悪魔城ドラキュラ Dimension of 1999   作:41

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盟友

 

「これは……!!」

 

自分達を危うく全滅に追い込んだ強敵の姿を見て、ラングは驚愕した。

 

――女性だったのである。

 

 

もちろんそこは魔物だ。全体的に爬虫類のような雰囲気で、耳は鋭く尖り、舌は長く、肌は緑色。ズボンから覗く両足などまんま恐竜だった。しかしふくよかに膨らんだ胸と、くびれた腰、なによりその顔つきは紛れも無く女性の物であった。

 

別に男女差別をするつもりも無いが、ラングはあれほどの腕を持つスナイパーなのだから自分と同じ男であろうと勝手に想像していた。それゆえ敵が女の魔物だったという事実に驚きを隠せなかったのである。

 

 

「ここじゃ男女の力の差なんて無い、むしろ女の方が厄介だ」横にいたユリウスが言う。

 

また認識を改めなければいけないな……ラングは眼下のスナイパーを見ながら心の中で

そう呟いた。

 

 

レライエはその胸と腹をユリウスの放った跳鉱石につらぬかれ、眼を見開いたまま死んでいた。

……おそらくは即死だったのだろう、その顔は苦痛よりも驚きの色が勝っている。

ラングはその見開いていた瞼をそっと閉じ、両の腕を胸の上で組ませると、背筋をのばし、敵とはいえ見事な戦いを繰り広げたこの女スナイパーに哀悼の敬礼を捧げた……。

 

 

 ふとこの女スナイパーはどんな銃を使っていたのかと興味が湧いた。

見れば随分と古めかしい前装式のマスケット銃だ。ただ不思議な事に一切火薬の匂いもしなければ、ロック機構もついていない。

 

 スコープがついていたので何気なく覗いてみる…………瞬間、ラングは驚きのあまり思わず銃を手放した!どういう原理か解らないが、弾丸の軌道が見える……いや、”解る” のだ!

 

 

口で説明するのは難しいが、直接脳に映像が流れるというか……銃口の向きを変えると、まるで万華鏡のようにくるくると視界が変わり、弾丸が辿るであろう壁や床、今いる場所からでは絶対に見る事の出来ないはずの、離れた階層の景色まで一瞬のうちに理解できるのである。

 

 

これは凄い……! こいつが俺に使えたらな……と軽い気持ちで引き金を引く……すると……

 

 

”タァァァァンッ”

 

 

入っていないはずの弾丸が何故か発射された!突然の銃声と弾丸の乱反射に二人して思わずかがみこむ!

 

「何やってんだバカ!!殺す気か!」

 

ユリウスに本気で怒られた。すまんすまんと平身低頭、誠心誠意あやまる。しかし俺にも撃てるのかと喜びの方が勝ってしまった。

 これがあればこれから先の闘い……ユリウス達へのサポートも捗るに違いない。見たところブービートラップを仕込む暇も無かっただろうし……ラングは倒れている女悪魔に心の中で十字を切ると、この”レライエの魔銃”を有難く頂戴する事にした。

 

ユリウスは「物好きな奴だな」といった顔でこちらを見ている。そして

 

「また俺を狙うなよ?」

 

と釘をさされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ~や~じ~い~~~!」

 

気絶から覚めたハルカが本当に悔しそうな顔で地団太を踏む。幸いレライエの弾丸は彼女の腰に巻かれたベルトのバックルに命中しており、外傷はほぼ無かった。ただ当たった時の衝撃と、堅い床に打ち付けられたショックで軽い脳震盪を起こしていたようだ。

 

 

ラングのケガも大した事は無かった。しかし弾丸は防弾ベストを貫通していたので、運が悪ければ致命傷だった可能性もある。

念のため青色のポーションを二人で半分こして飲んだ。

 

 

……ただ残念ながら陸軍の兵士は手遅れだった。相当な出血だったのであと少しくらい早く着いていたとしても結果は変わらなかっただろう………だがそれでも皆に重たい空気がのしかかる。

 

 

このままにして置く事もできないので、ドッグタグと髪、ポケットに入っていた家族写真と思われる物だけを取り出し、火葬した。この城では死体を放っておくとゾンビになるらしい。

 

 

 

……思いのほか手間取ったが依頼のうち一つはやり遂げた。残るは鏡のポイント探しだ。三人は気持ちを切り替え、新たに歩みを再開した。ポイントは地下にあるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

礼拝堂に入ってすぐの頃は、床は綺麗な模様の描かれた大理石。柱は細かい彫刻が彫られた手の込んだ物であったが、下に行くにつれ内装は徐々に無骨になり、気付けばこの城の他の場所とあまり変わらない陰気な石造りの床と壁が広がっていた。明かりといえば壁にかけられた蝋燭の頼りない炎だけ………三人は特に会話もせずに、終始無言で進んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スミスとマリアって誰だ?」

