―久しぶり。
頭の中に、どこかで聞いたことのある声が響く。
―やっと、やっと会えたね、×××。
懐かしむように、慈しむように。
―嬉しいよ。でも、もう少し、もう少し待って。
一体誰だ、と問いかけるも、答えはない。
―もう、絶対離さない。もう、絶対間違わない。だから、
不思議な声は、そこで途絶えた。
「――士道、士道」
「ほら、返事くらいしなさい」
「………はっ!」
ぼーっとしていた。起きていたと思うのに、夢を見ていたかのような。そんな気分だ。
「す、すまん、ぼーっとしてた」
「全く、こんな状況なんだからしゃきっとしなさいよね」
鞠奈に言われて、やっと周囲に目が行く。キョロキョロと周囲を見回してみれば、何やら無骨な配管や配線が剥き出しになっている。気づけば、
「どこだ、ここ…?」
確か、自分は…そうだ、精霊の少女と出会って………
「ここは〈フラクシナス〉です、士道」
「〈フラクシナス〉って、確か…」
鞠亜が生まれたところだよな、という声に、鞠亜は肯定の頷きを返す。
「はい、三年前のデータですが、周囲を霊力で精査したところ、おそらくここは〈フラクシナス〉で間違いないかと」
霊力による精査は、士道も一応なりともできるのだがかなり難しい。周囲にものがある、というところまでは可能なのだが、それが何であるのか、ということを感じ取るのが異様に難しいのだ。…鞠亜と鞠奈は簡単にやってのけるのだが。
「〈フラクシナス〉って言えば確か、精霊を対話によって救おうとかそんな組織…だったよな?」
「ま、だいたいそんなところらしいわね。組織の名前は〈ラタトスク〉で、〈フラクシナス〉はここの名前だけど。ある意味、士道の考えてることに近いんじゃない? やり方も分からないけど、殺さずに精霊を止めたいって言うキミとは」
「とはいえ、三年前のデータですから、心変わりしている可能性も十分にあります。それに、士道。よく覚えていてください」
真剣な鞠亜の表情につられるようにこちらも真剣な表情になる。
「私が知っているのは、あくまで教えられた、インストールされたことだけです。私という人格のあるAIを作った以上、万が一にも私が自己判断によって反旗を翻すことの無いよう情報を操作されていた可能性もあるわけです。ですから、士道がその目で見て、判断してください」
考えすぎな、とは思わない。鞠亜の言うことは、確かに相手のあるかもわからない裏を想像するものだが、どれだけ最悪を想定しても損にはならないし、むしろ備えができるのだから。
「士道、誰か来たようです。警戒を」
一瞬体をこわばらせ、そして力を抜く。力みすぎても良くない。意識を集中させ、今すぐにでも霊力を使えるようにする。そこに入ってきたのは――
「…………琴里?」
格好も、雰囲気も違うが、入ってきたその人の見た目は、見間違える筈もない琴里の姿だった。
「――歓迎するわ。ようこそ、〈フラクシナス〉へ。それと、さっそく質問で悪いのだけど…どうして〈フラクシナス〉のことを知ってるのかしら?」
普段と様子の違う――いや、人格そのものが違う琴里に、士道が初めに抱いたのは疑い、疑念だ。
どうして、一般市民――それこそ、士道のような例外という訳でもなく、ASTやらなんやらの隊員でもない琴里が〈フラクシナス〉なんてところを知っているのか。
どうして、人格まで変わっているのか。いや、そもそも本当に琴里なのか。
どうして、こんなところにいるのか。
訳の分からない現状に、疑念は大きく膨らんでいく。
「どうして知ってるかって? キミ、初めて会った訳も分からない相手に誘拐されときながらちゃんと答えると思う?」
確かに、この〈フラクシナス〉に勝手に連れてこられたのだから誘拐とも言えるのか、などと逃避気味な思考で思ったりするも、疑念は消えない。
「初めて会ったって、鞠奈、何言ってるの? 私は五河琴里よ?」
「少なくともあたしの知ってる五河琴里はそんな性格でもないし、口調も違う。というか、キミ、本人なの?
