届物語   作:根無草

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長いこと更新が空きましたが

開幕


其ノ參

【006】

 

 

「どうするおつもりなんですかね、神原さんは……」

 

 ニュービートルの後部座席、傍にリュックサックを置いた八九寺は皆目見当もつかないといった様子で呟いた。

 

 結局、神原の部屋を掃除する為に出向いた筈の僕達は、しかし掃除なんて触り程度にしかこなさないままこうして帰宅の路についている。

 それも善は急げと囃し立てる神原自身の手によって。

 

 済し崩し的に。

 強制的に。

 

「あいつが何をするつもりかなんて誰にも予想できねえよ。できたとしてもひたぎくらいのもんだろ」

 

 脊髄反射だけで生きているような奴だからな。スポーツ選手としては超一流なんだろうけれど、こういう状況になると軽々と想像の範囲を超えてくれるのが痛し痒しだ。

 あいつほど単純で真っ直ぐ進む奴もそういないだろうけれど、その真っ直ぐさだって行き先が不明ならばシンプルな分、予想は困難を極める。

 真っ直ぐさのベクトルが変化球どころか消える魔球なのだ。

 そしてその証拠に、この状況の生みの親である肝心の神原はというと、驚くべきことにここにはいない。

 八九寺を僕の家へと招待する事を発案し、それを一分一秒を争う事態のように急かした本人はーー

 

「先に自宅へと戻っていてくれ阿良々木先輩。私は支度とお祖母ちゃん達への説明をしてから後を追う」

 

 と、僕達を見送ったのだった。

 これに関しては、今はできるだけ車に他人を乗せたくない僕としてはありがたい申し出だったのだけれど、あいつがどのように僕の妹二人を看破するつもりなのかを聞けなかった危機感も同時に胸に渦巻く。

 火の粉を払うなんて言ってはいたけれど……実力行使にでたりしないだろうな?

 消える魔球こと神原駿河がデッドボールとして僕の命に深々と突き刺さる可能性も決して低くはないように思うんだけど……

 

 マジで勘弁願いたいーー

 

「それにしても本当に良かったんですか阿良々木さん?……今なら神原さんもいませんし引き返せますよ?」

 

 僕が妹と神原の行く末について頭を抱えていると、後部座席から小さい声が聞こえた。

 それは他でもない八九寺であり、ルームミラーに映る八九寺は、柄にもなく消極的に弱々しく僕を見つめていた。

 帰宅の路とは言ったものの、この道程は八九寺にとって帰宅ではない。外泊なのだ。

 言い出したのは神原だとはいえ、僕も同意の上で今日は八九寺を僕の家へと招待すると決めたーーどうやら八九寺はそのことを未だに申し訳なく思っているらしい。

 らしからぬといえばらしからぬ、それでも当然といえば当然な反応。僕が八九寺の立場だったとしても気まずさや遠慮を覚えることだろう……それでもーー

 

「引き返したりしねえよ。神原に言われたからじゃない、僕がそうしたいからそうするんだ。今更そんな遠慮をするくらいなら腹を決めて僕の妹と打ち解ける方法でも考えてろ」

 

「…………」

 

 困ったような呆れたような顔をするものの、八九寺がそれ以上の発言をする事はなかった。

 去年の夏休みに起きた『くらやみ』を巡る一連の事件を思い起こせば僕の家へと再び宿泊するのはどうにも気が休まらないだろうけれど、それでも八九寺にこんな日まで一人でいてほしくないというのは僕の我儘だ。

 

 そして僕の我儘で構わない、なんたって八九寺は僕の親友なのだから。

 

 むしろ僕にとって真に危惧すべきは『くらやみ』なんかではなく、八九寺が遠慮しているという事実があるから助かっているようなものの、はっきりと拒絶された場合は僕と神原による行為は親切から一転して拉致や誘拐の類になってしまうというところなんだけれど……大丈夫だよな?

 

「ああ、そういえば八九寺、そのリュックの中ってまだ着替えとか入ってるのか?」

 

「何を想像しているんですか?まさか……夜な夜なわたしの下着でも漁るおつもりですか!?」

 

「漁らねえよ!外泊の支度もなしに連れ出したなら悪かったと思って気を使ってみたら何て言われ様だ!」

 

 前回、八九寺を僕の家に泊めてから大分経ってるから荷物の中身がガラリと変わっていても不思議ないと思って言っただけだっつーの。

 

「ほう、阿良々木さんのわりにうまい言い訳を考えましたね。強いて言わせてもらうならわたしは泊めてもらったのではなく誘拐されたのですが」

 

「言い訳じゃない、純然たる事実だ。そして誘拐じゃない事実無根だ」

 

「誘拐こそ事実でしょうに……まあいいでしょう。そして心配ご無用、わたしのリュックの中には常にお泊まりセットが入っていますよ。怪異としての性質は変わっても本質的にはわたしのままなので身体は勿論、持ち物だってあの日のままですから」

 

