デート・ア・ライブ 電子精霊達と共に   作:神谷 莢那

81 / 85
 活動報告なんざ見てないだろうなぁとか思いつつも言わせてもらうと合宿があって時間が無く日曜日の更新を金曜日に回させてもらいました(もう土曜日なんだけど、まあ、寝るまでに一つって感じで)。夜になったのは合宿と別ゲーのせいで進んでなかった本能寺回ってたからです。間に合わせました。
 では、どうぞ


憤怒

 「よっと」

 

 体がブレるような転移とはまた違った浮遊感を感じつつ、〈フラクシナス〉によって地上に転送される。自前で転移ご出来るせいか、そう言えば前にこれ使ったのいつだったっけなぁと、日常を過ごす裏では精霊の能力を十全に扱うべく修行を重ねているせいで遠のいてきた記憶を認識する。電脳世界に入り込んで行う修行は現実となんら変わりがない感覚を以て何も無くだだっ広い場所で能力を発動して反復し、感覚を覚え込ませることに尽きる。一応データから構成されたエネミーと戦うこともあるものの精霊の力は遥かにそれを上回るものであるので基礎の反復が基本であったりする。

 

  『無事現場に着いたみたいね』

 

 右耳に装着されたインカムから琴里の声が聞こえてくる。

 

 『精霊の反応は空間震発生地点から南の方に移動してるわ。急いでちょうだい』

 

 言われなくても感覚的に掴めているのだけどな、と心の中で呟きつつ、体に霊力を回して駆け出す。

 空間震によって出来上がったのだろう瓦礫をものともせずに走っていると、聞こえてきたのは――歌声。

 

 「この歌は……?」

 「えっ、もしかしてキミ、知ってたりするの?」

 

 疑問を浮かべる鞠亜に、それを聞き覚えがあるのだと思った鞠奈が意外そうな様子で返す。

 

 「いえ、聞き覚えはありませんが、この歌には僅かながら霊力が含まれています」

 「霊力が? 精霊が歌っているのか、この歌は……?」

 「心当たりがあるわよ。と言っても、フラクシナスのデータを眺めてたら見つけたヤツだけど。半年前に出現を確認された精霊、『ディーヴァ』。それ以外に観測されておらず、性格、能力、天使に戦闘能力と全くもって不明。けど……」

 「歌に霊力を乗せることが出来、なおかつ識別名がディーヴァとくれば、音を媒介にした能力であると推測できますね」

 「そんなにピンポイントな識別名、誰がつけたんだか……」

 

 天使を完全に顕現させれば玉座が出てきてまさに王、もしくは姫と言った感じで、識別名が『プリンセス』であった十香然り、見た目でつけているのだろうけど。四糸乃なんて『ハーミット』という氷の能力によらないものであったのだし。

 

 「とはいえ、推測は推測だ。警戒していこう」

 

 ASTがやってくることも分かっているだろうに歌い続ける精霊とは、一体どんな性格をしているのだろうか。

 

 

 そうしてやって来た天宮アリーナのその中央で、スタッフ達も放置したまま避難したのであろうスポットライトに照らされながら歌う精霊がいた。

 

 『あれはまさか……ディーヴァ……?』

 

 それ、もう判明してたんだけどな……? こちらの声が届いていないのだろうか。もしかしてこのインカム、一方通行……? まあおそらく、クルー達と何か話していたのだろうけど。

 

 「あっ」

 

 ぐしゃ、と足元で音が響いた。どうやら、空き缶を踏み潰してしまったらしい。どうやら歌っていたり彼女にも聞こえてしまったらしく、「あらー?」と間延びした声が響く。こんなことならもう少し霊力を回して五感を強化するべきだったろうか。

 

 「お客さんがいたんですかぁ。誰もいないと思ってましたよー」

 

 優しげなのんびりとした声を響かせてくる。どうやら客席が暗いから士道の姿を見つけられないらしい。まあ、あちらが明るすぎることもあるのだろうが。

 

「どこにいるんですかー?私も一人で少し退屈していたところなんですよぉ。もしよろしければ少しお話をしませんか?」

 「行くべき……かな?」

 「ま、動かないわけにも行かないでしょう。けど……」

 「急にどうしたんだよ鞠奈」

 「何か嫌な予感がするのよねぇ……。士道、予め霊力を多めに回しといて貰えるかしら?」

 「まあ、それくらいなら別に構わないけど……」

 

 なにを察知したのかは分からないが、とりあえず助言に従っておくことにした。

 

 「ああ、わざわざ上がってきてくれたんですかぁ?こんばんわ。私は……」

 

 と、にこやかな笑みを浮かべながら体を回転させた精霊は士道を目にすると同時にぴたりと言葉と体の動作を停止させた。

 それだけでなんとなーく嫌な予感を感じつつも、とりあえず声をかけてみる。

 

 「え、ええと、こんばんは」

 

 が、しかし。嫌な予感というのは外れにくいものである。

 インカムからビーッ!ビーッ!と言うけたたましい警告音が響き渡った。

 

