悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999 作:41
独白
「私のせいだ…私のせい……全部…私がいけないんだ……」
あの時の事を思い出すだけで昔の自分を殴りつけてやりたくなる。あの日……私が父さんの書庫であの忌まわしい本さえ見つけなければ……いや、お姉ちゃんを誘ったりしなければ……死ぬのは私一人で済んだ……誰も……何も変わらずに済んだんだ…………
◇
私達は二人だけの家族だった。パパとママは私達がもっと小さかった頃事故で死んで、それからはずっと二人で生きてきた。身寄りが無くなった後教会に引き取られてからも、”ヴェルナンデスの一族”という肩書きのせいか周りの大人達はよくしてくれた。まあ”高級な花瓶を触る様な扱い”と言えば大体想像はつくだろう。
それでも私は幸せだった。私とお姉ちゃんはいつも一緒、言葉を交わさなくてもお互いの気持ちが手に取るように解った。私がイタズラをして怒られても、いつもお姉ちゃんがかばってくれた。
困った事があれば、例えどんなに離れていてもすぐに飛んできてくれた。お姉ちゃんさえいてくれれば、お化けも、魔物も、何も怖い物なんか無い。私達は無敵の姉妹だったのだ。
そう……「アイツ」に会うまでは……
◇
…………「アイツ」はそのデカイ顔で私を見下ろしながらケタケタと笑っていた……私はその不気味さに完全に気圧され、身動き1つ取れなかった。あいつの手が伸びてくる……!瞬間、私は誰かに撥ね飛ばされそのまま意識を失った。
……私が目を覚ました時、書庫にいたのは私と、目を閉じたまま動かなくなったお姉ちゃんだけだった……
◇
……お姉ちゃんはあれから目を覚まさない。体中から色んな色の管が伸び、無理矢理お姉ちゃんの体を生かしている。でも私には解る。あそこにお姉ちゃんはいない。あそこにいるのは
ふと……黒い服を着た男の人が隣に立っていた。あの時の事を根掘り葉掘り聞いた後、そいつは酷く冷たい目で私を見下ろし、言った。
「奴の事は忘れろ」
…………忘れろ?……忘れろだと?……忘れられる物か!絶対に、どんな方法を使ってでも
アイツを探し出してこの手で殺してやる!お姉ちゃんを取り返してやる!!
◇
「これからは私があなたの保護者です」
どういう事かそれまで私達の世話をしてくれていた教会の人が去り、代わりに全身白尽くめの男が私の前にやってきた。確か……ジョーンズとか言う教会の鼻つまみ者だ。古臭い教会の態勢を変えるとか言ってあれこれ活動しているそうだが何とも胡散臭い。どうせこいつも”ヴェルナンデスの後見人”という肩書きが欲しいだけだろう。案の定、神学校の寄宿舎に私を押し込んで、それ以降顔も見せに来ない。ふざけやがって……もう誰も……誰も信じるもんか……ッ
◇
……変な奴と会った。ベルモンドとかいう古い一族の末裔らしい。教会の大人たちは皆一様に強い強いと言っていたが、実際に会ってみたら全然大した事無かった。こっちがちょっと本気で魔法を使ったらビックリして固まってる。オマケに弱いのに無理して突っ込んで大怪我してる。しょうがないから魔法で治してあげたら、治療してる間中物凄い顔で睨んでくる。助けてやったのにムカつく奴だ。もう二度と助けてやらない。
◇
教会の仕事でまたあいつと会った。名前はユリウスというらしい。相変わらず顔を見るなり突っ掛かって来るのでテキトーに猫かぶってあしらっとく。こっちはお前なんかにキョーミは無い。私の目的は「アイツ」を見つけてお姉ちゃんを救う事、それだけだ。
◇
まーたあいつが突っ掛かってきた。いい加減うざい。前と比べて少しは強くなったみたいだけどまだまだ私には遠く及ばない。なのに一人で突っ込んでまーた大怪我してる。男ってみんなこんななのか?バカばっかりだ。
でも……他の大人達のように変に媚びてきたりしない分ちょっとはマシかもしれない。しょーがないので治癒魔法をかけてやる。でもぎりぎり痛みが残る程度に治す。ザマーミロ。
◇
またユリウスと会った。仕事の方はあっさり片付いたので、それとなく身の上話をする。
…………ユリウスも家族はいないらしい。
「でも先生がいるからな」
ユリウスが笑いながら答える。……私にだってお姉ちゃんがいる…………いるんだ……
◇
久し振りにユリウスと会う。でも何か雰囲気が前と変わっていた。いつも隣に居たお爺さんもいない。前会った時も大分具合が悪そうだったからひょっとしたら亡くなったのかもしれない。
無口な人だったけど私には優しかった。どうやらユリウスは本当に一人ぼっちになってしまったらしい。
……別にかわいそうとか思っていないけれど、一応それとなく励ましておく。あくまでも、一応。
◇
ドラキュラが復活するという7月まで3ヶ月を切った頃、どういう風の吹き回しか、今まで手紙1つよこさなかったジョーンズの奴が私の前に突然現われた。ドラキュラを倒すために自分の実験に協力しろという。その力はヴェルナンデスである私にしか使えず、しかもこの力が完成すればドラキュラを滅ぼすだけでは無い、
……胡散臭い話だ。解ってる。どうせ利用するだけ利用して私を捨てるつもりだ。だが……敢えてその話に乗ってやる。「アイツ」を倒し、お姉ちゃんを助けられる可能性が万に一つでもあるなら悪魔だろうがドラキュラだろうが私の魂くらい幾らでも売ってやる……!
