幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第7話 スペルカード(後編)

 前回までのあらすじ

 

 藍しゃま が あらわれた!

 ユニゾンデバイスキター「だが断る」ってええ!?

 こうなったら、弾幕でOHANASHIさせてもらうの!!

 

 対決する前に、藍さんとルールを確認します。

 弾幕を打ち合うという共通点を除けば、スペルカードルールには様々な形態が存在します。

 純粋に弾幕のみ、格闘戦アリ、他にも細かい差異は多数存在し、加えて私は、こちらの世界でのルールを全く知らず、常識の食い違いも発生し得ます。

 確認という名の設定作業で、どれだけ自分に有利な条件を持ってこれるかはかなり重要なのです。

 二人であーだこーだと言い合った結果、今回のルールは次のようになりました。

 

・スペルは3枚。全部使い切るか、スペル未宣言時に被弾すると敗北

・スペル使用中はカード毎にパターンを決めた弾幕のみ許可。未宣言時の通常弾幕の時はアドリブ可

・スペル宣言から60秒経過するか、スペル中に被弾するとスペルブレイクとし、スペルを終了させる。任意の終了も可能

・弾幕は非殺傷

・霊撃、結界の類は禁止

・格闘戦も禁止

 

 こんな所になりました。スペル枚数は、私が3枚しか持ってないのでそれに合わせてもらいました。

 私は霊撃と結界使えないし、4歳児対体長30センチで格闘なんて無理なのを考えると、そう悪くない条件になりました。

 

「そろそろ始めるぞ、準備はいいか?」

 

「いつでもどうぞ」

 

 そう言って、互いに10メートルほど離れて向き合います。

 所定の位置に付くと、藍さんの方から魔法に似た力の流れを感じました。

 何なのと考える暇もなく術式は完成し、周囲が少し暗くなり、半径10メートルの球状の空間に包まれました。

 

「これは……、結界?」

 

「派手になるかも知れんからな。後はフィールド制限の意味もある。」

 

 確かに無制限に逃げられると困りますしね。向こうが負担してくれるのなら、有難く受け取っておきましょう。

 

「では、始めようか」

 

「ええ」

 

 二人の間に張りつめた空気が流れます。私が投げた小石が落ちると同時に、二人同時に開始の宣言をしました。

 

「「Set Spell Card……」」

 

「「Attack!!」」

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 開始と同時にお互い動き出す。

 

「まずは、こっちから!!」

 

 シュータを5発生成し、時間差で打ち込みます。弾幕ごっこ用シューターには雀の涙程の魔力すら込められていませんが、当たりさえすればいいので問題無しです。

 

「まだまだだな」

 

 言葉の通り、迫ってくるシューターをひょいと飛んで避けられます。

 っていうか、ちっこいから当てにくい!!

 

「まだまだっ!」

 

 続いて5発、様子見で打ち込みます、こっちはバカスカ撃てるほど魔力量が無いので、物量任せの戦法は無理です。向こうのミスを誘って癖や隙を見抜いて一発。それ以外に勝利方法がありません。

 次も微妙に速度を変えて撃ち込んだのに、取るに足らない感じで回避されました。

 ……隙、あるのかなあ?

 

「そろそろ、こっちからもいかせてもらおうか」

 

 藍さんがそう言うと、その小さい体から圧倒的な魔力?が発生しました。

 私は恐怖で震える足をごまかしつつ、襲い来る弾幕に身構えます。

 

(ゲーム通りの弾幕を撃ってくるかは分からないけど、もしそうなら対処法だって……。)

 

「いくぞ。」

 

 そして放たれる、視界を埋め尽くすほどの圧倒的な弾幕。

 そこに込められた魔力量には恐怖しか感じませんでした。

 

(これで非殺傷!?冗談じゃないですよ!!)

 

 SLB喰らった犠牲者達も同じ事考えたんだろうか、と現実逃避しかけた思考を無理矢理戻し、迫り来る弾幕を回避していきます。

 弾幕のパターンは固定軌道の弾幕と、それに隠れるようにランダムで弾がばら撒かれてきます。

 パターンは分かったので、あとは回避すればいいだけなんですが

 

「反撃して来ないのか?」

 

「くっ!!」

 

 弾幕1つ1つに込められている魔力を考えると、最小限の動きでグレイズし続けるなんてことは出来ず、どうしても回避動作が大振りになってしまい、シューターで反撃する余裕も無くなって来ます。

 

(スペルを使うしかないのかなあ)

 

 そう考え、懐からカードを取り出し確認したのですが

 

(あ、やば!コレ使えない)

 

そのうちの1枚が「ある条件」を満たさないと使えないことに今更気付き、愕然とします。

 

「余所見とは余裕だな。」

 

「っ! やば!!」

 

 油断を付かれ、こっちに飛来する弾幕に対応するのが遅れる。

 避けきれないと判断したわたしは、手持ちの中から1枚を抜き出して宣言します。

 

「散弾「スターボウブレイク―Easy」!!」

 

 宣言と同時に弾幕を放ちますが、私のスペルは所詮本物を真似たニセモノ。

 発動したからといって相手の弾幕を消す効果など無く、避け切れなかった1発が左肩に命中します。

 

「あうっ!!」

 

「これでまずは1枚目、だな。」

 

 結局1発しか撃てないままスペルブレイクし、貴重なカードをただの身代わりとして使う羽目になってしまいました。でも、それよりも

 

(痛い、痛い、痛い! コレ本当に非殺傷設定なの!?)

