悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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なんだかんだで節目の50話です。


間話6・蔵書庫
主の指輪


 

「チェストォ――ッ!!」

 

 一閃!!マキの放った鋭い斬撃が、行く手を阻むスケルトンを一刀のもとに斬り捨てる!

 

 ハルカ、マキ、鼻悪魔の一行は礼拝堂のさらに奥にあるという蔵書庫を目指し、悪魔上の地下を突き進んでいた。

 

「ふふぅん、思ってたよりやるわねえ、でもそれくらいじゃぼくちんの足元にも及ばないわよォん!」

 

 鼻悪魔が三つ又の槍を手に、行く手を塞ぐ大男(ブッチャー)に猛烈なチャージをかけた。ハルカよりもずっと小柄な体であるにもかかわらず、一撃で自分の何倍もある敵を粉砕する。

 

「ほう!お見事!ですが我が流派を見くびってもらっては困る!ご覧あれ我が妙技を!!」

「あっらー!お上手ねえ~、こっちも負けてられないわぁん!」

 

 売り言葉に買い言葉、マキが斬れば使い魔が突く、使い魔が喋ればマキがつっこむ、といった具合に、二人は護衛の役目を見事に果たしていた。当初この人選に若干の不安を抱えていたハルカだったが、幸いな事にそれは杞憂だったようだ。

 

 特にマキは大口を叩くだけの事はあり、その剣の冴えはアルカードにも匹敵するほどだった。おまけに多少は場数を踏んでいるのか、初見では大の大人でも震え上がってしまう城の魔物を前にして少しも動じる気配が無い。

 

 

「凄いねマキ、その剣術一体誰に習ったの?」

 

 不意にハルカの方から話しかけられマキは少し驚いた様子だったが、すぐにはきはきとした口調で返答した。

 

「は、叔父上と父に。私は術の才能は全く無かったので、幼い頃からずっとこればかりやってきました。もっともこっちの方が性にあってたというのもありますけど」

 

「ふ~ん」

 

「私からすればハルカ殿の方がずっと凄く見えます。同じ女の身、しかもそんな小さな体で大の大人と渡り合うなど……叔父上からその御活躍を聞き、実はかねてより尊敬しておりました」

 

「え!?へへ……そんな事ないよ。あ、それとハルカでいいから……」

 

 

 昔から畏怖される事こそあれ、褒められる事など無かったハルカは、この少女剣士のストレートな好意に思わず照れ臭くなり、慌てて話題をそらす。

……気づけば一行は礼拝堂を抜け、無事に蔵書庫の入り口まで辿り着いていた。

 

 

 

 

 

 

「これは……何という本の山だ……!!」

 

 山のように積み重なっている数々の本を目の当たりにして、マキが驚嘆の声を上げる。一方傍らのハルカもその壮観な光景に目を奪われていた。読書が趣味の1つである彼女にとって、この蔵書庫は宝の山だろう。もし時間が許すなら一日中読みふけっていたい位だ。

 

「ちょっと何ボケっとしてんの!ほら!爺の部屋はすぐそこよォん!」

 

 ……だがそんな慎ましやかな夢は鼻悪魔のとぼけた声によってかき消される。悲しいかな現状、そんな時間の余裕は一秒たりとも無いのだ。

無数の本たちの誘惑を我慢し、鼻悪魔に導かれるままに進む。しばらく歩くとやがて古めかしい、こじんまりとした扉が目の前に現れた。

 

 

「じゃ、後は二人で好きにやってねぇん」

 

「え!?鼻悪魔殿は一緒に入られないのですか?」

 

 突如踵を返す使い魔に、マキが問いただす。

 

「別にあんた達を置いてきゃしないわよ。ただあのジジイと顔を合わせたくないだけ、悪魔使いがホントに荒いのよねぇ、あのジジイ……。 じゃ、そーゆー事で、アーラホーラサッサー!」

 

『…………』

 

 鼻悪魔の捨て台詞に一抹の不安を覚えながら、二人は慎重に扉へ手をかけた……

 

 

 

 

 

◆  

 

 

 

 

 

 

「たのも―――うっ!」

 

