遅くなりましたが久々の投稿です!
教室に入った。その途端。
―ぬ? という声とともにこちらを補足した少女は、躊躇いもなしに手を振る。常人には捉えられない速度で振るわれる手のひらには黒い輝きを放つ霊力の塊が。
――っ!
声にならない声を上げつつ、体を半身にすることで最低限の回避とする。相手が本気なら攻撃に特殊能力があるのかだとか気にする必要があるが、ただ雑に振るわれただけならば大丈夫だろうと踏んでのぎりぎりの回避だ。衝撃波もあるだろうが、霊力を多少使えば簡単に消せる。
一瞬あと、先程まで士道の体があったところを霊力の奔流が通り抜けていった。両手を上げ、
「俺は敵じゃない」
と、その場で立ち止まる。頭頂から足元までを睨め付けた少女は、ふむ、と頷いてから
「おまえは、何者だ?」
「俺の名前は――」
『待ちなさい』
[士道、こっちの画面に選択肢みたいなものが現れたわよ。ゲーム気分なのかしら]
[そうではありませんよ、鞠奈。〈フラクシナス〉のAIが
[三択に絞り込んじゃってるけど、どれも答えじゃないー、とかならないのかしら]
[そこはフラクシナスのAIの実力の見せ所でしょう]
[君、遠まわしに自画自賛してない?]
[さあ、何のことでしょう]
『士道、私の言うとおりに答えなさい』
少女が待ちきれなかったかもう一度こちらの名を尋ねようとしたあたりで琴里からの通信が入る。
『――人に名を尋ねるときは自分から名乗れ』
正直ないわー。まさかそんな選択肢を出してくるのもそうだが選択するのもどうかと思うぞ、琴里。あと、精霊の対策をする〈フラクシナス〉と言えど、知りえないことでもあったのだろうか。
この精霊に名前はないということに。鞠奈の持つDEMの情報によれば、精霊が自らの名らしきものを名乗ったことはあるらしい。だが、それをつけたのは誰だ――自分自身だ。人との対話をするなり、何かあるならそうするだろうが、この精霊は現れてこの方まともに会話を交わすこともないという。まあ、この間直接話したんだが。
名前もないのにそれを聞くなんて地雷でしかなく――〈灼爛殲鬼〉があるとはいえ一時的にでもゲームオーバーになりかねないので、とりあえず指示は無視することとする。仕方の無い処置だ。
「俺の名前は五河士道。敵対の意思はない」
『ちょっと! 士道!』
怒られても困るというか殺す気かとすら言いたいところだがひとまず我慢して、両手を上げた姿勢をキープ。電車に放り込まれたとしても違和感のない姿勢である。
「そのままでいろ。お前は今、私の攻撃可能圏内にいる」
こくりと頷いて了解の意を記せば、ゆっくりとした足取りでこちらへと向かってきて、数秒こちらの顔を凝視してから
「お前、あの時の…!」
思い出してくれたようで何よりである。
「よくも馬鹿とか言ってくれたなこのばーかばーか」
「と、そうだ。前の返事、まだ聞いてないぞ」
話の転換も含め、こちらから話を振らせてもらう。
「俺と…いや、俺達と友達になろうってことだよ」
「そういえば以前もそのようなことを言っていたな。友達とは何なのだ?」
「お互いに助け合って…信頼し合う間柄といえば伝わるか? まあ、仲良くしたい。そういうことだ」
「ふん――そんな見え透いた………いや、しかし」
人に思われるなんて、人を信じるなんてできない。世界に絶望した。そんな顔をしていた――のだが。
「だが…あのときは……それでも」
長考にはいったようだ。なんとなく、人を信じられないのに前のありえない態度のせいで困惑しているとか、そんなふうに見えるのは気のせいだろうか。
『何よ、この精神パラメータは。こんな早く選択肢が変わるんじゃどうしようもないじゃないのよ…。神無月! なんとかしなさい!』