 

 肩口を見ても、特に外傷も焦げ跡も無い。

 でも感じる痛みは確かで、それが私の精神を侵食していきます。

 

「そら、次行くぞ」

 

 藍さんがそう言うと先ほどと同じ弾幕がこっちへ向かってきます。

 もう同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。痛いの嫌だし!!

 迫り来る弾幕を避けながら、藍さんの動きを観察します。

 何とか隙を突かないと、私に勝ち目は無い。

 でも現実は非情で、そんな隙などある訳無く

 

「どうした? 動きが鈍ってきたぞ。息が上がってるんじゃないか?」

 

「うる……さいです。まだまだ……行けますよ。」

 

 弾幕を回避し続けている体が、休息を求めて悲鳴を上げています。

 当たり前です、強がっていても、こっちはたった4歳の小娘なんですから。

 加えて常時強大な魔力に晒されている精神的疲労。

 正直、何でまだ動けるのか自分でも不思議です。

 だけど、そんな状態がいつまでも続く訳がなく

 

「あっ!」

 

 足をもつれさせて転んでしまう。目の前には弾幕1発。回避は間に合いません。

 

「贋作「殺人ドール」っあぁぁぁ!!!」

 

 辛うじて2枚目を宣言した直後、弾幕が右足に被弾し、1発の弾幕を撃つ余裕も無く、あっという間にブレイクしてしまいました。これで2枚目も、ただの身代わりとして消費されたことになります。

 残るスペルはあと1枚、でもそれは今はまだ―

 

 そんな事を考えていると、藍さんが弾幕を止めてこちらへ飛んできました。

 

「なあ、キャロ」

 

「……なんですか」

 

「もう、止めにしないか?」

 

「……」

 

「お前じゃ私に敵わない。それは身をもって理解しただろう?この辺で手打ちにするべきだ。お前だってこれ以上痛い思いをするのは嫌だろう?」

 

 その言葉は、現在進行形で痛い思いをしている私の中に、侵食するかのように入り込んできます。

 もう良いじゃないか、よく頑張ったじゃないか。

 そんな声が心の中から聞こえてくる気がして、そのまま倒れそうになります。

 

「今ならまだ決着が着いてないから、キャロは私の要求を聞く必要は無い。キャロにとっても悪くない話だと思うが」

 

 いいじゃないか。ここで諦めろ。

 そんな思考が頭を占めていく中、どうしても聞く必要があったことを思い出しました。

 

「藍さん、1つ聞かせてもらっていいですか?私に勝った後は、どうするつもりなんですか?」

 

「さっきも言っただろう。私に相応しいマスターを探して、あちこち回るつもりさ」

 

 さも当たり前のように藍さんは笑顔で返してきました。それに私は。

 

「それ、嘘ですよね?」

 

 確信をこめ、負けないくらいの笑顔で返してやりました。

 

「……どうして、そう思う」

 

「あの、本の存在です」

 

「……」

 

「あのデバイスは、言ってみればあなたの本体そのもの。なのにあなたは、さっきここから立ち去ろうとする時に本を持って行かなかった。可能性は2つ。自力で持っていくのが不可能である場合と、最初から持っていく気が無かった場合。そのどちらの場合でも、新しいマスターを探しに行く、という発言はおかしいんです。話、聞かせてもらいますね」

 

「……バレていたか」

 

 そう言うと藍さんは先程までの笑みを消して無表情で話し出しました。

 

「別に大したことじゃない。単に私の存在が、その本に縛られているというだけの話だ」

 

「それって、どういう?」

 

「言葉通りの意味だ。その本から離れることが出来ず、封印に干渉するのも無理だということだ。」

 

「じゃあ、もし私が負けたら、本当はどうするつもりだったんですか?」

 

「別にどうもしないさ。契約失敗で書の中に逆戻り。新たにパスワードを解く者が現れるまで、書の中に封印されるだけの話だ」

 

「藍さんは、それで良いんですか?」

 

「良いも悪いも無い。そういうものだ」

 

 ブチッ!!

 その藍さんの物言いに、私は今まで我慢していたものが一気に噴き出すのを感じました。

 

「……ふざけてるんじゃ、ないですよ」

 

「き、キャロ?」

 

 藍さんが驚いていますが知ったこっちゃありません。私は魔力を錬って、強めのシューターを放ちます。

 藍さんが避けたそれはそのまま飛んでいき、本のある辺りに着弾しました。

 

「そんなので良いわけ無いでしょう! 普通、もっと外の世界を見たいとか、いろんな経験をしてみたいって思うでしょう! 本の中で一人ぼっちなんて絶対嫌でしょう!!」

 

 何でこんなに怒ってしまっているのか、正直自分でも良く分からない。

 けど、このまま藍さんを見過ごすっていうのは、どうしても我慢ならない。

 これが私の我侭に過ぎないんでとしても、絶対に曲げたくない!!

