家族と一緒に真っ赤なタイツ姿をした不死身の変態男の映画を1から2まで連続で視聴した際の脳内汚染が残っていたんだろうか?
ニーアオートマタをプレイしてシリアス成分を補給した筈なのに。或いはこれがヨルハ部隊すら狂わせた論理ウイルスの影響なのだろうか。
などと茶番めいた無駄話を挟みつつの投稿となります。
ちゃんとシリアスな方向に戻していきますのでどうか見捨てないでください(大袈裟)
最近、兄と話す機会が減った。
特別奇妙なことでは無い。
視察や折衝、各種工作活動等の指揮で長期間離れることはままにある。
ブリテンを束ねる王となる道を歩み出した手前、個々が抱える仕事の量と質は日ごとに増して行っているのも事実。
更に言うなら、兄は軍事、政治問わず広範囲に渡って活躍してくれている。他の臣下が役目を疎かにしているわけではないが、やはり請け負う事柄は多い。
顔を合わせて話し込んでいられるような時間がなくなるのも道理と、アルトリアも理解はしていた。
だが、ここ最近は何かが引っ掛かる。
これまでとは異なり、遠くへ赴いたわけでもないのに顔を見る頻度が減りつつあるからなのか、それとも以前兄が対処に動いた姉に関することなのか。
監視として兄自身が様子を見に行っていることは知っている。提案を受け、許可を出したのは他ならぬ自分だ。
定期報告も途絶えてはいない。先日の報告によると、対象の精神面で未だ不安定な箇所が見受けられるが、現状は国家運営に支障をきたすだけの脅威には為りえないとのこと。
この手の事柄に於いて兄の目は確かだ。少なくとも監視要員を含めた周辺被害を起こすことは当面の間無いと見て良い。
話すことが少なくなったのは普段の役割に加えて監視任務まで加わったから。
それに関しても、これと言って危惧すべき問題は見受けられない。
そう。問題は無い筈なのだ。
だというのに気にかかる。直感が、この件を無視出来ない事柄と訴えている。
言い知れない不安が胸に広がっていくのを感じる。
兄や配下の文官達がまとめて来た資料、申告書、報告書を捌く手を止め深く息を吸いこんだ。
心にわだかまりが残る内から下手に動いてはならないと兄も言っていた。それでも無理をして、失敗して、そのたびに散々に叱られながら手助けされてきてしまっているのだが。
「そんな彼が、君をすぐ助けられる場所にいない。
そのことが自分でも不思議なくらい気に掛かっている。
そんなところかな?」
唐突に背後から掛かる声。
椅子から腰を上げて振り返れば、窓縁に腰かける男が一人。
不思議な色彩の髪と浮世離れした美貌の彼は花の魔術師マーリン。
いつもは何処にいるのかも定かでない、ふらりと現れてはいなくなるばかりの人物が悪戯っぽい笑みを浮かべている。
此処に居て悪いということでもないが、無意識に身構えてしまう。
マーリンがこのような顔をしている時、決まって良からぬことが起こるのだ。
暗示に失敗して我を忘れた騎士に絡まれ、道案内を間違えて迷い込んだ森で魔猪に襲われ、呪文を唱え損ねて効果が歪んだ魔術を受けて異性や動物の姿に変えられる。
しかも大抵の場合、主な被害を受けるのは兄一人。意図した行動か否かは定かでないが、たちが悪い事に変わりはない。毎度控えるように言っても効果の有無は言わずもがなだ。
更に始末に負えないのは、この魔術師が問題の発生を予期した上で尚、無視出来ない話題を投げ掛けて来ることだ。
事実、兄が側にいないことが少なからず気がかりになっていることは否定出来ない。
しかも彼は今現在、危険因子として隔離する必要性を自ら訴えた相手の側にいる。
滅多なことは無いだろうが、アルトリアの直感は兄と会うべきであると告げていた。
マーリンの様子から察するに、余程骨が折れる事態に兄が直面しているのか、或いは彼の下へ向かった自分に良からぬ出来事が降りかかるのか、どちらか一方であるのは確実だろうが。
「そんなに警戒することないじゃないか。
僕はただ純粋に君達の為を想ってちょっとした助言をしに来ただけなんだから。
いや、助言というよりも……君の背中を押しに来たと表現した方が正しいかもしれないね」
相変わらずの白々しい態度。一々憤ってもいられなくなったのはいつ頃だったか。それより今は兄のことだ。
「背を押しに来たとはどういうことですか?
