っている。見たことのないような刀剣類や重厚そうなプレートメイルなどワクワクするようなものばかりだ。ベルはその中でも巨大なバトルアックスが目にとまった。
到底自身では扱うことができない代物だが見ただけで業物とわかるほど威圧感のようなものがでている。
「椿さんこれは...?」
「なんじゃベルはこれがいいのか?さすがにおまえさんには扱えないと思うんじゃが。じゃがすまんの。これはある人からの依頼での、特注で造っている最中の物なんじゃ。そこのプレートメイルもそうじゃ」
同じくかなり重そうだが業物だとわかる。
「こ...こんな重そうな物使える人がいるんですね。尊敬しちゃいますよ。僕なんかじゃ持つこともできないと思います...」
ベルのその言葉を聞いてアイズがバトルアックスをひょいと持ち上げビュンビュン振り回す。すさまじい速度で振り回されるバトルアックスはベルの目では認識できない速度になっている。
「ちょっアイズたん!そんなん当たったらウチら即死やで...」
「す...すごいですアイズさん!かっこいいです!」
ロキは顔をひきつらせているがベルは目をキラキラさせてアイズを見ている。
アイズはベルの声を聞いて照れつつ振り回すのを止めバトルアックスを棚に置いた。
(アイズさんあんなに腕細いのに持てるんだ。以外に軽いのかも...)
「僕も持ってみていいですか?...ん...あ...あれ...持ち上がらない...」
ベルはバトルアックスを持ち上げられる事ができずにプルプルしている。
「カカカ、まだレベル1のベルには無理じゃろ。頑張って努力することじゃな。」
ベルは自分の腕とアイズの腕を見比べている。
「ベル。んと...そんなに見られると...ちょっと恥ずかしい...」
アイズは頬を染めて腕を隠そうとしている。
(剣姫のこんな表情みたことないわね...ロキが何回かウチに連れてきたことがあるけどその時は人形のようだったのに...)
ヘファイストスは今までのイメージと現在のイメージが大きく違うことに驚いていた。
「ベル、冒険者を外見で判断したらあかんでぇー。フィンとかみてみい、オラリオの中でも間違いなくトップ10に入る実力者やで。あの姿から想像できんやろ。」
「た...たしかに。」
(僕も頑張らなきゃ...毎日腕立て伏せとかしよう...)
ベルがそんなことを考えている中ヴェルフは椿の武具の出来栄えに悔しさを感じていた。
(ちくしょう...やっぱり俺なんかより遥かにいい出来だぜ。置いてある素材も半端ねえもんばっかだ。くそ...負けねえぞ)
ヴェルフにもいい刺激になったようだ。
「さてベル。どれにするか決めたか?気にすることはない、ここにあるものは試作品じゃからな。値段はつかん」
(いやいや、椿が造ったもんならどんな武具でもかなりの値段になるやろ)
「で...でも本当にいいんですか?」
「手前がいいと言っておるだろう。それでも何かしたいというならお前がこれから強くなって儂の顧客になってくれてもいいぞ?」
「ええ!?こ...顧客ですか!?」
「なあ!?椿何言ってんだ。ベルは俺の顧客だ!」
「ほう?ヴェル坊。儂よりいい武具が造れるとでも?」
ヴェルフは険しい顔をする。
「今は造れない...だぁーっっ椿!明日にでもダンジョンに連れて行ってくれ」
「カカッッ了承した。冗談じゃからベルも気にするでない。それでどれにするのじゃ?」
「ええっとこれとかどうでしょうか?」
ベルが手にしていたのは細身の長剣だった。シンプルな造りだがベルは気に入ったようだ。
「ふむ、それがいいのか。それは中層用に造ったものだな。中層で発掘できる複数の鉱石と複数の素材アイテムを使用してある。それなら軽くミノタウロスの肉を切断できるくらいの破壊力と耐久性がある。」
「あの...ミノタウロスってあの英雄禄に出てくるミノタウロスですか!?」
ベルは昔祖父に聞いた英雄禄に出てくる牛の化け物を思い出していた。その化け物は怪力と鋼の肉体で英雄達と死闘を繰り広げていた。
「ベルがどのミノタウロスのこといってるかわからんが多分想像しているやつと同じだろう」
「ミノタウロスかぁ...中層って僕いけるんですか?」
「ベルはまだ駄目...中層はレベル2になって更に複数人のパーティーを組まないといけないの。私が一緒なら行くことはできるけどまだダンジョンに慣れていないベルはそれでも危険があるから」
「アイズたんの言う通りや、ダンジョンをあまく見たらあかん。どんなに強い奴でも少しの油断で死ぬこともある。それがダンジョンや!」
(ベルはまだその辺の考えがわかっとらんみたいやな、リヴェリアに教育してもらうか...)
