剣姫と白兎の物語   作:兎魂

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ベル君のファーストキスはベートに奪われてしまうのか...


10 ロキファミリアとの出会い 2

ざわざわしていた店内は静まり返り、誰かがごくっと唾を飲み込む音が聞こえる。

ベルは完全にそも場の空気に飲まれていた。初めての出来事が多すぎて彼の脳内はパニック状態になり思考は停止する。ロキファミリアの団員たちと豊穣の女主人の店員たちが見つめる中ベートは半ば強引にベルの唇を奪おうとする...

 

(だれか...だれかぁぁぁぁー)ベルが心の中で絶叫する

 

とその時。いたずら好きな女神が声をかけた。

 

「ベート!ええんか?」

 

ベートの動きが止まる。ロキは更に続けて問いかける。

 

「ベート...ホンマにええんか?おまえらがええならウチは止めへんけど」

 

一瞬ロキの方を振り返りうるせえといったあとベルの方に視線を戻すとそこにベルの姿はなかった。

 

 

 

 

(なぜだろう...あの子を見ているとなぜか心がもやもやする。この感覚はなんだろう。あの子を誰にも渡したくない...気がする)

 

他人にあまり興味がなく己の技や力を高めることしかしてこなかったアイズは自分の気持ちの変化についていけていなかった。

 

(もちろん仲間は大切だ。でもあの子は今日初めてあったはずなのにこんなにも心が乱される。

ベートさんに渡したくない。一瞬でも隙ができれば...)

 

そんなことを考えているとロキと目が合う。じっとロキの目を見つめるアイズ。そんなアイズの気持ちが通じたようでロキはベートに声をかけた。いくらベートとはいえ主神を完全に無視することはできない

 

ロキが隙を作った一瞬でアイズは一気に距離を詰めベルを抱き絞め元の席へと帰る。

 

「大丈夫ですか?」

 

ベルはアイズの胸に抱きしめられているため返事ができないでいるようだ。

 

(な...何がどうなっているんだろう。いきなり真っ暗になって何も見えない。なにか柔らかくてすごくいい匂いがする)

 

アイズは自分が抱きしめているから返事ができないとようやく気が付きベルを解放する。

ベルは今の自分の置かれている状況を今更ながら理解したようで顔を真っ赤にする。

 

「なっっすすすすみません」

 

なぜか全力で謝るベル。昔祖父に女の子になにかしてしまった場合有無を言わさず即座に謝った方がいいと教えられていた影響があるのだろう。ただしゼウスの場合は己の不貞行為のすえそれがばれた為あやまったというだけでただの自業自得である。

 

「どうしてあやまるの?」

 

アイズはベルが謝る意味がいまいちわからず首をかしげている。

 

「おいアイズ!なにしやがる!」

 

ベートはいいところでアイズにじゃまをされて怒り心頭だ。しかしここでロキがとうとう爆弾をおとす。

 

「いやーしかしベートもそんな趣味があったんやな?」

 

「あん?何がだよ?」

 

「その子男の子やで?」

 

「は???」

 

その場にいた豊穣の女主人の店員以外のすべての人が息をのんだ。

 

(((こんなかわいい子が男なわけないだろ...)))

 

全員満場一致で同じことを考えていた。しかしロキは神である。ロキの目に間違いはないのだ。

 

ぎぎぎっと壊れた機械のようにベートが振り向きベルに尋ねる。

 

「おいベル...おまえ...男なのか?」

 

「はい...男です」

 

いろんな意味でズーンとなるベート。

 

「ぶっひゃっひゃっひゃ」

 

さすがのロキも我慢の限界がきたようで大爆笑する。まわりの団員たちも大爆笑である。

 

「ガレス!酒をくれ」

 

ガレスが飲んでいるのはドワーフの酒の中でも特に強いといわれる龍殺し(ドラゴンスレイヤー)である

がははと大笑いしているガレスから酒瓶をひったくり一気飲みする

 

(ベートのやつ酒飲んで忘れる気や...またころあい見てこの話ふってやろ...)

 

ロキが悪魔の笑みを浮かべている。ベートはそのまま隅の席に座りテーブルに突っ伏した。

きりもいいということで今日はこれでお開きにしようと団長であるフィンが指示をだす。ただし幹部だけは残れとの指示であった。 

 

「いやーすまんかったな。ベルっていったか。ウチのベートが迷惑かけてもうて」

 

ベルはロキの言葉に恐縮して首をぶんぶんふって大丈夫ですと言っている。

 

「んで自分なにもんや?」

 

ロキの目が光る。冒険者を見定める神の目をしている。するとタイミングよくミアが厨房からでてきてベルがこの町にきた理由と今日ロキファミリアが来るまで店の手伝いをしていたことを明かす。

 

