デート・ア・ライブ 電子精霊達と共に   作:神谷 莢那

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 よしのん難しい(多分2度目)


名前

 「ん……もう朝か」

 

 あくびを一つこぼし、寝返りを打つ。

 ――と。

 

 目の前に、鞠奈がいた。

 

 「――っっ!?」

 

 声にならない驚きの声を上げつつ反対を見れば、そこには鞠亜が。

 そういえば昨日、一緒に寝たんだったか。

 と、正面にいた鞠奈も目が覚めたようで――目が合った。

 

 「…………」

 「んーっ」

 

 どうしたものかと士道が動けないでいると、鞠奈がこちらを抱き寄せてくる。そのまま、唇に柔らかいものの触れる感触。

 

 「んっ、士道……」

 

 そのまま胸元まで頭を下げてきて、すりすりと体をこすりつけてくる。どれだけそうしていたろうか。やがて意識がはっきりしたのか、体がぴくりと震える。

 

 「ほ、本物!?」

 「おう、おはよう、鞠奈」

 

 驚いて離れようとする鞠奈を抱きしめ、頭を撫でてやる。

 こちらが離そうとしないのを分かってから、そろそろと腕を回してくる鞠奈。そんな彼女を愛しく思い、こちらからキス。

 

 「――――っ!!」

 

 声にならない声を上げ、体をぴくりと震わせる鞠奈。舌どうしの触れ合うキスの後、糸を引いて二人の顔が離れる。それはとても官能的で――

 

 ぐいっ、と顔を動かされ、同時に口腔へと侵入してくるものが。

 驚く自分の視界いっぱいに広がる鞠亜の顔。

 

 「おきろー! おにーちゃ……」

 

 琴里の声が聞こえたかと思えば、ぴたりと止まる。

 うっすらと衣擦れのような音がしたのち。

 

 「あんた達、朝から何してるのよー!」

 

 琴里の叫び声が響いた。

 

 

 

 

 「おーう五河。ちょっと五河にも聞いておきたいんだが……」

 

 あの後、琴里の目の前でのキスを鞠亜に要求され、なんとかそれをこなして鞠亜の軽い嫉妬とも言える怒りは収まった。

 そして、後々になって恥ずかしくなった三人は無言のままに顔を赤らめつつ学校へとたどり着いたのだった。

 そして、殿町からの質問につながる。

 

 「なんだ?」

 「ナースと巫女とメイド……どれがいいと思う?」

 

 なんでも、読者投票で次号のコスチュームが決まるんだとか。

 

 「強いて言うなら……巫女……?」

 「その心は?」

 「鞠亜と鞠奈の私服、シスターっぽいからな。たまには違うベクトルとい「ちくしょー!」と、殿町?」

 

 真面目に感想をかえしたつもりだったのだが、殿町に遮られる。

 虚ろな眼差しで「ファック、ファック、ファァァァック……死んだ五河だけがいい五河だ」などと言い始めたので、無視しておくことにした。

 

 無言で士道とどう接触したものかと考えるAST隊員がいたんだとか。

 

 

 

 

 その日の、昼休み。

 

 

 ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーー

 

 街中に、けたたましい警報が鳴り響く。

 鞠亜が十香に話をつけ、シェルターへと避難して貰う。

 

 校舎から出て〈フラクシナス〉艦橋へとやってきた士道。

 

 「ああ、四人とも来たわね。もうすぐ精霊が出現するから令音は準備お願い」

 

 無言で画面を眺めているうちに、霊力の高まる感覚が。同時に、画面には水面に石を投じたかのような波紋が出来上がる。

 ――そして。

 爆音とともに画面が白く染まった。

 

 「今回のは〈ハーミット〉ね。なら、小規模な爆発にも納得だわ」

 

 その言葉の後に画面に映し出されたのは、クレーターのようにえぐり取られた地面と、そこに立つどこか見覚えのある少女。

 

 見覚えがある、と話したところ、昨日のことを簡潔に話すこととなった。で、どうやらそれによれば、彼女はやはり空間震を起こさずにこちらへとやってきたようだった。

 ともあれ、目的は精霊の攻略。少しの話ののち、士道は地上へと送られた。

 ――何故だかついてくることとなった鞠亜達と共に。

 

 どうやら、〈ハーミット〉は出現回数が比較的多い精霊らしく、行動パターンの予測が立てられるらしい。それに従い、やってきたのはとある大型デパートだ。

 

 『士道。〈ハーミット〉の反応がフロア内に入ったわ』

 『君たちも、よしのんをいじめにきたのかなぁ……?』

 

 琴里に言われるまでもなく霊力で居場所は把握していた。

 彼女――鞠亜によれば、パペットの方の人格がよしのんという名前で、本体は不明らしい――は、重力に逆らうような逆さの状態で浮遊していた。

 

 『駄目だよー。よしのんが優しいからってあんまりおイタしちゃ。……って、んん?』

 

 と、少女が体の向きを戻し、床に降り立つ。

 

 『ぉおや? よしのんフレンドのおにーさんじゃないのー。それにおねーさんたちもー』

 

 そういえば、名前を教えてなかったっけ。

 と、名前を話そうとしたところで、『待ちなさい』と琴里の声が。

 

 ほんの僅かな時間の後――

 

 『士道、③よ』

 

 「ふ……っ、知らないね。私は、通りすがりの風来坊さ」と、ハードボイルドに決める選択肢を選ばされた。

 

 上手くいくと思えないが、とりあえず従おうとしたのだが。

 

 「ええ、久しぶり……と言っても一日ぶりだけど。あたしの名前は或守鞠奈。こっちが或守鞠亜で、こっちが五河士道。よろしく」

 

 鞠奈が先に話してしまった。

 