私に何をさせようと言うのです」
「いやいや、僕がそうさせるわけじゃないさ。
何も言わなかったとして、遠からず君は自発的に動いていただろうからね。
ただ、その時期を少しだけ早めてみようと思い立ったんだよ。
君の考えている通り、彼は今モルガンの御守りにかかりっきりだ。相手が相手だけに、流石に手を焼いているようだったね。
しかも普段の仕事を手抜かりなくこなしながらの同時進行だ。相変わらず勤勉なものだよ本当に」
「それを知った私が何をすると?」
「難しい事じゃない。
会いに行くんだろう?」
そう。難しいことではない。大袈裟に悩んで、心を乱さずとも良い。気になるから様子を見に行こうというだけの話だ。
この魔術師に促されてと言うのは些か釈然としないものを覚えるが、やることに変わりはない。
探せばきりが無い程ある相談事をしに行く序でに、要注意人物の管理状況を確かめに行くだけだ。
決してやましい事情も無いというのに引っ掛かりを覚えるのは、ほんの僅かな寂しさを埋めようとする欲求に後ろめたさを感じるからか。
親族に対するものとはいえ、公正公平な王であらねばならない自分には本来許されない類の感情だ。理解はしているし、普段は表に出さないよう努めて押し殺しているが、兄が絡むとそれが揺らぐ。
彼が悪いのではない。徹し切れない自分の未熟さこそが問題なのだ。
事実、兄は妹相手でも臣下の礼をとり、己の勤めを黙々と果たしている。その上で限られた時間にのみ限り個人としての振る舞いを見せるのだ。
同様に出来ないことを恥じながらも、時間を作って訪問の準備を整えて行く。
連絡も入れずに押しかけるような真似はしない。上下関係を問わず報告、連絡、相談は極力疎かにしてはいけない。これも兄の教えである。
数日後、兄が暫く前から滞在している屋敷を訪れた。
比較的人口が集中している地域から離れた場所にポツンと建っている様子は奇妙な印象を与えるが、幻術や認識阻害の効果を持つ結界に四方を覆われており、人目につくことは無い。
仮に見つけられたとして、誰が住み着いているのかを知れば大抵の人間は自ずと離れて行くだろう。
立場上、人気の無い場所を一人で出歩くわけにもいかない為、一応の護衛として連れて来た数名の騎士達を待たせ、屋敷の入り口で此方を待っていた兄の下へと歩み寄る。
顔を合わせるのは少なくとも数週間ぶりだ。変わらない姿を目にして、どこか安心にも似た感情を覚える自分がいるのを自覚しつつ静かに抑え込んだ。
「お久しぶりですケイ卿。
多忙なところに押しかけてしまい申し訳ありません。
あれから変わりはありませんか?」
「お心遣い頂き大変恐縮でございます我が王よ。
御親族のことであるからには、王自らが気を配られることに間違いはありますまい。その為の時を設けることは臣下として当然の義務でありましょう。
では此方へ。姉君殿もお待ちです」
固い口調と形式的な遣り取り。他の騎士達が控えている以上、互いにただの兄妹としては振る舞えない。
それでも、こうして健在な様子を見られただけでも抱えていた不安の幾分かが晴れて行くのを感じる。少なくとも足を運んだ意味はあった。
しかし未だに不安の源が絶たれていないことを直感が囁いている。
冷静に考えて、決して小さくない爆弾を側に置いている兄の現状を実際に見聞きして確認していない以上、本当に何の問題も無く彼が日々を過ごせているのかは未だ謎だ。
件の爆弾、保護の名目で捕縛した姉の状態も気がかりだ。
報告によると、周辺に被害を及ぼす行為に走る傾向は見られないとのことだったが、いざという時に発生し得る被害規模から考えて、念を押すことに間違いはあるまい。
先に兄が口にしたように、身内の事情であるからには王として気に掛ける必要があるのも事実。故に今回は表向き其方が主な目的となっている。
行き過ぎれば毒となるにせよ、敵味方問わず後ろ指を指されるような事態は極力避けるべきというのが兄の言。