「す...すみません。」
「謝らなくてもええ、ベルはまだダンジョンで実際にモンスターも見たことがないんやからな。まだまだこれからやこれから!」
「焦らなくていいよ...徐々に慣れて行こうね」
「はい!アイズさん!」
俯いていたベルだったがアイズの言葉で顔をあげて元気よく返事をする。
「手前はこれからベル用にこの剣を打ち直すからしばし待て、これならさほど時間はかからん、この部屋は熱くなるからしばらく先ほどの部屋で待っていてくれるか?」
ベル、アイズ、ロキは頷き先ほどの部屋へ戻って行った。
「ヴェル坊!儂のサポートをせい!」
ヴェルフは黙って頷き椿の作業をあますことなく見ていた。自分に足りないもの、自分にない物を見て覚えようとしているようだ。
そんな二人をヘファイストスは笑顔で眺めていた。
(人の作業を見ることなんてなかったヴェルフが素直に椿の手伝いをしている。ベルと出会ったことでヴェルフにもいい影響があったみたいね。私も気合を入れて双剣を打ち直すわ。)
数時間が経過した。
椿とヴェルフが部屋へと入ってきた。二人は汗だくであったがその顔は晴れやかだ。
「これが手前の造った長剣、名は白狼じゃ。持ちごたえはどうじゃ?」
ベルは椿から白狼を受け取り鞘から抜いて持ちごたえを確かめる。
「僕の手に吸い付くようです!本当に本当にもらっていいんですか?」
「カカッッ謙虚なのは悪いことではないが手前がいいといっているんじゃから素直にもらえい!」
小声
「ベル、あんまり断ると相手にも失礼になる場合があんねん。こういう場合は素直に受け取って今度金溜めて何か買えばええんや!」
ベルはなるほどっと頷き頭を下げて白狼を腰のベルトに収納した。
「ベル、防具に不具合があったらすぐに俺に行ってくれ!店のカウンターで俺の名前を出してくれればいい。」
「ありがとうヴェルフ!僕強くなるから!」
二人はがしっと握手をする。
(男と男の友情...ええもんやね!)
「んじゃそろそろ帰るか、行くでアイズたん、ベル」
わかりましたと頷き二人はロキに連れられ店を出る。
店を出る際にヘファイストスが見送りに来てくれていた。とことことベルがヘファイストスの元に歩いていき一つ質問をした。
「ヘファイストス様。ヘファイストス様は僕の双剣の他には武器はもう造らないんですか?僕...」
小声
「武具なら作っているわ、今は秘密だけどある人物から依頼を受けているの。私を心配してくれてありがとう」
ヘファイストスはベルが何をいいたかったか理解しお礼をいいベルの髪を撫でた。
「ベルこれから頑張ってね!」
「はい!」
ベルは待っている二人の元に走って行った。
「さて二人共、これからどないするん?」
「これからベルとオラリオの町を回ろうかと思っているの、ベルもそれでいい?」
ベルは隣でこくっと頷いた。
(ベルとって...二人で行きたいってことやんな...酒でも買うて帰えろ...)
「ん!それじゃ夕飯までには帰るんやで!」
「あ...あのロキ様?若干涙目になっているような...?」
ロキは目をごしごしこすりニカっと笑った。
「あくびしただけや、夕飯までそんなに時間ないで?早くいかんと」
わかりました。そういって二人は夕暮れの活気あるオラリオの町を歩いていく...」
いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます<m(__)m>
今回は全快に続きヘファイストスファミリアでのお話でした。
ヴェルフはいつ魔剣打つようになるんですかねー(ー_ー
次回はベルとアイズがオラリオの町を見て回ります、そしてベルがお世話になっている皆にお礼がしたいようです...
感想ありがたいです。これからもがんばりますのでよろしくお願いいたします<m(__)m>