悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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最終決戦3 ―メギドの炎―

極終焉術法(デモニックメギド)!!」

 

 ドラキュラから巻き起こる膨大な暗黒魔力の渦……!

さながら爆発的膨張(ビッグバン)と見紛えるほどの圧倒的な破壊のエネルギーが、怒涛の勢いでユリウスとアルカードに迫る!

 

「――いかん!」

 

 刹那、アルカードの思考が目まぐるしく回転する。

ドラキュラ封印の最後の希望であるユリウスだけはなんとしても守らなくてはならない。

アルカードは即座に正体である魔獣の姿へ変化、青年の盾となるべく暗黒炎の前に駆け出す!

 

だが……アルカードが動くよりも早く、その救うべき”対象”は行動を起こしていた。

 

 

 

「グランドクロス!!」

 

「!!」

「!!」

 

 アルカードが魔獣に変化するよりも、メギドの炎が二人に達するよりも速く、ユリウスは両者の間に割って入り、ベルモンドの最大奥義を放っていた。

瞬く間に立ち昇った白光の十字架が闇の様に黒いドラキュラの炎を遮り、光と闇、双方の究極奥義が鎬を削る!

 

”ゴゴゴゴゴ……!!”

 

 両者の放つ闘気は互いに一歩も引かず、城主の塔を激しく揺らす。

 

 

「ベル……モンド、貴様ッ!!」

 

 無意識の内にドラキュラは宿敵の名を呼んでいた。魔王の最終奥義に真っ向から挑み、耐えきるユリウスに、さしもの魔王ももはやユリウスを小僧呼ばわりは出来なくなっていた。

 

「ぐううぅぅッ!!」

 

 因縁の敵に初めて認められたユリウスだったが、当の本人にそんな事を気にする余裕は全くなかった。

そもそも今の行動も何か策があったわけでは無い。ただもうこれ以上仲間を失ってたまるかと、ほぼ無意識、無我夢中の内にドラキュラの前に躍り出て、自信の持てる最強の技を放っただけなのだ。

 

 彼我の力量差など考えている余裕は無い。ユリウスはただ己の持てるありったけの魔力と気合を退魔の光に注力するだけだった。

 

「…………ッッ!」

 

 一方、ユリウスの身代わりになろうとしたアルカードは、その凄まじすぎる鍔迫り合いを前に、ユリウスに助力する事も、ドラキュラに攻撃を加える事も出来ず、両者の闘いをただ見守る事しか出来ないでいた。

 

”メキ……ッ”

 

「!」

 

 拮抗しているかに見えた両者の技。だが矛を交えてから数秒も経たぬうちに、ユリウスの立っている石の床に亀裂が走った。

 グランドクロスの放つ退魔の光はドラキュラの闇の力を跳ね返すには最適な手段だ。しかし単純な力比べならばやはり無尽蔵の魔力を持つドラキュラが有利。戦いが長引けば長引くほど、スタミナに限りがあるユリウスが不利なのは明白だった。

 

「負けるな……頑張れユリウス!!」

「!!」

 

 自身にとっても有害なグランドクロスの光を前にして、アルカードは何ら具体的な行動を起こす事は出来なかった。だがせめて何かできる事はないかと、気づけば貴公子らしからぬ愚直な声援をユリウスに送っていた。

 

 

「ううぅ……うおおおおッ!!」

 

”パアアアァァァッ!!”

 

「何ッ!?」

 

 果たしてアルカードの声がその耳に届いたのか否か……ユリウスが凄まじい雄叫びを発すると同時に、押し込められていた聖なる光が勢いを盛り返し、逆にドラキュラの暗黒炎を押し返し始める!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――かに思えたが…………

 

 

 

 

 

 

 

「一時とはいえ我が究極奥義(デモニックメギド)を押し返したのは褒めてやろう……」

 

「だが青二才にも至らぬ貴様が、千年に渡る我が研磨に勝てる道理など……無いッ!!」

 

 

「!!」

 

 

”ズアアアアアアッ!!”

 

 ドラキュラが僅かに気合を込めた瞬間、それまで聖なる光によって押し留められていたデモニックメギドの炎が瞬く間に膨張。グランドクロスごとユリウスとアルカードを飲み込んだ!