「そうなんか?んでウチのファミリアに入りたいん?というかなんでそんな服着てたん?」

 

ベルに問う。ベルはロキファミリアに入りたい旨を伝えるが服装については口ごもる。

 

「ロキ様はかわいい子がお好きなようなので私が着替えさせました!」

 

すかさずシルが満面の笑みでロキに進言した。

 

(なるほど...シルの趣味かいな...まあめちゃかわええけどな。ええ仕事しとるで)

 

ロキは皆に見えないようにシルに向かって親指を立てた。

 

「フィン。この子どないする?ウチはかわいいから入れてもいいで?」

 

(むしろ入ってほしいんやけどな...シルの目があるしそれは言えんな)

 

「ふむ。とりあえず一回着替えてから自己紹介してくれるかな?」

 

ベルは自分がまだ先ほどの服装から着替えていないことを思い出し焦って自分の部屋に戻って着替えてきた。

ミアに頼んでテーブルを借り、簡易的ではあるか面談できるスペースを作った。

フィンは手でベルに座るように促す。

 

「ではいいかな?」

 

ベルは緊張でうっすら汗をかいて顔を赤らめている。

 

「え...えと ベル クラネルといいます。1週間前までオラリオから北に100キロほど行った村でおじ..祖父と一緒に暮らしていました。ここには冒険者になる為に来ました」

 

幹部たちの顔色が変わる。

 

(ここから北に100キロ...あそこはたしかゼウスファミリアの...クラネル...か)

 

「ふむ。なぜ冒険者になろうとしたんだい?君は何を求めるんだい?君の覚悟を聞かせてくれ」

 

(なぜ...そういえばなぜ僕はここに来たんだろう。思い返してみると昔から英雄に憧れてはいた。そして自分が英雄になりたいとさえ思っていた。ただそれよりももっと別の感情があのお墓をみて出てきたんだと思う。あの喪失感。自分の無力感が嫌だった。強くなりたいと心のそこから思った。弱くて情けない自分を変えたいと思った。オラリオに行けば何かが変わると思った。...家族を護れる力がほしい)

 

一分ほどの沈黙。そこには今までの緊張している姿はなかった。自分の気持ちをぶつける勢いで話した、

 

「僕は(俺は)強くなりたい。誰にも負けないように。自分の家族を護れるように。(もう二度と失いたくない)誰よりも強くて優しい英雄になりたいんです」

 

ドンッと皆に衝撃が走った。この気迫は...本当にまだ恩恵も刻んでいない少年なのか?それになにか頭に直接声が流れてきたような...。

 

「なるほど。君の覚悟は本物のようだね。では明日黄昏の館まできてくれ。そこで最終試験を行う。」

 

(((最終試験!?そんなことフィンがいいだすなんて初めてだ...)))

 

「それじゃあ皆もいいかな?」

 

皆それぞれが団長であるフィンの意志に従う。

 

「ねえねえ えっとベルでいいかな?ベル あたし ティオナ ヒリュテっていうの。英雄になりたいってことは英雄録とか読むの?」

 

 

ティオナ ヒリュテ ロキファミリア所属 種族アマゾネス レベル5の冒険者だ。

 

英雄録が大好きなベルは同じ趣味をもつ仲間に出会えてうれしいようで自分の好きな英雄録について語る。

 

「僕は読むというよりおじいちゃんによくお話を聞かせてもらいました。一番好きなのはゼウスファミリアの物語です」

 

「んん?ゼウスファミリアの英雄録!?そんな本あるんだ!?わたし結構集めてるけどあるなんてしらなかったよ!今度聞かせてくれない?」

 

ベルはちょっと困った顔をして答えた。

 

「すみません。ええと、おじいちゃんにあまり話すなって内容を話すなっていわれてて」

 

「あーそうなんだ。ベルのおじいちゃんってゼウス様と知り合いだったのかもね」

 

えへへと笑うティオナ。何事か考えているフィン。

 

「そやベル!ちょっとその髪の毛触らせてくれへん?もふもふで気持ちよさそうなんやけど...」

 

ベルは首をかしげるが素直に答えた。

 

「髪ですか?別にいいですけどちょっと恥ずかしいというか...」

 

「そんなこと気にせんと!ぐふふ 近うよれ」

 

若干顔をひきつらせたベルがとことこロキの前までくる。ロキは満面の笑みでベルの頭を撫でる。

 

「この感触たまらんなーーいやーウチ的にはさっきの服のままでよかったんやで?」

 

ベルはぶんぶん首をふって否定する。さすがに男としてかっこいいとは言われたいがかわいいといわれるのは恥ずかしいのだ。若干涙目になるがそれを見てさらにロキのテンションは上がる...

