型月に苦労人ぶち込んでみた   作:ノボットMK-42

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更新遅れて申し訳ありません。就活が忙しくて書く時間が取れませんでした。
しかも中々書きたいように文が書けないことが悲しい……
更にもう一方の作品で出て来るキャラを書く時の癖が出てしまっているのか魔術師を書いたら必然的に嫌な奴になってしまうという。

追記:タイトルに『前篇』を書き足しました


第4話 魔術師のはなし 1

 私が彼を初めて注視したのは選定の儀が行われた日の事。

 先王ウーサーと計画した理想の王がブリテンに誕生する瞬間が迫っている。漸くこの企ても一つの実を結ぶこととなる。

 王となる少女の方は概ね問題無い。未だに教えなければならない事は多く、例え王として名乗りを上げたとしても、各地を回り見識を深め諸侯を纏めに行く必要がある。当然自らの脚でだ。

 とはいえ彼女ならば問題無いだろう。ウーサーの忠臣であり計画の一翼を担ったエクターの下で健やかに育った。生来の使命感と当人の能力を以てすれば多少の困難ではどうにかなるものではない。

 エクターの計らいで彼女は何かと理由をつけて選定の儀式を行う広間にやって来ることになっている。彼女が来るまでは健気にも選定の剣を抜かんとした騎士達を見物する時間が続いた。

 皆、必死にこの時代を生きている人間達だ。地位や名誉欲しさに選定に挑む者もいれば純粋に国を想う者もいる。その中に彼の姿はあった。

 

 周りの騎士達よりも一回り大きな体躯もそうだが、初見で特に強い印象を覚えるのは人並み外れた人相の悪さだろう。

 整っていると言えばそうなのかもしれないが、美しさと言うには些か無骨な印象を受ける相貌だ。

 常に眉間に皺を寄せ、鋭い目つきに加えて見る者に寒気すら覚え支える三白眼は率直に言ってかなり柄が悪い。少なくとも初対面の人間が彼を見て心穏やかな人間とは思えないだろう。

 そんな彼の事を何処かで見た覚えがあった。はて、何処で見た顔だったか。

 記憶の中から該当する人物を探すまでもなく彼が何者なのかはすぐに分かった。

 他の騎士達同様、選定の剣の前に踏み出した彼の姿を見た群衆の中に、歓声とは別の声が幾つか聞こえたのだ。

 彼等が口々に囁いた名は“ケイ”。私が次代の王を託したエクターの実子にして王の義兄に当たる男である。

 とりわけ注視すべき存在ではなかっただけに忘却の彼方へ追いやられようとしていた彼は遠目に見た時とは見違えるほどに大きく逞しく成長していた。

 素人目に見れば威圧感を、目聡い者が見れば強靭な意志を感じさせる男は、佇まいだけでなく選定に挑む気概さえも他の騎士とは一線を違えていた。

 今まで挑んだ騎士達は皆一様に『我に応えよ』『我を次代の王に』と、念じて聖剣に手をかけた。聖剣は、そんな彼等の意思を嘲笑うかの如く微動だにしなかった。

 結果だけ見れば彼とて他の騎士達と同じことだった。しかし彼が聖剣を掴んだ時、今までにはない驚愕の声が周囲に木霊した。

 彼の無骨な手が聖剣の柄を握り、強靭な腕が凄まじい力を発揮した次の瞬間、剣が突然黄金の光を放ったのだ。

 その神々しい輝きに誰もが見惚れ、もしやという期待で浮き足立つ。しかしして光はすぐに消え去ってしまい、結局聖剣は抜けなかった。

 一時の期待が生じただけに落胆も大きくなる。群衆は肩を落として嘆いた。

 その中心にいる彼もまた、悔しげに俯き歯と歯を噛み締めている。

 私はその時、彼のことを興味深く眺めていた。彼は確かに他の騎士達と同じような結果を残すのみであったが、決定的に違うものを私に見せた。

 誰も彼も己が次の王に選ばれることを願って選定に臨んだのに対し、彼だけがそれを望まなかったのだ。

 

 

『忌々しい鈍らめ。お前なんぞ折れてしまえ』

 

 

 聖剣に自身を選ぶよう呼びかける騎士達の中で、彼だけが怒りと嫌悪感を込めて選定そのものを頓挫させようとした。

 剣を引き抜くのではなく、岩に突き立てられたまま圧し折ろうとしていたのである。そんなことをすれば周囲の人間から自身がどのような目に会わされるのか分かっていただろうに。