 あの日のまま、かーー

 それはつまり、十一年前の明日を指しての『あの日』なのだろう。

 十一年前どころかたった数年前の事すら忘れている僕にとって、その時間は余りに膨大で遥か追憶の彼方なんだけれど……こいつはその十一年もの間、たったそれだけの荷物で歩き続けてきたのだと思うと心底頭の下がる思いだった。

 それが怪異としての八九寺真宵の在り方であったとはいえ根本的な部分でやっぱりこいつは、強い。

 

 僕なんかよりも遥かに強く、挫けず、真っ直ぐだ。

 

 パラレルワールドで出会った大人ヴァージョンの八九寺お姉さんがそうだったように、やはりここにいる八九寺だって立派に真の通った本当の意味での強さを持った人間なのだと再認識させられる程にーー

 が、あの八九寺お姉さんとこの八九寺で決定的に違うのは僕と共に過ごした親友であるかどうかだ。

 本来ならばここはシリアスな空気になって然るべきシーンなのだろうけど、ご生憎様、僕と八九寺の間にそんな気遣いが必要な程の距離感なんてもうない。

 いっそ辛い過去ごと一緒に笑い飛ばせる程の親友だと僕は思っている。

 

 だからこそ、僕はあえて悲観的にならず笑って応えるのだ。

 

 いつも通りーー

 

「ああ、そうだったそうだった。変わらないのがお前のアイディンティティだもんな。その胸や身長が変わらないようにリュックの中身だって変わる訳がないよな。僕としたことがうっかりしてたぜ、ははは」

 

 そういって笑う僕に対し、その意図を汲み取ってか八九寺もルームミラー越しに笑顔で応える。

 そしてゆっくりと身を乗り出した八九寺はその小さな両手でーー

 

「見る目がないなら何も見る必要はありませんね」

 

 運転中の僕の両目を塞いだのだった。

 

 

【007】

 

 

 ともあれ、走行中の車内で運転手が視覚を遮断されるというアクシデントも奇跡的に無事故のまま乗り越えた僕と八九寺は、ほどなくして阿良々木家へと到着した。

 アクシデントと呼ぶには余りにぞっとしないけれど……というか友達の家から帰宅するのに命がけって世も末すぎるだろ。

 それもまさかこんなに小さくて細く、弱々しい小学五年生の手の平で殺されかけるとは。

 物騒な世の中になったなあ。

 

「どれもこれも自業自得でしょう」

 

 剣呑とした雰囲気の八九寺は車から降りながらふくれていた。

 

「だとしてもお前は初心者ドライバーに対する配慮がなさすぎるぞ。もしも事故でも起こしてたらどうするんだ」

 

「配慮で言うならば阿良々木さんは女性に対する配慮が欠けすぎです。欠けすぎて欠如してます」

 

 なんと。

 僕ほど女性という生物に対して思慮深く発言・行動する男もいないだろうと自負していたんだけどな。

 いつだって羽川の胸や斧乃木ちゃんのパンツ、忍の肋骨に八九寺の唇の心配をしている紳士的な男だというのにーー

 実に見る目のない少女だ。

 

「やはり潰しておきますか、両目」

 

「冗談だ!いや、冗談です!お願いだからそんな真剣な顔で物騒なことを言わないで!」

 

「ちっ……わたしにもっと信仰の力があれば神の力でその両目を奪うこともできたんですが今は無理そうですね。残念」

 

「神様の台詞じゃねえな、それ」

 

「上で挙げた人物の中に彼女さんの名前が無かった人に言われたくありませんね」

 

 突っ込みに切れしかない神様だった。

 

 つーかそれって神様っていうよりほとんど悪魔じゃねえか……神罰で両の目を奪うなんて話、聞いたこともねえよ。

 いや、聞いたことはあるのかもしれないけれどーーというよりも、ありそうな話ではあるけれど。

 だとしても興味本位でミサイルの発射ボタンを押してしまうような分別のつかない小学生に神通力なんて与えたら駄目だろう。

 ひたぎの重し蟹の一件において、忍野は神様をいい加減呼ばわりしていたけれど、たいした理由もなくして両眼をなくすのならば、いい加減だなんて粋は逸脱している。

 願わくば、このまま北白蛇神社への参拝客が増えませんようにーーと、とりあえず目の前の神様に手を合わせておいた。

 今回の物語において危機に晒されすぎな僕の両眼のために。

 

 だが、しかし……それがはたして神罰なのか僕の日頃の行いのせいなのかーー僕のそんな祈りも虚しく、次の瞬間、やっぱり両眼をどうかしてしまったのではないかという錯覚に襲われるのだけれどーー

 

「おや?早かったな阿良々木先輩」

 

 ーー神原駿河が現れた。

 野生の変態、神原駿河が現れた。

 合掌する僕と、合掌されて不思議そうな顔をする八九寺の前に、何故かいつかのバスケットの時のようなロリータコスチュームに身を包んだ神原駿河が現れた。

 って……どうしてお前がここにいるんだよ!?

 そりゃあ僕の家で落ち合う手筈だったんだから僕の家の前に現れはするだろうけど、だとしても早すぎるだろ!?