 

「ん?アイズたんどうしたん?ああそやベル。まだ紹介してなかったな。ウチのアイズたんや。」

 

(さっきの人だ...ものすごい美人だなぁ..ロキファミリアって美人じゃないと入れないとか...?)

 

ベルがそんなことを考えているとアイズが自己紹介をした。

 

「アイズ ヴァレンシュタインです。よろしくお願いします...」

 

(ア...アイズたん。その自己紹介めっちゃつまらんで...)

 

ロキがアイズの普通過ぎる自己紹介に頭を抱えた。

 

「んと…ベルって呼んでいい…かな?私のことはアイズって呼んで」

 

「はっはい!え...えとアイズ...さん」

 

ベルは恥ずかしそうにアイズの名前を呼ぶ

 

「ベル...私も髪に触ってもいい?」

 

「んん?アイズたん!?どっどうしたん...珍しいこともあるもんやな。アイズが他人に興味持つなんて」

 

アイズはちょっとだけむっとしてベルにもう一度尋ねる

 

「あの...ダメ...かな?」

 

「ええと...いいですけど...」

 

ベルは顔を真っ赤にしてもじもじする。

 

「ベル...ウチの時と態度違わへん?...」

 

明らかにロキの時よりアイズの時の方がベルが緊張していてロキはうなだれる。

 

もふもふ。アイズがベルの髪を撫でる...トクン...

 

アイズの記憶のかけらが蘇る...それは幸せだったときの記憶。それは家族との絆の記憶。

 

(おとうさんの髪もふもふで気持ちいいね...)

 

(アイズ!お父さんは好きか?)

 

(うん!大好きだよ!)

 

...アイズの金色の瞳から涙がこぼれる...

 

(そうか...思い出した。私の大切な記憶...お父さん。あの時すごく幸せだったのを覚えている)

 

「アイズたんどうしたんや!?ベル!なにしたん!?」

 

全員の瞳がベルとアイズを交互に見つめる。

 

「えええ!?アイズさん!?ぼぼぼ僕何か悪いことを...」

 

アイズは首を振って否定する。と同時におもむろにベルに抱き着いた。

 

(そうか...ベルってお父さんに似てるんだ。こうしているとすごく安心する。...私の中の炎...ただ強さを求める私は黒い炎に突き動かされて何万ものモンスターを倒してきた。誰にもこの黒い炎を止められない。心が壊れても強くなれればいいそう思っていた。でも...君に触れた...ただそれだけで私の心の炎は黒いおぞましい炎から白い炎に変わった。心が癒される...)

 

 

(アイズさんどうしたんだろう...というか恥ずかしすぎて死にそうだ...。でもこの胸の奥から湧き上がる感情はいったい...)

 

ベルは自分の胸の奥からの感情に身を任せて自然に目をつぶりアイズの髪を撫でていた。

その光景はとても自然で一枚の絵のようだった。まるで父親が子供をあやしているかのような...そんな幸せそうな二人に誰も何もいえなくなっていた。

 

((((アイズのあんな幸せそうな顔...見たことがない。この少年は本当に何者なんだ...))))

 

「リヴェリア...見えとるか?」

 

ロキはオラリオ一の魔導師であるリヴェリアに問いかける。

 

「ああ。アイズからあの少年に。あの少年からアイズに魔力が流れ込んでいる。なにか魔法を使っている気配は感じない。私も初めて見る光景だ」

 

「ウチも結構長いこと神やっとるけどこんな光景みたことないわ。ホンマになんやねん」

 

(まあ何かあったらステイタスの更新をすればわかるからええか...ってかいつまでくっついてんねん!)

 

「あー二人ともそろそろいいかな?」

 

あまりにも長い時間そうやっている為遂にフィンが二人に話しかける。

 

(僕だってこの空気を壊したくはないけどさすがにね...周りからの視線が痛いし)

 

ロキファミリアの団員たちはアイズが幸せそうな顔をしているのでまっていたが背後から豊穣の女主人の店員であるシルとリューがジト目でみていたのである。さすがのフィンもその視線にこれ以上耐えるのは堪えるようだ。

 

ベルとアイズはお互いハッとなりババッと離れた。二人ともみんなの前でなんてことをしてしまったんだと頭を抱えて悶える。

 

「全く何をやってるんだい。あたしは先に帰るから帰るときに戸締りだけしといてくれ」

 

そういうと閉店作業をしていたミアは帰って行った。

 

「さてそろそろウチらも...んー?ベル。首のそれなんなん?」

 

(ベルの首から微量な魔力が出とる。さっきのアイズとの魔力交換?をしてからか)

 

「これのことでしょうか?これは僕が村から出るときに祖父に双剣と一緒にもらったものです。何か文字が書いてあるようなんですが僕には読めなくて」

 

ベルは首から首飾りを外した。どれ私が読んでやろうとリヴェリアが受け取る。するとリヴェリアの眉間にわずかにしわがよる。

 

「すまない。たいていの言語なら解読できると自負していたんだがな。神聖文字(ヒエログリフ)]ではあると思うんだが、通常の文字の羅列とは異なっていて読むことができない。ロキこれが読めるか?」

 

ロキはリヴェリアから首飾りを受け取りその文字を眺める。ふーむと顎に手をあて考え込むロキ。いつものふざけた雰囲気は感じられない。

 

(この文字は...なるほどなーそういうことやったんか。やはりこの子は...)

