デート・ア・ライブ 電子精霊達と共に   作:神谷 莢那

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 学校の宿題……たまってた……。
 てわけで大忙しです。慌てて宿題片付けつつもやはり深夜になったら執筆開始。長くなりそうです。もしかしたら戦闘シーンでも終わるまでで止めるかもね。


狂三

 次の日。狂三の本体が死んでいない以上生きているのは分かっていたが、わざわざ登校してきていることに驚いた。やはり、何か目的があるのだろうか。

 

 「あら、士道さん。ごきげんよう」

 「おう、おはよう」

 

 おはよう、おはようございますと二人が続く。

 

 「昨日は楽しかったですわ。また誘ってくださいまし」

 「そうか」

 「――今日の放課後。屋上に来てくださいまし」

 

 狂三はそう話を切り上げると、士道達から視線を外した。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 階段を登っている時に、突如周囲が暗くなったかと思った刹那、全身を倦怠感と虚脱感が襲う。感覚からして間違いなく、霊力の仕業だ。

 

 昨日にも行ったように霊力を開放し、また鞠亜達の守りを固める。出来ることなら擬似霊装まで開放してしまいたいところだが、二人分の擬似霊装を発動するには少し霊力が足りない。

 登りきった階段の先、その屋上には――

 

 「ようこそ。お待ちしておりましたわ、士道さん」

 

 狂三が待っていた。

 

 

 

 

 「狂三か。この結界を解け。――おそらく、霊力……いや、寿命……でもない。時間を奪う結界か」

 「なっ……どうしてお分かりに」

 

 感覚、としか言いようがない。解析などすれば鞠亜達にも同じ結論は出せるだろうが、感覚だけでそれを行えるのは何故か俺だけなのだ。

 

 「それと――本体と対話したい」

 「っ!? どこまで知っているんですの!?」

 「ほら、一々驚いてないでとっとと本体を出しなさいよね」

 「その通りです。クラスメートの命もかかっていることですしね」

 「っ、鞠亜さんに鞠奈さん、その姿は……そうですか、お二人はASTに所属して――」

 「は? 私がそんな頭の悪いところに入ってるわけ無いじゃないの。殺せもしない精霊をむやみやたらに追いかけ回すなんて馬鹿のやることよ、馬鹿の」

 

 ああ、いつも通りの鞠奈だ。狂三がぽかんとしている。

 

 「と、ともかく、結界を解くのはお断りですわ。士道さんが目的でしたが、そろそろ時間を補充しなければなりませんでしたし」

 「士道が目的?」

 「そこはお話できませんわぁ」

 「士道、辺りの精査(スキャン)が出来ました。学校にかけられた結界を解除します」

 

 途端、絶えずに襲いかかってきていた虚脱感と倦怠感が消え去る。色こそまだ黒いままではあったが、時間を吸い上げる効果は解除されたのだろう。狂三がまたしても驚いた顔をしている。

 

 「な、どうやって……。本体も、皆さんとお話したいそうですわ。しばしお待ちくださいまし」

 「どうも初めまして、ですわ」

 

 突然、狂三が目の前に現れた。これが本体ということだろうか。

 

 [ええ、本体で間違いありません]

 

 鞠亜から解析の結果報告が届く。

 改めて見た本体の狂三は――

 

 「――っ!?」

 

 その瞳の奥深くに見えた色に、士道は驚愕の声なき声を上げる。

 まるで、世界に絶望したかのような。昔の十香の行き着いた先であるような。狂気の仮面に隠されたその本性の色は、あまりにも狂三のイメージにそぐわないものだったから。

 そして、生まれた時からの悪ではないのだという安堵と共に、改めて決意する。

 ――この精霊を助けてみせる、と。

 

 「それで、士道さん。わたくしと会ってどうするおつもりですの」

 「色々言いたいことも、言ってやりたいこともあるが――」

 

 宣言として。自らへの誓約として。

 

 「俺は――お前を救うことに決めた」

 「なっ」

 「だから俺はお前を止めてやる。理由が欲しいなら、無理矢理にでも用意してやる。だから――」

 

 本気で行く。

 

 「鞠亜、鞠奈、下がってくれ。一人でやる」

 「危なくなったら流石に手は出すわよ」 「私もです」

 「ああ、任せた」

 