 

 威勢の良いかけ声と供に、マキが勢い良くドアを開ける。静寂が常である蔵書庫に何とも場違いな来訪者の出現に、書庫の管理者である図書館の主はしばし呆気に取られたままその来訪者を見つめていた。

 

「今日は誠に異な日よ……久方振りにアルカード様に出会えたと思ったら、今度はかように珍妙な来客とは……」

 

鼻にかけた老眼鏡を外しながら、主がハルカとマキをまじまじと見比べる。

 

「お騒がせしてすみません。あなたが図書館の主さんですね?わたしはハルカ・ヴェルナンデス。こちらは白馬マキと言います」

 

 独特の威厳がある図書館の主の風貌に、二人は思わず直立不動で挨拶をする。

 

「ほう……名前からするとヴェルナンデスの一族の者か…………はて?その割に全く魔力を感じぬが……」

 

 さすが長年この城で生きてきただけの事はある。主は一目見ただけで目の前の少女の異常に気付いた。

 

「実はその事でご相談が……あ、これはアルカードさんから預かった手紙と武器、それとお金です」

 

 主はハルカから手紙を受け取ると、老眼鏡を再び掛けむにゃむにゃと口を動かしながら手紙を読み始めた。やがて一通り読み終わったのか手紙を机に置くと、改めてハルカ達を見る。

 

 

「アルカード様も無茶をおっしゃる……私は便利屋では無いのだがな」

 

 さも面倒臭そうに話しながらも、主の顔はどこか嬉しそうだった。

 

 

「お嬢さん、取りあえずこっちに来なさい。体を調べさせてもらう」

 

 主の発言にマキは即座にハルカの前に仁王立つと、腰の刀に手をかけ気色ばむ。

 

「ハルカ殿に何をするつもりです!返答如何によっては御老人といえど容赦致しませんぞ!」

 

 いきなり歌舞伎ばりの啖呵をきった目の前の少女に、主はおもむろに眉をひそめた。

 

「何って……まずは体の状態を診てみない事には魔力が無くなった理由も解らんじゃろ。安心せい、あんたが想像しているような事はせんよ」

 

 主の論理的な説明に、勝手に如何わしい妄想をしていたマキの顔がみるみる赤くなる。刹那「申し訳ありません!」と言い残し、少女は駆け足で部屋から出て行った。

 

 

「……アルカード様もまた変わった者を使いに寄越したものだ……」

 

 脱兎の如く逃げていく少女を見ながら、主は呆れたように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無理じゃな、お前さんは二度と魔法は使えん」

 

 

 まるで朝の挨拶でもするかのような気安さで、主はハルカに非情の宣告を下した。

 

「どういう事か説明して頂きたい!」

 

 あまりに素っ気無い主の物言いに憤り、ハルカに寄り添っていたマキが食って掛かる。しかし主は少女の恫喝に一切動じる事無く、淡々と説明を始めた。

 

「お前さんには例え一昼夜説明しても理解できんだろうが……まあ簡単に言うとじゃな、このお嬢さんの魔力を生み出す”臓器”が、何故かまるごと失くなっておるんじゃ。恐らく伯爵様の魂と臓器が完全に癒着してしまい、魂が分離した際に一緒に持っていかれてしまったんじゃろう」

 

「そんな……ならばハルカ殿はどうなるのです!」

 

「別にどうもせんよ、魔力が無くなった以外は何の問題も無い。普通の人間になっただけじゃ。健康そのもの」

 

それだけ言うと、やや同情のこもった眼差しで主がハルカに声をかける。

 

「慰めにもならんかもしれんが……この程度ですんで良かったと思うべきじゃな。過去この力を使った者は皆一様に酷い目に遭っておる。記憶や感情を失った者。理性を失いバケモノになりさがった者。命を失う者もいた。魔力程度ですんだのは不幸中の幸いじゃよ」

 

 

「……儂はアルカード様の剣を治さなければならん。少し時間がかかるだろうから、その間書庫の本でも読んで待っていなさい」

 

 

