悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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攻略!時計塔

 

 時計塔……又の名を機械塔。それは悪魔城において最も攻略が難しいとされている難所である。

 

 歴代のベルモンド、またその志を受け継ぐ数多のハンター達も、この幾重にもトラップが張り巡らされた要害に挑戦し、そして数多くの辛酸を舐めさせられた。

 

 

 塔であるため上へ上へと登らなければならないのだが、階段などという生易しい物はほとんど無く、塔を構成する機械の部分……すなわち歯車や振り子、シリンダーなどをつたいながら進まなければならない。

 当然機械であるから足場は常に動き続けている。もし一歩でも足を踏み外したり、タイミングを見誤れば、たちまち歯車に巻き込まれ命を失う事になる。

 

 もちろん敵は難解な足場だけではない。宙を飛ぶ魔物たちがそれらを乗り越えた挑戦者達を奈落の底へ叩き落そうと、手ぐすね引いて待ち構えているのだ。

 

 塔は上へ行くほど高くなる、必然落ちた時の危険度も塔の高さに比例して上がる……

ある意味進めば進むほど致死率が上昇するこの負のスパイラルこそが、時計塔が悪魔城最難関と言われる所以であった。

 

 そして例外なくユリウスら三人も、この悪魔の塔の攻略に手間取る事になる……

 

 

 

 

 

 塔に入った瞬間、デスと似た威圧感をユリウスは感じた。やはり主とその住処は似るのだ。

 

 ……ゴウンゴウン、カタカタカタ、ブシュウウウゥゥゥッと、塔を構成する大小様々な部品たちが無機質な機械音をかき鳴らしている。この似かよった部品の中から最適なルートを探さなくてはならない。進むルートを誤れば詰む可能性もある。骨の折れる仕事だ。

 

……見上げれば、塔の上部は闇に包まれ全く終わりが見えない。ますます気が遠くなってくる。

 

 ふとラングとハルカは大丈夫かと様子を見る、二人ともこの機械と歯車の化け物に気圧されているようだ。ここは一番、身軽な自分が頑張らなくては……と、ユリウスは腹を決めると、わざと明るい声で話しかけた。

 

「なんか昔ケーブルテレビでこんなの見たなァ……確か日本のゲームショウで……ま、素人がクリアしてたくらいだから俺たちなら何とかなるだろ!」

 

 二人が微妙に引きつった笑いを浮かべる…………まあこんな物だろう、少しでも気がほぐれれば御の字だ。

 

 

 ユリウスは二人に多少余裕の色が出たのを確認するとまずハルカにこう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ着ている物を脱げ」

 

 

 途端するどいローキックがユリウスのすねを襲う。

 

 

「こんな時に何考えてんの!?このロリコンムッツリユリウス!!」

 

「バカ!勘違いすんな!そんなひらひらしたもん着て機械に巻き込まれたらどうする気だ!ラングお前もベスト脱げ!身軽さ重視だ!」

 

 ユリウスがすねを押さえながら苦悶の表情で説明する。ハルカは「あっ」とした顔を見せた後、てへへとごまかし笑いをしながらケープを脱いだ。  

 

 「……こいつは俺の事を普段どういう風に見てるんだ」ユリウスはちょっと訝しんだが、まあ緊張も解けた様なので、結果オーライとする事にした。その後ユリウスも準備を整え、一行はいよいよ時計塔攻略に乗り出す。

 

 

 

 

 

 

 まずユリウスが先行、ルートと足場、安全の確保をし、残り二人を誘導する。どうしても越えられないような難所はハルカの瞬間移動に頼る事にした。

 

 

「よッ、はっ、とッ、へっへ~ん! 余裕♪ 余裕♪」

 

 ハルカがまるでテーマパークのアスレチックでも攻略するかのように、ひょいひょい歯車や振り子を飛び越えていく。いざとなれば瞬間移動で復帰できるとはいえ、どうやら子供の順応性というのを少々侮っていたようだ。……だが問題はもう一人の方だった。

 

「うおおぉおッ!?」

 

「ラングッ!!」

 

 揺れ動く振り子から落ちそうになったラングを、ギリギリの所でユリウスの鞭が捕まえる!

 

「す……すまんユリウス、恩に着る……」

「礼はいいから早く登って来い!重いんだよお前!!」

 

 歯を食い縛り、顔を真っ赤にしてユリウスが怒鳴る。ラングもほうほうの体でなんとか二人の下へ這い上がった。時計塔に侵入してから20分足らず、こんな光景は一度や二度では無かった。

 

 重くかさばる防弾ベストを外したとはいえ、190センチ近い長身と100キロを優に超えるラングの恵まれた体躯は、この狭い時計塔では邪魔者以外の何物でもなかった。持久力は訓練の賜物かなんとかなったが、機械と機械の間の限られたスペースを通る時など、大きい体ではゆっくりすり抜けるのがやっと。何度もヒヤリとする場面があり、その度にユリウスとハルカに助けられた。

 

 

 少しでも早く先に進みたい気持ちはあったが、焦ってケガをしては元も子もない、なにより相手はあのデスだ、アルカードと自分の二人がかりでも勝てるかどうかは怪しい。できる事なら総力戦で挑みたいと考えていたユリウスは、はやる気持ちを抑え全員が確実に進める方を選んだ。

 

 

 それでも一行は何とか塔の半分、中央管理室まで来たのだが…… ここで一気に進行スピードが鈍る。原因はこの塔を住処とする魔物だった。

 