 

「ーーーーーーー!!」

 

”ドオオオオオ…………ンッッ!!”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”パラ……”

 

        ”パラ……”

 

”ガララッッ”

 

 

 

 石造りの壁や柱が崩れ落ちる乾いた音が響く……。おどろおどろしい装飾に彩られていた城主の塔は、玉座の前方180度、その威容の半分が抉られ、跡形も無く消し飛んでいた。

 

「他愛もなし……」

 

 ステンドグラス越しでは無い直射月光が、一人残った魔王を讃えるかのように照らしだす。もはや城主に抗う者達はおらず、闇と光の雌雄は決した……はずだった。

 

「…………ッッ!!!」

 

 目の前の光景に戦慄したのは、今度はドラキュラの方であった。遥か上空、満月の中に浮かぶ二つの影を、ドラキュラの両眼は瞬く間に捉えていた。

 

 

 

 

「……ざまぁねえな……」

 

 魔獣化したアルカードに抱えられながら、ユリウスがバツが悪そうに独り言ちる。

デモニックメギドの炎がユリウスを覆い尽くす直前、魔獣化したアルカードがユリウスをひっつかみ、デモニックメギドの衝撃を利用する形でそのまま上空へ退避したのだ。

 もちろんドラキュラの奥義を前に、無傷という訳にはいかなかった。全力で逃走を図ったものの、メギドの炎から完全に逃れる事は叶わず、アルカードの背は溶けた鉄の様に赤く焼けただれていた。

 

 威勢よく前に出たはいいが、ドラキュラの攻撃を防ぐどころか結局競り負けた。あまつさえデスの時と同じように、アルカードの手を煩わせてしまった。ユリウスは自身の不甲斐なさに穴があったら入りたいといった心境だったが……

 

 

「……強くなったな、ユリウス……」

「は!?い、いきなり何言ってんだお前!」

 

 アルカードから返ってきたのは、この緊急時にそぐわぬ、いや、それを抜きにしても意外過ぎる賞賛の言葉だった。

 

 

「ドラキュラの重圧を前にして、お前は俺より早く動いて見せた」

 

「……あれは、ただ体が勝手に……」

 

 

「奴の放った暗黒炎に、お前は臆することなく真正面から立ち向かってみせた」

 

「……結局負けちまったけどな……」

 

 

「それでも、だ。こうしてお互い無事で生きている。それだけで充分だ」

「今のお前になら行く末を託せる。俺にはもう手札は無い。ならせめて俺はお前の盾となり翼となろう!」

 

「!!」

 

 そう言うとアルカードが腕に抱えていたユリウスを自らの背に放り投げた。

巨大な魔獣と化したアルカードに乗ったユリウス。その姿はさながら神馬にまたがる騎士の様であった。

 

「……俺を生かすための犠牲になるってんなら願い下げだぜ?」

 

「…………」

 

「だが攻守交替するって考えなら大賛成だ。野郎、いい加減こっちもフラストレーション溜まってんだよ!」

 

 ユリウスが胸の前で両の拳を勢いよく叩いた。

 

「……ふっ、俺はじゃじゃ馬だぞ?振り落とされるなよ!」

「はっ、誰にもの言ってやがる?俺はテキサス育ちだぜ、乗馬は得意中の得意よ!」

 

 死と隣り合わせの闘いの渦中でありながら、二人の口からは冗談がとびかう。そんな上空の二人の会話を知ってか知らずか、月明かりに照らされたドラキュラは一人静かな笑みをたたえていた。

 

 

 

「フフフ……」

 

 

「永遠ともつかぬ長い研磨の果てに生み出した我が究極魔法が……こうもたやすく躱されるとはな」

 

「……いや、手負いも倒せぬ技を究極などと、驕りも甚だしい。フフフ……ハハハハハ!」

 

 

 ドラキュラが自らの技を、そして自らの甘さを自嘲する。だがひとしきり笑い終えた後、その双眼がギラリと光った。

 

「空中戦が所望か?よかろう、竜の子(ドラキュラ)の名の持つ真の意味、その身に教えてやろうではないか!」

 

 堂々たる宣誓を上空の二人に向け放つドラキュラ。すると直後「ベリベリ」「メキメキ」と、見る間にドラキュラが被っていた人間の”皮”が裂け、中から緑褐色の肉体が現れ始める。

 

「あれは……!?」

 

 遥か上空からでも解るドラキュラの身に起こった異変。おどろおどろしい瘴気を放ちながら変体を遂げたその姿は、節くれだった角に巨大な翼、爬虫類の如き顔と、魔獣化したアルカードによく似ていた。だがそのスケールと、発する威圧感の大きさは、まるで神話の竜と見紛う程であった。

 

 

「このドラキュラ……最早慢心は捨てた」

 

「我が全身全霊を持って貴様達を…………殺す!!」

 

 

「――!!」

 

 ドラキュラがその背から生えた翼を羽ばたかせると、瞬く間に強烈な暴風が巻き起こり、気づいた時には既にユリウス達がいる遥か上空までその距離を詰めていた。

 

――速い!?

 

 二人とも油断していたわけでは決して無い。だがそれまでの勿体つけた動作とは真逆の、迅雷が如きドラキュラの行動に、ユリウスもアルカードも完全に虚をつかれたのだ。

 

「遅いわ!!」

 

 ドラキュラはこちらも今までとは真逆、自らの肉体を駆使した肉弾戦を二人に仕掛けてきた!魔獣化したアルカードの心臓目掛け、研ぎ澄まされた槍の様に鋭い爪が突き立てられる!