常に外聞にも気を遣わなければ、何かの拍子で人心は簡単に離れて行ってしまう。味方は勿論、そうでない相手にも嫌われない立ち回りを心掛ける必要があるとのこと。
視察の意味合いも兼ねた今回の訪問は国にとって、そしてアルトリア個人にとっても意味があった。
ただ兄の顔を見たことによる幾らかの安心感だけ満足していてはいけない。寧ろ、ここからが気を引き締めねばならない場面になって来るだろう。
「分かってるとは思うが、和やかに茶でもしばいて世間話に興じられるなんぞと頭にお花畑な期待はするな。
会わせても構わないと判断して今回の場を設けたが、素直に歓迎されることはまずねぇだろう。
流血沙汰にならないよう気は遣うが、くれぐれも下手な事を口走るんじゃねぇぞ。いいな?」
屋敷の玄関扉を潜ると、いつもの調子で兄が忠告を入れて来た。
結界が張られた敷地の内側にある建物自体にも別種の結界が張り巡らされている為、この中でなら第三者に会話を拾われることも無い。
発言一つ一つに気を遣う必要性が薄れることになるが、同時に内側から外側に呼びかけることが難しくなることも意味する。兄が言ったような、もしもの事態が発生しないよう更に注意する必要があるだろう。
姉が自分に対して明確な恨みを抱いているのは以前から知っていた。
相手からしてみれば父の後継者としての役目を掠め取ったような形になる以上、決して心穏やかにはいられないであろうことは察せられる。こうして直接対面するだけでも相手を刺激しかねない行為ではあるのだ。
おいそれと顔を出すべきではないのかもしれない。だが、やはり己の目で見極めておく必要もあるのだ。モルガンという女が、この国と、国民と、そしてかけがえのない人に何を齎すのかを。
姉が待っているという応接室へはすぐに到着した。
屋敷というのだから、あばら家の如き手狭さでは決してないが、歩き回らなければならないだけの規模でもない。
如何なる意図があるかは兎も角、この屋敷の設計と建築は全て兄が行ったとのことで、目当ての部屋に辿り着くまでに時間が掛からないようにする辺りは、基本的に余分を嫌う性分が反映されているらしい。
「先に言っておくが、今から何が起こっても驚くな。相手がどんな態度を取っていようが狼狽えるな。
あとは……俺が入って来いというまで扉から少し離れて待ってろ」
「離れて?
それは構いませんが、いつにも増して念を押しますね。もしや姉はそれ程までに私のことを?」
「良からぬ感情を抱いているのは事実だが、今言ったのは別の事情があるからだ。
説明すると無駄に長引いちまう上に、要所要所で察しの悪いクソ堅物の頭じゃ理解出来ねぇ理由と理屈の目白押しときてやがる。
てめぇ自身の目で見て判断した方が速い」
兄の発言からは引っ掛かりを覚えないでもなかったが、人伝に聞くより自分で確かめることが目的である以上、この場で追及するより言われた通りにする方が話が早いだろうと判断し、素直に頷いておくことにする。
一応、そこまで堅物ではないとだけ付け加えた後、扉の前から一歩下がった。
そして兄が扉に手をかけ、ゆっくりと開き、室内に足を踏み入れて行く。
露骨という程でもないが、妙に慎重な素振り。
室内の人間への配慮というよりもこれは、どちらかといえば警戒していることを逆に察知されないようにしているような――――――
そこで思考は中断された。
兄が戸を開け中に入った直後、強烈な閃光と爆音が響き、ほぼ同時に押し寄せた衝撃が屋敷を揺るがしたのだ。
咄嗟に魔力を纏い身を守ったことで傷らしい傷は負わなかったが、その瞬間は我が身を顧みるだけの余裕など無かった。
突然の爆発は、タイミングから考えて明らかに兄を狙ったものだった。
距離を取り、身を守る手段があったが故に無傷だった自分と違い、恐らく発生地点であろう部屋の中にいた兄はただではすむまい。
急ぎ部屋の中に飛び込めば、そこは黒煙で覆われている。
何かが爆発したのは分かったが、何故そのようなことになったのか、兄は無事なのか、声を上げて呼びかけようとした時だ。
「ギャアハハハハハァァ!!どうよ腐れヒューマン!
