城の中の吸血姫   作:ノスタルジー

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二十三話目。

最近の話は最初の雰囲気が完全に失われているような気がしています。
これはいかん、ということで。
寄せていきましょう。

5/5 追加部分あり


謎の吸血鬼

 「ほう」

 エヴァンジェリンが感嘆の溜息を漏らす。ふむ。確かに私たちインテリにとってはすばらしい光景だ。本、本、本。本の山。本とそれを収める本棚が大量に置いてある。城の書庫も壮観だったが。ここはそれ以上だ。

 だが。これからあの変態に会いに行くと思えば気がめいる。それを始祖への知識欲で払拭し、本と本棚のアーチを進んだ。

 

 「ようこそ。アイリス、エヴァンジェリン、アリス」

 気持ちの悪い笑みを浮かべて現れた変態。大理石のような白い石で造られたバルコニーのような場所。あたりには本と滝。何故滝がこんなところにあるのか。滝というのは自然界か金持ちの道楽でしか存在しないはずだが。まぁいい。

 「始祖についての情報をよこせ。」

 さっさと手に入れて撤退する。

 「そのためには条件があります」

 「何。」

 話が違う。依頼は完遂した。にもかかわらず情報を渡さんとは。温厚な私でも我慢の限界だ。こいつは殺そう。と思ったが、こいつには重要な役目があったのを思い出す。ラスボスの封印と情報源。なら。仕方ない。半殺しだな。

 「これを着てください」

 

 

 「えっと…始祖についての情報でしたね」

 変態を三人でボコると、大人しくなった。最初からその態度で来い。

 「始祖と創造主は何かしらの関係がある可能性が高いです」

 細い目を開き、しっかりとした口調で言い切る変態。ふむ。関係、か。

 「根拠は。」

 何故その結論が出たのか。

 「創造主が吸血鬼であったからというのが一つ目の理由でしょうか」

 創造主が吸血鬼だと。創造主は魔法世界を創ったとされる人物らしいと聞いている。もし本当なら奴は数千年を生きていることになる。

 「種類は。」

 始祖か真祖か眷属か。始祖以外なら創造主を吸血鬼にした第三者の存在も浮かび上がる。

 「不明です」

 「何。」

 「不明です」

 不明。この変態。散々もったいをつけて、わかりませんだと。

 「創造主は精神を他者に憑依させ、数千年を生きてきたようです。ですので、吸血鬼としての力はほとんど失われています。三つのうちのどれかを判断することは不可能でした」

 「待て。なら。そもそも何故創造主が吸血鬼だと。」

 わかるのか。昔こいつが言っていたことを思い出す。始祖は他の吸血鬼からわかる。創造主が吸血鬼とわかるなら始祖ではないのか。まさか。初代か。

 「それはありません」

 心の声を読むな。

 「おそらく吸血鬼なら創造主に会った瞬間にわかるでしょう。奴が吸血鬼だと。強力な力を持っていながら隠す気もなかったようですし。それに…歪なのです」

 歪。

 「乗っ取った体は吸血鬼ではない。しかし…何と言うべきか…臭うのです。魂が、とでも言うのが適切なのでしょうか…」

 魂が吸血鬼か。創造主が精神体であるのだから意味不明な話でもない。しかし。アルビレオは自分の答えに自信はあっても、論理的な説明がつかないようだ。本能、か。

 

 「しかし、創造主とやらが吸血鬼であったとしても、それが始祖との関係を表すというのはどういうことだ?」

 黙って話を聞いていたエヴァンジェリンが口を開いた。確かに、こいつの言うことはもっともだ。始祖を創ったという話と創造主の種族は関係がないように思えるが。

 「それは二つ目の理由に関係します」

 「二つ目?」

 「ええ…我々紅き翼が“完全なる世界”の本拠地に攻め込んだとき、見てしまったのです…」

 何を。心臓が早鐘を打つ。神妙なアルビレオの様子を見て、それがただ事ではなかったことはわかる。

 「とある真祖の遺体を」

 

 

 

 

 

 「真祖の遺体…だと?」

 「はい…そこは研究室のような場所でした。棺のような箱の中に少女の遺体が入っていたのです。気になった私は魔法で少女を探査しました。すると少女が真祖であることが判明したのです」