 僕達が車を駐車して玄関前へと移動するまでの間にどれだけのタイムラグがあったつーんだよ……ほとんど同着ゴールしてんじゃねえか。

 神原邸を出発したのは間違いなく僕達の方が早かったし、その後の移動は車なのだ。

 いかに僕が初心者ドライバーで法定速度を厳守していたとても帰り道で寄り道をした訳でもないのに普通の人間が車と同じスピードで同着ゴールしてんじゃねえよ。

 

「どうしたのだ阿良々木先輩?鳩が豆鉄砲でもくらったような顔をして。ひょっとして私のこの服装に見惚れているのか?」

 

「断じて違うっ!確かにそれはそれで驚異的ではあるけれど僕が絶句しているのはもっと別の理由でだ!」

 

 鳩が豆鉄砲どころか吸血鬼が銀の弾丸をくらってもここまで驚かねえだろうよ。

 

「そうなのか?しかし他の点では特に言葉を失うようなことはしていないぞ?」

 

 小首を傾げてんじゃねえよ……つーか前にも感じたことだけれど、神原がこういった女の子らしい服装をしていると違和感が凄まじいんだよ。

 そりゃあ以前よりは髪の毛も伸びて些か違和感は軽減しているけれど、かと言って僕はこいつの中身を知ってるからな……なんつーかスポーティとガーリーの灰汁が強い部分だけ掻い摘んだようなむず痒さが拭いきれないーー

 

「じゃなくって、どうしてお前がこんな早く到着してるんだ!?空でも飛んできたのか!?」

 

「空って……それはアニメの見過ぎだ阿良々木先輩」

 

 残念な事に空を飛んで移動する奴は現実にいるんだよ……それもわりと身近に。

 

「私はただ、阿良々木先輩のお宅へとお邪魔するのに軽装では失礼かと思い着替えをしてきただけだ。それに部屋の片付けの件に関してお祖母ちゃんへの説明もあったしな。しかし、それが原因で尊敬する阿良々木先輩を待たせたのでは元も子もないからな、こうして全力で走ってきたのだ」

 

 そうか、人間は全力で走れば車と同じレベルで走れるのか。

 ここまでくると東京五輪には神原を代表選手として起用するべきではないかと進言したくなるな。

 世界規模で日本の汚点を残す結果になるだろうけれど。

 つーか軽装では失礼って、前回僕の家に来た時は上下ジャージだったじゃねえか。

 

「千石ちゃんの時は事情が事情だったろう。というか徒歩の阿良々木先輩達とほとんど同時に到着しているのだから言葉を失う程のことではあるまい?」

 

 言葉を失う程のことではあるんだけれど……そうか。僕が車を所持している事を神原はまだ知らないのか。

 てっきり僕の車に乗るくらいなら神原を乗り回すとまで豪語していたひたぎが既に言っているのかと思っていたけれど、この様子だとそれはなさそうだな。

 となると、神原がひたぎに乗り回されているかどうかは兎も角として、こいつも僕が車を所有していると知れば乗せろとせがむに決まっているーーそれも結構な力技で。

 ……ここは黙っておくのが得策だな。後で八九寺にも口裏を合わせておこう。

 

「まあよい!それよりも他に言うべき事があるだろう!ほらっ、ほらっ!八九寺ちゃんならば同じ女の子としてわかるのではないか?」

 

 そう言いながら軽やかにクルクルと回る神原。

 これにはいかに鈍感さに定評のある僕でもわかる……暗に服装を褒めろというアピールだ。

 さながら初デートで目一杯のお洒落をしてきた彼女みたいなアクションしやがって……どうすりゃいいんだよこんなもん。

 お前のアクションに対してこっちのリアクションがとりずらすぎるんだよ。

 振られた八九寺だって流石に困るんじゃーー

 

「似合っていません、壊滅的に。どうしたらそこまでミスチョイスができるのかというレベルです」

 

 僕ですら見たことのないような無機質な表情のまま八九寺は断言した。どうやらこいつは神通力がなくても人を殺せるタイプの神様だったようだ。

 

 見る間に神原の顔が一時停止でもしたかのように固まっていく。

 

「は、八九寺?さすがにそれは言い過ぎじゃ……」

 

「勘違いしないでください阿良々木さん、わたしは批判的な意味で言っているわけではありません。いいですか神原さん!」

 

「は、はいっ!?」

 

 あの全否定が批判的でなくて何だという話なんだけどーー

 しかしそれでも、八九寺に名指しされたことによって一時停止が解けた神原が変な声で返事をする。

 

「まずあなたはご自分のキャラクターというものがわかっていません!世間に求められているもの、需要と供給、ニーズというものがまるで置き去りです!どれだけ独走するおつもりですか?」

 

 仁王立ちの小学五年生に指さされながら説教を受ける高校三年生の姿がそこにはあった。

 そんな事を言い出したらこんなに弁の立つロリというのも世間のニーズというやつに沿っているのかと問いたくなるんだが……

 

「し、しかしだな八九寺ちゃん、私も女の子に生まれたからには可愛らしい服装の一つや二つしてもよいだろう?」

 

「ごもっともです。ごもっともですが、却下ですね」

 

「何故だ!?」

 