 軽く会話を交わした後、意識を切り替える。

 こちらの気配が変わったことを感じ、狂三が身構えるのと同時。身体能力の強化にのみ回していた霊力を、今初めて能力に回す。

 そして、戦いの火蓋が――

 

 「兄様っ!」

 「っ、真那か」

 「はい、危ねーところでしたね。って、義姉様達、ワイヤリンクスーツを?」

 「まあ、事情があってな」

 「まあ、詳しくは聞きません。それよりも――」

 

  ステップ一つ、背後から飛んできていた黒い弾丸を回避する真那。

 

 「〈ナイトメア〉を殺します」

 

 視線の先には、いつの間に天使を顕現した狂三が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 そこからの展開は、圧倒的に狂三の優勢であった。

 自らの時を加速し、敵の時を止め、また時を巻き戻す狂三に、分体程度の実力であると侮った真那があっさり破れ、屋上に墜ちる。続いて来た折紙も、同じ結果を辿る。それらを鞠亜が回収するのを横目に、真正面から向き合う。

 

 「あらあら、妹さんだそうですのに。それに同級生も。助けないんですのね」

 「見られて困る正体をしてるんでな。鞠亜達とどちらを取るかと言われれば、間違いなく二人を選ぶ」

 

 ASTに情報が伝わってしまえば、情報を操る力だけではどうしょうもない自体に陥ってしまうのだから。

 

 「――では、まいりますわ。〈刻々帝(ザフキエル)〉 【一の弾(アレフ)】」

 

 自らを撃った狂三が加速すると同時、屋上を覆い続ける影から無数の狂三が出てくる。

 

 「力を貸してくれ。――鏖殺公(サンダルフォン)

 

 身の丈ほどもある大剣を収める玉座が現出し、士道の装いが変化する。十香のように長く黒い髪になり、制服もドレスじみた霊装に変わる。士道にはわからないが、顔立ちもより女性的なものへと変化し、瞳が水晶のごとき虹彩を持つ。そして、幻想的な輝きを放つその剣を引き抜く。

 驚愕の表情を浮かべる狂三を視界に入れつつ、その剣を横一線に薙ぎ払う。

 

 「っ、〈刻々帝(ザフキエル)〉―― 【四の弾(ダレット)】」

 

 届くはずが無かった距離からの斬撃に体を上下に分断され、即座に修復する狂三。だがそんな力があるのは本体だけで、分体は消えゆく。だが、それを補充するかのように地面から再び同じだけの狂三が現れる。

 

 「元から止めなくちゃダメか――〈氷結傀儡(ザドキエル)〉」

 

 滑らかで無機質なフォルムの精霊が顕現すると同時、またしても士道の装いが変化し、ウサギ耳の飾りが付いた緑の外套が纏われ、髪は先程よりは短く。そして海のように青く染まり、その瞳はサファイアのようなものへと変わる。その変化の直後、夕立のように突如として雨が降り出し、ほんの数十秒で屋上一面を氷で覆ってしまう。

 もちろん、狂三も黙ってそれを見ていた訳では無い。 【一の弾(アレフ)】による超加速と、既に出てきていた分体によって士道に影の銃弾を放ったのだが、雨に触れると凍りついて落ちてしまったのだ。

 しかし、防戦一方では勝てない。

 

 「〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

 即座に能力を切り替える。雨がピタリと止み、それと同時に士道の装いが三度目の変化を遂げ、オレンジ色の和服の足回りをアレンジしたかのようになっていた。また髪は赤く染まった上にまた腰に届くほど長くの伸び、白い角がはえ、天女の羽衣のようなものまで着ている。瞳は赤に染まっていた。そして、全身が燃え盛る炎に包まれる。

 

 「〈刻々帝(ザフキエル)〉―― 【七の弾(ザイン)】」

 

 その破壊的な炎に危険を感じ、時間を大量に消費するその弾丸を、避けられないようにと連続で撃ち出し、壁とする。――被弾。

 

 そして、意識が戻った直後、体中に穴が空いたことを知覚するも、そっちのけで狂三を視界に捉え炎の戦斧を振るう。自在に形を変えた戦斧は、その射程圏内にいたすべての狂三をなぎ払った。そして、振り終えた頃には体中の傷が修復される。