琴里だと主張しながらも、普段と限りなく異なる琴里の姿に、士道はどんどんと疑念を膨らませていく。鞠奈の言うことにそうかもしれないと感じたのも一因だろう。
ちなみにだが、鞠亜、鞠奈と琴里は多少の面識がある。とはいえ二人共が士道を好いているということは知らず、ただ毎朝士道と一緒に学校に行ってる仲の良い人、くらいではあるのだが。
顔色が悪くなり、力なく握られようとする士道の拳を、それに気づいた鞠亜がそっと握る。
―こくり
視線を交わし、二人同時にこくりと頷く。言葉にするなら、「こっちは任せたわ」「わかりました。鞠奈は士道をお願いします」といったところか。確かに、多少なりとも〈フラクシナス〉や〈ラタトスク〉を知る鞠亜の方が彼女と話すには適任だろう。
鞠亜と鞠奈はお互いに立ち位置を入れ替わり、鞠奈は士道を抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫よ、士道。あたし達はちゃんとキミのそばにいる。だから、安心して」
少し背伸びをして、士道を屈ませて。自らの胸の辺りに士道を抱き寄せ、そう語りかければ、たちまち士道の体の震えは収まり、乱れていた呼吸も収まっていく。今は士道のことを優先して意識していないが、このことを後に思い出してなんて恥ずかしいことをしていたのか――と鞠奈が悶えることになるのは言うまでもない事か。
「な、何をしてるのよーっ!?」
鞠奈は士道を落ち着かせる為に抱きしめており、鞠亜もそういうことをするのでなんとも思わなかったのだが、それは周りから見れば、どう考えてもイチャついてるようにしか見えなかった。
「何って、キミが五河琴里の真似なんかするからこうなってるんじゃないの」
「な、なんで私が…」
「妹の姿形をしていて、でも本人とは思えないようなのが出てきたら普通こうなるわよ、普通」
「鞠奈、私に任せておいてください。士道は後ろに」
「ええ」
抜群のコンビネーションで、鞠奈と士道は後ろに下がり、鞠亜が琴里と向き合う姿勢に。
「どいてちょうだい。確かに聞きたいことはあるけど、私は今士道と話さなきゃならないの」
「すみませんが、それはできません。士道に代わり、私が相手になりましょう」
「悪いけど、部外者に話せる話でもないのよ」
「〈フラクシナス〉に〈ラタトスク〉ですか。士道に何の用でしょう?」
「――っ! どうしてそれを!?」
「さて、どこで聞いたのでしょうか。忘れてしまいました」
あまりにもわざとらしいが、知らないと言っている以上突き詰めることも出来ない琴里は、少しばかり歯噛みする。
―しかし、司令官になったとはいえ、十三歳の琴里はやはり未熟だったのだろうか。
「どうして知っているのかは気になるところだけど、本体は一つよ。士道を〈ラタトスク〉にスカウトに来たの」
琴里が士道をスカウトしようとした理由の中に――いや、この言い方が手は語弊があるだろう。なにせ、スカウトは決まったようなものだったのだから。琴里が士道を押す理由の一つに、士道は人の感情に敏感だと言うことがある。両親を無くし、災害で被災してきた士道の人生と、その人格のなせることだが、琴里はこれを過信しすぎたと言っていい。
やさしい兄ならば、理不尽な暴力を受ける精霊を見捨てはしないだろう。
そんな彼女の考えは、打算でしかない。
「さて、どうして部外者である士道を勧誘するのでしょうか?」
「あまり話したくはないのだけど、まあ事情を知っているからいいかしらね。士道にはね、特殊な力があるの。キスをすれば、その精霊の力を封じてしまう、そんな力がね」
それは驚きの事実であった。自分たちの生みの親とのリンクを繋ぎ変えたのもその力が関わっているかもしれないと鞠亜は考えるが、今はとりあえず保留だ。
「それで、これまで何の関わりもなかった士道を、死の危険のある最前線、精霊の目の前に送るというのですか?」
鞠亜は辛辣に、攻めの手を打った。
「士道がなにも知らなかったのは精霊に対する先入観をつけさせないためだし、安全はきっちりとってあるわ!」
もちろん、琴里も言われっぱなしではない…が、精霊を相手にして安全なんて言い張るのは少し無茶が過ぎたと言える。
「先入観をつけさせないため、なんて言い訳のようにしか聞こえませんよ? それに、精霊相手に安全だと言えるとは、〈フラクシナス〉の設備はそれほどのものなのでしょうねぇ」
少し嫌味を言うようにして攻める鞠亜。そもそも、何もかもが理解不能な精霊相手に安全、だなんて言えるはずがないのだ。
「では、精霊が対話に応じず、士道を殺そうとしたなら――貴方はどうできるのですか?」
冒頭のヤツ、入れないのもどうかと思うし、でも改変思いつかないしなーということで、ここだけは原作コピペみたいなもんです。手打ちなので誤字ってたらすいません。大幅じゃないしセーフ…だよね?
セリフで終わるのがなんか気に入ったりしてます。次回、仲直り…を書けたらいいなぁと言ったところ。まあ、原作なぞる以上、加入するのは決まったようなことなんですがね。
しかし、普段と口調も人格もオーラも違う、見た目だけ違う人間がなにか怪しげなものに勧誘してきたら疑念って出てきますよね。原作士道はほいほいされ過ぎな気がする。
学校あるしゲームやら小説やらで平日は時間が取れないんだよねぇ。趣味の時間を無理に削りたくもないし。しかし早く更新したい気持ちも確かにある。コメントとかくれる人もいますし。
頑張っていきたいところ…!
最初の書いてて凜音のやつも書きたくなってきた。IFってことで気が向いたらやろうかなぁ。コメントで万由里に関しても同じことを言った気がする。