 

 

 

「なにこれキモい!こっちくんなッ!!」

 

 

 ハルカが悲鳴をあげる。12歳の少女が声を上げるのも無理は無い。……想像してみて欲しい、ニュルニュルと蠢く蛇の頭髪を振り乱した女の生首が、半笑いでこちらに飛んでくる光景を。 

 この魔物こそ、時計塔を悪魔城最難関に押し上げている最大要因、

悪名高き ”メデューサヘッド” である。

 

 

 その名の通り瞳を見た者を石化させるというギリシャ神話の怪物”メデューサ”の生首を模した魔物で、体が無い代わりに浮遊能力がありふわふわと浮く事ができる。

 

 単体ならむしろ弱い魔物なのだが、こいつらの恐ろしいところはどこからともなく無限に現れ、数の暴力で押し切ってくる所だ。ただでさえ足場が悪く、一瞬の判断ミスが直接死につながる時計塔で、こんな奴らが大量に顔や足元めがけ突っ込んでくるのだ、一体何人の戦士がこの魔物の餌食になったか計り知れない。

 

 幸いメデューサヘッドには各自決められた縄張りがあり、こちらからそこに突っ込まなければ害は無い。だがすぐにでも最上階まで行かなくてはならないユリウス達はそういうわけにもいかない。

 とうとうその鬱陶しさにブチ切れたハルカが全力で魔法を放とうとしたが、「魔力の無駄遣いをするな!」とユリウスに止められた。バケモノはかなり上のほうにもうようよいる、ハルカが魔力を空にするまで撃ったとしても焼け石に水だろう。

 

 

……やむなく、一旦管理室近くまで戻り作戦を練り直す事になった。

 

 

 

 

 このまま手をこまねいていてはアルカードの救援に間に合わない。かといって無理に突破しようとすれば自分達の身が危うい。どうしたものかと思案に暮れていたその時――

 

 

”ドオオオォォォォンッ!!!”

 

 

 この巨大な時計塔を土台からぐらつかせる凄まじい衝撃と爆発音がした!壁と天井のレンガやタイルが剥がれ落ち、3人は思わず身を屈める。

 

音は上の方からだ、まさかアルカードの身に何か!?もはや一刻の猶予もならない……!

 

 

…………ユリウスは悩んだが、頭の中で一つの結論を導き出し二人に告げる。

 

 

「ハルカ、俺の背中におぶされ、ラングは置いていく」

 

「えっ!?」といった表情でハルカがユリウスの顔を見た。

 

「悪いがここではラングは足手まといだ、少しでも戦力は欲しかったがもう時間が無い。ハルカ位の重さなら背負っても俺一人で行くのとたいして変わらない時間で上までいける」

 

 ユリウスの口から発せられた言葉は、ラングに対する非情な戦力外通告だった。ハルカが思わず視線をラングの方に動かす。だが不思議な事に、その顔はあまり気落ちしているようには見えなかった。

 

 ……ラングもこの城に来たばかりの頃ならハルカが心配するようにきっと落ち込んでいただろう、だが何度か戦いを重ねるうち、自信もつき、なによりユリウスの考える事が少しづつ解るようになっていた。

 

 ユリウスが目で合図をする。そしてラングは肩にかけていた”レライエの魔銃”に手をかけた。

 

「一匹でも多くコイツで奴らを撃ち落す、その間に弾丸が開けた道に沿って駆け上がれ!」

 

 ラングがスコープを覗き込んで狙撃の体勢をとる。少しでもユリウスが登りやすいルートを探し、かつバケモノを倒さなくてはならない。スナイパーの腕の見せ所だ。

 

「ハルカ早くしろ!時間が無い!」

 

 ユリウスが腰をかがめ早く背に乗るようハルカに促す。ろくに説明もしていないのにお互いの考えを理解した二人を少し恨めしそうに見ていたハルカだったが、ユリウスの声で我に返り、慌てて背中に飛び乗った。

 

「いいかハルカ、絶対に腕を離すなよ? よし、ラングやれ!」

 

 ユリウスがまるで100メートル走の選手のような体制でラングに声をかけた。気分はオリンピック決勝のスプリンター、さしずめラングはレース開始の銃を撃つスターターだろうか。

「……礼拝堂の時と逆だな」と、ユリウスは少しおかしくなった。

 

 ラングが引き金に指をかける、呼吸は全く乱れていない………バケモノ達が重なる絶好の瞬間を待つ………1秒、2秒、………ほんの数ミリ、時間にして0コンマ数秒の狂いも許されない。はやる気持ちを抑えラングは銃を構え続ける………さらに数秒……場の空気が緊張の限界に達した……――――その時!!

 

”タアアアァァァンッ”

 

乾いた銃声が時計塔にこだました!

 

 

 銃からはなたれた弾丸は、壁や歯車を反射しながらメデューサヘッドの群れを蹴散らし、最上階への道を切り開く!! その後をとても人間とは思えないスピードでハルカを背負ったユリウスがこれまた一気に駆け上がっていった!!

 

 

 

「有角を頼むぞ――――――ッ!!!」

 

 

 あっという間に見えなくなったユリウスに、ラングが絶叫しながら呼びかけた。「どうかうまくやってくれ……」そう強く願うラングだったが……ふと、奪われた核の事ではなく、思わず有角の事を叫んでいた自分に、軍人として何ともいえないバツの悪さを感じ、ラングはポリポリと頭をかいた。

 

 

 


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