 『何してくれてんのよー!』と、琴里の声がインカムに響くが、鞠奈は気にしてないようだ。

 

 『士道くんに鞠亜ちゃんに鞠奈ちゃんねー。いい名前じゃないのー』

 「よしのん」

 

 『どうしたのよ、士道』と問われるが、ちょっと待って欲しい。よしのんに、いや、彼女に聞いておかねばならないことがあるのだ。

 

 「キミの名前はなんて言うんだ?」

 

 驚きに染まる少女の表情。『士道……?』と、訝しげな声が届く。

 

 『んもぉー、おにーさんってばー、何言ってるのさー。よしのんはよしのんのナ・マ・エ。可愛いっしょ?可愛いっしょ?』

 「違う、よしのんの名前じゃなくて、キミの名前が知りたいんだ」

 

 鞠亜の言った多重人格というのが本当なら。名前という情報をこの少女が持っているのなら、この少女にも固有の名前があって然るべきだろう。その結果は、果たして――

 

 「私……は、四糸乃」

 「そっか。よろしくな、四糸乃」

 

 少女の名は、四糸乃というらしい。

 

 「四糸乃、よしのん。どこかへ遊びに行きましょう?」

 『おねーさん、ぁりがとねぇー。よしのん、ようやくまともに話せる人に出会えたんだしよしのんからお願いしたいくらいだよー』

 

 言って、カラカラと笑う。

 

 

 

 

 ――二人と遭遇して、どれだけの時間が経過したか。

 士道たち四人は、会話に花を咲かせていた。

 時折琴里から指示が飛ぶのだが、絶妙にそれを鞠奈が潰していく。それを、限定的ながらも〈フラクシナス〉と同等の能力を持つ鞠亜が補助する。

 鞠亜によれば、現在の〈フラクシナス〉の指示は『よしのん』を対象としたデータによるものらしい。四糸乃のためのデータでない以上、従う意味はそうないんだとか。

 

 突然、『すっごーい! 何かねありゃー!』と、よしのんが何かを見つけ、四糸乃が走る。どうやら、子供用のジャングルジムのようだ。やたらとカラフルな強化プラスチックに、両足と右手だけで器用に登っていく。

 

 『どーよ三人とも。カッコいい? よしのんカッコいい?』

 

 落ちないものかと不安に思っていると、ジャングルジムからバランスを崩してよしのんが落ちてくる。

 それを、霊力を少し使って身体能力を強化し、きっちりとキャッチ。

 

 「と、大丈夫か? 四糸乃、よしのん」

 『ぅん、たーすかったよー』

 

 

 

 

 

 『そろそろ時間みたいだねぇー』

 

 どうやら、よしのんは戻ってしまうようだ。

 

 「またどこかへ行きましょうか、四糸乃、よしのん」

 『ぅん、鞠亜おねーさんも、士道くんも鞠奈のおねーさんも、よろしくねぇー』

 

 少女は、そうして去っていった。

 最後に、ずるべったぁぁぁぁぁん! と転び、偶然開いていた窓の外にパペットを落としながら。

 

 

 

 

 

 

 いつもの

 

 

 「士道、どうでしょうか?」

 「……? って巫女服? しかもなんだそのデザイン。どうして脇周りが見えるようになってるんだ?」

 「なんでもこの巫女服を着たキャラが人気らしいですから、少し試してみました。それより、どうでしょうか? あなただけの鞠亜の姿は?」

 「あ、ああ。……うん、すっごく可愛い」

 「し、士道。そんな全身を見つめてから言わなくても……」

 「あ、第一印象とかで良かったのか。うん、まあきれいだ。でもどうして巫女服なんだ?」

 「学校で士道が話していましたから」

 「ああ、なるほど。ってことは鞠奈も?」

 「ええそうよ! 笑いたければ笑えばいいじゃないの!」

 「そんなとこにいたのか……別に変じゃないぞ? 可愛いし」

 「うう……」

 「鞠奈はこういった衣装が恥ずかしいようですね。……士道、その、恥ずかしいです……急に抱きしめるなんて……」

 「自分でもよくわからないというか、うん、何故か抱きしめたくなったんだ。鞠亜が可愛すぎるせいじゃないか?」

 「士道……そういうのはちょっと卑怯です……」

 「んっ」

 「キミ、流れるようにキスしたわね……慣れてきてんじゃないかしら?」

 「ん、と。慣れたというか、あんなことまでしたから度胸がついたというか……な。それに、今でもちゃんとドキドキしてるんだぞ?」

 「ちょっと、どうして急に抱きしめるのよ……。うん、ホントみたいね。心臓がドキドキ言ってる」

 「巫女服、満足しましたか?」

 「ああ。こういうのもたまにはいいかもとは思ったかな。でも、やっぱりいつものが安心できる気がするよ。二人とも、ありがとう」

 「……もう、恥ずかしいことを言ってくるんですから」

 「は、恥ずかしいじゃないの」

 

 

 

 「……ずっと、一緒にいよう」

 「はい」「ええ」




 外にASTがいたためすぐに回収できず、折紙さんがひろってしまいました。(よしのん)

 いつものは仕方ない。冒頭部分では満足しきれなかったんや。年齢指定大丈夫かね?(冒頭部分)
 巫女服見たいのは作者の願望でもある。

 二人が士道に大好きって言ってるシーンを想像するだけでテンションハイです。しかし前回も似たようなことしたし、なにかアクセントが欲しいなーということでプロポーズっぽいメッセージに。これもいいね。
 ってわけで次回もお楽しみに。十香とトラブルしないし割と飛ぶんじゃないかな?

 タイトルは今回重い意味があったんじゃないかなー? ということで選んでみた。

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