幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第6話 スペルカード(前編)

 数多の失敗を乗り越えて遂にここまで来た。

 残機は既に無し。ボムは1つ、残すスペルはあと1つ。

 相手のスペル宣言の後、今までの中で最難関の弾幕が迫って来ます。

 たった1回のミスで全てが終わる緊張感の中、迫ってくる弾幕を見切り、かすり、最小限の動き

 

でかわしていく。

 こちらも弾幕で応戦しつつ避け続けていると、今までとは段違いの密度の一群が飛来して来ます

 

 少し厳しいが、回避不能なレベルではない。僅かな隙間を見つけてグレイズを開始して

 

 ピチューン!!

 

「ああああああああ! 抱え落ちいぃぃぃぃぃ!?」

 

 ボムは惜しむな、名言です。

 

「藍しゃまが倒せない……」

 

 コントローラーを置いて「うなだれている」私。

 さっきまでは「それ」が私だったのに、いつの間にかその姿を客観的に見ている自分がいること

 

に気付きます。

 

「そっか。コレ、夢か」

 

 それにしても、昔の事を夢に見るのは久しぶりです。

 毎日ゲームやって過ごしていた普通の学生だったので、コレといった凄いイベントも無かったせ

 

いか、あんまり思い出すこともありませんでした。

 そうしているうちに場面は変化し、私がこっちで生まれた後のシーンが再生されます。

 もうちょっと前の私を見ていたかった気もしますけど……、まあゲームしてるだけだし別にいい

 

か。

 自分の記憶を元に構成されているからか、生まれる部分は飛ばされ名前を付けられるシーンから

 

始まり、次々と思い出が再生されていき

 

「あ、ちょストップ!!」

 

 制止しても止まることなく流れていきます。その過程で1歳の時のシューター発射、3歳の時の

 

弾幕ごっこ、つい先日の竜召喚儀式等、できれば忘れてしまいたい黒歴史が次々に上映されていき

 

ます。コレナンテ公開処刑?

 

「も、もうらめええええええええ!」

 

 舌足らずになりながら絶叫しても無駄で、昨日の時点の出来事まできっちり再生され、それから

 

ようやく、意識が浮上していきました。

 

 おはようございます。キャロ・ル・ルシエです。朝っぱらからテンション最悪です。ライフはも

 

う0です。

 さっきまでの夢のせいで軽い鬱状態です。死ぬまではいきませんが動きたくないです。

 あと5分だけと自分に言い訳しながらフリードを抱き寄せて二度寝に突入します。

 でもこの時、顔にかかっていた部分の毛が私の鼻をくすぐり。

 

「ひっ……、くし!」

 

 小さいくしゃみが出てしまい、おかげで眠気が飛んでいきました。

 しょうがないです。いい加減起き

 

 フリードに毛……、だと!?

 眠気なんか一瞬で消えたわたしは、驚いて飛び上がります。

 

「よっ」

 

 いまの誰ですか!?

 

 自分のいた所を見ると、そこには未だパニック中のフリードと、枕代わりにしていたあの本、そ

 

して青色の導師服を着た体長30センチ程度の、九本の尻尾がついた女性がいました。

 この外見、サイズこそ小さいけど、ひょっとして―

 

「やっと起きたか。待ちくたびれたぞ。」

 

「へ? へ?」

 

 あなた何なんですかとか何でちっこいんですかとか聞きたい事は色々あるのに、混乱して上手く

 

言葉になりません。

 

「とにかくお前も、あとそこの竜も……、もう少し落ち着け。」

 

 それからしばらくして、ようやく落ち着くことの出来た私は、外見的特徴から藍しゃま(仮)と

 

脳内で勝手に手に名付けた御仁と向かい合って座っています。フリードはいつまで経っても落ち着

 

きそうになかったので、いつものように黙らせておきました。

 

「やっと落ち着いたか。まったく、私の封を解いたのがこんな子供だとはな。」

 

「それで、貴方は一体何なんですか?」

 

「そうだな。今から説明しよう」

 

 子供呼ばわりに一瞬噛み付きそうになったものの、話が進まなくなりそうなのでスルーしました

 

。事実ですし。

 

「まず初めに、自己紹介からいこうか。私は藍、ユニゾンデバイスみたいなものだ。」

 

 ユニゾンデバイス!?

 あの本、外れ品どころか大当たりじゃないですか!!

