はぁはぁとベルが荒い息をつく。対するフィンは汗ひとつかかずに余裕の表情をしていた。
(そろそろ限界かな...さてどうするか...)
入団試験から2日がたちベルの疲労はピークに達していた。周囲には他の団員も集まり固唾をのんでその様子をうかがっている。100以上あったポーションももう残りわずかになっていた。
(くそ...僕はどうすれば...)
「ベル。もうあきらめたらどうだい?君はよくやったよ」
「僕は...まだ...まだやれます。絶対にあきらめない」
「全く君というやつは...何が君をそこまで駆り立てるんだい?」
「うわぁああーーー」
強引に切りかかりフィンに吹き飛ばされる。いくら相手の技術を覚えようとしても実力差は歴然である。頭を壁に強打しベルが倒れた。それでも額から血を流しながらベルは壁につかまりかろうじで立ち上がった。
「おいフィン!もう充分だろ?あいつはこんだけ根性見せたんだ。合格にしてやったっていいだろ」
ベートがフィンに進言する。
他の団員も今にも飛び出していきそうな雰囲気だ。しかしそんな団員たちにフィンは非情な命令をくだす
「今ベルに手を貸すことを禁ずる。これは団長命令だ。」
その圧倒的な圧力に他の団員たちは何もいえなくなる。だが団長のベルへの強い想いも同時に理解した。
後はベルを信じて待つだけだ。
(さあベル...頑張るんだ...あれは意識がないのか...)
ベルは思い出していた。過去の記憶。目は見えないがしっかりと耳で聞いていた。アイズの声を...
真っ暗な世界。だが暖かい物に包まれて守られていた。声が聞こえてくる...優しい声だ。僕のことを愛してくれているのが伝わってくる。でも…突然の衝撃があり声があまり聞こえなくなってしまった。苦しい...苦しい...苦しい...衝撃が僕にまで伝わってくる。しばらくして衝撃が収まり周りが静かになった。これはお父さんの声...なのかな?(すまない***お父さんはお前の英雄にはなれないようだ...愛しているぞ***)名前を言っているようだけど聞き取れない。女の子の泣き叫ぶ声が聞こえる。これは...もしかしてアイズさんの声...かな??絶望 恐怖 憤怒さまざまな感情が聞こえてくる。僕は心の中で叫んだ。
(僕が君を護る。僕が君の英雄になってあげるからもう泣かないで。約束するよ...)
暗かった世界が一気に明るくなった...
(そうか...僕が英雄になりたかった本当の理由は…)
「僕は...約束したんだ...」
「ん?意識が戻ったのかいベル?」
ベルは大きな声で叫んだ。
「僕が...護る。僕はアイズさんを護る...僕があなたの英雄になります。だからもう泣かないでください!」
(((!!)))
突然のベルの叫びに幹部達は驚いていた。今までアイズにこんなことをいった人物はいない。
昨日の酒場でも英雄になると言っていたがその時よりも遥かに気持ちがこもっている。
(ベルが...私の英雄になる...)
アイズは涙を浮かべてうなずいた。
まだあって間もないのにベルの事は心から信じられる。そう魂が理解しているかのようだった。
アイズは思い出していた。英雄だった父が私の英雄にはなれないと言っていたことを。私には英雄なんて現れないと思っていた。だから一人でも強くならなきゃいけないと思っていた。優しくしてくれた人はたくさんいたけど私の英雄になってくれるなんて言ってくれる人は一人もいなかった。
(ベル。一緒に強くなろう。私もあなたの英雄になりたい。私も護られてばかりじゃ嫌だから)
ベルの中で歯車がかみ合った気がした。ベルの想いに体が答えたというべきであろうか。
(ベル。抜け...俺を使え。その覚悟に免じて今この瞬間だけ力を貸そう。今のお前では一瞬が限界だろうからな)
ベルの頭に声が響くと同時にベルの双剣が燃えるように熱くなり白く発光する。おもむろに双剣を引き抜き双剣が導くように構える。この独特の構えはダグラスのものだ。
(剣に力が吸い取られる...多分一撃しかもたない。この一撃に今の僕の全てをかける!)