 

”ズブシュゥッ!!”

 

「ぐぅッ!」

「ッ!!」

 

 アルカードの苦悶に満ちた声が、その焼けただれた背中越しに伝わって来た。

心臓に届く数ミリ手前でかろうじて攻撃を止めたものの、ドラキュラの爪はアルカードの左胸に深々と突き刺さり、文字通りの血の雨を悪魔城に降らせた。

 

「このまま二人まとめて貫いてくれる!!」

 

 ドラキュラの攻撃には今までの様子見や、力量を図るといった強者の余裕は一切無かった。その攻撃から感じ取れたのはただ一つ。確実に命を取るという意志……明確な殺意のみだった。

 

「野郎!!」

 

 だがユリウスも黙ってやられる男ではない。

非常に危険な状態だが、裏を返せばドラキュラはその腕をアルカードに拘束されているともいえる。ユリウスはヴァンパイアキラーを振り被りつつ、アルカードの背から肩へ身を乗り出した!だが――

 

「虚けが!自ら身を曝け出してくれるとはな!!」

「!!」

 

 ドラキュラはユリウスの行動を先読みし、その鰐の様な顎を大きく開き待ち構えていた。

何千もの牙が連なる不気味な口腔の奥から、白く輝く暗黒の波動が今にも放出されようとしている!

 

――しまったッ!けどもう止められねえ!――

 

 この至近距離ではどうしても鞭の攻撃は一歩出遅れる。かといって今更攻撃をひっこめるわけにもいかない。ユリウスは相打ち覚悟、さらに勢いをつけて鞭を振りぬく―――

 

「ガアアァッ!!」

「――!?」

 

 しかしその瞬間、両者の間に割って入るかのようにアルカードの咆哮が轟いた!ドラキュラと同じくその顎を大きく開け、破壊の魔力を込めた閃光をドラキュラ目掛け浴びせかける!

 

 

――カッ

 

 

”ドオオオオンッ!!”

 

 

 父と子、悪魔と化した両者の放つ破壊光線が超至近距離で相殺し合い、大爆発が巻き起こる!

悪魔城全体を揺るがす程の衝撃にドラキュラ、アルカード共に大きく吹き飛ばされ両者の間合いが再び開いた。

 だが幸か不幸か、その衝撃でアルカードに突き立てられていたドラキュラの右腕は引きはがされ、かろうじて九死に一生を得た。

 

「ア、アルカード!!」

 

 ユリウスが身を乗り出して仲間の容態を確認する。その状態は予想通りというべきか、暗黒魔力の暴走を全身に受けた事で体の前面全てが焼けこげ、燻っている。

そして一方のドラキュラは――

 

「嘘だろ……」

 

 ユリウスは目の前のドラキュラの変化に戦慄した。

改めて見るドラキュラは一回りほど大きい事を除けば魔獣化したアルカードとよく似た姿だった。しかしアルカードと同じ爆発を真正面から受けていながら、その傷は明らかにアルカードよりも浅い。

それは単純に生命力が桁違いに強く、受けたダメージが小さいという理由もあったが……

 

”シュウウウウ……”

 

 もう一つの理由は”地の利”だった。

悪魔城上空に広がる”混沌の闇”が、ドラキュラの体に吸い込まれる様に憑りつき、瞬く間にその傷を癒していたのだ。アルカードがその身を犠牲にして与えた幾何かのダメージも、ほぼ戦う前と同じ状態にまで回復してしまっていた。

 

 

「マジで不死身なのかよ……あれだけあった傷が全く無くなってやがる……」

 

 ”不老不死の吸血鬼”。目の前の悪魔を前にして、どこか空想の産物の様に考えていたその言葉の真の意味と恐怖を、ユリウスは今まさに心の底から思い知らされていた。

 少なくともこの悪魔城という領域で戦う限り、どうやっても奴は倒せないのではないか……。そんな絶望が頭をよぎり、ユリウスの決意はほんの少し揺らぎかける。

 

「いや……奴の額をよく見ろ!」

 

 だがその時、毅然としたアルカードの呼びかけがユリウスを呼び覚ました。促される様に見た視線の先。ドラキュラの節くれだった二本角の間……その眉間からうっすらと血が滲み出ていた。

 

「俺の攻撃や、共鳴術法は回復出来ても、お前が放った鞭の一撃はかすり傷さえ治癒出来ていない……お前が戦い続ける限り勝機はある!」

 

「!!」

 

 アルカードの檄に、ユリウスに再びめらめらと闘志が蘇ってきた。ユリウスは無意識の内に、手に持ったヴァンパイアキラーを今一度強く握りしめる。

 

 

『行くぞ!!』

 

 

 どちらからともなく発せられた決意の声が重なる。ヴァンパイアキラーというほんのちっぽけな希望を胸に、悪魔城上空数百メートル。光と闇、両者の雌雄を決す大空中戦が始まろうとしていた…………

 

 

 

 

 


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