城の中の吸血姫   作:ノスタルジー

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閑話です。前の投稿からずいぶん時間が経ってしまいました。

閑話は次で終わりです。

今日の夜にはもう一つ投稿できるか。
わかりません。本編かも。閑話かも。

章区切りがすごく適当になってます。
今度直しとかないと。


閑話 二 剣と青年

 青年が目を覚ますと少女はいまだ眠っていた。日が傾いていた。青年は迷った。少女を起こすべきか。だが、少女があまりにも気持ちよさそうに眠っていたためその決断が出来なかった。青年の目には金の髪と白の羽が映った。青年はそのまま待つことにした。

 

 少しすると少女が目を覚ました。気を抜くとまた寝てしまいそうな様子だった。青い目を擦り、可愛らしく小さなあくびをして、少女は青年の顔を見た。

 「よく眠れましたか?」

 自分でも驚くような優しい声。少女はそんな声を聴き、小さく頷いた。その後。のそのそと立ち上がる。青年もそれを見て、立ちあがった。少女はまた青年の着物の袖をつまんで、歩き出した。青年もそれに続いた。

 

 その日から。少女は青年を昼寝の共によく連れ出すようになった。青年が朝稽古を終え、昼食を食べた後、部屋に戻る途中。少女はよく現れた。そして袖をつまみ、青年を森へと引っ張っていった。青年はこの無口な少女が何故自分をこんなに気に入ったのかが分からなかった。少女の世話役の巫女達もその行動に驚いていた。森に着くと少女は青年を座らせ、その上に乗って眠ったり、腕枕をさせて眠ったりと青年を具合のいい寝具だと思っているかのような扱いをした。

 しかし、青年は不満を言うことなく、少女に付き従った。少女の年齢が青年のはるか上でも、それを感じさせない少女の行動に青年は妹か娘が出来たような気がしていた。

 

 ある日。青年はいつものように少女に連れられ、森へ向かった。そして何事もなく森に着いた。だがいつもなら森に着いた時点で少女は昼寝の準備を始めるはずなのに、その日に関しては少女はそうしなかった。青年は不思議に思い、少女に声をかけた。

 「どうかされましたか?」

 青年が聞いても少女は答えない。それもいつものことだった。青年は自身で答えを出そうとして、少女を見る。そうすると。少女の目が青年の腰に佩かれた剣に向いていることに気付いた。青年は少女が剣を使うという話は聞いたことがなかった。それに青年は剣をいつも持ち歩いていた。今日に限ったことではなかった。それなのに少女が急に剣に興味を持ったことが不思議だった。しかし。この少女のことだから自分が剣を持っていることにたった今気づいたということもあり得るな。と青年は心の中で笑いながら、少女に佩いていた愛刀を差し出した。

 

 「これですか?」

 差し出された剣を見ても。少女は何も言わない。青年は何か違ったのだろうかという疑問を持った。その答えを青年が黙って探していると少女は袖から手を放し、歩き出した。青年はその行動が、ここで待っていろという意味だと理解した。青年の歩幅なら数歩。少女は自身の数十歩分の距離を取って、青年のほうに振り返った。少女は青年の顔を青い目で見つめた。

 

 「えっと…」

 困惑。青年の心にはそれしかなかった。この数日間で少女の行動はだいたい把握できるようになったと自負していたが。現在の状況を理解できなかった。青年がそんな様子を見せても少女は青年の顔を見つめたまま、立っているだけ。

 少女は何かを待っている。と気づいた青年は考えた。間違いなくそのヒントは刀と距離。少女が受け取らず、青年の手に残ったままの刀。そして少女が自ら作った短い距離を見て、青年は理解した。

鞘から刀を抜く。その独特の音と風の音だけが辺りにはあった。その金属の煌めきを見ても、少女は相変わらず。青年は刀を持ち、棒立ちのまま動かない少女に斬りかかった。

 だが青年の刀は、少女の目の前で不自然に止まった。刀と少女とを隔てるものは少女の展開する魔法障壁。その堅牢さは自身のどんな業をもってしても破ることは出来ないと青年は理解した。しかし。青年は剣を再び振るった。

 

 結局。青年は少女を動かすことさえできず。体力の限界がきた。すると少女は青年に近づき、袖を引っ張る。青年は苦笑いをして、いつもの通りついて行く。いつもの場所で青年と少女は眠った。

青年の目には、少女の白い布団が見えた。

 

 次の日。朝稽古に向かい、少女の姉にしごかれ、息も絶え絶えに自室へと帰り、体を休める。その後、昼食をとるため食堂に向かう。そして部屋に戻る途中で少女に捕まり、森へ随伴する。青年はこの日もこのルーチンを行った。

 森に着くと、少女は青年から離れて青年の顔を見つめる。青年は黙って剣を手に取る。新たな仕事を青年は得たようだった。そして。その日も青年の剣は何も斬れなかった。白に包まれて、青年は眠った。

 

 数日後。青年が朝稽古に向かう道の途中。木の上に鳥の巣を見つけた。母鳥が雛鳥に餌をやっているのを青年は見た。何故か、自分と少女のようだ。と青年は思った。そして鳥たちと同じように、自分たちの関係も今だけのものであるのだろうか。と考えると青年の心にはうっすらと寂しさが現れた。だがそれは仕方のないことだ。と青年は理解していた。

 青年は、速足で道場へと歩を進めた。

 

 その日。夜。少女に出撃命令があった。敵対組織の残党の処理。青年はそれを聞きつけ、自分も出たいと父に直談判した。少女と共に出る前線部隊への志願。前線部隊。青年の力量では務まらないことは青年も分かっていた。