◇
ジョーンズの話では ”ドミナス” とやらを完成させるためにはドラキュラの
”魔力”を封じた十字架、
”魅力”を封じた肖像画、
”生命力”を封じた石、
の三つを集めなければならないという。そのうち肖像画は
……ジョーンズが大仰に言うだけあって”ドミナス”の力は凄い……!
潜在魔力が大幅に上がり、数人がかりでなければ撃てない合成魔法すら楽々撃てる。
……だがその分体の負担も大きい。あと一ヶ月……一ヶ月でいいんだ。私の体よ、
それまで持ってくれ……
◇
――遂にドラキュラ城が復活したらしい。
教会の人間達はこの世界がどうなるかの瀬戸際だと騒ぎ、せわしく動き回っている。
……くだらない。私にはドラキュラも、世界の行く末も、どうなろうと構わないのだ。
「ドミナス」を手に入れ、「アイツ」を見つけ出し、「お姉ちゃん」を取り返す。それだけだ……それだけが私の目的なんだ。邪魔する奴はみんな……みんな消し飛ばしてやる!!
◇
乗り込んだ先で半年振りにユリウスと会う。もういい大人の筈だが無鉄砲さは変わらない様だ。
ふと、隣になんとも垢抜けない大男がいる。子供だと思って大げさな挨拶をしてくるので、
仕方なく付き合ってやる。この手の男はちょっと猫をかぶればコロッと騙される。楽な物だ。
◇
……久し振りに本気を出してしまった。別にユリウスのためとかそんなんじゃない。ただちょっとあの骸骨にいらついただけだ。だがさすがに少し短慮だった。いくら鈍感な男でも私が猫を被っていた事に気付くだろう。……まあいつもの事だ。
虫も殺せないと思っていた女の子が実はバケモノだった……その事実にある者は引きつった笑いを浮かべ、ある者は軽蔑の視線を送る。どいつもこいつも勝手な幻想を人に押し付けて勝手に幻滅しやがって……さあ、この男はどんな態度をとるかな?……せいぜい笑ってやる。
だが……この人はそのどちらでも無かった、真っ直ぐ私の眼を見てお礼を言われた。
私はバケモノなのに……魔物を殺すしか能の無い兵器なのに……何で……? 何で………
◇
ああ……ミスった…………死ぬのかな私………………
人の事なんか笑えない…………自惚れてたんだ…………
まだ……やらなきゃ……いけない事が…………
お姉……ちゃん…………ごめん………なさい………
―――薄れていく意識……けど、ふいに誰かにかかえられる。
誰……?……ユリ……ウス?
はは……少しは……香水とかしたら……? ちょっと……匂うよ……?
でも……誰かに抱きしめられるなんて……何年ぶり……だろう……あったかい……な……
◇
……ユリウス達は行った様だ。念のためしばらく待った後、頃合を見て体を起こす。
アルカードは気を失ったまま起きる気配は無い。治癒魔法をかけるふりをして体を探る。
――――あった。大分ボロボロだがこれがドラキュラの
………………
…………
……
ごめん……なさい……アル………ド……さん……
◇
最初から……最初からこうするつもりだったんだ。ドラキュラが復活しようが、この世界が滅ぼうが知ったこっちゃ無い。騙される方が悪いんだ。ユリウスも、ラングも、まるで呆けた様にこっちを見ている。何?私を天使か何かだと思ってた?残念でした!見た目ばかりに気を取られてる方が悪いんだ。だから私は悪くない……だから…………だから…………
だから……そんな顔しないでよ!そんな目で見ないでよ!私が悪いんじゃない!騙されるそっちが悪いんだ!勝手に仲間だと思ったそっちが悪いんだ!……私は悪くない……!悪いのはアイツだ!私は…………私は…………悪く……ない………………
……………………
…………
……
悪く…ないんだ