 ……そうだよな、八九寺には悪いが僕も神原の立場ならそう言いたくなるよ。

 確かに神原のロリータファッションには物申したくもなるけれど、根本的にファッションなんて個人の自由であるべきだし、そこは神原だって思春期の女の子なのだからお洒落だってしたいだろう。そのファッションセンスについては大暴走してしまっているけれど、暴走しすぎて地平線の彼方だけれど、でもそのくらいの自由はあって然るべきだ。

 と、いうか……ファッションセンスについての話題で僕が言えることなんてねえもん。

 持ってる服のほとんどがデニムとパーカーだし。

 

「ではお伺いしまが神原さん、仮にこの物語シリーズの記念ポスターを作成する企画があったとして、内容がヒロイン集合の水着ポスターだったとしましょう」

 

「なんとっ!それは素晴らしいな!そうなれば観賞用と保存用、そして使用用の三点は手に入れねば!」

 

 使用用ってなんだよ!?

 つーかそんなポンポンと物を購入するからお前の部屋はいつまでたってもあんな部屋なんだよ!汚部屋なんだよ!

 

「……また黙秘権を行使しますよ?」

 

「す、すまなかった。もうふざけないから話を進めてくれ……」

 

 さすがの無敵メンタルを持つ神原も、八九寺の無視はこたえるらしい。

 

「……では続きです。そのポスターにおいて戦場ヶ原さんがスクール水着、羽川さんはタンキニ、私が黒ビキニを着ていたら……果たして世間の反応はどうなるでしょうかね?」

 

 なんと!?

 この時、僕と神原に電流のような衝撃が走った。

 あの強気で大人っぽいひたぎにスクール水着?羽川にはせっかくのわがままボディを隠してしまうタンキニ?さらにロリを最大の武器にしている八九寺に大人の象徴である黒ビキニだと……馬鹿な!せっかくのヒロイン集合の水着ポスターにおいてなぜそんなミステイクを犯す必要がある!?

 各々の魅力を最大限に引き出すはずの水着が魅力を殺すだなんて、マッチポンプじゃ済まされないぞ!

 

「ふむ、確かにそれは余りにもアンバランスというか……私レベルの変態であればそれをも興奮へと変える事ができるだろうが世間という視野で語るならば企画倒れと言われても仕方あるまい」

 

 お前レベルの変態なんてそうそういねえよ。

 しかしあの神原にしてこのコメント。八九寺の言う事がどれだけ荒唐無稽な話なのかを如実に物語っている。

 でもこの話って何の話なんだ?いくら八九寺がプロデューサーを自称しているとはいえ、そんな企画は持ち上がってないだろう。

 

「つまり神原さん、あなたの服装はそういう事なのです」

 

「そういうこと?それはどういうことだ?」

 

「簡単に言いましょう、世間が神原さんに求める印象を大まかにまとめると『スポーツ少女』と『変態』です!断じて『女の子らしさ』ではありません!」

 

「…………」

 

 神原が再び黙った。

 というか膝から崩折れた。

 よくもここまではっきりと女の子に対して女の子らしさを求めていないなんて言えるよな、こいつ。

 もう二人の構図が部活の選手と監督みたいに見えてきた。

 

「確かにファッションは自由であるべきです。ですが、その枠は存在して当然ですよ神原さん。それは他でもないあなた自身が長年にわたって作り上げてきた枠組みなのです!キャラクターなのです!」

 

「キャラクター……だと?」

 

「ええ!仮に水着企画においてわたしに用意された水着が何万着あろうとも、わたしは迷わずスクール水着を選びますね!名札付きの!それがわたしという枠組みの中で最良にして最強の一手だからです」

 

 なんともプロ意識の高い神様だな!

 しかし成る程……先の例え話において自ら企画倒れとまで言ってしまった神原が、その実、まさに企画倒れを自演していたという事か。

 だとすればあの負けん気の強い神原でも言い返す事はできないーー凄えな神様、つーか八九寺!

 

「わたしは神原さんに魅力がないとは言っていません。むしろ魅力的な女性であると思います。しかしそれはそのようなフリフリの服装で表現するべき魅力ではないはずです!あなたにはあなたの土俵がある!違いますか、神原さん!」

 

 そう言うと、八九寺は崩折れた神原へとその手を差し伸べた。

 

「は、八九寺ちゃん……いや、八九寺真宵大明神様っ!」

 

 涙を浮かべた神原はその手をがっしりと両手で掴むーー本当、どうなってんだこの図は……

 

「私が間違っていた!いや、愚かだったと言わざるを得ない!まさか私が私のアイディンティを放棄していたとは……」

 

「失敗から学ぶのが人間です、今回の失敗を次回に生かしましょう」

 

 それだけ言うと、二人は力強く頷いた。

 これに学んで神原がロリータファッションに力を入れることが無くなると思えば八九寺の仕事ぶりも匠の技なんだけれど、本来の目的を思えば寄り道というか遠回りというか……

 このシリーズにおいて話が脱線するなんて事はもはや恒例行事なんだけれど、それにしても脱線しすぎだろ。

 

