悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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ベルモンドの宿命

はるか昔、一人の騎士がいた。

 

騎士には愛する女性がいた。

 

ある日、女性が吸血鬼にさらわれた。

 

騎士は女性を取り戻したが、彼女には吸血鬼の呪いがかけられていた。

 

呪いを解くには吸血鬼を殺さなくてはならない。

 

しかし騎士の持つ武器では吸血鬼を倒す事は出来なかった。

 

仲間の錬金術士は騎士にこう告げた。

 

 

「吸血鬼を倒すには最愛の人の魂を武器に捧げる必要がある」

 

 

最愛の人を ”救う” には吸血鬼を ”倒す” しかない。

 

吸血鬼を ”倒す” には最愛の人を ”殺す” しかない。

 

答えの出せない騎士に最愛の女性はこう語りかけた。

 

 

「私のような不幸を二度とおこさないで欲しい」

 

 

騎士は最愛の人の願いを受け入れ、彼女の魂を武器に宿した。

 

騎士は最愛の人の魂が宿った鞭をふるい、見事吸血鬼を討ち果たした。

 

 

悲劇の聖鞭「ヴァンパイアキラー」はこうして誕生し、以降、

ベルモンドの一族に代々受け継がれていく事となる……

 

 

 

 

 

ユリウス・ベルモンドがその血塗られた宿命を知ったのは、彼が7、8才のころ、師ジョナサンと始めて出会った時だった。

 

師に会うまでの彼は、ごくごく普通の少年であった。山奥の村で母親と二人暮らしと、

あまり一般的では無いかもしれないが、それでも平穏、幸せに暮らしていた。

 

―――だが、その平穏はある日突然崩れ去る事となる。

 

 

実はユリウスはその時の事をほとんど覚えていない、あまりに恐ろしいことがあった場合、人は心が壊れないようその記憶を心の奥底に封じ込めると言うが、幼いユリウスの脳もそれを実行したのだろう……かすかに覚えているのはオレンジ色に燃える炎と、黒い影。そして師ジョナサンの大きな背中だった。

 

 

それ以後は師に育てられながら、一人前のヴァンパイアハンターとなるべく数々の修行をこなした。

 

今までの楽しい暮らしが一変、180度真逆の厳しい毎日になるのだ。普通の子供なら反抗するか、泣きじゃくるかのどちらかだったろう。しかし幼いとはいえ、やはりこの男は一味違った。

 

始めの数日こそ魂が抜けたように放心していたものの、しばらくすると子供ながらに鋭い目つきで師に教えをこうた。母の敵討ちか、それとも彼の中に流れるベルモンドの血が覚醒したのかは定かではないが、その子供離れしたまなざしには師匠であるジョナサンも驚愕しきりであった。

 

そして、この小さな戦士に、自分の持ちうる全ての技と知識を託すと心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

壁にかけられた燭台に照らされながら、うす暗い廊下をユリウスは一人進む。

限りなく低い可能性だが海兵隊の生き残りがいるかもしれない。そう思いあちこち回り道をしながら小部屋や本筋と外れた通路などを見て回ったが、いまだに一人の生存者も見つけられずにいた。

 

時折見つかるのは人間だった”モノ”の残骸か、形は留めているがすでに事切れた兵士の遺体ぐらいだった。

 

「それにしても……」

 

兵士の遺体かそれ以上にモンスターの残骸も多かった。「加護も受けていない武器でよくこれだけ戦ったもんだ」ユリウスは感嘆した。多大な犠牲は払ったが、それでも戦士達はこの城に一矢報いたのだ。

 

……ただ残酷ではあるが、形の残っている遺体に対しては「処理」をさせてもらった。この城では死体は放って置くとそのうちゾンビになって侵入者を襲う。

 

物言わぬ亡骸となった兵士に畏敬と哀悼の意を込めながら、ユリウスは淡々と処理を行っていった。

 

 

 

そうこうしている内にダンスホールに着いた。あのラングとかいう軍人の話が本当ならベヒモスがここを通った筈だが、扉も壁も何事も無かったかのようにそこにそびえている。さすがドラキュラ城、なんでもありだ。この扉の先も何があるかわかったもんじゃない。

 

 

ゆっくりと……慎重に扉を開ける……が、半分ほど開けた所で殺気を感じ飛び跳ねる!!次の瞬間ついさきほどまで立っていた場所が爆音と共に消し飛んだ。

 

「遅かったか…!!」

 

爆発の正体は海兵隊の持ち込んだロケットランチャーだった。見れば砂埃の先に銃を構えた数名の海兵の姿が見える、いや、それはもはや人間ではない。このホールで命を落とした幾人かの兵士が、既にゾンビとなって蘇っていたのだ。

 

ゾンビ兵達は”侵入者”であるユリウスに対し、千切れかけの指で一斉にひきがねをひいた!!

 

 

”ダダダダダダダダダダダダッ!!!”

