悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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間話2
アルカードを追え


 

 ラングが海兵隊の仲間の下へと駆け寄って行く。ほぼ絶望的と見られていた生き残りを自らの手で救い出したのだ。感動もひとしおだろう。せっかくの再開を邪魔しては悪いと、その間ユリウスとハルカは鏡の設置を担当する事にした。

 

 

 

 今は誰もいなくなった闘技場の中央、ユリウスが鏡を置くための結界を張っていると、ハルカが真っ直ぐ目を見ながら話しかけてきた。

 

「どうユリウス?ちゃんと見てくれた?わたし前会った時より強くなったでしょ!」

 

 褒めて欲しいのか、瞳を輝かせながらハルカがユリウスを見る。だがユリウスから返ってきた反応はあまり芳しいものではなかった。「ああ……」とか「おう……」とか言うばかりで碌に反応が無い。その横柄な態度に、ハルカがあからさまに不機嫌になる。

 

「……何その反応。あのガイコツに何言われたのかは知らないけど、いつまでも引きずるなんてらしくないよ?それとも何?今頃になってわたしが怖くなった?」

 

 語気荒くハルカが詰め寄る。ユリウスはしばらくの沈黙の後、重い口を開いた。

 

「……いまさらあれくらいでビビるかよ、俺が考えてたのはお前が使ってた瞬間移動の事だ……」

 

 ああなるほどその事か、といった表情でハルカが説明する。

 

「ああアレの事?スゴイでしょ、自分だけじゃなくて、他の人も飛ばせるんだよ?まあ一度に1人しか飛べないんだけど」

 

 ハルカがその小さな胸を精一杯張りながら答える。しかしユリウスの表情は相変わらず硬いままだ。その態度を見て、ハルカは少しだけ上目づかいになりながら話を続けた。

 

「……ひょっとしてワーウルフと戦ってる時、助けに行かなかった事怒ってるの? しょーがないじゃん、けっこー魔力使うし、色々制約もあるし……、それに本当に危なくなったら援護するつもりだったよ? もちろんラングさんも」

 

 ハルカが自身の能力と考えについて弁明する。ユリウスの機嫌が悪いのは、きっと自分が瞬間移動の事を秘密にしていたからだろう……ハルカはそう考えた。 だがユリウスが知りたいのはそんな事では無かった。

 

 

「そうじゃない!お前誰からアレを習ったんだ?お前があの技を使った時、微かだが闇の力を感じたぞ!」

 

 突然語気を荒げユリウスが詰問する。普段の気安いユリウスとはまるで違うその鬼気迫る態度にハルカは怯え、その小さな体が震えた。しかしその尋問はもう一人の仲間の呼びかけによって中断される。

 

 

「ユリウス!ハルカ!来てくれ!!仲間の様子が……!」

切羽詰ったラングの声を受け、ハルカはこれ幸いとその場から遁走する。

 

 

「待て!まだ話は終わってないッ……」

 ユリウスの制止も聞かず、ハルカはラングたちの方へと走り去った。その後姿をユリウスは不安げに見つめる。ヴェルナンデス家に伝わる魔法は、伝統的に大地の精霊の力を使う物がほとんどの筈、少なくとも闇の力を使う術など聞いた事が無い。それなのに何故ハルカから闇の波動を感じるのか……

 ユリウスは訝しんだが、当の本人があの様子では今は聞き出すことは難しいだろう。仕方なくユリウスは目の前の問題から片付けるべく、少女の後を追った。

 

 

 

 

 二人がラングの下へ駆け寄ると、似たような格好の男が三人、闘技場の土床に座り込んでいた。一人は白髪交じりの中年の男性。残り二人はかなり若く、自分とそう年齢が変わらないように見える。……だがその若い二人の顔色が目に見えて悪い。

 

「君達は……」

 

 白髪の軍人が二人に気付いて話しかけてきた。ラングが説明しようとするが、それより先にハルカがスカートの裾をつまみ、ラングの時と同じような古式めいた挨拶をする。

 

「始めましておじ様、わたくしハルカ・ヴェルナンデスと申します♡」

 

 物怖じしないというか、如才が無いというか……こっちはトランツ将軍の件もあり、どうも軍人に苦手意識があるというのに、こういう所は素直に凄いとユリウスは思う。最もハルカの闘いぶりを見ていた若い軍人二人はその青い顔をさらに青くしているが……

 

「ははは……、なかなか面白いお嬢さんだ。いや一流の戦士に対してそんな言い方は失礼かな?さっきの戦いは見事だったよ”Ms.ハルカ”」

 