「そうとなればこの服はここで捨てるとしよう!そして今こそ私があるべき姿へとーー」

 

「どうしてそうなるんだお前は!?」

 

 ようやく八九寺と神原を率いて阿良々木家へと入ろうとした矢先、本来の(?)自分を取り戻したらしい神原が、細やかな細工の施されたロリータファッションにはおよそありえないほどの乱雑さでその服を脱ぎ捨てようとしやがった。

 つーか上半身に関しては既に下着が丸見えだった。

 

「ええい離せ阿良々木先輩!私は本来の姿に戻るのだ!」

 

「何が本来の姿だ!産まれたままの姿にまで戻ろうとしてんじゃねえよ!」

 

「世間が私にそれを求めているのであれば私は一向に構わん!邪魔立てすれば阿良々木先輩に神罰がくだるぞ!」

 

「邪魔立てしねえとお前に刑罰がくだるんだよ馬鹿!」

 

 しかも刑罰をくだすのは恐らく僕の両親だ。

 自分の後輩を逮捕したのが自分の両親だなんて仰天ニュースを黙認できるか。その上、事件現場が自宅前なんて笑い話にもなりゃあしない。笑われ話のできあがりだよ。

 そりゃあロリータファッションがここまで似合わない奴も神原をおいて他にいないだろうけれど、だからといってその服を今すぐ脱ぎ捨てられてたまるか。

 誰かに目撃される前にさっさと神原をなんとかしないとーー

 

「さっきからあたしん家の前で騒いでる奴はどこのどいつだ!ここが正義の味方、阿良々木火憐の家だってわかってやってんだろーな!ぶん殴るぞ!」

 

 前言撤回。

 

 恐らく神原以上にロリータファッションが似合わない奴、でっかい方の妹ーー

 阿良々木火憐が玄関を壊す勢いで飛び出してきた。

 

 

【008】

 

 

 阿良々木火憐と阿良々木月火。この二人について今更説明はいらないだろうーー

 僕の妹にして自称正義の味方。少し前まではファイヤーシスターズなどと名乗り、正義活動という名のテロ活動に邁進していた問題児達である。

 正義という大義名分を掲げた自己満足。ごっこ遊び。誰よりも正しく、誰よりも偽物な二人の妹。

 もっとも、そのファイヤーシスターズというタッグは年長者であるところの火憐が高校へと進学するにあたって解散したのだけれどーーだからといって姉妹という関係性までもが解散された訳ではなく、やはり今でもその猛威を存分に振るっているであった。主に僕に対して。

 

「で、これは一体全体どういうことだよ、兄ちゃん」

 

「場合によっては拷問の末に極刑だよ、お兄ちゃん」

 

 阿良々木家のリビング。ソファに腰掛ける神原と八九寺。僕を見下ろす火憐と月火。そして正座を強いられる僕の姿がこそにはあった。

 正座というより、正確には土下座だった。

 

「お願いします、僕の言い分を聞いてください……」

 

 そもそもどうしてこうなったかといえば、脱ごうとする神原を必死に止める僕の前に現れた火憐が僕をボコボコにしたのが事の始まりだ。

 どうやらこの馬鹿、僕が神原の身包みを剥がそうとしていると勘違いしたらしく、敬愛する神原先輩を守るため、ひいては自身が貫徹する正義とやらを執行するため、事情徴収の段取りをすっ飛ばして暴力に訴えたらしい。

 格闘技有段者の決断にしては思慮に欠けすぎだし、僕じゃなければ死んでいたと思うくらいの猛攻だった。というか少し死んでいたかもしれない。

 心なしか手折正弦に会ったような気もする……どれだけ短絡的なんだよこの人間兵器。

 

 しかも事態はそれだけに留まらず、最悪に最悪を上乗せする形で、騒ぎを聞きつけた小さい方の妹、月火までもが玄関先へと現れたのだ。

 こいつに至ってはキレると火憐よりも暴力的になる反面、火憐が暴走した時は冷静になる習性がある。その為、火憐が僕をボコボコにしている現場を見て

 

「ちょいと火憐ちゃん、ここで始末すると人目につくから家の中で片付けよう」

 

 と、兄を兄とも思っていない発言をして帰宅という名の拉致監禁に至った運びだ。

 正義の味方がそんな悪の親玉みたいな台詞を吐くんじゃねえよ。

 

 ちなみにこんな時こそ僕を助けてくれそうな神原はというと、突然現れて暴力の限りを尽くす火憐を目の当たりにして、完全にビビってしまった八九寺にしがみつかれて動くに動けなかったらしい。

 そりゃあ、ただでさえ人見知りな八九寺があんな現場を目撃してしまえばそうもなるだろうよ……

 

「待ってくれ二人とも、ここは私の口から説明しよう」

 

 今にも僕のことを拷問の末に極刑に処そうとしている二人に対し、口を開いたのは神原だった。

 

「え?でも神原先生は被害者じゃねーか。はっ!まさかさっきの強姦未遂の他にも被害があるのか!?」

 

「強姦未遂とか言うなや!僕はただぶべらっ!?」

 

