城の中の吸血姫   作:ノスタルジー

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七話目です。
本当はもっと長かったんですけど。分けて投稿することにしました。


また嘘つきました。
すみません。



過去と彼

 『自殺だよ。先々代と同じだ。安心するといい。私たち始祖を殺せるような存在なんてまずいないから。ただ、始祖は決して無敵ではないよ。始祖は力が強くて、治癒力が高くて、体が丈夫で、魔力が多いというだけのちっぽけな存在なんだから。これが1000年を生きた始祖の自己評価なんだと思うと面白いね。先々代がどう思っていたか、そしてこれから君がどう思うかはわからないけど。まぁ確かに始祖は強いよ。そもそもの身体スペックだけでもそこいらの魔法使いを圧倒出来る。魔力を使えばドラゴンだって拳で倒せるし、本気で戦えば一人で国だって落とせる。

 話が脱線してしまった。まぁ始祖に関しては本で調べてみてくれ。私の知るすべてを記してある。それで、私についての話だったね。自伝と言ったかな、さっきは。あれは格好つけただけで、正確には私の恥ずかしい黒歴史といったところだけど。ともかく聴いてくれ。先輩が自分語りをしようというんだ。後輩は黙って聞くものだろう。

 

 君もそうだったとは思うけど、目が覚めたら玉座にいてね。そこはどう見ても城だった。けど「私」が城にいるはずなんてない。「私」は普通の日本人のおじさんだよ。城にいて、ましてや玉座に座ってるなんてありえない。もし城にいるとしたら、ヨーロッパに来た日本人観光客としてしかない。普通驚いてパニックになるよね。誰かいませんか、Help meなんて言いながら、城を走りまわったんだ。身体スペックが高すぎて、コントロールが効かず壁にぶつかりまくっていたけど。笑うところだよ、ここは。で、そのまま城中を何周もして目に入る扉という扉をすべて開けてまわったんだ。人を探していたんだけど、誰もいなかった。何周もしているうちにだんだん落ち着いてきてね。それで気づいたんだけど、金髪なんだよね、私。前髪とか見えちゃってさ。もちろん「私」は金髪ではないよ。さっきも言ったけど、日本人の普通のおじさんなんだから、「私」は。黒髪だ。

 またパニックになって、次は鏡を探したんだ。一階の東側奥に風呂場があってね。そこの脱衣所で鏡を見つけた。鏡を見たら金髪のすっごいイケメンの外人が映っていたんだ。誰だこれって感じだった。けど、さすがに気づくよね。これが「私」だって。で、また走った。そしたらこの部屋と手紙を見つけたんだ。手紙があったらもちろん読むよね。君もこうやって読んでいるし。私が見つけた手紙にはこう書いてあった。「お前は吸血鬼だ。私と同じ始祖。私はこれから死ぬ。もはやこの世界は私にとって退屈だ。しかしお前にとっては違うだろう。生きてみろ、この世界で。なに、嫌だったら死ねばいいだけだろう。そうは思わんか。後輩よ」。1000年経った今でも覚えているけど、苛烈だよね、彼女。それで読み終わったら手紙が燃えるっていうサプライズ付き。絶対いらないよね。

 手紙のインパクトが強かったからか、なぜか落ち着いてね。そのあとは城をゆっくり探索した。そしたら大きな書庫があったからそこに入って、手当たり次第に本を読み漁った。それで魔法のこととか色々知ることができたんだ。さて、ここで一つクイズだ。情報を得た私が次に行ったことはなんでしょうか。

 答えは「外に出て、野生動物たちと戦闘」でした。何がしたかったのかといえば、身体スペックの確認だ。見たことのない動物がいっぱいで怖かったけど、今思えば向こうも怖がっていたようなんだよね。けど吸血鬼が突然襲い掛かってくるんだから当然かな。戦って、本を読んで、戦って、本を読んでっていう生活を3年くらい続けたんだ。何故魔法を学ばなかったかと言えば、彼女の影響さ。彼女は強力な魔法を使えるくせに、インファイターだったそうでね。書庫には彼女についての本もあって、そこに書いてあった。で、彼女に感化されて、私もって感じかな。

 とはいっても、もちろん魔法の勉強も始めたよ。あんまりうまくいかなかったけどね。後でわかったんだけど、私たち始祖のような強大すぎる魔力をもっていると下級魔法が使いづらいようなんだ。でも最初は普通簡単なのから練習するじゃない。だから上達は遅かった。

 戦闘と読書に魔法の勉強をルーチンとして加えて5年くらい経った頃に、ふと思ったんだ。強くなって、魔法を使えるようになって、どうするんだって。まずいと思った。この疑問は私を殺すって。だから私は生き甲斐を見つけるために旅に出ることにした。

 旅は楽しかったよ。見たことのないものがたくさんで。目に映るすべてが輝いて見えた。600年くらいは旅をしていた。人との交流もあった。私が吸血鬼だっていうのは隠していたけど、仲良くなった人には打ち明けるようにしていたんだ。前世については誰にも言わなかったけどね。私が吸血鬼だと知った時の反応は様々だった。逃げる人もいれば、気にしないと笑う人もいた。変わったところでは、自分も吸血鬼にしてくれなんて言う人もいたよ。してあげたけど。

 けれど、徐々にその輝きもくすんでいった。考えてもみてほしい。モノクロテレビが生まれた時の感動だけで、モノクロがカラーになった時の感動だけで、いったい何年生きていられるか。生きるのがどんどん楽しくなくなってきていた。だから何か新しいことを始めようとした。それでいったん城に帰って、今まで知ったことを本にしようと思ったんだ。本は好きだったしね。

 で、城に戻ってみたら知らない人たちが住んでいた。驚いたよ。けど、考えたら当然だった。そりゃそうだよね。だって城を出た頃の私は魔法がほとんど使えなかったから結界は張ってなかったし、この城には鍵なんてなかったんだから。つまり私は戸締りをしないまま600年家を放置していた。馬鹿だよね。

 住んでいたのは亜人の集団だった。話を聞くところによれば、彼らは故郷を他の種族、主に人間だけど、に追い出されたものたちの集まりとのことだった。100年ほど前にここに着いた彼らは城を見つけ、藁にもすがる思いで尋ねた。けど誰もいなかったし、行くところもなかったからということだったそうなんだ。私としては別段何も思わなかった。だから彼らにこういった。「ここは私の家だ。だから君たちを客人として招こう。だが私は吸血鬼なんだ。君たちは、吸血鬼とともに暮らせるかい」って。自分でもこれはどうかと思ったけど、彼らはそれでもこのまま住まわせてくれと言ってきた。私が吸血鬼ということに恐れを抱いていたのは見て分かった。けれど、ここを離れれば本当に行くところがなかったから仕方なくといった雰囲気だったな。

 そうして私と亜人達の共同生活が始まった。』

 

 二枚目。

 三枚目を見る。赤が見えた気がした。




次で。

あと感想、評価をまたいただきました。
ありがとうございます。

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