どうやら〈フラクシナス〉の方にもなにやら問題が起きているようだ。
[五河士道。キミから声をかけてあげなさい。キミから話さなきゃずっと考え込んでるわよ、彼女]
[士道。彼女を――救ってあげてください]
[――ああ]
二人のおかげもあって、やる気は十分だ。
この少女に手を差し伸べたのは、おそらく俺――俺達が初めてだったのだろう。
誰か一人でも。一言でもあれば、それは変わったのかもしれない。
だが、現実はこうだ。
しかし。だからこそ。自分は救いたい。そう願った。
思いはがある。叶えたい思いが。
支えてくれる二人がいて。そして協力してくれる人達がいて。
なら、やることは一つだ。
救われぬ少女に、救いの手を。
「俺はお前と一緒にいたい」
両手を掴み、顔を向き合わせて。一言一言を区切るように。
心の底からの思いを込め、士道は言い放った。
「シドー、と言ったな?」
「ああ」
「本当に、私なんかと仲良くしたいのか?」
「そう自分を卑下するもんじゃないぞ。俺はキミだから仲良くしたい、そう思ったんだ」
[これってくどき文句よね]だとか、[鞠奈、そんなに羨ましいんですか]
と、念話が聞こえてくる。これは後で機嫌悪そうだなぁ、なんて思いつつ。
「だからさ、俺と――友達になってくれよ」
「本当に私でいいのか?」
「ああ」
「本当の本当か?」
「本当の本当だ」
「本当の本当のほんとっ!?」
無限ループの予感がしたので、少し強引にでもわからせてやろうと、抱きしめる。これは鞠亜にも説教ものか、と一瞬思考を逸らしたが即座に戻し
「ほら、俺はこうしていたい。ええと…キミもさ、辛かったら辛いって。悲しかったら悲しいって。俺に言ってくれて構わないんだ」
「――う」
あああぁ、と嗚咽が零れる。こちらの体をかき抱くようにしながら――霊力がなければバキバキに折れてしまっていたに違いない――涙する少女の頭をなで続けた。
ほんの数分で泣き止んだ少女は、唐突に言い出した。
「シドー。私に名をつけてくれないか?」
[これはヘビーなのが来たわね]
[士道。ここは安直ですが――――]
[ああ、それにしようか]
『まっ、待ちなさいっ、士道! 今こっちで決めるからっ』
「十香」
「トーカ?」
「ああ。十香だ」
「ありがとう、シドー! それで、トーカとはどう書くのだ?」
「ああ、それは――」
黒板に十香と書いてみれば、十香はチョークを使わず黒板を削るようにして十香と書いた。
「シドー」
「どうした?」
「十香。私の名だ。素敵だろう?」
[考えたのは私なのですが]とか、[シーっ、そういうのは言っちゃダメなのよ]とか聞こえるがスルーさせてもらう。
「ああ、十香。いい名前だ」
二人向き合って、笑顔で笑いあった。
没ネタ
鞠奈の[これはヘビーなのが来たわね]の後
[士道、ここは十香にしましょう。別の世界線での彼女はそう呼ばれていると電波が届きました]
[キミ、何言ってるのよ…]
こんなの。
救われぬ者に救いの手を。神裂さん思い浮かべたけど実際救われない1部(精霊)を救うために頑張ってるからセーフかな?
士道及び鞠奈、鞠亜が有能なせいで役に立てていない〈フラクシナス〉。なんか不憫なのは本編始まってからも続くようです。
鞠奈の番狂わせはここにも影響が及んでおります。
人間なんて信用出来ない…いやでも、あのときは敵意も何も無かったし馬鹿にされたし友達になりたいとか言われたし訳が分からんぞ←これ十香の心の中
すでになかなかいい感じだったり。友達でキス? とか思ったけど鞠亜、鞠奈の都合もあるのでセーフで。まあキスが許せる程度だし、多少はね?