 

 

けたたましいマシンガンの銃声がホールに響く!間一髪ユリウスは体制を立て直すと人間離れした速度で銃撃をかわした。幸いゾンビになると動きが格段に鈍くなるので、奴らが放つ弾丸はユリウスの後方2メートルの宙をかすめるばかりだ。しかし厄介なことに城の魔力のせいなのか弾は無限に撃てるらしく、切れ目なしの銃撃がユリウスを襲う。

 

「生きてるうちにこうなってりゃ良かったのにな!!」

 

銃撃をかわしながら吐き捨てるように叫ぶ。しかし現実は彼らが生きているうちにその変化が起きることは無く、皮肉にも彼らを助けに来た男に対してその銃は向けられていた。

 

 

――ざっとではあるが周囲の状況を確認する。

 

 

ホールの大きさは直径およそ50メートル、高さ15メートル程の円柱形。中央に陣取るゾンビたちを中心に壁に沿いながら円を描くようにユリウスは走っている。

 

敵はマシンガンを持つ者が三匹、ロケットランチャーを持つ者が一匹。幸いロケランゾンビはユリウスの動きについてこれず、右往左往するばかり、今のところ害は無い。

 

とはいえいかに屈指のヴァンパイアハンターとはいえ、音速を超える弾丸をまともにくらってはただではすまない、呪いや魔術の類ならいくらでも防ぐ術はあるが、無機質な近代兵器に対しては常人と同じくらいの耐久力しかないのだ。

 

 

ユリウスはまず小うるさいマシンガンゾンビから倒すことに決めた。太ももにくくりつけてあるベルトから数本のナイフを抜き取ると、ゾンビめがけて放つ!光の尾をひきながら飛ぶ銀のナイフは見事にゾンビたちに命中し、攻撃が一瞬やんだ。

しかし刃渡り15センチ程のナイフでは致命傷にまでは至らず、ゾンビたちは再び銃を構えようとする。が、その隙を見逃す男ではない、攻撃がやんだ一瞬の隙にムチの射程距離まで詰め寄ると、電光石火の一撃でマシンガンを持つ三体のゾンビをなぎ倒した。

 

残り一体!だがここでユリウスは致命的なミスをおかした。兵士が持つ武器は一つだけとは限らない。彼が3匹のゾンビを倒している間、もう一匹のゾンビは扱いづらいロケットランチャーに見切りをつけ、小回りの効く拳銃に持ち替えていたのだ。最後の一体を仕留めようと振り向いた時、

ユリウスの眼前には音も無く近寄っていたゾンビの銃口が突きつけられていた。

 

 

―――ユリウスの中で時が止まる――― 

 

 

完全な油断であった。時間にして一秒にも満たない間に様々な思考が駆け巡る。

――速くよけなくては!何でこんなミスを!まさかこれで終わりなのか!?俺の馬鹿野郎!――

 

 

だが……目の前の拳銃は一向に火を噴く気配が無い。冷静になって見てみれば拳銃の先にあるはずのゾンビの顔が、下顎から上の部分にかけて丸ごと吹っ飛んでいる。そしてその消し飛んだゾンビの顔越しに……まだ噴煙をあげている銃を構えた1人の軍人の姿が見えた。

 

「……すまない、すまない……っ!」

 

震える声でそう呟きながら、その軍人は膝から崩れ落ちた。

仲間の命を奪った銃を握りしめ、その大きな体を捨てられた子猫のように震わせながら……

 

……ユリウスにはその姿がまるで神へ祈りを捧げているように見えた……

 

 

 

 

重苦しい空気がホール全体を包む。苦楽を供にしてきたであろう戦友を、――すでにこの世の者ではなかったとはいえ―― 自らの手で撃ち殺したのだ。親しい人間を殺めるつらさは、ユリウス自身にも痛いほど解った。

 

「ありがとう、今度はこっちが助けられたな」などと気軽に話しかけられる雰囲気ではない。しかしこういう時どうすればいいのかユリウスには解らない。この齢19の若者は、一流のヴァンパイアハンターとして異形の者達と闘うあらゆる術は体得しているが――― 一般的な教養や、人間関係を築くだけの時間は与えられていなかった。慰めの言葉をかけるべきか……励ましの言葉をかけるべきか……躊躇している間に時間だけが過ぎていく……

 

 

その重い沈黙を破ったのはラングの方からだった。ふいに顔を上げると、何かを探すように辺りをうろつき始める。その突然の行動をユリウスが訝しげに見ていると、ラングが振り返りこう質問してきた。

 

「くすんだ緑色の、小さいドラム缶のような物を見なかったか?」

 

唐突な質問にユリウスが首をかしげる。あちこち見て回ったがそんな物は見ていないと答えると、ラングは「そうか……」と小さく呟き、再び落ち着かないそぶりで辺りを探し始める。その顔つきからしてよほど大事な物のようだ、ベヒモスから助けた時よりも焦燥している様に見える。

 

そんなラングを見かねて詳しい事情を聞こうとした……その時

 

 

 

「お 探 し 物 は こ れ か な ?」

 

 

 

恐ろしい程低い、エコーがかった不気味な声が突如ホールに響く、二人は思わず声のした方向、ホールの中央を振り返った。

 始めその空間には何もおかしい所は無く、シャンデリアが煌いているだけだった。が、次第に空間が歪みドス黒い霧のような物が集まり始めた。

 

その黒い霧は徐々に濃くなり、何かを形作り始める。それと平行して明らかに部屋の温度が下がっている。霧はもはや雲となり、中から巨大な人影が現れた。

 

 

全身をぼろぼろの法衣で纏い、その法衣から露出した両腕は完全な白骨。右手には得体の知れない動物の骨で出来た巨大な鎌を持ち、前方にかかげた左手の手の平には緑色をした何かがふわふわと浮いている。

 

そしてフードから覗く顔は腕と同じく肉つきのまったくないドクロ、しかしその虚無しかないはずの眼窩の奥には怪しい紫色の炎が不気味にゆらめいていた。

 

その姿はまさにタロットカードの死神そのもの……!!

 

 

 

――ユリウスとラングは戦慄した――

 

ドラキュラの腹心、デスが二人の前に姿を現したのだ!!

 

 

 


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