幻想幼女リリカルキャロPhantasm   作:もにょ

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第76話 彼岸帰港

「……ふうん。で、結局その後どうなったんだい?」

 

「何とか脱出は出来ましたよ。じゃなきゃ、四年ほど早くここのお世話になってますから」

 

「はは、違い無い」

 

「けどそんな私と入れ違うようにフェイトさんが最深部に突入しちゃって。あの時は大変でしたねえ」

 

「またフェイトさんかい? 何というか、その人も大変な目に遭ってるんだねえ。まさか、態とじゃないだろうねえ?」

 

「うーん、どうなんでしょう? 確かに原因は私ですけど、決してそういう風にしようなんて意図は誰も持ってませんでしたよ?」

 

「不幸な行き違い、って奴かい? 成程、災難だ」

 

「どっちが、ですか?」

 

「両方、だよ。お互い適切な接し方が分かってないからそんな事になる。距離感さえ掴めれば、もう少し上手くやれたと思うんだけどねえ」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうもんさね」

 

 

 

 

 此岸と彼岸の境界に流れている三途の川。その川辺にある岩場の一角で、私は小町さんと世間話中です。

 私が小町さんを起こしたのは、死神である彼女にしか出来ない事があったから。

 船に乗せてもらって向こう岸に行こうと思ってたんですけど、いつの間にかこうやって昔にあった笑い話(主にフェイトさんオチ)をネタに井戸端(川端?)会議を開催している自分がいました。

 誘導されたような気もしますけど、まあ良いです。小町さん聞き上手だし、話してて楽しいのは事実ですから。

 

「ま、結局こうなっちゃったんですけどね」

 

「何がさ?」

 

「今こうしてここにいる事ですよ。好き勝手やってた訳だから自業自得なんですけどね」

 

「聞いた感じ、随分とまあ面白い人生だったんだねえ。でも、少し意外だな」

 

 私の話を聞いた小町さんは呆れ半分といった感じで苦笑しています。

 客観的に見たら、私の人生ってコントそのものですからね。

 今思い返してみて、自分の事ながらそう思う。

 

「あはははは……、やっぱり、そう思います? で、意外って何がですか?」

 

「いやさ、アンタまだ若いんだから、もっと長生きしたかったんじゃないかって。ここに来る奴って現世に未練たらたらだったり、そもそも自分が死んだ事に気付いてなかったりする奴ばっかりだから」

 

「ああ、そういう事ですか」

 

 言われてみれば確かにそうかも。

 キャロとして生きるようになってから今年で10年目。人間の寿命と妖怪のそれ、どっちで考えたとしても、人生はまだまだ始まったばかり。

 楽しい事も辛い事も、これから沢山出会う筈だったんだろうから。

 ……でも―

 

「まあ、なっちゃったものは仕方ないですからね。死んだら三途の川を渡って閻魔様の裁きを受ける、そういうシステムなんですから」

 

 言外にそろそろ仕事してくれませんかと訴えながら、私は小町さんの疑問に答える。

 死んでも話が出来るのは意外だったけど、だからと言って何が変わる訳でもない。

 こうして死んでしまっている今、私が出来る事なんてそれ位しか無いんですから。

 

「……。おっと、ちょっとばかし話し込んでしまってたね。悪いね、船を用意するから付いてきてくれ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 そう言って、小町さんは川辺に泊めてあった小船の方へと歩いていきます。

 最初に小町さん、次に私が船に乗り込んだ後、岸辺の杭に括り付けてあった縄が回収されて、小船がぷかぷかと三途の川に浮かんでました。

 

「はいよ、これで準備OKさね」

 

「ありがとうございます」

 

「礼なんていらないよ。こっちはこれが仕事なんだから」

 

 船に積んであったオールを手に、小町さんが船を発進させます。

 あとは彼岸に着いて裁きを受けて輪廻の輪をくぐって、それで本当におしまい。

 今の記憶を失って、どっかの誰か、いや、ひょっとすると人間以外の何かに転生するんでしょうね。

 ……アレ? そういえば何で私、前世の記憶なんて持ってたんでしょう?

 

「――ロ、キャロ」

 

「え?」

 

「どうしたんだい、ぼーっとして?」

 

「いえ、何でもないです」

 

 いけないいけない、つい上の空になってたみたいです。

 でも実際、船の上は暇なんですよねえ。

 

「小町さん小町さん」

 

「ん、何だい?」

 

「ちょっと気になったんですけど、後どれくらいで着くんですか? 霧のせいで向こう岸が全然見えないんですけど」

 

「そうさね……、あ」

 

「!?」

 

「そういえば、まだアンタから貰ってなかったね」

 

 船を漕ぐ手を一端止めて、小町さんはこちらに手の平を差し出してきました。

 

「えーっと、この手は?」

 

「三途の川の渡し賃、まだ領収させてもらってなかっただろ?」

 

 ああ、そういえばまだでしたね。

 確か、この時に渡す金額で川の長さが変わるんでしたっけ?

 善行を積んでれば金額が多く、逆に悪行三昧だと少なくなるとか、どういうシステムなんですかね? 