 

「すまんなー。ウチにも読めんわ。多分やけど守護の言葉だと思うで」

 

笑いながらベルに首飾りを返すロキ。しかしフィンは見逃さなかった。ロキが一瞬だが動揺したのだ。

 

(僕の親指がうずいている。それに僕の勘が正しいとすれば...まあ後でロキを問いただそう)

 

フィンの親指がうずく時。それは何かが起こる前触れである。フィンの勘は神も驚くほどよく当たる。

 

「さあみんな。そろそろ僕たちも帰るとしようか。ベル明日昼12時に黄昏の館まできてくれるかい?」

 

「わかりました。明日の試験はよろしくお願いいたします」

 

ベルは深々と頭を下げた。

 

「明日は手加減しないつもりだからそのつもりで来てくれ」

 

フィンはニコツと笑うと片手を挙げてから店をでて行った。

 

他の団員達もフィンの後について店を出ていく中アイズがベルに歩み寄ってきた。

 

「あの...さっきはごめんね?いきなり...嫌だったよね?」

 

アイズが心底申し訳なさそうにベルに頭を下げる

 

「いやいやいや 全然嫌じゃないです...むしろうれしかっ...じゃなくてぇ...」

 

ベルはあわあわしながら取り乱している。そんなベルを見てクスッと笑ったアイズは明日はがんばってねという言葉を残して去って行った。

 

(まだ心臓がどきどきする。この気持ちはいったい...)

 

アイズは生まれて初めての感情が芽生えつつある...

 

ベルもまたドキドキする胸をなんとか落ち着けて店内の清掃を行う。

 

「ベルさん?ずいぶんとアイズ ヴァレンシュタインさんと仲が良いようで...?」

 

シルは笑顔だが黒いオーラが背後から立ち上っている。リューもそれとなく気にしているようで店内の清掃をしつつベルの方をちらちら見ている。

 

「いやいやいや今日僕初めてあったんですよ?ただ...」

 

「ただなんですか?」

 

「いえなんでもありません。店内の清掃してしまいましょう?シルさん」

 

そう話を打ち切り店内の清掃に戻った。シルは納得していない様子だったがしぶしぶ清掃に戻るのであった。

清掃も終わりシルとリューにお礼をいい自分の部屋に戻ったベル。

 

 

(今日は本当にいろんなことがあったなぁー。あんまり思い出したくない事もあったけど...

アイズ ヴァレンシュタインさんか。すごくかわいいけどなんだかすごく身近に感じた。不思議な人だったな。あの人をみてからもっとこのファミリアに入りたくなった。明日はどんな試験をするんだろう..がんばらなきゃ)

 

ベルは深い眠りに落ちて行った。...

 

 

美の女神フレイヤ 

 

オラリオにて最強を誇るロキファミリアと同等の力を持つファミリアの主神である。

フレイヤは神の中でもその容姿やスタイルは群を抜いていて下界の子供たちはフレイヤに触れられただけで魅了されてしまうという。フレイヤは自分の気に入った子供はたとえ他のファミリアに所属していても魅了して自分の眷属にしてしまうという悪い癖があった。その容姿で男神には人気があるが女神の中にはフレイヤを憎んでいるものも多い。過去フレイヤが魅了できなかった人物はただ一人だけである。

 

「オッタル...シルから連絡が入ったわ。面白そうな子がいるの。まだどこのファミリアにも所属していないし見に行きましょう」

 

オッタル

 

フレイヤファミリアの団長でありオラリオ唯一のレベル7であり都市最強の冒険者である。二つ名は猛者(おうじゃ)フレイヤに絶対の忠誠を誓っておりどんな任務でもフレイヤの名の元に遂行する

 

「はっ」

 

フレイヤのそばに控えていたオッタルは短く返事をし主の命に従うのであった。...

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 




いつも読んでくださっているみなさんありがとうございます。

今回はベートさんが少々かわいそうなことになりました。次回からのいじられを想像すると涙がでます。

ベルとアイズがついに絡み始めました。お互いまだぎこちないですがこれからいい展開にもっていきます。

今挿絵の依頼もしているのでそのうちアップいたします。

次回 ロキファミリア入団試験 ご期待ください。

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