 

長い沈黙に耐えかねたのか、やる事が無くて暇だったのかは解らないが、突然ユリウスがそう話しかけてきた。

 

いきなりの質問、そしてその内容にラングは驚く。何故お前がその名を知っているのかと聞き返す。

 

「いや、ベヒモスから助けたとき、うわ言みたいに呟いてたから気になって………家族か?」

 

気絶していた時か……別段隠す事でもないが、何だか大事にしまっておいた秘密の宝箱を自分の知らないうちに覗かれてしまったような気分になる。

 

「スミスは……海兵隊の同僚……だった。マリアはその妹だ」

 

その言葉を聞いてユリウスはまた「しまった!」といった顔をする。……過去形だからだ。

そんなバツの悪そうなユリウスに対しラングは優しく話しかける。

 

「いや……気にするな。そりゃうなされながらブツブツ何か言ってれば気にもなるだろう……」

 

「スミスは……一番の親友だった…俺と違って明るくて、話も上手くて…隊の人気者だったよ……新兵訓練の時から一緒でな……俺は要領が悪いから……訓練で皆の足を引っ張ってばかりで、仲間達から煙たがられてたんだ……でもアイツは……アイツだけはかばってくれて………もしスミスがいなかったら……俺はどうなっていたか解らない………」

 

そう思い出を語るラングの顔はとても穏やかだった。ふとユリウスは数年前、懐かしそうに昔の話をしてくれた師ジョナサンの顔を思い出していた。

 

「そんなアイツを……俺は……」

 

ラングのトーンが一気に落ちる。慌ててユリウスが話しかける。

 

「す…スミスさんの事は解ったけど、なんでその妹まで出て来るんだ?幼馴染……あ、ひょっとして付き合ってるとかか?」

 

 

 

……少し躊躇ってから、答える。

 

 

「……いや、妻だ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結婚してたのか!?」

「結婚してたの!?」

 

 

今度は前後の二人が驚く番だった。

 

 

 

「……これでも30近いんだ……しててもおかしくないだろう……」

あまりにも意外そうな反応を二人がするのでちょっとムッとして答える。

 

「いや……正直頼りないっていうか……そんな感じ微塵も無かったというか………

 はぁ―――っ、人は見かけによらないなぁ。なあハルカ?」

 

ユリウスが身を乗り出して前を行くハルカに話しをふる……しかし、

 

 

 

「………いいんじゃない?別に…………」

 

と、振り向きもせずそう呟くだけだった。

…………心なしか歩くスピードが早くなっている気がする。

 

 

「お前こそどうなんだ」

からかわれたお返しにユリウスにも尋ねる。

 

 

「………ノーコメントだ……さ、もう着くぞ、油断するなよ」

 

………あからさまに逃げられる。

 

 

 

 

偶然か必然か……ユリウスの言った通りあの後本当にすぐ目的地に辿り着いてしまった。簡素な木製の扉が目の前にそびえている。他には道も扉も無い。どうやらここが終着点のようだ。

 

ふと腰のサイドバッグが中から発光しているのに気付く。中に入っているのは………

………鏡だ!鏡が光っている!!鏡が教えてくれるとはこういう事だったのか……自分達は遂に目的地に到達したのである。なんだか感慨深い。

 

………だがそれと同時に、この扉の先には一体何が待ち受けているのかと、ラングは銃を握る手に自然と力が入った。

 

 

 

簡素な扉を慎重に開ける……眼に入ってきたのはこれまた簡素なこじんまりとした礼拝堂だった。五人がけくらいの木製の長いすが中央を通る絨毯の両側に片側10ずつ……計20ヶ規則正しく並んでおり、その先にはこれまた簡素な祭壇と説教台が鎮座している。

 

別段危険な感じはしない……あるとすればやや薄暗く、長椅子が少々邪魔な事ぐらいか……ラングはホッと胸を撫で下ろす。

 

しかしユリウスとハルカは入ってすぐこの部屋の違和感に気付き、お互いに目配せをした。かすかに……本当にかすかにではあるが血の匂いがするのだ……。

 

 

ほどなく説教台の裏から何かがのっそりと現れた……「誰だッ!!!」全員が瞬時に身構える!

 

 

 

 

 

薄暗い部屋の中………ろうそくに照らされながら現われたその姿は……………

見覚えのある…………懐かしい顔……………

 

 

 

 

 

「スミス……!スミスお前生きてたのか……っ!!」

 

 

ラングの顔が……驚きと狂喜に満ち溢れていた。

 

 

 

 


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