 しかし、青年はいつしかあの儚げな少女が戦地で戦うことを嫌っていた。情が移ったという単純な理由。少女が京で五本の指に入る強者と知っていても、自身では傷一つもつけることができない魔法使いと分かっていても、青年の心はそう思った。

 「前線に行くことは許可出来ん」

 当然の答えだった。青年は父の口からその答えが出ることなど知っていた。

 「しかし、補助部隊になら加えることは出来る」

 「え?」

 補助部隊は基本的に結界を張ったり、負傷者を治癒したりするのが仕事。青年は陰陽術が使えないため補助部隊に入ったとしても何も出来ない。もちろん。そんなことは父も承知だった。何も出来ない青年を部隊に加える。どういう意図があるのか青年のは分からなかったが。

 「あ、ありがとうございます!!」

 自身の希望が少しだけ叶ったことに喜んだ。

 

 その夜。京の街。少女が出るということは少女の姉も出るということだった。補助部隊が結界を張り、その中で前線部隊は戦闘を行う。結界内の人間は避難させる。後は結界を維持し、もし負傷者が出れば治療といういつもの手筈。青年は結界外の家屋の屋根に上り、結界内の様子を見た。

少女が白い羽で舞う。炎を散らし、敵を焦がす。月の光に照らされて輝く白と赤。それは青年の目にこれ以上なく美しく映った。それが人を殺すという暗さを孕むものであるとうことは青年には関係のない話だった。

 青年が憧れる場所に、少女は立っていた。

 青年は憧れを捨てることが出来なかった。

 

 次の日から。青年は稽古により力を入れるようになった。朝の稽古。森の中の稽古。それだけでは足りないと自覚している青年は、考えた。力をつけたい。それは叶わない。では。自身が弱いなら強い者を部下にしたり、強力な武具を持つのはどうか。それだって立派な力だ。本意とは少し違うが、仕方ないと、目を瞑った。

 

 京の人間が「部下」という言葉を聞けば、人と式神、どちらの意味にも聞こえるだろう。「部下」を欲した青年もそうだった。しかし。青年に強力な式神は使役出来ない。なら人しかないが、人徳も伝手もない。最弱の「青山」につく奇特な者などいない。だから青年は武具を探すことにした。そこで青年は知識を得ようと書庫に向かった。

 青年が書庫を捜索すると、一冊の本を見つけた。「意思を持つ武具―インテリジェンスウェポン―」というタイトルの本。西洋語が書いてあるということは顧問たちのうちの誰かが持ってきたものであろうと青年は推察し、興味を持ち、本を開いた。

それによると。インテリジェンスウェポンというのは魔力と付随された仮想人格によって強化された武器ということだった。仮想人格は霊や悪魔、自作など様々な方法があり、インテリジェンスウェポン自体は比較的簡単に作れるというので、青年はこれを採用しようかと考え始めた。しかし。青年が作ったとしても強力なものなど出来るはずもない。誰かに依頼するのが良いのは明らかだった。

 

 そして次の日。青年はある人物を訪ねた。

 「インテリジェンスウェポンだと。」

 「はい」

 青年の判断は決して間違いではなかった。京の人間なら青年でなくとも同じ人物を訪ねることは間違いなかった。

 「ふむ。断る。面倒だ。」

 一蹴。青年の願いは三秒で拒否された。だが、実は青年はこの人物に全く期待をしていなかった。この少女を自分の思い通りに動かすことなど自分には出来ないと青年は思っていたからだ。予想通りの返答を聞き、本命の人物のところに行こうと青年が席を立とうとした時。

 「作るのは面倒だ。だからくれてやる。」

 予想外の言葉を聞いた。

 「は?」

 「二度言わせるな。面倒だ。」

 「も、申し訳ありません」

 「武器庫に私が前に作ったものがある。最奥の部屋だ。封印がかかっている。エヴァンジェリンかアリスを連れていけ。」

 青年はトントン拍子に進む話に戸惑ったが、口を挟み、少女のマイペースを崩して機嫌を損ねるのは拙いと判断。

 「はい。ありがとうございます」

 とりあえず。肯定と礼を口にした。

 「期待はするな。不良品だ。」

 「不良品ですか?」

 「アリスのために作ったものだ。使用者の性格に応じて仮想人格を構築する術式を組んだのだが。どうにもうまくいかなかった。」

 意外。青年はこの少女が魔法に関してうまくいかなかったという話を聞いたのは初めてだった。そしてその話を聞き、青年は疑問を持った。

 「なぜそのままに?」

 改良を重ねればいいのでは。自分と違ってこの少女にはずば抜けた才能がある。

 「その必要がなくなったからだ。」

 「必要ですか?」

 アリスのため作られた武器。

 「アリスには剣の才能が全くなかった。お前以下だ。」

 至極単純な理由だった。

 

 武器庫。青年は青い目の少女について来てもらっていた。その最奥。扉には魔法による封印がかけられている。青年はそこに何があるか噂でしか聞いたことがなかった。魔力を帯びた名刀、呪われた妖刀、禁術のみが書かれた書など伝説級のものばかりがあるという噂。三姉妹による封印がかかっているため、彼女たち以外誰にも開けることが出来ないし、彼女たちも入らないので「開かずの扉」などとありきたりな名で呼ばれていた扉。その扉を開け、二人は先に進んだ。

 




書庫は城の書庫とは無関係です。

本編の文体より閑話の文体のほうが長く書けるようです。

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