 それだけ言うと主は2人に背を向け、無言で武器の修理に取り掛かる。

その間手伝える事もなさそうなので、2人は一礼したのち部屋から出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………ルカ……殿? ハルカ殿!」

 

「!」

 

 ふと気づくと、ハルカは書庫の椅子に一人腰かけていた。目の前にマキの少年の様な顔がある。

 

 

 主が説明している間、ハルカはただの一言も言葉を発しなかった。主の言う通り胸にポッカリ穴が空いた様な感覚に襲われ、少女はただぼんやりと周囲の音を聞き流していた。

 

 

…………皮肉な物だな、と改めて思う…………

 正直な所、この城に乗り込んできた当初は周りの事などどうでも良かった。ドラキュラも、世界の行く末も、仲間の事ですら興味は無かった。自分の目的は姉を奪った魔物の手がかりを探す事だけ、その為なら悪魔に魂を売り渡そうと、自分の命がどうなろうとかまわなかった。

 

 だが仲間達はそうではなかった。この城に来て初めて会ったばかりのラングや、自分を敵視していると感じていたユリウス。ほとんど関りも無く、自分に何の感傷も抱いていないと思っていたアルカードでさえ、自分を救うために文字通り命をかけてくれた。

 

 そんな仲間達の役にたちたい。私の魔法で助けてあげたい……生まれて初めて心の底からそう思えた。なのにこんな時に限って魔法が使えなくなってしまうなんて…………この世に神などいない、改めてそう実感する。

 

 

 魔法の使えない自分に果たして何の価値があるのだろう……そんな事を考えながらハルカはふらふらと歩き、気付けばテーブルと椅子の立ち並ぶ、書庫の閲覧所まで来ていたのであった。

 

 

「あの……ハルカ殿? 何か読むものを持ってきましょうか?どんなジャンルにします?」

 

 傍らの少女が身を屈め、上目遣いで話しかけてくる。その眼は見るからにハルカを気遣い、心配している物だった。

 

「そう……だね、じゃあ一緒に見て回ろうか?」

 

2人は連れ立って本の迷宮の探索に出かけた。

 

 

 

 

 

 

「ハルカ殿――っ! これなど如何でしょう?」

 

 梯子の上からマキがハルカに呼びかける。少女の全く邪気の無い振る舞いは、ハルカの凍てついた心を幾分和ませてくれた。

 

「うん、いいかもね。でもマキもいい加減敬語はやめてよ?私の方がずっと年下なんだから」

 

「自分よりも遥か上の達人に対しそういう訳には…………う、うわぁッ!?」

 

「マキ!」

 

 棚に隙間無く敷き詰められた分厚い本を無理矢理引っ張り出そうとしたせいか、マキは思い切りバランスを崩し梯子ごと転げ落ちてしまう。幸い寸前で身を翻し受身をとったが、棚から崩れ落ちた本が巻き起こした埃で、しばらく辺りは一寸先も見えない状況になった。

 

 

「けほっごほっ、も……申し訳ありませんハルカ殿、急に梯子がぐらついて……ハルカ……殿?」

 

 ようやく埃がおさまりかけた頃、マキがよろよろとハルカに近づく。だがハルカの顔を見て、マキは一瞬声をかけるのを躊躇した。少女はその翡翠色の眼を険しく細めながら、鬼気迫る表情で手に一冊の本を持っている。

ハルカが持っていたのはやけに目立つピンク色の装丁がされた、何とも奇妙なデザインの本だった。

 

「……あれ?こんな本あったかな……」

 

だがマキはふと疑問に思った。この書庫にある本はどれも年代物の地味な色合いの本ばかり、こんな派手な本があれば嫌でも目に付いた筈だが……

 

 

 それは本を持つハルカも同じだった。しかもご丁寧に本の題名は「モンスター図鑑」ときた。恐る恐る中を開いて見る。

 

――瞬間ハルカの体に電撃が走った。この五年間死に物狂いで捜し求めたあの憎い怪物が、挿絵だけでなくその習性、住処、由来まで克明に記されていたのだ。

 

ハルカはさらに情報を集めようと、魔物が記されたページを隅から隅まで貪るように読みふける。と、住処の項目で目が留まった。魔物の根城、そこは正にここ悪魔城。しかもアルカード達が向かった最後の鏡の設置点と合致する。――このままではアルカード達が危ない!!