 中年の軍人は目の前の小悪魔に対し怖気づくどころか笑いながら賞賛の言葉を送った。たいした度胸だ。一方ハルカもまんざらでもないのか貴族のような笑顔を作りオホホと笑う。この殺風景な闘技場になんとも似つかわしくない優雅な空気が流れた。

 

「申し遅れた。私は合衆国海兵隊少将、ヘンリー・ティードだ。もっとも君達は軍人ではないから好きに呼んでくれてかまわんよ。ティードでも、ヘンリーでも、もちろん”おじさま”でもね?」

 

 そのいかつい顔からは想像できない茶目っ気たっぷりな自己紹介に、ユリウスはもちろん、ラング達海兵すらあっけにとられていた。ユリウスはしばらく呆然と突っ立っていたが、ハルカに肘でつつかれ、慌てて自己紹介をする。

 ユリウスの自己紹介が終わった後、ラングが「自分の命の恩人です」と付け加えてくれた。改まって言われるとなんともこそばゆい。将軍は二人に丁寧な礼を述べた後、本題の兵士の容態について聞いてきた。

 

「この城に来たばかりの頃は何とも無かったのだが、時が経つにつれ覇気が無くなり、立つ事さえおぼつかなくなった……」

 

 将軍が説明する。ひょっとしたらどこかケガをしているのではないかと、ハルカの治癒魔法を試したが効果はみられなかった。

 

 

 

「ケガじゃ無いと言う事は……城の瘴気にやられてるな。急いでホールまで戻ろう」

 

 城の瘴気とは一体何だとラングが尋ねる。ユリウスの説明によれば、普通の人間は城にいるだけで徐々に生気を奪われ、最後には死んでしまうのだそうだ。薄めた毒ガスを吸い続けている様なものだという。なら何故自分や将軍は無事なのかとラングは思った。

 

 

「おじ様は何とも無いの?」ハルカが問う。

 

「今のところ何とも無いな……なぁに、ベトナムのジャングルや中東の砂漠に比べればこの程度、高級ホテルのスウィートルームと変わらんよ」

 

 ガハハと将軍が豪快に笑う。部下達を不安がらせない為の演技という部分もあるのだろうが、さすがに猛将の名は伊達では無いと言うことか。

 

「さて、まずは君達の仲間がいる場所まで案内してくれ。ラング軍曹、そこに行くまでの間に貴様の見聞きした事を報告せよ。ユリウス君といったか、すまんが先導を頼む」

 

 将軍は的確な指示を飛ばすと兵士の一人を背負った。少なくとも五十歳は超えているだろうに体が持つのかと心配になったが、幸い例のワープゾーンが入退場口に現われ、病人を担ぐのは最低限の距離で済んだ。

 

 

 

 ダンスホールへと続く廊下を歩きながら、ラングはこれまでにあった事を簡潔に説明していた。この城のやドラキュラの事、ユリウスやハルカ達に陸軍の事、核を敵に奪われた事も話した。……ただ有角の正体に関してだけは伏せておいたが。

 

 

 ……一部始終を聞いた後、将軍はさすがにショックだったのか「ご苦労……」と一言発するのがやっとのようだった。しかしすぐに顔を上げると、

 

「帰ったらペンタゴンの連中をどやさんといかんな」

 

と、ラングを見てニヤリと笑みを浮かべた。だが顔は笑っていても眼は笑っていない。……話しぶりから察するに、上層部は将軍にすら真実を伏せていたようだ。そのせいで多くの部下を失ったのだから、内心将軍のはらわたは煮えくり返っている事だろう。上の連中への不信感が一層募る。

 

 

 ――そんな会話をしているうちに、特にトラブルに遭う事も無く、一行はダンスホールへと辿り着いた――

 

 

 

 

 ホールは変わらず慌しい。しかしやはり大勢の人間を見ると安心する。ユリウス達はすぐに二人の兵士を横にすると、教会の関係者に協力を仰いだ。

 

 結界の張られているダンスホールに入った事で、先程と比べ二人の容態は幾分改善していた。しかし教会の人間が言うにはこの城にいる限り完全に回復させる事は不可能で、安静にしているほか手立ては無いとの事だった。どうする事も出来ない歯がゆさに将軍とラングの顔が険しくなる。

 

 だがここで西洋がダメなら東洋はどうかとユリウスが提案する。確かに日本の神官ならば自分達の知らない未知の技術を持っているかもしれない。藁にもすがる思いでタダモリの下へ走る。

……しかしいつもなら柔和な笑顔で迎えてくれるその日本人は、何か思い詰めた様子で塞ぎ込んでおり、ユリウス達が帰って来た事にも気付いていないようだった。

 