 咄嗟に否定しようと土下座の体制から頭を上げようとしたら頭を踏み潰された。

 暴力に一切の躊躇がねえなこいつ……

 

「私が阿良々木先輩に強姦される?ははは、そんな事があるはずないだろう。仮にあったとしてもそれは被害にはならない、むしろご褒美だ。だからその足を阿良々木先輩の頭からどけてくれ」

 

「ご褒美……?まー、なんだか良くわからねえけどさすがは神原先生だぜ!器の大きさが桁違いだ。神原先生に感謝しろよ兄ちゃん」

 

「桁違いなのはお前らの頭の悪さだ……」

 

 ようやく頭蓋骨が圧迫痛から解放されたはいいが、他の理由で頭痛がしそうだよ。

 

「それで、どうして神原さんはうちの玄関先でお兄ちゃんとあんな事をしていたの?それに見たことのない子も一緒だし。ひょっとして何か困りごとかな?かな?」

 

 さっきまでの僕に対する剣呑とした雰囲気を一転させ、にこやかに神原と八九寺を見るのは月火だ。

 勿論、八九寺はそれにすら怯えたように神原の後ろへと隠れてしまうのだが。

 

「さすがは阿良々木先輩の妹さんだ。一目見ただけで困りごとだと見抜いてしまうとは、聡明という言葉が服を着ているような女の子だな!」

 

「えへへー、そんな事もありますけどね。で、困りごとって言うのはやっぱり……?」

 

「なーんだ、あたしはてっきり兄ちゃんが強姦未遂の他に少女誘拐の罪まで犯したのかとハラハラのヒヤヒヤだったぜ。ハラヒヤだったぜ。」

 

 何だよ、ハラヒヤって。腹でも冷えたのかよ。腹痛でのたうちまわりやがれ。

 ーーでも困りごとってどういう事だ?神原は「私が説明する」と言ったけれど、困ったことなんて何もないだろ。

 部屋の掃除をこの馬鹿二名に依頼する訳がないし、だとしたら何の困りごとなんだ?

 

「うむ、月火ちゃんの察しの通り、この子のことだ」

 

 そう言うと神原は八九寺の頭を優しく撫でた。

 

「実はこの子を今晩だけこの家に泊めてもらいたくて今日はお願いしに来たのだ」

 

「お、おい神原ーー」

 

 それはいくらなんでも直球すぎるだろ!?

 神原邸を出る時、こいつは妹を説得するにあたって事実を語るのみだと言った。

 しかしそれがその言葉の通りならば、それは同時にこの二人にーー火憐と月火に怪異について説明するという意味になってしまう。

 

 怪異を知れば怪異に惹かれるーー

 

 そんな事は僕は勿論、神原だって重々承知なはずだ。なのに何故ーー

 そんな意味を込めて僕は声を発したのだが、神原は僕をただ見つめて訴えてきたのだ。

 

 ここは黙って任せろ、と。

 

 死屍累生死郎の時といい今といい……どうしてアイコンタクトだけでそこまではっきりと意思の疎通ができるんだこいつ?

 

「その子を泊めるっつーのは構わないけどさ、そもそもその子はどういう関係の子なの?いくら神原先生の頼みとはいえ、素性の知れない子を親の許可もなく預かれないぜ?」

 

 質問したのは火憐。いくら馬鹿だとはいえ、火憐だって正義の味方を自負している上に僕なんかよりは遥かに優秀で通っているのだ。

 ここでそんな正論が出てきても不思議はない。

 ここは任せろと言ったは良いが、これをどうやって説明するつもりなんだ。

 

「この子は私の友人だ」

 

 たった一言、神原ははっきりと言いきった。

 それは神原にしがみついていた八九寺ですらもびっくりするほどに。

 

「私の友人であり阿良々木先輩の友人でもある。羽川先輩にとっても大切な友人だ」

 

「友人って……結構な歳の差があると思うんですけど?」

 

「なんだ?月火ちゃんは友達に年齢制限を設けているのか?」

 

「いや……そんなことはないですけど」

 

 当たり前のように問い返す神原に対して尻窄みな返答をする月火。

 そんなことはないと言う月火の言葉はその通りの意味だろう。

 こいつの交友関係はとんでもない広さなのだ、年上や年下の友人だってどれだけいるかわからない。もっとも、僕と八九寺ほどに年齢が離れた友人がいるとも思えないけれど。

 

「この子を泊めてもらいたいというのは私と阿良々木先輩からのお願いだ。ただ火憐ちゃんの言う両親の許可というのはあいにくだが取ることはできない」

 

「え?どうして?」

 

「この子は両親というものを持たないのだ」

 

「え……」

 

 普通なら言いにくい事を神原は迷わず言った。

 全く予想外な返答なだけに、さすがの火憐と月火もこれには言葉を詰まらせる。

 

「こらこら、そんな顔をしてはこの子に対して失礼だぞ?それに私だって両親はいない。そんなに悲観的なリアクションをされてはこの子や私も挨拶に困る」

 

「いや、そんなことは……すいません」

 

「ごめんなさい……」

 