 聖剣が光を放ったのは決して彼に王の資質があったからではない。彼の手から伝わってきた強烈な感情の奔流と害意に反応したのである。聖剣が“戸惑った”と言えなくもない。

 その光景を見た私は、彼が自身の義妹が背負った運命と私達が仕掛けた企てを知り、その上で未然に防ごうとしていることを理解した。

 きっと義妹の事を深く愛しているのだろう。自分が愛する人間が過酷な運命を歩むのを赦せないと言った所か。どうやら王はエクターの下で予期せぬ出会いをしていたようだ。

 

 しかし彼の義妹が背負った宿命は最早彼の力でどうにか出来るものではない。

 人一倍強い意志を持ち合わせていたのだとしても、彼は何処まで言っても無力な人間でしかない。どれほど聡明な人物であろうとも、寧ろ聡明であるが故に自分に変えられることなど何も無い事は分かり切っていた筈。

 それでも止まれない、諦められないのが人間というものか。彼はとうとう選定の場に現れた妹を必死に引き留めようとした。しかし彼女が彼の願いを汲み取ることはついになかった。

 当然のことではある。彼女もまた人並み外れた意志の持ち主である上に、彼女は誰よりも強い意志を持った義兄の背中を見ながら育ったのだ。そんな彼女の決定を覆すことなど出来るわけがなかったのである。

 

 彼女は聖剣を引き抜き、光り輝くそれを掲げた。

 一度その場を離れた人々が、背後から差した光に思わず振り返り、あまりの眩しさに目を細める。そして歓喜の声と共に広間へと駆け戻り始めた。

 遂に王は現れた予言は真実だったのだ。これで我等は救われる。

 誰もが待ち望んだ救い人の到来に歓喜し、その雄姿を一目見ようと元来た道を駆け足で引き返してくる。

 そんな彼等が目にしたのは、妹の手から聖剣を奪い取り、群衆に『聖剣を抜いたのは自分である』と高らかに告げる彼の姿。

 それは誰の目から見ても明らかな、苦し過ぎる嘘だった。

 聖剣は彼の手に渡った瞬間光を失い、彼の言葉が偽りであることを人々に知らしめた。

 誰もが彼を口々に罵り嘲笑う。後に、弟から栄光を奪い取ろうとした愚かな男として歴史に刻まれることとなる彼の愚行はあまりにも簡単に無意味なものとなった。

そんな彼の行為の裏に潜む真意など、人々は知る由もない。確かに彼は諦めてなどいなかった。妹が王になる未来を最後まで防ごうとした。

 人々が思っているものとは別の無念に身を震わせる彼から聖剣を返された王は、義兄に自身の臣下として仕える事で此度の行いを赦す旨を告げた。

 誰もが新たな王の寛大な心に胸を打たれ、自分達の救い主となる者の誕生を心から祝福した。

 後にアーサー王伝説と呼ばれることとなる物語の幕開け。その中で彼は、サー・ケイは王の威光を際立たせる道化として歴史に刻まれることとなる。隠された真意を誰も知らないまま。

 

 誰も彼の内心を知らない。

 誰も彼の苦悩を思うことはない。

 それは卑王ヴォーティガーンが討たれ、キャメロットが完成し、円卓の席が埋まる中でも変わらなかった。

 彼の義妹が選定の剣を抜き、王として名乗りを上げた後の事。11回に渡るサクソン人との戦いと、卑王討伐の裏で諸侯への働きかけや物資調達、人員管理、情報収集、秘密工作、間諜と刺客の対処、被害の把握と対処。決して表立った行動でないにせよ、彼が担った役目は非常に多い。

 何せそれだけのことをほぼ一人で行っていたのだ。彼が私の“弟子”として培ったものを利用しても常人では決して為せないことである。

 しかし人々は、同じ王を頂とする騎士達ですら彼の功績を知らない、だから認めない。

 彼は円卓の席が埋まった後も王の座を奪おうとした脛に傷をもった者であり、騎士達からしてみれば卑劣に映る程に冷徹で現実的な政治家としてあり続けた。

 敵にも味方にも見縊られ、侮蔑されても彼は恨み言の一つも吐かなかった。それはひとえに彼が敵からの低評価など大して気にしていない上に味方である筈の騎士達を心からの達観の目で見ているからだろう。

 

 彼は義妹が王として旅立つ以前から、彼女に王など勤まる筈がないと言って憚らなかった。必ず王が女であることは露見する。身分詐称というこの時代に於ける大罪を問う者、女を王と認めない者も多々現れる事だろうと危惧していた。

