「お、おはよう五河くん。待たせちゃったかな?」
「全然待ってないよ」
折紙とのデート当日。彼女のことだから早く来るのでは、と一時間前から集合場所で待機していたところその十分後、集合時間の五十分も前に彼女はやってきた。それより前にいた俺が言うのもなんだが、早すぎるだろうそれは。
「二人ともはやく着いちゃったし、先に向こうへ行って時間をつぶそうか」
「エスコート、よろしくね? ところで、どこに行くのか聞いてもいい?」
『士道、こっちで指示を出すから一瞬待ちなさい』
インカムから琴里の指示が来た。行き先も選択肢で決めるのか……。
「総員、選択!」
〈フラクシナス〉の巨大モニタに映し出された三つの選択肢にそれぞれ票が入ってゆく。一つは論外と言える――なぜこんな選択肢が、と言いたくなるほどのものだったので、妙な選択肢を選ぶここの船員たちもこればかりは残り二つの選択肢から最適を選ぶ。
「一位が①で二番は②ね……普通なら①だけど、鞠亜達はどう思うかしら」
「②がいいと思われます。初めから話さず画面に集中する映画は普段は選びにくい選択肢かも知れませんが、まずは折紙に士道を意識してもらう必要がありますからね」
「恋愛ものでも見ながら気を見て手を握らせればいいんじゃないのかしらね。そうすれば、誰だって意識するでしょ。多分」
「ふむ……そうね、鞠亜達の案がいいわね」
『士道、②映画館へ向かう、よ』
「了解」と小声で返事をし、視線を折紙に戻す。
「結構定番だけど、天宮クインテットに行こうと思う。最初は映画を見に行こうぜ」
「映画ですか! 五河くんはどんな作品を……」
そこからしばらく、折紙は映画の話題で盛り上がった。以前の折紙は無表情で娯楽に興味もなさそうだったが実はこういう趣味があったのかもしれない。今となっては彼女が記憶を取り戻すくらいしかその審議を当うすべはないが。
正直なところ映画そのものを見るよりもデートとして映画館へ行ったついで、ということが多い士道は映画の話を長く続けることは難しかった。折紙の機嫌を損なわず楽しく会話を続けられたのは、〈フラクシナス〉からの援護が大きい。
映画館に到着したところ、予定より早く集合したことが功を奏したのかちょうどよく始まる映画があった。トイレに行くふりをして〈ラタトスク〉から映画のチケットを受け取り、スムーズに中へ入る。
「初めて見る映画ですし、楽しみです!」
その映画は平凡な男子高校生が恋をする物語。初めて出会った少女に恋をし、「一目惚れしました!」とすぐさま告白した思い切りの良さには驚かされた。彼女と親睦を深めるうちに、彼女からある秘密――彼女の存在そのものに関わるほど大きなそれ――が明かされ、それを信じられないと思いつつもやがてそれを受け入れ、やがてお互いのいるべき場所へと帰る、そんなせつない話だった。
主人公が告白した冒頭の辺りで早速〈フラクシナス〉からの通信が届き、手を握る。〈フラクシナス〉からの指示通り、指を絡ませるように、だ。こちらへ驚き混じりの顔を向けた後、向こうもその手をぎゅっと握り返してきた。
そうして映画は進み、クライマックスの別れのシーンではぎゅっと腕まで抱き寄せられた。
「悲しい話だったね……」
「ああ、そうだな……」
自然と手を繋いだまま映画館から出たところで
「っっ………!!!!」
やっと手を繋ぎっぱなしだったことに気がついたらしく、結構大きくびくりと体が跳ねた。
「そ、そ、その、五河くん? その、手……」
「はぐれたら困るし、繋いでおこうか」
映画を見終えた人々で周囲は溢れかえっている。まあ、それは建前で実際は〈フラクシナス〉の指示なのだが。
「さて、ご飯でも食べようか」
映画館から、少しゆっくりと歩いて十分ほどでやってきたのはビル上層部にあるレストランだ。
「午後の予定って、聞いてもいいかな?」
「ああ、いいぞ――」
耳元のインカムから、電子音が鳴る。
〈フラクシナス〉が選択肢を告げるサインだ――。
艦橋のメインモニタに三つの選択肢が表示される。
「総員、選択っ!」
①と②がまたしても拮抗。やや①が優勢だろうか。そして③もまた論外な選択肢である。何かシステムに異常があるのかと疑わしくなってきたが、そのうちチェックさせておこう。
これなら①で良いだろうが……
「ねえ、鞠亜達はどう思うかしら」
「私達も①でいいと思います」
「ま、ショッピングが嫌いなんて人は珍しいでしょうしね」
「ま、それもそうね。鳶一折紙は見ての通り普通の女の子な訳だし、嫌いってことはないでしょ」
『士道、①ショッピングへ向かう、よ』
またしても小声で返事をし、
「ゆっくりと辺りの店を見て回ろうと思うんだが、それでいいか?」
「ショッピングってことですか? はい、大丈夫です!」
映画の感想を話し合いつつ昼食を終え、辺りの店を見て回る。そんな中、折紙が足を止めたのは大手の服屋だ。
そして始まる服選び。「五河くん、これはどうですか?」と問われては、〈フラクシナス〉からの支援もありつつで全て異なる感想を返し、数十着試した中から一番気に入ったという一着を贈った。もちろん、〈フラクシナス〉が金を持つので俺が贈ったとはいい難いような気もするが。女性の買い物には時間がかかるというがその通りで、映画を見て遅めの昼食であったこともあって時間は既に六時を回っていた。
映画のストーリー説明では、近頃知り合いに読ませてもらった「僕は明日、昨日の君とデートする」という本が印象に残っていたのでそれ書いただけです。深い意味はありません。タイトルちょっと間違えてるかも? 一度読んだだけだからうろ覚えなのよね。
中途半端に切れてるのはここから長くなりそうだからですね。折紙との戦闘になるかも(未定)だし、原作のデート後みたいなところ。どう改変していくかね。
デート内容が簡略だったり変態な折紙さんが出てきていないのは仕様です。原作ほど昔の方の折紙とも知り合っていないので自重しているという設定。面倒だからだろとか言わない、ソコ。ちゃんと攻略後は歯止めが効かなくなっていくから。でも、「静まれ私の右手」は書きたかった。そのうち別の話ででも出すか。
サブタイは恋愛感情を芽生えさせ、育て上げるっていう〈ラタトスク〉の作戦的な感じでひとつ。