 そうか……神原は自身が生きているというだけで両親とは死別しているんだった。

 奇しくも八九寺と同じ、交通事故という形で……

 だからこそ神原はあんなにも言いにくいことをはっきりと口にできたのだ。

 そして、悲観的になるなというのは火憐や月火は勿論ーー何よりも、八九寺に向けての言葉だったのかもしれない。

 こいつは生きているとか死んでいるとかの概念すら飛び越えて、ただ真っ直ぐに想いを伝える奴だからな。

 死屍累生死郎の時、忍に対してそうだったようにーー

 

「まあ、そのような反応になってしまうのもわからなくはないがな。話は戻ってこの子を泊めてもらいたいという件なのだが、理由はその辺にあるのだ」

 

「つまりその子の家庭の事情ってことですか?」

 

「そう。この子は家族というものから離れて久しい。そしてちょうど明日は家族と離れたその当日に当たる日なのだ、私と阿良々木先輩はそんな日にこの子を一人にしておきたくはない。そんな日くらい楽しく過ごしてもらいたい」

 

「なるほど……そういう事情だったのか……」

 

「確かにこれは困りごとだね……」

 

 詳しく説明された訳ではないにしろ、内容の大筋を理解した火憐と月火は大きく頷いた。

 

「本来なら私の家に招待しても良かったのだが生憎、私の家もそう賑やかなもてなしはできなくてな。なにしろ老夫婦と私しかいないのだ。その点、同性で人望に厚い二人ならばまさに適任だと思ったのだが……迷惑だったか?」

 

「そんな……迷惑だなんて事はねーけどさ」

 

「あー、いや無理なら構わないのだ。なにせ二人は正義の活動で忙しい身だもんなー。こんな小さな女の子が寂しい思いをしていても手を差し伸べられないくらい忙しいもんなー」

 

「…………」

 

 僕は見逃さなかった。今までどこか気まずそうにしていた二人の表情が強張るのを。

 つーかこの手口ってーー

 

「はー、この世に本当に正義の味方がいるならこんな可愛い女の子をほっとくなんてできるはずないのになー。この世に正義なんていないのかなー」

 

 ……この後輩、わかっててやっていやがる。

 ヴァルハラコンビはどっちもこうなのか!?つーかどう考えてもひたぎの影響だろこれ!?

 

「ちょっと待ってくんなー神原先生!」

 

「正義に助けをお求めだね神原さん!」

 

「ん?どうしたのだ二人とも?さっきまであんなに気まずそうな顔をしていたのに」

 

「気まずそう?記憶にねーな!」

 

「うんうん。気まずそうどころか気おいしそうな顔をしていたくらいだよ!」

 

 完全に火がついた……

 兄である僕にはわかる。というか知っている。

 こうなったこの二人はもう止まらない。それこそ火のついた花火のように突き進むことしかできない。

 状況を飲み込めていないまま目を白黒させている八九寺には申し訳ないが、お前の所有権はもう決定されちまったよ。諦めろ、八九寺。

 

「しかし二人は多忙な身であろう?無理はしなくていいのだぞ?」

 

「はっ、無理だって?舐めてもらっちゃあ困るぜ神原先生!今日に限りファイヤーシスターズの再結成だ、なあ月火ちゃん!」

 

「おうともさあ火憐ちゃん!今晩のこの子の笑顔は正義そのものであるファイヤーシスターズが保証しちゃうよ!」

 

「おおっ!そうかそうか、それはありがたい!さすがは直江津市の守護神とも名高いファイヤーシスターズだな!徳高望重(とくこうぼうじゅう)とはまさに二人のことだ!」

 

 どうやらこの駆け引きは神原に軍配が上がったらしい。考えてみればあの忍を一対一で負かすような女なのだ、最初から心配なんてしなくても神原ならばどうにかしていただろう事は明白だったのかもしれないーー

 

「さぁ、そうと決まればこの子の紹介をせねばなるまい。ほら真宵ちゃん、こっちへおいで」

 

 これまで沈黙を守ったまま、神原の後ろへと隠れていた八九寺の両肩に優しく手をまわし、火憐と月火の前へと姿をあらわす。

 いつもの天真爛漫な様子は伺えず、持ち前の人見知りをいかんなく発揮した八九寺は俯き気味にその場に立っていた。

 

「この子は八九寺真宵ちゃん、小学五年生だ」

 

「は、はじめまして……八九寺真宵です」

 

 普段の八九寺を知る者としては本当に八九寺なのかと疑ってしまうような弱々しさだった。

 まるで借りてきた猫だな。

 

「今は初対面で緊張してしまっているが本当はこの子はすごい子なんだぞ」

 

「すごい子?格闘技のジュニアチャンピオンとか?」

 

 実の妹の中で『すごい=強い』の図式ができあがってきることに戦慄するわ。

 そりゃあ格闘技のジュニアチャンピオンだって十分すごいだろうけれど、もっと他にもあるだろう、すごい人って。

 

「確かに八九寺ちゃんの精神力は格闘技を始めとするスポーツ全般に通じるものはあるがジュニアチャンピオンではないな。何を隠そうこの子は神様なのだ!」

 

「か、神様っ!?」

 

 僕と八九寺が再びフリーズした。

 

 ーーじゃなくて、さっきは怪異についての説明をあんなに格好良く回避したのに何を見事な自爆を披露してくれてんだよこの後輩!?

