里を出てから数時間山道を歩いていたのですが、今更ながらに重大なことに気付きました。
アレ? 結局デバイス無いからピンチじゃね?
なんということでしょう。族長様の言葉が嬉しくて、完全に忘れていました。
周りはもう日が落ち始めており、段々暗くなっていってます。
これ以上歩き回るのは自殺行為なので、丁度近くにあった大樹の傍に荷物を下ろし、野宿の準備をします。
「デバイス無いけど、フリードがいるから大丈夫、かな?」
そういえば、今の今まで一度もフリードを竜魂召喚していないことに気付きました。
儀式のときは間違えてヴォルテール喚んで即気絶したんだっけ。
今日はもう食べて寝る以外に出来る事が無さそうなので、確認のためにフリードを召喚してみることにします。
ささやき、いのり、えいしょう―
「竜魂召喚―フリードリヒ!!」
召喚陣が展開され光り輝くフリード。一際強い光が放たれ、私は思わず目を閉じます。
光が収まり、そこには真の姿を現した、いつもよりも一回り大きいフリードの姿が
「一回り、だけ?」
どう見ても一回りです。体長30センチくらいだったのが、40センチくらいになりました。
「フリード、私、詠唱間違っていないよね?」
言葉を理解したのか、フリードは首を縦に振ります。
「もしかしなくても、それがフリードの真の姿?」
フリードはもう一度、首を縦に振ります。
「Oh……」
どうしてこうなった……。原作では背中に人乗せて飛べるくらい大きかったっていうのに、これだと戦力としてはかなり微妙です。
いや、落ち着け、Coolになれキャロ・ル・ルシエ。まだ終わったわけじゃない。ここはまず冷静に、今の戦力を分析してみよう。
私 シューター5発くらいが限界。魔力切れ=死亡フラグ
フリード 精々ブレスでの支援程度。無双とか無理すぎる
ヴォルテール MP がたりない!!
あ、コレ詰んだかも。こんな状態のフリードが最大戦力とか、もう色々終わってる。
がっくりとうなだれていた私の気持ちを察したのか、フリードが近づいてきて私の頬をペロペロと舐めてくれます。
励ましてくれてるんですね、ありがとうフリード。
でもそろそろ止めてください、涎でベチョベチョになってきましたから。
そろそろシューター浴びせてやろうかと考えていると、何かを思いついたようにフリードが離れ、荷物の方へ飛んでいきます。しばらくゴソゴソした後、あの本を口にくわえて戻ってきました。
おお、まだそれがありましたね。GJですフリード。
本当なら人里に下りてから、専門の人、例えばフリーのデバイスマイスターに依頼して解析してもらう予定(管理局や聖王教会に頼むと、ロストロギアだ!とかいちゃもんつけられて没収されかねないのでNG)だったのですが、今やそんな悠長なことは言ってられません。族長様は安全だって言ってたので、駄目元で挑戦してみましょう。
そこまで考えて、私は本に付いていたフリードの唾液を拭き取ってからページを開きました。
本は最初のページに数行だけ文が書かれており、他のページをめくってみると全て白紙でした。
白紙の部分は置いておいて、とりあえず最初のページに目を通します。
「なになに“この書は幻想の力を封じしもの。封を解くことを望むなら、この問いに答え汝の知を示せ”ですか……」
うわあい、胡散臭すぎる。だってこの字……ゴシック体なんです。
ええ、活字です。見た目古そうな本なのに中身活字なんです。
そりゃ読める方が有難いけど、信憑性がマッハで下落していってます。
内容から察するに、どうやらこの下に続いてる問いの答えが、族長様が言っていたパスワードみたいですね。
もう期待はしてないんですが、一応続きを読んでみましょうか。
「えっと“幻想郷はすべてを受け入れる______”?」
あやや、そりゃルシエの人には分からないのも仕方ないですね。
とにかくこれでこの本の正体が分かりました。
きっと、第97管理外世界のオタク文化にはまった人が、遊びで書いたんでしょう。
よく見ると、タイトルがパチモノっぽいです。最初の文もどこか厨二臭いです。
まあ、暇潰しにはなりました。さっさとパスワード言って内容確認して寝ましょう。
―それはそれは残酷な話ですわ―
シーン……。
何も起こりませんね。ひょっとして本に直接書き込む方式なんでしょうか?
ちょっと考えて、止めておくことにしました。
どうせ大したことは起こらないだろうし、書き込んだ所為でコレ売るときに値切られたら困りますし。
人里に着いたらデバイス関係の所に売ってしまおうと結論付け、本を枕にして寝ることにします。
ちょっと肌寒いので、フリードを抱き枕にして早めの眠りにつきました。
さあ、明日からどうやって生き残っていこうか……。
そして私と一匹は完全に寝てしまったので
真夜中、本が僅かに発光したことには誰も気付きませんでした。