 

 「うふふ、終わってしまいましたわ……なっ――」

 

 その驚愕の声は、分体をやられた故か、はたまたこちらの傷が治ったことに対してか。

 

 「氷で覆っても無駄、ですわよ」

 

 影が屋上を覆い隠す氷を更に覆い、でこぼことした黒い地面となる。

 

 出てくる狂三に次々と 【一の弾(アレフ)】を打ち込んだ狂三は、数十体の加速した狂三と共に、士道に正面、はたまた左右、背後から飛びかかる。

 

 「それを待ってたよ」

 

 そして、士道は自壊し、最も接近していた半数が完全に消滅。残りのものは本体含め、何処か体の一部を欠損した。

 

 「【四の弾(ダレット)】。っ、なんですの、今のは……」

 「「「「「お前(狂三)と同じ、分体だ」」」」」

 「っ!?」

 

 本日、何度目の驚愕だろうか。狂三が視線を向けたその先には、バグの入り交じった黒い修道女じみた服を纏い、黒い髪と金の瞳を持つ無数の士道と、一人、コードで巻かれたような、どこか悪魔のような装いに髪のところどころが瞳と同じ金に染まった士道の姿があった。

 

 そして無数の士道の分体が、狂三の分体に飛びかかる。それに応戦する狂三だが、士道の狙いは肉弾戦などというそれではない。

 

 「――な」

 

 屋上一面を、分体の自壊による破裂が襲う。

 屋上の空間そのものが霊力により侵食され、支配される。

 

 「いくら分体を倒そうとも――っ!」

 「気づいたか」

 

 屋上の空間を支配したために、士道の意思一つで分体の出現すら止めてしまえるようになったのだ。言わば、屋上一面は士道の随意領域(テリトリー)となった。

 

 「くっ――」

 

 本体だけで応戦しようとする狂三だが、直後、目の前にいたはずの士道の姿を見失う。そして、背後から全身を拘束される。

 士道が行ったのは、侵食し、支配した領域内でのみ使用可能なタイムラグを持たない瞬時のテレポートにて背後にまわり、そこから鞠亜の力を使って顕現装置(リアライザ)の第三形態を発動。霊装と同時展開することを前提とした顕現装置を電子の世界から呼び出し、装着。生成魔力と霊力の合わせ技にて完全に拘束したのだ。

 

 「さて、狂三。俺の勝ちだ」

 「そのようですわね……」

 

 敗北を悟ったのか、黒くなっていた校舎が元の色へと戻ってゆく。

 

 「それで士道さんは何をお望みでして? 私の力を差し上げるつもりはありませんけれど」

 

 ここからが、精霊攻略の本番でもある。

 人のせいで歪んでしまったこの精霊を助けて――

 

 「士道、ここは任せてください」

 「鞠亜?」

 「キミに任せっぱなしだったんだから、ちょっとくらい手伝わせなさいよね」

 「鞠奈まで……。ああ、任せた」

 

 信頼を持って彼女らに任せることとする。なにかしでかした時のために、顕現装置のみを残し、霊装を解除。拘束も、すぐにかけられるよう警戒を続けつつも解除する。

 

 「ほんとうにキミってば、何がしたかったのかしら?」

 「ぇ」

 「鞠奈、狂三は狂三なりに頑張っているんですから、言い過ぎは駄目ですよ」

 「分かってるわよ。で、キミ。士道の性格ぐらいもう分かってんでしょ?」

 「え、ええ、まあ」

 

狂三(わたくし)のような精霊にすら、救う、と言ってしまえるほどのお人好しであることは、ああまでして戦ってよく分かった。

 

 「なら、お人好しな士道がキミみたいに事情を背負った精霊を見て見捨てられないことくらいわかりなさいよね」

 「狂三がこれまで何を思い、そうしてきたのか私達は知りません。でも、私達は貴方が何らかの想いを持って進んできたことだけは分かります」

 「――っ」

 

 心が見抜かれている。狂三はそう感じた。

 

 「狂三。貴方はもう、一人ではありません。一人になんて、私達がさせません。逃げようとしても、捕まえますから。目的を話すのも、貴方の気が向いたらで構いませんそして――」