(この光はいったい...すさまじい力の波動を感じる)
フィンは目の前の光景に驚いていた。
「おいおいなんだありゃ?すげえ力じゃねえか。おいリヴェリアあれがなんだかわかるか?」
ベートがリヴェリアに尋ねる
「あの光は...魔力とも違う。よく見えないが何か
他の団員達も強い力に驚きながらも展開を見守っている。
ダンッと地面をけりフィンに突撃する。フィンはベルの力量を測るために防御する姿勢だ。左からくる一撃を受け流し右からくる一撃を木剣でガードした。フィンの力なら問題なく受け止められる筈だった。しかしベルの一撃は木剣をバターのように切り裂き一瞬油断したフィンの腕にほんの少しだけかすった。そのままベルは力つきフィンに突撃した体制のまま気絶する。
(君の覚悟を受け止めたよ。躊躇いの無いすばらしい一撃だった。)
「あの野郎フィンに一撃入れやがった。やるじゃねえか!」
ベートや他の団員も称賛の声をあげる。
「ベル。よく頑張ったね。おめでとう」
アイズも瞳に涙を浮かべて喜んでいる。
フィンからの合否の発表が言い渡された。
「満身創痍の中僕に一撃入れた。よってベル・クラネルはロキファミリア入団決定!」
うおーーーと訓練場を見ていた団員たちが声をあげる。試験場が歓喜の声で渦に包まれる。ベルを称える声が飛び交う中ベルは気絶したまま医務室へ運ばれる。
「正式発表はベルが目覚めてから行う。以上解散」
新人の熱い戦いを見た団員達はこうしてはいられないと触発されダンジョンに向かっていった。幹部達も同様に自分の武器の整備や点検を行うつもりだ。
「フィン。ベルの看病してあげたいんだけど...いい?」
壮絶な戦いを終えたベルをアイズが心配して看病しに行きたいと進言してきた。
というより自分の英雄になるといったベルに一刻も早く会いたかったのだ。
(ベル。あなたに今すぐ会いたい)
「いいだろう。ベルに付き添ってやってくれ」
「ありがとうフィン」
アイズは急いでベルのいる医務室に向かった。
トントン 扉をノックする音がする。
「ベル?」
ベルは安らかな顔でベットに寝ていた。スースーと寝息が聞こえる。リヴェリアがベルに回復魔法をかけ終わったところのようだ。
「アイズか。随分ベルの事が心配だったとみえる。まあアイズの英雄になるなんて告白したものなど今までいなかったからな」
リヴェリアはアイズを見てくすくす笑った。アイズは頬を膨らませてリヴェリアをポカポカ叩く。
「こらこらベルが起きてしまうぞ」
アイズはムッとしたまま黙り込んだ。
「では後を頼んでいいかな?ベルが起きるまで見ていてやってくれ。お前も二人でいたいだろう」
アイズは頬を染めて頷いた。
「じゃあまた後でな。...アイズ寝ているベルに手を出すなよ」
アイズは一瞬ドキッとしたが部屋を出ていくリヴェリアに返事はしなかった。
まだあどけなさが残る寝顔はかわいくついつい手を出したくなる。しかし、フィンと戦っていた姿はとても凛々しかった。寝ているベルの髪を撫でる。ふわふわな手触りはいつまでもこうしたくなる。
(ベル...かっこよかったよ。それにうれしかった。私の英雄...私だけの...)
アイズは自然ににやける自分に驚いていた。今まで感情の起伏が乏しかったアイズがここまで感情をさらけ出すことはなかった。ベルと出会った瞬間から様々な感情がアイズに芽生えていたのである。
ベルともっと話したい。ベルともっと一緒にいたい。ベルの事をもっと知りたい...ベル...
(ベルの顔をみているとドキドキしてくる...そういえばあの時ベートさんベルに顔近づけて何をしようとしていたんだろう。たしか...こんな風に...)
アイズは長い金髪を耳にかけてベルの顔に自分の顔を近づけていく。どんどん近づく二人の距離。アイズはベルのことで周りを見る余裕が一切なかった。実は扉が開かれロキがその様子をうかがっていたのだ。
(さて、ベルの様子でも見にいこかな。おっアイズたんおるやん、ベルの髪撫でて幸せそうやなー邪魔したらあかんし出直そかな...ちょっアイズたん!?え!?何するつもりなん!?まさかキス?キスするつもりなん??ええーどないすれば...いやまだ早いやろ!?いやまだとかじゃなくてもウチのアイズたんが...ああーーー)
ロキがアイズの行動に悶えていると肘が扉に当たりガタっと音が鳴った?
(!?)
ギギギッとアイズが扉の方に顔を向ける。アイズの顔は羞恥で真っ赤に染まっていた。
「ロキ...見た?」
アイズがロキを涙目で睨む。ロキが黙って頷いた。
アイズは一瞬で体をおこし音をたてないようにレベル5の脚力存分に発揮し脱兎の如く走り去った。
(くはーーアイズたん萌えーー!!)
まあ後でフォローしておこう。とりあえずいまはベルの様子でも確認するかな。
ベルはちょうど目を覚ましたようで体を起こした。
(うわーーベル。惜しいことしたなーもうちょい早く起きてればおもろい事になったのに)
「ん...ここは....」
「ベル起きたかいな。試験よう頑張ったなーあれはちょいやりすぎやで...」
(フィンもあんなマジにやらなんでもいいのになぁ)
ベルの意識は徐々に覚醒し始める。
「そうだ!あ...あのロキ様。試験はどうだったんでしょうか!?」
ベルはロキの肩を掴みグラグラ揺する。
「ちょおお落ち着けやベル!無事合格したで。今日からベルはウチのファミリアの仲間や!」
それを聞いた瞬間
「やったぁぁぁーーー」
ベルは満面の笑みを浮かべる。そんなベルを優しい顔で見つめるロキ。
(ベルにはお礼を言わなあかんな。アイズをあんなに幸せそうにしてくれてありがとうなこれからもアイズを頼むで)
「それじゃあこれからベルに恩恵を刻むで?ええか?」
「はい!ですが恩恵ってどうやって刻むんでしょうか?」
「恩恵ってのはなベル。ウチの神血を使ってベルの背中にステイタスを刻むんや。刻むっていっても痛くないしすぐ終わるからそんな怯えた顔せんで安心してなー」
刻むという単語にプルプル震えるベルを見てロキは思う。
(ベルもかわええなーー。アイズたんとベル。最強コンビやな)
むふふっと不敵な笑みを浮かべるロキ。
「んじゃあベル。上脱いで背中こっち向けてや」
ロキは針で自分の指を刺しベルの背中に一滴血を落とす。すると滑稽な道化師のエンブレムがベルの背中に現れる。これがロキの眷属の証である。
(どれどれ...ベルのステイタスは...なんやこれ!なるほど。これがこの子の魔法とスキルか...)
いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます。
祝お気に入り登録100突破!!
本当にありがとうございます。これからもがんばります。
アイズさんとベル君チューしちゃえばいいですよねーー
次回はベル君のスキルと魔法発表です
挿絵描いていただいたものが完成したので10話に乗せました! 感想ありましたら受け付けます。