 

 

……だが……ハルカは疑問に思った。今まで散々探しても手がかりすら見つからなかった魔物の情報が何故このタイミングで……?ハルカは何者かの見えざる干渉を疑う。

 

「!」

 

 その時視界の隅に赤いタキシードの裾がチラリと見えた。すぐに追いかけようと身を乗り出す!が……その時には既に赤い影はハルカの視界から消えていた。

 

 

 ……ハルカは全てを理解した。間違いなく”件の紳士”の仕業だ。だが一体何の目的で……?あの紳士の性格からいって私の為に骨を折ってくれたなどとは到底考えられない。

 

 だがハルカはあえてその策略に乗る事にした。あのいけ好かない紳士が何を考えていようが関係無い。立ちふさがるなら今度こそ二度と復活できなくしてやるだけ……少女の翡翠色の瞳に

不退転の決意が宿った。

 

 

「鼻悪魔!どこにいるの、今すぐ来て!!」

 

「んもー、そんな大きな声出さなくても聞こえてるわよ。図書館ではお・し・ず・か・に~!って習わなかったの!?」

 

「今はそれどころじゃないの!ねえここの場所なんだけど……」

 

 

 ハルカは鼻悪魔を呼びつけると、何事か相談を始める。傍らで見ていたマキは、少女が何をせんとしているのかさっぱり解らず、ただ遠巻きに眺めるしか出来ない。だが使い魔との密談を終えたらしい少女が、今度はその矛先をこちらに向けてきた。

 

 

「お願いマキ!私をここまで連れて行って!どうしても行かなくちゃいけないの!」

 

 ハルカが本の地図を指しながら、その整った鼻筋を擦り付けんばかりにマキに詰め寄る。当のマキは、ハルカの有無を言わせぬテンションに混乱し、あたふたするのみだ。どうにか少女を落ち着かせ、事情を説明してもらう。要は今アルカード達が向かっている場所に、少女の仇がいるという事らしい。

 

 

「そんな……叔父上からはあくまで蔵書庫までの護衛と……それ以外の場所へお連れするわけにはまいりません……」

 

 ハルカから説明をうけたものの、マキは固辞した。ハルカの表情が目に見えて暗くなる。マキは罪悪感からか、思わず顔をそむける。

 

……本心を言えばマキはこの少女に肉親の仇を打たせてやりたかった。だがあくまで自分に許されているのは書庫までの護衛。それ以外の場所へ行く事は固く禁じられている。

 

「けど…………」

 

 ちらりと後ろを振り返る。陶磁の人形の様に美しい少女の肩が、微かに震えているのが解った。

 

「うぅ……」

 

 再びマキはハルカから目を逸らすと、腕を組み必死に頭をめぐらせる。

 

 

 駄目とは言ったものの、必死に哀願する少女の願いを無下に断れるほど、この日本人の少女はすれてはいなかった。たった一人の肉親の仇討ち……もともと忠臣蔵のような時代物が好きなマキにとって、これ以上ないほど感情移入してしまう話だ。

 さらに言えばここまでの敵に少々物足りなさを感じていたのも事実だった。もっと強い敵に自身の技を試してみたいという、純粋な自己顕示欲もあった。

 

少女の願いか、叔父の言いつけか……マキの中の悪魔と天使が囁きあい、挙句取っ組み合いのチャンバラを始める。

 

……結果出た答えは……

 

 

 

 

 

 

「解りましたハルカ殿。不肖この白馬マキ、黄泉路の果てまで御供致しましょう!」

 

”ドン”と大きく胸を打ち、時代がかった仕草で誇らしげにマキが答える。勝ったのは悪魔だった。

 

 その言葉を聞いてハルカの顔が”ワッ”と明るくなる。ハルカは自身の衝動を抑えきれず、マキに飛びつき感謝のハグとキスを見舞った。同性とはいえまるで天使と見紛う美少女の突然の抱擁に、欧米流のスキンシップに慣れていないマキは顔を真っ赤にしながらただただ困惑するばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔道具を売って欲しいじゃと?」