 それにしても、やっぱり名前は藍なんですね。作り手の趣味が透けて見えます。

 

「私はキャロ・ル・ルシエです。あっちで伸びているのはフリード」

 

「キャロにフリードか。分かった」

 

「それでですね、藍さんは何者なんでしょうか?」

 

「さっきユニゾンデバイスみたいなものだと説明したが?」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「???」

 

 私が聞きたかったのは、封印されていた経緯とか細かい性能とかなんですが、ひょっとして通じ

 

てない!?

 

「ククッ……」

 

 いや、こいつ笑ってる。絶対分かってやってるよ!!

 即座に指先に魔力を集中してシューターを放つもひらりと避けられてしまい、ストレスが溜まる

 

一方です。

 

「まあそう怒るな。ちゃんと説明してやるから落ち着け」

 

「むぅ……」

 

「まず最初に、私が何者であるかだな。そんなに大した話ではないんだが……。私はこの本の内部

 

に封印されているデバイス「夢幻珠」の管制人格だ。ユニゾンデバイスみたいなものだといったが

 

、厳密には微妙に違う。まあそれはおいおい語るとしよう。「夢幻珠」は、とあるお方がデバイス

 

製作の技術と、自身の持っている知識を組み合わせて作ったデバイスだ。契約によって主を認証登

 

録し、他の物には使う事はできない。作られたのはごく最近で、ロストロギアというわけではない

 

、ざっとこんなところだな。」

 

 みたいなもの、とか曖昧な表現が胡散臭いです。製作者が分からないのも気になります。

 ただそれを差し引いても貴重なデバイスなのは確かなようです。

 売っ払うつもりだったのが嬉しい誤算です。

 

「えっとね藍さん、封印を解いたの私だから、私がマスターってことでいいのかな。」

 

「まあ、それが妥当だろうな。」

 

「じゃあ、さっそく契約「だが断る」ええっ!? ちょっと、ソレどういう事ですか!?」

 

「確かにそれが筋だろうが、私とて力のない主に仕える気は無い。それに、私のようなデバイスを

 

持っていたら、いずれ誰かに狙われる。悪い事は言わん、止めておけ。」

 

 はっきり言われてしまいました。確かに今の私はただの4歳児です。力なんてあるはず無いです

 

けど……。

 

「せっかく封印が解かれたんだ。私を使いこなしてくれそうな、いい主を探しにいくか。」

 

「ま、待って!!」

 

 そう言って立ち去ろうとする藍さんを私は必死になって止めますが、藍さんは腕の間をすり抜け

 

て飛んでいきます。

 急いで走って追いかけますが、引き離されはしませんが追い付くことも出来ません。

 このままだと体力の問題から、いずれ逃げ切られてしまいます。

 何かいい手は……

 

「ちょっと待ってください!!」

 

 何も思いつくことが出来ず、時間稼ぎのために必死で呼び続けます。

 泣き声混じりで叫んだのが良かったのか、私の間合いの1歩外あたりで、藍さんは停止してくれ

 

ました。

 

「……何だ?」

 

 考えろ、キャロ・ル・ルシエ。多分これが最後のチャンス。

 

 無理に捕まえても逃げられる。最悪返り討ちに遭う。

 残されたのは何らかの方法で、私を主と認めさせること。

 実力を証明し、なおかつ拒否権を与えない方法は―

 アレしか無い。この場で通用するかは分からないけど、やらないよりはずっとマシ!!

 

「話が無いなら立ち去らせてもらうぞ」

 

「待って!!」

 

 今にも飛んでいきそうな様子に慌て、私は懐から数枚の札を取り出します。

 札には子供の落書きのような手書きの絵と、その下に文字が書いてます。

 遊びで作ったものなんですが、人生何が役に立つのか分かりません。

 藍さんを見ると、こちらの意図が伝わったのか、ほぅ、という視線をこちらに向けています。

 どうやらこのルールはちゃんと通用するみたいですね。良かったです。

 

「それで、そんな紙切れで一体何をするつもりだ?」

 

 藍さんがにやにやと笑みを浮かべて聞いてきます。

 決まってるじゃないですか。

 

「スペルカードルールに従い、弾幕決闘を申し込みます。私が勝ったら、あなたには私のデバイス

 

になってもらいます。まさか、逃げるなんて事しないですよね?」

 

「吠えたな小娘。良いだろう、その挑発乗ってやる」


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