 

「神様って言われてもなあ……この子のどの辺が神様なんだ?あたしにはわかんねーよ。月火ちゃんはわかるか?」

 

「うーん……残念だけど私にもわからないね。皆目見当もつかないね」

 

「ふふ……阿良々木先輩の妹ともあろう二人がこの子の真価を見抜けないはすがあるまい。が、あえてこの子のすごさを説明させてもおう」

 

 こうなってしまえばもう止められない。

 いや、止めようにも僕は驚愕と動揺で絶句したままだったし、本人である八九寺にいたっては人見知りと予想外な暴露でほとんど気絶に近い状態だっただけなんだがーー

 

「まず、この子は小学五年生にしてこの街の地理を誰よりも熟知している!おそらくはフリーハンドで精巧な直江津市の地図を描ける程度にはな!直江津市の伊能忠敬といえばこの八九寺真宵ちゃんをおいて他にいまい!」

 

「な、なんだって!?」

 

「ほえー、それはすごいねえ」

 

「それだけではないぞ?八九寺ちゃんはあの羽川先輩ですら一目おくほどの日本語のプロフェッショナルなのだ」

 

「あの翼さんが!?おいおい……そりゃあとんでもない神童じゃねーか!」

 

「これにはさすがの月火ちゃんも驚きだね。羽川さんの名前が出るだけで私達からの評価も上げざるを得ないよ……」

 

 硬直しながらも僕と八九寺は何かに納得しはじめていた。

 羽川のネームバリューは勿論そうなんだけれど、それよりも神原の演説じみた説明にこそ、だ。

 神原はここに至るまで、ひとつとして嘘をついていない。その上で、八九寺が神様であるということを納得のいく説明で通そうとしているーー

 

 怪異の嘘は『くらやみ』に呑まれる。

 

 この法則に基づいて八九寺を紹介するのであれば、八九寺が神様であることは説明の絶対条件ーー

 もし仮に、八九寺のことをどこにでもいる普通の小学五年生として紹介したならば、その正体を知る僕や忍がここにいる以上、十中八九『くらやみ』が現れることだろう。

 それをあえて誇大妄想のような誇張表現をすることで、ギリギリのライン……いわばグレーゾーンに話を納めている。

 

 大胆な嘘こそ人は騙されるとは良く言ったものだが、ありえるはずのない真実だったとしてもそれは同じなのだ。

 

「さらに八九寺ちゃんの伝説は挙げればキリがない程にあるのだが……それらを抜きにしても、この可愛さでこの有能さ、これを神様と言わずに何と言う!ちなみに阿良々木先輩や羽川先輩の間では八九寺ちゃんを目撃した日は幸運に恵まれるというラッキーアイテムのようなマスコット的存在までこなすマルチ神様だ!」

 

「す、すげえ!神原先生がここまで絶賛する小学生……言われてみればどことなく神々しさを感じるぜ!」

 

「確かに火憐ちゃんや神原さんみたいなタイプの人が褒める相手って常人とは違った才能を持っていそうだもんね。これは参謀家の私でもノーマークな逸材だったよ」

 

 すげえ……本当に真実だけを語って二人の妹を攻略しちまった。

 真実さえも人を騙す武器にするっていうのは神原のような大胆不敵な奴だからこそできる芸当だろう。少なくとも僕みたいな肝の座っていない奴には到底真似できない。

 もしくは相当に嘘に精通した、例えば詐欺師のような奴ならあるいはやりそうだけれどーー

 

「二人にもわかってもらえたみたいだな!そういう訳で今晩は八九寺ちゃんをよろしく頼む」

 

「任されたぜ!今日という日が楽しすぎて明日の朝には腹筋が割れてたとしても責任はもてねーけどな!」

 

「そういうことだからよろしくの覚悟しておいてね、真宵ちゃん」

 

 こうして、八九寺は阿良々木家へと招き入れられたのだった。




【次回予告】


「お初にお目にかかる、拙者は死屍累生死郎。此度は次回予告なる催しに抜擢された次第、以後お見知り置きを」


「しかし難儀なことに、拙者が復活するまでの間に日本という国も変わり果てたでござるな」


「あの時、阿良々木殿が購入しようとしていた文献。あのような不埒な書物が世に出回る時代になろうとは……誠にけしからん」

「幻滅とまでは言わぬがしかし、こうも大和の男子が腑抜けた姿を目にする日が来ようとは……拙者、誠に痛恨の極みでござる」


「そういえば、阿良々木殿と接触した本屋と呼ばれる書店、そこで見かけた『刀語』なる文件に登場する四季崎なる刀鍛冶……拙者のよく知るところの心渡をうった刀鍛冶と同名であった。偶然とはいえ、昔を思い出して拙者も心踊って拝読したものだ」


「次回『するがダウト・其ノ肆』」


「次に出番を頂いた暁には、キスショットも頂くのであしからず」

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