 「タダモリ!少し聞きたいことがあるんだが……」

ユリウスの問いかけに忠守の体が”ビクッ!”と跳ねる。その反応に逆にこっちがビックリする。

 

「……ああ皆さんでしたか、ご無事でなによりです」と、忠守は酷く狼狽した様子で答えた。その顔には普段の朗らかさは微塵も無い。忠守の態度も少々気にはなったが、とりあえず事の顛末を話し、何か策はないかと尋ねる。だが帰ってきた答えは教会関係者と同じ、静かに休んで命を繋ぎ、城の封印を待つしか無いとの事だった。

 

「……お役にたてず申し訳ありません」忠守が恐縮しながら謝る。あまりに自分を責めるので、いやあなたのせいじゃないと代わる代わる皆で慰めた。その後ようやく落ち着きを取り戻した忠守はアルカードのメッセージを伝えてくれる。

 

「有角殿からの伝言です。皆さんはジョーンズ殿ら教会の方々が戻り、鏡の設置場所の情報が解るまでホールで休息を兼ねて待機。だそうです」

 

 降って湧いたような突然の休息指示に、ハルカは喜び勇んで教会の物売りの所へ行ってしまった。アクセサリーなどもあったからそれを見に行ったのだろう。

……さて自分はどうしたものかとラングは考える。自分はハルカ達のように物を買うお金もないので、部下達に付き添いながら将軍と今後の相談でもしようか……そんな事を考えていた時だった。

 

 

「で……その有角はどこで何をしてるんだ……?」

 

 

 唐突にユリウスが質問する。しかし忠守の受け答えはしどろもどろで、その答弁はまともな会話になっていない。

 

「あいつがやる事が無いからって俺達に休みなんかくれるタマかよ、”道がないなら自分で作れ”って言うような奴だぜ?…………本当の事を話せタダモリ」

 

 ユリウスが鋭い眼差しで忠守に詰め寄る、その圧倒的な威圧感に、これ以上誤魔化すのは無理と判断したのか忠守が真実を吐露した。

 

 

 

「…………有角殿は1人で時計塔に向かわれました……。危険だとお止めしたのですが、核を持つ敵に生身の人間であるユリウス達は危険すぎる、そう申されて……あなた方には黙っているよう言われていたのですが……」

 

 

 

 忠守の隠していた衝撃の事実に、ユリウスとラングの顔色が変わる……!

これが奴の言う策だというのか……!? アルカードの事だ、何か勝算はあるのかもしれないが、しかしそれでもたった一人でデスに挑むなんて無謀すぎる……!!

 

 

「ラング……すぐにハルカを呼んできてくれ、準備が整い次第アルカードを追う」

 

「もういるよ!!」

 

 

 見ればいつの間にいたのか、ハルカが背後に立っていた。先の戦闘で消費したポーションや退魔道具をその手に携えて……

 

 そんなハルカを見て、ユリウスが”フッ”と笑う。そして胸の前で勢い良く拳を叩いた。

 

「あの野郎……人には散々協力だの何だの言っといて、自分は独断専行かよ……必ず捕まえて一発ぶん殴ってやる……」

 

 口ではそう言っているが、その顔は仲間の危機に居ても立ってもいられないといった表情だ。ハルカもいつになく真剣な顔をしている。……ふと気付くと部下に付き添っていたはずの将軍がラングの傍に立っていた。

 

 

「話は聞かせてもらった。本来なら私が率先して行かねばならんのだろうが、ついて行った所でかえって足手まといだろうな……」

 責任感の強いティード将軍である、この緊急時に何の役にもたてない悔しさに、握った拳がふるふると震えた。……その眼が「貴様一人に任せてすまん」と言っている。

 

「ラング・ダナスティ一等軍曹よ、合衆国海兵隊少将として命ずる! 彼らに協力し、奪われた核を取り戻せ!!」

 

「は!ラング一等軍曹、必ず核を取り返します!」

 

 ラングは勢い良く答礼を返す、その後すぐに踵を返し、ユリウスとハルカに合流した。そして3人は振り返る事無くホール北東の扉を開くと、悪魔城の闇の中へ消えていった。

 

 

「有角殿を……どうか頼みます……!」

 

 友の命と世界の運命。その両方を自分よりも遥かに年少の若者達に託さざるおえず、その無事を祈る事しかできない我が身の歯がゆさに、忠守の胸にやりきれない思いが去来した。しかしそれでも尚、忠守は彼らの無事を祈らずにはいられなかった…………。

 

 

 

 

 

 

 襲い来るモンスターを蹴散らしながら、3人はひた走る!

邪悪な死神が待ち受けているであろう、そして単身アルカードが挑んでいるであろう、

悪魔城最難関の地、時計塔へ………

 

 

 

 


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