 

 修理の終わった武器を渡す際、ハルカに突然そう告げられ、主はその真意を問いただした。自身の姉を奪った魔物を倒すために少しでもいいから力が欲しい。かいつまむとそういう理由であった。

 

「お嬢ちゃん……志は立派じゃがその力ばかりを求める姿勢が今の状況を作り出した事を忘れとりゃせんか?今のあんたに売れる物など無いよ」

「それに儂の扱う魔道具はどれも値が張る、女の子のお小遣いで買える物など碌に無い。それに儂は紙の金は扱わん主義でね」

 

 主がやんわりと拒否の姿勢を示す。だがハルカも引き下がらない。身に付けているアクセサリーを次から次へと外し、主の机に並べていく。そして止めとばかりに、家宝のヴェルナンデスの杖を机に叩き付ける。

 

「な……ハルカ殿!それは……ッ」

 

「マキは黙ってて!」

 

 ハルカのなりふり構わない行動に驚き、マキが慌てて止めようとする。だが逆にマキを制するようなハルカの怒号が室内に響いた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 張り詰めた緊張と静寂……ハルカの翡翠色の目と、主の老眼鏡越しの灰色の目。その両方が交差し、静かな火花を散らす…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ…………これを持って行きなさい」

 

 

 やがて数分が過ぎた頃、少女の頑固さに根負けしたのか老人が折れた。主は無言のまま背後にある木箱を開けると、中から赤い星型の宝石がついた小振りな指輪をひとつ取り出す。

 

 

「”アストラルリング”という特殊な指輪じゃ、体を流れる経脈を切り替える……まあ早い話が魔力の代わりに生命力を消費して魔法を使えるようになる魔道具じゃ、これをお主にやろう、これをつけてさえおれば今のお主でも以前と同じように魔法が使える」

 

 主の説明にハルカの翡翠色の眼が急速に輝きを帯び始める。

 

「……だが気をつけろ、文字通り命を削って攻撃をするのじゃ……考えなしに使えばあっという間に黄泉路を辿る事になるぞ? お主がどれほどの使い手かは知らんが、高位の魔法なら一回使っただけで生死に関ってくる」

 

 

 図書館の主がいつにない真剣な表情で忠告する。しかしハルカは再び魔法が使える事の喜びが勝り、碌に主の話を聞こうとはしていなかった。

 

 

「あ……料金は?今出したアクセサリーで足りるかな……」

 

 恐る恐るハルカが尋ねる。しかし返ってきたのは守銭奴の主らしからぬ、意外な答えだった。

 

「……御代はいらん、扱いが難しくてどうせ買い手などおらんしな。タダでやろう」

 

 

「ありがとうお爺さん!」ハルカの顔が笑顔で弾け、主に飛びついた。マキと主がどうにかハルカを落ち着かせ、なんとかその場は収まった。

 

 少女達は主に何度もお礼を言いながら、アルカードの剣を携え駆け足で部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……主の部屋に再び静けさが戻る……

 

 

 

 

「アルカード様は……私をお叱りになるだろうか……」

 

 

 少女に指輪を渡した事を、主は後悔していた。

 

 おそらくアルカードは少女をこれ以上戦わせない為、私が引導を渡す事を期待してここに寄越したのだろう……だが、自分はアルカードの願いと真逆の事をしてしまった。アルカードの生き延びる確率を少しでも上げるために、再び少女を戦場に送り出してしまったのだ。

 

 どんな言葉で取り繕うが、自分は主君の息子と見ず知らずの少女を天秤に掛け、そしてアルカードを取ったのだ。深い自責の念が主を襲う。

 

 

 

「すまぬ……ヴェルナンデスの少女よ……だが例え鬼と呼ばれようとも……私は…………」

 

「アルカード様……申し訳ありませぬ…………どうか、どうかお許しを…………」

 

 

 静寂が支配する管理室で1人……図書館の主は悔恨の念に苛まれながら、ただ一心に少女とアルカードへ向けて懺悔をし続けた…………

 

 

 

 

 


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