半密閉空間内でこの爆発!テメェの貧弱ボディとペラッペラ障壁で咄嗟に防げる威力じゃねぇよなぁ?
こうして一息に破壊力で圧倒すればいつもの小細工も所詮はクソ下らない手品も同然だっての!
結局この世は力こそパワー!レベルを上げて魔力をぶっ放せばそれで全ては解決するんだよぉ!!
ギャハハハッ!!ギャァハハハハハハハハハハハハハァァ!!」
………
………………
………………………
何かがいる。
何かがいた。
理解が追いつかない状況の中、脳が理解を拒絶するほどに異様な存在が其処にいた。
豊かな胸、縊れた腰、すらりと伸びた脚、アッシュブロンドの長髪に、どこか自分と似た印象を受ける顔立ち。
これらの印象と、僅かに残る記憶の中の人物と照らし合わせた結果、その女性は今回自分が見定めようと足を運んだ目的にして実の姉たるモルガンだと思われた。
だが、明確にそうであると断言していいものか。
下卑た笑い声、女性のそれとは思えない粗暴極まる口調、美貌を台無しにする歪み切った笑み。
よくよく見れば服や髪の端が若干焦げ付いており、煤を被ったように所々で汚れが見受けられた。
こうして文面に纏めて第三者に読み上げさせれば、この事態を引き起こしたのがモルガンであることは容易に想像出来るだろう。
しかし、当事者たるアルトリアの思考は予想だにしない事態の連続に一瞬の空白を作ってしまう。
その僅かな遅れにより、モルガンの知覚が先んじて自分以外の存在を捉えた。
気分良く高笑いを上げながら、黒焦げになった憎き男の姿を探していたところへ現れた相手に、奇しくも相手と同様の驚愕と停止を余儀なくされる。
アルトリアが身構え、モルガンが口を開こうとした時、再び唐突極まる形で事態は変容する。
「大人しく待ってろっつった側から爆破テロかましてくれてんじゃねぇビチグソドブ女」
「げぇっ!?アンタ何で無傷ゲビュ…っ!?」
突如としてモルガンの背後に現れた巨漢が見た目によらない素早さで動く。
獅子をも絞め殺せそうな、筋肉で覆われた太ましい腕を細い首筋に絡ませ締め上げる。
外見だけ見れば間違いなく美しい女性が、踏み潰される蛙の断末魔のような呻き声を上げる。そして見る見るうちに顔色を蒼白に染めて行った。
想像の斜め上をひた走る事態に置き去られていたアルトリアが、兄の背後の床が扉のように開いていたことに気が付けたのは、素直に無事を喜ぶべきか分かぬまま思わず視線を逸らした為だ。
恐らく床の下に設けていた空間へ咄嗟に滑り込んで爆破をやり過ごし、モルガンが完全に油断し切った所で飛び出して来たのだろう。
自分で設計、建築した建物とはいえ、何故そんな仕掛けを施していたのやら。まさかこのような事態を予め想定していたわけではあるまいに。
「
「あ?この程度痛くも痒くもねぇって?
この状況でも余裕綽々とは流石姉君殿ですなぁ。木っ端凡人に過ぎない俺にはとても真似出来ない王者の貫禄とでもいいますか。いやはや感服するばかりでございますとも。そういうことなら此方も全力で絞め落としに行かせて頂きますね」
「
驚愕も疑問も呆れも一先ず横に置いて、今は兄を止めるべきだろう。口端から泡を噴き出しながら、最早何の生き物の泣き声なのか分からない奇声を漏らす姉が絞め殺される前に。
何処からか、あの魔術師の笑う声が聞こえた気がするが気のせいだろう。気のせいということにしておく。今は兎に角それ所ではないのだから。
仲良く喧嘩する路線で行こうとした筈が、どうしてこうなった。
即死トラップをバンバン仕掛けて来るモルガンと臨死体験が出来る程度には苛烈な反撃を繰り出すケイ兄さんって絵面になってしまいました。
まぁ書いちゃったものは仕方が無いし、普段の二人のやり取りはこんなもんでいいかなぁ……。締めるところは締めさせますし。