 誰かがこっそり懐にお金を入れて回ってたり……、どう考えても新種の妖怪ですねありがとうございました。

 まあとりあえず、お金、お金……と。

 

 

 

 

 なん……だと?

 

「小町さん小町さん」

 

「お、見つかったかい?」

 

「いや、それが……」

 

「ん、大した金額が無かったのかい? それは諦めるしかないね。とは言っても、そのうち着くから心配する事でも―」

 

「無いんです」

 

「……へ?」

 

「持ち物全部見てみたけど、一銭も無くて。この場合、どうなるんですか?」

 

「……辿り着けない」

 

「えっ?」

 

「ここだけの話、金額と距離は反比例してるんだ。二倍の金額だと距離は半分、っていう風に。さて、ここで問題。分母にあたる金額がゼロの場合、距離はどうなると思う?」

 

「えーっと、無限、じゃなくて―、解無し?」

 

「正解」

 

「つまり、このままだと私は永遠に川を渡り続ける事になると?」

 

「ああ。そして私はその職務上、永遠に船を漕ぎ続ける事になる」

 

「……」

 

「……」

 

「小町さん!!」

 

「はいよ!!」

 

 この瞬間、私と小町さんは完全にシンクロしていたと思う。

 即座にUターンして元の場所へと漕ぎ出す小町さん。

 目的地までの距離は無限でも実際に漕いだ距離が有限だったおかげで、行きに掛かった時間とほぼ同じだけの時間をかけて、私達はさっきの岸に戻ってきました。

 

「はあ、はあ……、危なかった……」

 

「お疲れ様です。いやー、災難でしたねえ」

 

「原因はアンタだろうに……。フェイトさんの気持ちがちょっとだけ分かった気がするよ」

 

「むう……。確かにそうですけど、事前に確かめなかった小町さんにも非はあると思いますよ」

 

「うっ、それを言われると弱いねえ。でもさ、誰がこんな事予想できるかい?」

 

「そうですね、誰にも予想できませんよね。なら当然、私にも責任は無いですよね?」

 

「まあそうなるね。全く、口の減らない子だね」

 

「いやー、それほどでも」

 

「褒めてないって」

 

 とりあえず戻って来れた事に安心して、私と小町さんは軽口を叩き合う。

 さっきまで息を切らしてたのにもうケロっとしている辺り、やっぱり小町さんも妖怪なんだなあと思う。

 

「うーん、でも困ったな。このままだとアンタを彼岸に運んでやれない」

 

「何とかならないですか?」

 

「そうだねえ……、仕方無いか」

 

「?」

 

「特別だ、タダで乗っけてやるよ。関わっちまった以上、見捨てるのも寝覚めが悪いからね」

 

「良いんですか!?」

 

「駄目に決まってるだろ? まあ、そこは面白い話を聞かせてもらったお礼って事で。お金に関しては、まあ後で適当に帳尻を合わせるさ」

 

「小町さん……」

 

 なんて良い人なんでしょう。小町さんの優しさは本当に天井知らずやでえ……。

 ……アレ? そういえば……。

 

「乗せて貰えるのは嬉しいんですけど、本当に大丈夫なんですか? 具体的にはちゃんと向こう岸に着けるのかとか」

 

「その辺は心配無いよ。あくまで距離を決めてるのは私達死神だからね」

 

「そーなのかー。……あ」

 

「ん? どうした?」

 

「だったらさっきこっちに戻って来る時も、距離を操ってぱぱっと戻れば良かったんじゃ……」

 

「………………あ」

 

「……」

 

「……。そ、それじゃそろそろ行こうか? さあさあ乗った乗った!!」

 

「はい。ありがとうございます!!」 

 

 誤魔化されておこう。多分それが一番良い。

 どこか慌てた様子の小町さんに促されて、私は再び船に乗り込―

 

 

 

 

「その必要はありません」

 

「!?」

 

 いきなり後ろからかけられた声に、私と小町さんは揃って振り向きました。

 そこにいたのは―

 

「四季様!?」

 

「無賃乗船は感心しませんね。小町、前にも良いましたよね? 船頭にとっては金を稼ぐ事が善行に繋がる、と」

 

「いや、忘れてた訳じゃないですよ? ただ……」

 

「小町」

 

「!!」

 

「その行動が優しさ故のものだというのは分かっています。私は貴女の優しさを否定するつもりは無い。けど、それは時と場合を選んで発揮されるべきものです。その結果成績が下がり、貴女の評価が下がってしまう事は、私も望んではいないのですよ」

 

「……はい」

 

「いいですか? 大体貴女は普段から―」

 

「うわぁ……」

 

 がっくりと肩を落とした小町さんに説教を続けているのは、四季様、と呼ばれた女の人。

 背は私と小町さんの中間くらいで髪の毛は緑色、装飾の着いた帽子を被り、右手には何やら変な文字が書かれてる木製の板。

 幻想郷の閻魔様、四季映姫・ヤマザナドゥその人です。

 

「四季様!! もう分かりました、分かりましたから!!」

 

「いいえ、まだまだ言っておきたい事は沢山あります。そもそもですね―」

 

 

 

 

 

 で、コレいつになったら終わるんでしょうか?


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