 「泣きたいこと、悲しいことがあったなら、話くらい聞いてあげるし、私達なりの慰めくらいはしてあげるわよ」

 「あと」

 「「一人でよく頑張りましたね(頑張ったわね)」」

 

 その言葉に、これまでのことが報われたような気がして。

 幾年ぶりに、狂三は涙を流した。

 

 

 

 

 

 「士道さん」

 

 狂三も落ち着いて、話ができるようになった。

 

 「わたくしはもう、多くの人を殺してしまっていますわ」

 「知ってるさ」

 「この手は――」

 

 反省出来たなら、それでいいじゃないか。人殺しを容認したり、擁護するつもりは無いが、狂三の歪みの原因はむしろ人にある。彼女のこれからがそうではないのならば、過去のことはもう、水に流してしまっても構わない。死んでしまった人が浮かばれないだなんて、そんなことは関係ない。狂三はやっと前を向くことが出来て、これから、正しい道を歩んで行けるのだから。精霊を味方するかのように、士道はそう言い放った。

 

 「そう……ですか。ありがとう、ございますわ…………」

 

 汚れてしまった自分が認められた。そんな思いで、狂三の瞳からまた涙が溢れ出す。

 

 「士道、さん。ありがとう、ございます、わ……」

 

 涙ながらに、頬にキスをされ、自動で封印してしまう。それによって狂三の霊力で編まれていた服が消え去る。

 これには涙していた狂三も驚き、顔を赤くしてピタリと停止してしまう。

 

 「あー、ええと――」

 「全く、士道はこれだから準備が足りないんです」

 

 なんて、言って、鞠亜が狂三に大きな外套をかけてやる。

 

 詰めが甘い、と言われて苦々しい表情になる士道。それを見て、そして、その輪にこれから自分も居られるのだと思って。

 狂三は、嬉しさ故の涙を、三度流した。




 過去最長! 作者のデート・ア・ライブ原作では一番好きなキャラでしたからね。それに戦闘シーンあったし、みんなの力で倒したっぽくしたかったので全員分能力使うことになりましたし。鞠亜の能力が戦闘に不向きなのでちょっとしか出せませんでしたが。

 いろいろと詰め込んでたら執筆時間が二時間半をオーバーしました。
 そんなわけで狂三の攻略完了。これでもう原作からズレてるのにさらにここからは原作とは違う流れに入ります。後でちょっとは戻るかも分からんがね。あれ、アニメ二期で終わるとか予定してたのに流れ変えたら伸びんじゃね。まあ、書きたいので書きますが。

 折紙と真那を見捨てたのは……正直すまんかった。正体バレ防ぐためにはこれが確実だったのさ。助けに入るのを考えたりもしたんだけど(原作でも士道がラタトスクに入ってることを真那は話さなかったというか、そもそもラタトスクを発見してもそのことを話さなかったわけだし)、折紙もいるしなぁ。あ、十香は鞠亜達が話して止めておきました。下手に介入されると変になりそうだったのでね。

 狂三の内心やらやってきたこと云々はすべてでっち上げなんであんまり気にしないで。本体と出会って少しなのにチョロ過ぎない、とも言わないでくれ。分体が若いとはいえ士道と話しただけであっさり攻略されかけてたし、本体に最初から、核心をついたこと話せばいいんじゃねって思ったのとどうしても攻略させたかったのとが成した無理やりなので。でもさ、考えて欲しい。前日に一つの分体は死んでたんだから、屋上で士道と話し合った分体は完全に――士道のことは情報としては知ってるだろうけど――初対面なわけで、それで本体に消されるほどには攻略されたんだから。

 言葉使いに時々不安があったのでおかしかったら言ってください修正します。

 そんなわけで今回は私にしてはずいぶん長かったですが読んでくださってありがとうございました。
 また来週〜。

 サブタイは以前に予言してたとーりのやつです。


【追記】
 日刊ランキング15位に乗ってました(8月19日二時半に確認)
 すっごい嬉しいんだけどさ、なんで伸びてんの……?
 アクセス解析的に昨日の11時からやたら多いんだけど、更新も何もしてない木曜に伸びる訳とは一体……?
 ともかく、読んでいただいた皆さん、ありがとうございます!

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