 「…創造主が真祖を殺し、研究していたと?」

 「おそらくは…」

 真祖の死体。少女。そう聞いて私が出した少女の正体についての答えは。

 「イリアか。」

 「知っているのですか?」

 「誰なんだそいつは!?」

 「先代の。」

 何だ。

 「恋人、か。」

 「カイロスの…しかし、待ってください。カイロスは真祖化の魔法を使えたのですか?それに、もし使えたとしてもあの魔法はどう考えても恋人に使うようなものではありません」

 「真祖化の魔法は先代は使えなかったと聞いている。」

私はそもそも研究していない。よって、どれくらい難しいのかは知らん。

 「なら真祖化の魔法をかけたのは誰なんだ?」

 ふむ。

「可能性があるのは創造主だろう。」

 自分で創って自分で殺したことになるが。

 「第三者の可能性がないわけではありません」

 「確かにな。」

 情報が少ない。先代の話では、イリアは急に真祖となって現れたらしい。誰が真祖にしたのかは不明。精神には強力なプロテクトがかかっていた。これくらいか。

 「研究資料のようなものはなかったのか。」

 研究室なら山のようにあるはずだが。

 「それが…調べようと思った矢先に襲撃を受け、戦闘が始まってしまいまして…そのせいで資料は全て失われましたが…ある資料のタイトルだけは見ることができました」

 「どんなタイトルだったんだ?」

 一拍置いて。アルビレオは質問に答えた。

「…人工始祖の創造、です」

 

 

 

 

 

 「人工始祖か。」

 人工の反対は天然。

 「つまり、創造主は始祖を創りだそうとしていたと。」

 「おそらくは」

 真祖を使って人工的に始祖を生み出そうとしたわけか。改造か研究材料かはわからんがイリアの体を利用しようとしていたのだろう。

 「…ふん。気分が悪い。私は外に出る。話が終わったら連絡しろ」

 そう言ってエヴァンジェリンは部屋を出て行った。

 「アリス。お前もついて行け。」

 「分かった」

 続いてアリスも部屋を出た。

 「ふふふ…」

 何だ。気持ちの悪い。

 「優しいのですね?妹は可愛いですか?」

 「何をふざけたことを。さっさと話しを続けるぞ」

 「ふふふ…そうしましょうか」

 

 

 「で。人工始祖は成功していなかったのか。」

 「おそらく成功例はないでしょうね。あったとすれば我々、他の吸血鬼がわかるでしょうし…もし完成していたとしても、わからない程度の力しかなければそれは失敗作でしょう」

 「イリアの遺体はどこに。」

 「それも研究資料と共にどこかへ…」

 「そうか。」

 大切な情報源だったのだが。

「私が新たに得た情報はこれくらいでしょうか…」

 始祖について知りたければ、創造主に関して調べれば何かわかるかもしれない。気は進まんが。

 「そういえば。お前は創造主を封印しているのだったな」

 そのせいで麻帆良から出られないとか。

「ええ。最後の戦いでナギに憑依した創造主をナギごと世界樹の下に封じ込めています」

 「えらく簡単に言うのだな。」

 そう言うとアルビレオは立ち上がり、こちらに背を向けて、言い放った。

 「簡単ではないですよ。気を抜けば、友を生贄にした自分自身を殺したくなります」

 その背中を見送り、私は黙って、部屋を後にした。

 

 

 図書館を歩く。膨大な数の本に囲まれ。エヴァンジェリンらは、外か。わかる。

あいつはイリアをどう思ったのだろうか。気分が悪い、などと言っていたが。真祖になりたがったイリアを頭のおかしい奴だと思うのか。愛の力だな、など言って称えるのか。いや。それは想像もつかんな。

 まぁいい。これからどうするか。考える。600年生きてきたが。正直。これ以上やることがない。あるにはあるがどうもできん。と言うべきか。始祖について知りたいが。手がかりがない。自分の体を弄ろうとは思わない。絶対。アルビレオからの情報は得たが、結局は何もわからない。

 「先代か初代がいれば何か違ったのか。」

 偉大なる先達。偉大だろう、多分。あの言葉を思い出す。嫌なら死ねばいいだけ、か。

外に続く扉を開けた。太陽の光が体に降り注ぐ。目の前には妹たち。

 そういえば、この世界が嫌だと思ったことはなかった。

 「終わったか?」

 「ああ。」

 「これからどうするんだ?」

 「ふむ。では帰るか。」

 「京都?」

 「いや。家にだ。」

 




アリスという名前が好きです。
何故か。

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