 彼は何とか王の性別が知れ渡らないように努めてはいたが、客観的に考えて彼の義妹が性別を偽るのは容姿にせよ体格にせよ非常に難しいだろうと考えていたのだ。しかして彼の危惧は杞憂に終わることとなる。王が女であることは露見せず、誰も彼もが理想の王の背に心酔するばかりだったのだ。

 王を補佐する者として、それは安堵すべきことの筈だった。しかし彼が何よりも先に覚えた感情は失望と絶望だった。その時の悲哀と憤りに満ちた心情を彼から聞き出した事がある。

 

 

「この期に及んでアイツが女であることを追求する騎士は現れなかった。結局のところアイツを心から理解しようとした奴も、アイツと向き合おうとした奴もいなかったんだ。

どいつもこいつも理想の王だ何だと忠義面しておいて、アイツのことを心から認めやしなかった。

責任ばかり押っ付けておいて誰もアイツを助けようとしない。心配もしないし思いやりもしない。或いはそのつもりになってるだけときた。

馬鹿げてるよ。騎士共も、お前も、アイツも、皆馬鹿げてる……」

 

 

 誰よりも人の為に生きていた義妹が誰にも理解されない、愛されないという事実を彼は我が事のように嘆いた。

 そして嘆きの深さだけ彼は義妹に理想の王の重責を背負わせた者達への怒りを募らせていった。その怒りの対象には勿論私も含まれる。

 

 彼が私と言う存在を心底恨むようになったのは、彼が義妹と同じく私に師事して暫くのことだ。

 初めから私と言う存在に憤りを抱いていた彼は、大変面白くない心象を抱きながらも必要なことと割り切り私の指導の下にあらゆる知識を身に着けた。王に理想の王としての在り方を指示したように、彼には特に魔導に纏わる知識と技術を与えた。

 元々勤勉な性質であったことと、多様な才能に恵まれたことが助けとなって彼は順調に私の教えを血肉に変えていった。

 また、私からの指導のみならず自力で魔術の知識を収集する動きを見せていた事も急速な成長の一因となっていたのだろう。

 とは言え、習熟が速いだけに停滞も早まると言うのが私の見立てではあった。彼は確かに多芸な人物ではあるがあらゆる才能が並み以上であって飛びぬけている訳ではないからだ。

 どれだけ努力を重ねても恐らく彼は“それなり以上”の力しか身に着けることが出来ない。こればかりは当人の資質であるだけに変えようのない事だ。だからこそ彼に魔術を教えたとも言える。

 

 単純に魔術師が要り用ならば私一人で事足りる程度の腕前はあると自負している。

 しかし私が王の辿る道中で自分の持つ力をそのままに振るってしまうのは、王が更に高みに昇る為の機会まで奪うことに他ならない。

 理想の王になってもらう為にも、彼女には程良く悪戦苦闘してもらわなければならない。しかし彼女一人だけで乗り越えられるほどブリテンは生温い環境ではない。

 そこで補佐する者が必要になって来るのだ。決して無能ではないが優秀過ぎない程度の補佐が。彼は正に打って付けの人材だったわけだ。

 当初はそう考えていた。今思えば、私は彼の事を侮っていたのだろう。天才は一つの事を聞いて十を学び、凡才は一つの事から一つだけ学び、非才は十を聞いて漸く一つの事を覚えるもの。彼は何処まで行っても凡才止まりであると、そう考えていた。

 しかし彼は私に一つの事を聞いて一つの事を学んだ後に、また一つの事を学ぶ前に自力で九つの事を学んで来たのである。それだけに留まらず、私が教えていないことを別口から学び、知識を集め、技術を身に着けた。

 彼がやがて私やモルガンに届かないにせよ強大な魔術師としての力を得るに至る土壌を彼は徐々に築き上げていったのだ。彼が只管に妹を支える事だけを考えるような男であったのならば良い拾い物をした心象の一つも抱いたのだが、生憎と彼の精神は良くも悪くも普通の人間のそれ。いくらでも移ろうものだった。