 

「もう諦めたりしません。あなたが引きこもろうとするのなら、弾幕当てて無理矢理にでも連れ戻します。あなたを倒して!!」

 

「……現実を見ろ。既にスペルは2枚使用、足も被弾してまともに動かない、そんな状況でどうやって勝つつもりだ?」

 

「そうですね。確かに今のままでは勝てませんね」

 

「なら」

 

「でも」

 

 藍さんの言葉を遮って、私は藍さんの後ろを指差します。

 そこには、今さっきシューターを当てられて目を覚ましたフリードが、こちらに飛んでくる姿がありました。

 

「2対1なら、どうですか?」

 

「竜、だと!?」

 

 これで条件が揃った。少し休んだおかげで体も動く。それなら、迷う事は無い!!

 

「竜魂召喚……スペルカード、「召竜「フリードリヒ」」!!」

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 正直言って、もう終わりだと思っていた。

 そもそも、4歳の子供がここまで出来る事自体異常なのだ。

 初めは苦しませないように1発で終わらせるつもりだった。

 2回のスペル宣言で被弾を相殺されたせいで、さらに痛い思いをさせることになった。

 この子は優しい子だ。これ以上この子を傷つけたくはない。

 そう思い、何とか降参してくれるように説得に乗り出した。

 逃げ出すのが嘘だと見抜かれたのは焦ったが、これで納得してくれると思った。

 なのに

 

「行って、フリード!」

 

 今目の前で、キャロと竜の弾幕による波状攻撃が襲い掛かってくる。

 竜が大量の弾をばら撒いてこちらの動きを制限し、そこをキャロが打ち抜いてくる。

 

 弾幕決闘において、複数人というのは別に反則にはならない。

 式神「橙」のように、サポートに付いた人がオプションとして弾幕を張るのは認められているのだ。

 一人増えたことで確実に難易度を上げた弾幕は、私と言えど余裕をもって回避できるものではなく、お返しに打ち出す弾幕量も減ってしまった。

 キャロの方を見てみると、たどたどしい動きながらも弾幕をグレイズしており、隙をみてはこっちに打ち込んでくる。

 なまじ怪我をしてまともに動けない分、最小限の動きで避けているようだ。怪我の功名とはこのことか。

 自身に迫る弾幕の威力に恐怖しながらも、決して止まろうとはしないキャロを見ていると

 

「どうして……どうしてお前はそこまで頑張る? 私と契約なんかしても、ロクなことなんか無いぞ! 私みたいなデバイス持っていたら、絶対誰かに狙われるぞ! 辛いだろう? 苦しいだろう?今すぐ諦めていいいんだぞ! 私みたいなデバイスの事なんか、放っておいてくれ!!」

 

 思わず叫んでしまう。全く、私は何を言ってるんだ!?

 なのに弾幕は止んだりしない。それどころか、より一層の激しさで私の方へ向かってくる。

 

「放っておける訳、無いじゃないですか!!」

 

 なんで、なんでキャロはそこまで……。

 

「さっきも言いましたけどねえ、私は一人ぼっちになるのも、それを見るのも大っ嫌いなんですよ!!それに……。」

 

 

 

 

「そんな顔で泣いてる藍さんを見て、放っておける訳無いじゃないですか!!」

 

 

 

 

 何!?わたしが、泣い、て……。

 

 言われたことが信じられず、思わず目を擦る。

 そして手に付いたものに吃驚し、正気に戻ったその時には、目の前に、桃色の弾幕が迫っていた。

 

 避けなければいけない

 

 そう思うも、体はピクリとも動いてくれなくて

 

 ならばスペルで相殺しないと

 

 手は震え、まともに札を持つこともできなくて

 

 私はなす術もなく桃色の弾幕に被弾し、その少しも痛くない弾に彼女の優しさを感じながら

 

「キャロ、貴方の……勝ちだ」

 

 視界の先で倒れていく少女に、この決闘の幕引きを宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼

 

「・・・…御苦労。良くやってくれた」

 

「お前は……ああ、何だ、そういう事だったのか。なら、私は……」

 

「ああ、そうだ。お前はもう休め。ここからは私の仕事だ」

 

「……あの子は良い子だ。偽りに過ぎない私に、本気で向かい合ってくれた。あの子が悲しむような事にならないよう、よろしく頼む」

 

「言われずとも分かっているよ。じゃあ、お休み」

 

「ああ」




 移転に伴い細かく修正した回。
 設定の矛盾が一番顕著にでてしまっている回がここであり、ちょっとやそっとの改訂では修正しきれないのが悲しいところ。
 プロットを組まないとこうなる。

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