 『こ、これは……好感度、機嫌、精神状態、あらゆるパラメーターが急落してるわ!一体どういう事……!?士道、あなた下半身露出とかしてないでしょうね!?』

 「する訳ないだろー?」

 『ちょっと。どうして士道までそんな間延びしたやる気の無さそうな様子になってるのよ……』

 

 なんせ、この後の展開が察せてしまったからだ。

 体の動きを停止させていた少女は、ギギ……と錆びた機械のように首を回したかと思うと、すう……と体を反らして大きく息を吸い始めた。息を吸いこんだあたり、やはり音を扱うのか。そう一瞬意識をそらした隙に、

 

 「わっ!!!!!!!」

 

 声が衝撃波となって襲ってきた。

 だがまあ、今は体に十全に霊力が巡っていることもあり、対処のしようはいくらでもある。おそらく自分一人だけなら〈絶滅天使〉が自動で回避してくれるのだろうが後ろの2人はそうもいかない。霊力に特定の属性をつけずに放射――以前にも行った、指向性の空間震のようなもの――し、相殺する。

 

 「え?何で耐えてるんですかぁ?何で落ちてないんですかぁ?何で死んでないんですかぁ?可及的速やかにこのステージからこの世界からこの確率時空から消え去ってくださいよぉ」

 

 何を言うかと思えばこれだ。まあ、予想はできていた。この後の展開も、士道には察せている。だからこそ、無気力に近しい状態なのだ。

 

 「人の言う事を聞けない人ですねー一刻も早く消えてくれませんかぁ?あなたの存在が不快なんですぅ。もしかして、人の言うことも理解できないんですかぁ? ……ってあれ? まぁ、まぁっ!」

 

 士道の後ろにいた鞠亜と鞠奈に目をつけ、士道のことなんて忘れ去ってしまったのように彼女らに近づく。不用心に手を伸ばそうとして――殴り飛ばされた。

 この時の士道が思うことは一つ。やっぱりか、である。

 

 「さっきから聞いてれば、あたしの士道(好きな人)をまあずいぶんと言ってくれるわねぇ?」

 「流石に今のは私でも許せません」

 

 修学旅行での襲撃に備えて用意されたものの使用されなかった、鞠亜達専用のCR-ユニットがいつの間にか装備されていた。彼女らの瞳は憤怒の色に染まっており……まあ要するに、めちゃくちゃ怒ってる。とてもとても。

 士道が罵倒されることならこれまでも幾度かあったがしかし、ここまでは無かったのだ。しかし、これまでよりも酷い罵倒をし、さらには眼中に無いと言わんばかりの扱い。いくら彼女達といえども愛する少年(士道)に対してそこまで言う輩に容赦をする気なぞ、微塵もなかった。

 しかし、それはそれでまずい事態である。なにせ、二人は本当に容赦する気がない。その上、特別製のあのCR-ユニットは霊力無しでも精霊と渡り合える程度を目安として作られたものだ。元AIならではの演算能力が生かされた結果と霊力によって加工された謎物質あってこその異常なスペックなのだが、今回はさらに霊力も潤沢にある。弱いはずがなかった。そうすると、勢い余って殺しかねない事態なのだ。

 

 「ASTが来るってわかっているのに歌い続ける辺りがまず馬鹿でしょうに。その上あたし達を敵に回すとは、いい度胸じゃないの」

 「士道の妻として、あなたを許すわけにはいきません」

 「まだ妻じゃないだろ!?」

 「まだ、ですね。分かりました。私はもう予約済みということで納得しておきましょう」

 「それくらい言わなくても分かってるだろ?」

 

 長い付き合いにも程がある。その上、相思相愛なのだ。言わずとも察せることだって多いだろう。というか、戦闘が始まりそうな空気の中言うことがそれなのか鞠亜。ちらっと不安そうな目線を向けてきた鞠奈にも、「当然だ」と頷いて返す。

 

 「つ、妻ですかぁ!?」

 「あら、何を驚くことがあるのかしら?」

 「私達は士道のものですから」

 

 そう言って、見せつけるように士道にくっつく二人。めちゃくちゃ睨まれるんだけど、どうしてくれるんだよ。と心の中で愚痴りつつも珍しく積極的な二人の様子に嬉しさを感じる。でもイイ笑顔をしてるからこの行動は完全に煽り。

 そんな二人の行動に何か沸点を通り越してしまった様で、罵倒する時でさえ女神のようであったディーヴァの笑みが消えてゆく。

 

 「そう、そうですか。そんな人がいいなんて損してるに決まってますそうでしょうそうですよねぇ? だから、私が解放してあげます。この歌で――!」

 

 ディーヴァが何かしようと息を吸いこんだ瞬間、アリーナの天井が爆発する。

 

 『士道、ASTが来たわ! 一旦回収するわよ!』

 

 ASTと鉢合わせることなく、速やかに撤退が行われた。




 一回データ飛んで一からやり直してました。safari落ちるのはなんでなん? 今もキーボード叩いた時にラグがデカくてビビってます。消えないうちさっさと投稿しますね……サブタイは鞠亜達に注目して憤怒ってところで。ではまた明日。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。