 彼は自力であらゆる知識と技術を掻き集める中で、世界に於ける神秘の行く末とブリテンの辿る未来に辿り着いてしまったのだ。

 即ち朝日が昇り、やがて沈んでいくような自然さでブリテンが滅ぶことと、そんな国の王になることの意味を知った。

 義妹が避けられない破滅へと歩んでいる現状を知った彼の胸中で、義妹が王となる未来を避けられなかったが故に一度は諦めた義妹を王にさせたくない意志が息を吹き返す。

 何としても義妹を王として旅立たせるわけにはいかない。

 しかし、彼も既に言葉で義妹を納得させられるなどとは思ってはいなかった。最早万策尽きた後、全ては手遅れなのだから。それでもやはり彼は止まれない、諦められない。彼はそう言う人間なのだから。

 

 アーサー王が名乗りを上げて暫く経った日。彼は義妹を人気の無い場所に呼び出した。

 私は二人に気付かれる事無く後を追い、事の行く末を見守る事に決めた。悪い方向に転ぶことは無いと言う確信を持った上で。

 彼が再び義妹を王にさせまいとする意志を抱いたことは普段の様子から察せられた。元より彼は見た目に反して分かりやすい男である。世界を見通す目を持つ私からすれば心境の変化など手に取るように分かる。

 分かっていても止めようとしなかったのは彼の行動が結果的に王の成長に寄与すると見たから。言い方は悪いが彼を利用することにしたのだ。

 

 昼頃を過ぎて夕暮れに差し掛かる時間に、二人は誰も居ない草原で向き合った。

 お互いに甲冑も身に着けていない軽装姿。その上で義兄は何の変哲もない直剣を、義妹は煌びやかな選定の剣を腰に下げている。それは彼等が共に剣の鍛錬に励んでいた時と同じ出で立ちだった。

 

 彼は義妹に問う『王として歩んでいく決意に変わりはないのか』と。

 その問いに義妹は『変わりません』ときっぱり答えた。

 義妹の決意は固い。それを承知で彼は義妹に思い直すように告げた。

 

 

「王になったら絶対に後悔する。お前がどれだけ力を尽くそうがブリテンは滅ぶ。その未来は変えられない。世界から急速に神秘が薄れている現代に於いて最後の生き残りがこのブリテン島だ。

外から押し寄せてくる新しい世界の法則にやがて呑み込まれて消えていく。それがこの国の運命、誰にも覆せない事なんだよ。

そんな夢も希望も無い国の王になるってことが何を意味しているのかお前分かってんのか?散々恨まれて苦しんだ挙句、悔いしか残らない末路を辿ることになる。こんな筈じゃなかったって嘆き悲しみながら死んでいく未来が確定してるってのに、お前は王になるのか」

 

「ええ。私の意思は変わりません。私は王になります。例え私がどのような悲惨な末路を辿るとしても後悔などしません。私一人がどのような末路を辿るのだとしても、より多くの人々を救う事が出来るのならば、私はこの身と一生を捧げましょう」

 

「そうか…そうだよな。お前はそう言う奴だ。分かってたことだ。

なら、もうこれ以上は口でどうこう言うのは止めにしよう。王になるなとか考え直せとか舌先回すのも諦めようじゃないか」

 

 

 『だから』

 一度言葉を区切った彼は腰に差していた剣を静かに引き抜いて義妹に突き付けた。

 それまでの鍛錬とは違う。相手を倒すと言う意志を隠しもしない。

 その相手とは言うまでも無く義妹である。剣を向けられた彼女は一瞬だけ動揺し、すぐに強い意志を宿した目で義兄を見つめた。

 

 

「初めから分かってたさ。何を言っても無駄だって。

お前の意思は変わらないし俺に出来る事なんてたかが知れてるなんてことは俺が一番良く知ってる。でもな……

何も出来ねぇからって放っておけたなら苦労しねぇんだよ。お前に沈んでいく泥船の舵を取るだなんて馬鹿な事させてやるわけにはいかねぇんだよ」

 

 

 ならば、もうこうするしかない。

 兄としてこんな行為に訴える事だけは避けて来たが、最早形振り構ってはいられない。

 彼は最期の躊躇いを深い呼吸の後に吐き捨てた。

 

 

「どうしても王になるっていうなら―――

その先に待つ未来を知った上で立ち止まらないって言うなら―――

アル…いや、アルトリア・ペンドラゴン

 

 

俺と…俺と決闘しろぉっ!!!」

 

 

 これこそアーサー王が初めて経験した遊びも加減も存在しない全力の戦い。

 義兄の決意と闘志を全身に浴びた彼女の体内で、それまで本来の力を発揮することなく眠りについていた竜の心臓が動き出す気配に、私は一人笑みを浮かべた。

 




ケイ兄さんは魔術を覚えた!

やったねケイ兄さん適正クラスが増えるよ!

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